ダンジョンズA 〔2〕双子の宮殿 (ふたごのきゅうでん)

1.挿話 レンジで白玉(そうわ レンジでしらたま)(2)

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1.挿話そうわ レンジで白玉しらたま(2)

「おいしいね! (あおい)
(あかつき)(かお)が、(ほころ)んだ。
外見(がいけん)は、超一級(ちょういっきゅう)()少女(しょうじょ)である。
さながら()(ほこ)大輪(たいりん)薔薇(ばら)だ。

「すごいよ! (あおい)、また(つく)ってね!」
幼馴染(おさななじみ)(こころ)から()(たた)えられて、(おも)わず(あおい)(かお)(そむ)けてしまった。
「……うん」
(よこ)(がみ)から(のぞ)いた(みみ)が、()()(いろ)づいている。

こんなに(よろこ)んでもらえるとは、(おも)ってもみなかった。
それに、(ほん)()いてある(とお)りにやれば、すぐに相応(そうおう)結果(けっか)()る。
そういうのは()きだ。(しょう)()っている。

また、なんか(つく)ってみてもいいな。
()れながら、そんなことを(かんが)えている(あおい)に、すっと(さら)()()された。
()っかっているのは、最後(さいご)一個(いっこ)だ。

にこにこ(わら)いながら、(あかつき)()った。
「はい、これは(あおい)のぶん。(わたし)は、あんこ()まみ()いしたから」
当然(とうぜん)のように(すす)める。
恩着(おんき)せがましさは、1グラムも(はい)っていない。

くすっと、(あおい)(わら)った。
()まみ()いしてなくたって、こんな場合(ばあい)(あかつき)絶対(ぜったい)にこうするんだ。

(あおい)は、(まよ)わず白玉(しらたま)まんじゅうを()()った。
半分(はんぶん)こにする。またもや、()はべたべただ。

「はい、こっちは(あかつき)のぶん」
ぶっきらぼうに()()された()に、今度(こんど)(あかつき)が、くすっと(わら)った。

「ありがと。ねえ、おいちゃんママの(ぶん)(つく)ろうよ」
正式(せいしき)名称(めいしょう)は、あおいちゃんママ。
(ただ)しく()えなかった幼児期(ようじき)からの()()だ。

(あおい)は、キッチンの(かべ)時計(どけい)()た。
時半(じはん)()ぎだ。
無言(むごん)(ゆび)()してみせる(あおい)に、(あかつき)残念(ざんねん)そうな(かお)をする。

「あー。もう、門限(もんげん)かあ」
(いち)()()門限(もんげん)は、五時半(ごじはん)。そして厳守(げんしゅ)だ。
その時刻前(じこくまえ)に、ドアの(なか)(はい)っていなければならない。

ただし、双海(ふたみ)()(あそ)びに()った場合(ばあい)は、ほんのちょっとだけ特例(とくれい)(あつか)いになる。
五時半(ごじはん)になったら、でいいわ。
それから、お(いとま)してらっしゃい。

しょぼんと(しお)れた(あかつき)()て、(あおい)提案(ていあん)した。
「じゃあさ、(あかつき)、あーちゃんママに電話(でんわ)してみて。いいって()ったら、一緒(いっしょ)にやろ」

「うん、わかった!」
(あかつき)が、(かお)(かがや)かせた。

正直(しょうじき)一人(ひとり)でも楽勝(らくしょう)だ。
でも、二人(ふたり)でやるほうが、(たの)しい。
きっと、母親(ははおや)(たち)も、()かってる。
(あおい)が、そう(おも)っていることを。

「おいちゃんママ、おかえりなさーい」
帰宅(きたく)した(あおい)(はは)を、(ちが)(こえ)(むか)えた。
キッチンに、(あかつき)がいる。息子(むすこ)姿(すがた)は、ない。

