ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

1.挿話 寒くなってきたら、湯豆腐(そうわ さむくなってきたら、ゆどうふ)(2)

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1.〔挿話そうわさむくなってきたら、湯豆腐ゆどうふ(2)

裸足(はだし)(あし)が、ぺたぺた(おと)()てた。
寝巻(ねまき)()わりのトレーニングウエアー姿(すがた)だ。
大柄(おおがら)伯父(おじ)()ているのは、ネットでしか()っていない特大(とくだい)サイズである。
(せま)部屋(へや)にいると、さらに大男(おおおとこ)()えてしまう。(さく)()効果(こうか)だ。

「もう(ばん)(めし)かあ」
のんびり、()びをする。
(きた)()げられた(はく)(りょく)満点(まんてん)(がい)(けん)(はん)して、(おだ)やかな(もの)()いである。

小柄(こがら)(つま)(ほう)が、しゃきしゃき()った。
「あなた、(かお)くらい(あら)ってきて」
「あ、そうか。ごめん」
「あら、(あおい)ちゃん、ちょっと()(よわ)めてちょうだい。(つよ)すぎるわ」
「うわ! そうか、ごめん」
(もも)(から)()げの()(ざら)、テーブルに()して。(よう)、みんなのご(はん)、よそって」
矢継(やつ)(ばや)()()()ぶ。

()()()()()さんの(うで)が、ラストスパートをかけた。さながら(せん)(じゅ)(かん)(のん)だ。

テーブルの()(なか)にカセットコンロを()いてしまうと、(のこ)りの()()は、ぐっと(せま)くなる。
食事(しょくじ)必要(ひつよう)()(もの)は、とりあえず(ゆか)()いやって、ようやく人数分(にんずうぶん)(さら)(なら)べることができた。

「こっちも、もうキチキチだなあ」
テーブルに()いた(てつ)(ろう)伯父(おじ)さんが、()かいに(すわ)った()ども(たち)()て、苦笑(くしょう)する。
大人(おとな)たちは一人(ひとり)()けの椅子(いす)だが、そっちはベンチの腰掛(こしか)けなのだ。

ちょん・ちょん・ちょん
と、余裕(よゆう)(さん)(にん)(なら)んでいたのは、(むかし)(はなし)だ。
一人(ひとり)(そだ)ちすぎた()(なか)(よう)が、座面(ざめん)(たい)(はん)()めている。
(とお)からず、両端(りょうはし)(あおい)(もも)が、(ころ)()ちるだろう。

「そうね、そろそろ椅子(いす)()わないと」
エプロン姿(すがた)()()()伯母(おば)さんも、(せき)()く。
土鍋(どなべ)(なか)(とう)()が、ゆらゆら()()した。
完璧(かんぺき)なタイミングだ。

「はい、それでは(みな)さん、ご一緒(いっしょ)に」
「いただきま~す」
「はい、()()がれ」
(ちち)号令(ごうれい)()け、(みんな)(あい)(さつ)し、(はは)(こた)える。
()()()()ルーティンだ。
(ちち)不在(ふざい)場合(ばあい)は、適当(てきとう)(だれ)かが(はっ)しているそうである。

(よう)()が、(しろ)(とう)()(すく)って、小皿(こざら)()れた。
(はや)くも(ふた)()だ。
ちょん、と(あか)(もみ)()おろし。緑色(みどりいろ)(わけ)()に、(かつお)(ぶし)()っける。
()(のぼ)()()に、ふわふわと鰹節(かつおぶし)()らぐ。
(おど)っているみたいだ。

「あれ? (きぬ)ごし(どう)()だ、これ」
()()()()は、いつも木綿(もめん)豆腐(どうふ)オンリーだ。
母親(ははおや)は、お(たま)()(なべ)(なか)(ととの)えながら(こた)えた。