「あーちゃん、ただいま。(あおい)は?」
(いま)、トイレに()ってる」

(はな)している(あいだ)に、ぎゅうぎゅう()めにされたスーパーの(ふくろ)が、どさりと(ゆか)()かれた。

ここから(さき)は、一分(いっぷん)一秒(いちびょう)たりとも無駄(むだ)にはできない、戦場(せんじょう)タイムの(はじ)まりだ。
ダッシュで洗面所(せんめんじょ)()()むと、手洗(てあら)い、うがいを高速(こうそく)()ませて、()のように(もど)ってくる。

(あかつき)は、リビングルームで(かえ)支度(じたく)をしていた。
()いだエプロンを、(ちい)さなトートバッグに()()んでいる。

「もう6()だよ。おうち、大丈夫(だいじょうぶ)?」
おいちゃんママは、エプロンを()()けつつ、(たず)ねた。

眼鏡(めがね)()けた(ひとみ)が、心配(しんぱい)()(かげ)っている。
(あおい)()()面立(おもだ)ちだが、ずっと(やわ)らかな印象(いんしょう)だ。小柄(こがら)で、(せん)(ほそ)い。

「うん。電話(でんわ)した。おかん、いいって()ってた。おいちゃんママの(ぶん)(つく)ったんだよ」
「わあ、そうなの。(たの)しみ。ありがとね、あーちゃん」

(れい)()うと、(あかつき)は、にこにこした。
(あか)ちゃんの(ころ)と、(まった)()わらない笑顔(えがお)だ。
「じゃ、(かえ)るね」
そう()()えたときには、(すで)玄関(げんかん)にいた。
(くつ)()()えている。
(すべ)てが素早(すばや)()なのだ。

「うん、()()けてね」
「はあい。おじゃましました」
ぺこり
きちんとお辞儀(じぎ)をしてから、(あかつき)はバイバイして()()った。
これも、ちっちゃな(ころ)から()わらない仕草(しぐさ)だ。

ああ、でも、ちゃんと(おお)きくなっている。
「おじゃましました」って、ちゃんと()えるもの。
最初(さいしょ)は、「おじゃじゃしまった」だった。
(なつ)かしい。可愛(かわい)かったなあ。

ふふっと微笑(ほほえ)んだ(はは)と、トイレのドアから()てきた(あおい)が、廊下(ろうか)鉢合(はちあ)わせた。
「っと、お(かえ)りなさい」
「ただいま。あーちゃん、(かえ)ったよ」
「そっか。門限(もんげん)オーバーの許可(きょか)()ってるから、大丈夫(だいじょうぶ)
母親(ははおや)()にするであろうことを、(さき)んじて(つた)える。
この()性格(せいかく)は、(ちち)親譲(おやゆず)りだ。

「お菓子(かし)(づく)りの(ほう)は? 大丈夫(だいじょうぶ)だった?」
「うん。ちゃんと上手(じょうず)にできたよ」
(はな)しながらキッチンに(もど)ると、(あおい)は、小窓(こまど)から(そと)(のぞ)いた。
もう(くら)い。()()ちるのが(はや)くなっている。

見下(みお)ろすと、(あかつき)姿(すがた)があった。
道路(どうろ)横断(おうだん)して()かいに辿(たど)()くと、()(かえ)った。こっちを見上(みあ)げる。
(あおい)(かお)(まど)()つけると、(あかつき)笑顔(えがお)になった。
ぶんぶんと右手(みぎて)()る。

(あおい)(ちい)さく()()(かえ)すと、すぐ(まえ)のマンションに()()んでいく。
直線(ちょくせん)距離(きょり)10メートル(ない)
小学校(しょうがっこう)通学(つうがく)(はん)(おな)じ、ご近所(きんじょ)さんである。

何歳(なんさい)ごろからだっけ。一人(ひとり)(かえ)れるようになったのって。
それまでは、(あかつき)父母(ふぼ)どちらかが、(むか)えに()たりしていたものだ。

「あら、すごい。完璧(かんぺき)ねえ」
母親(ははおや)(こえ)に、(あおい)()()いた。
とたんに、得意(とくい)げな表情(ひょうじょう)()かべる。

調理(ちょうり)(だい)()かれた(さら)には、二作目(にさくめ)団子(だんご)綺麗(きれい)(なら)べられていた。
ラップもして、あとはレンジに()れるばかりだ。

「それは、お(かあ)さんの(ふん)(かた)くなるから、(ゆう)(はん)(まえ)()べちゃって」
スーパー(ぶくろ)中身(なかみ)手早(てばや)()()(はじ)めた母親(ははおや)に、(あおい)()った。
自分(じぶん)もテキパキと(だい)布巾(ぶきん)(しぼ)り、リビングのテーブルを()いてくる。

キッチンに(もど)って、レンジの(とびら)()けると、(はは)から異議(いぎ)(もう)()てられた。

「え、これ、全部(ぜんぶ)? ちょっと(おお)いみたい」
「じゃ、一個(いっこ)(おれ)()べる。あとは、(ゆう)(はん)白米(はくまい)()らしたらいいんじゃない?」
摂取(せっしゅ)カロリーを()にする(はは)への、完璧(かんぺき)なアドバイスである。

「ん~、了解(りょうかい)
()()めずに夕食(ゆうしょく)調理(ちょうり)()()かった母親(ははおや)に、(あおい)(はな)しかけた。

「ねえ、(つぶ)(あん)(のこ)ってるからさ、()ってって、(よう)んちでも(つく)りたい」
「そう。また土曜日(どようび)()く?」
「うん、(じゅく)(かえ)りに()る。実奈子(みなこ)伯母(おば)さんに連絡(れんらく)しといてよ」

(あい)ちゃん、土曜日(どようび)もお仕事(しごと)でしょ。
遠慮(えんりょ)しないで、(あおい)ちゃん寄越(よこ)して頂戴(ちょうだい)ね。
一人(ひとり)()えるくらい、うちは()わらないんだから。

親切(しんせつ)に、そう(もう)()てくれる従姉(いとこ)に、また今週(こんしゅう)(あま)えることになりそうだ。

(あおい)がコップに麦茶(むぎちゃ)(そそ)いだところで、レンジの(でん)子音(しおん)出来(でき)()がりを()げた。
うん、いいぞ。(さら)上手(うま)くできた。

(はは)のリアクションは、(おお)げさなくらいだった。
「すごい、すごい。ねえ、お(とう)さんの写真(しゃしん)にお(そな)えしようか」
「えー! なんで?」
(はじ)めて(あおい)がお菓子(かし)(つく)りましたって、ほうこく。いきなりこんなに上手(じょうず)ですよーって」
「もー、いいじゃん、(べつ)に」

そう()いながらも、(くちびる)(はし)っこが、ちょっとにやけている。満更(まんざら)でもないのだ。

その証拠(しょうこ)に、(あおい)は、お(さら)()にリビングへと(うつ)った。
ダッシュボードに(かざ)られたフォトフレームの(まえ)に、(あたた)かい白玉(しらたま)まんじゅうを()く。

写真(しゃしん)(なか)に、(あおい)父親(ちちおや)がいた。
(とな)りには、(しろ)いプリザーブドフラワーが、(ひか)えめに()()っている。
()りし()(かれ)を、そっと(いた)むように。

ぱっと、(あおい)(かお)()げた。
「はい、報告(ほうこく)完了(かんりょう)! お(かあ)さん、()べて!」
「えっ、もう?」
「だって、すぐ(かた)くなっちゃうんだよ。美味(おい)しいうちに()べて。料理(りょうり)後回(あとまわ)し!」

(さら)速攻(そっこう)()()げられた父親(ちちおや)は、フレームの(なか)で、苦笑(くしょう)しているように()えた。

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