両方(りょうほう)()れたのよ。(なべ)(みぎ)(がわ)木綿(もめん)で、左側(ひだりがわ)(きぬ)ごしね。(あおい)ちゃん、(きぬ)ごしの(ほう)()きって()ってたでしょ。(ひだり)から()ってね」
「あれ? (おれ)(いま)(みぎ)から()ったんだけどなあ。(きぬ)だった」
領空(りょうくう)侵犯(しんぱん)だな。()()けろ、(よう)

右側(みぎがわ)木綿(もめん)
左側(ひだりがわ)(きぬ)か。
(あおい)は、伯母(おば)(うなづ)きながら、あの(とき)のことを(おも)()していた。

西(にし)センターから(まよ)()んだ、(ごう)()(けん)(らん)地下(ちか)(きゅう)殿(でん)
様々(さまざま)質問(しつもん)(こた)えてくれる案内板(あんないばん)は、(かがみ)(ふち)()いた、ピエロのお(めん)だった。
(かお)は、()(ぷた)つに()()けられていた。
右側(みぎがわ)(しろ)(ひだり)(がわ)(あお)

(まる)土鍋(どなべ)が、案内板(あんないばん)(かお)(かさ)なる。

(なん)だったんだろう、あれは……。
暴風(ぼうふう)()()ばされそうな状況(じょうきょう)だったけれど、()間違(まちが)えてはいないと(おも)う。

あの(とき)だけ、境目(さかいめ)が、ずれていた。
そうだ。(あお)が、(ひろ)くなっていたんだ。

(なに)か、意味(いみ)がある()がする。
でも、()からない……。

「なあ、(あおい)
()びかけられて、ようやく(あおい)(われ)(かえ)った。
土鍋(どなべ)()こうから、鉄郎(てつろう)伯父(おじ)さんが自分(じぶん)()つめていた。
普段(ふだん)とは(ちが)う、()()まった表情(ひょうじょう)だ。

(なに)があった? (よう)()いたらな、(あおい)(やく)(そく)したから(はな)せないって()うんだ」

おいこら、(よう)
(あおい)は、(よこ)(すわ)(よう)()(ごん)(にら)みつけた。
()(しょう)(じき)にも、ほどがあるだろう。
それじゃ、「(なに)かありました」と自白(じはく)しているに(ひと)しい。

(から)()げを頬張(ほおば)った(よう)は、もごもごしながら、()じりを()げた。
ごめん、(あおい)

(かお)会話(かいわ)する(むす)()たちを()て、()()()()()さんも、気遣(きづか)わし()表情(ひょうじょう)()かべていた。
いつも(せわ)しなく(うご)()が、()まっている。

伯母(おば)夫妻(ふさい)は、(だま)って(あおい)返答(へんとう)()っている。
(はなし)()(かま)えを、きちんと()っていた。
本気(ほんき)心配(しんぱい)してくれているんだ。
どうしよう。さらに、(あおい)(どう)(よう)した。

本当(ほんとう)(こと)()()けちゃおうか。
この二人(ふたり)なら、絶対(ぜったい)(わら)ったりなんてしない。

だって、(おれ)()ってる。
(よう)が、「ポケモンを()つけたから、ゲットしに()く」と()()った(とき)のことも。
(もも)が、「毎朝(まいあさ)、ベランダから足音(あしおと)()こえる」と(おび)えた(とき)のことも。

二人(ふたり)とも、きちんと幼子(おさなご)(つたな)(しゅ)(ちょう)()(とど)けてから、判明(はんめい)(ちから)()くしたのだ。

結局(けっきょく)(よう)のポケモンは、脱走(だっそう)したペットのフェレットだった。
(もも)ちゃんのは、カラスが犯人(はんにん)(さん)(らん)()で、()(こう)()()(さが)し、うろうろしていたらしい。

(ほか)だって、いろいろ()ってる。
伯母(おば)夫妻(ふさい)(たい)する(しん)(らい)(いと)は、何本(なんぼん)()()わされ、(ふと)くて(じょう)()なロープになっていた。

土鍋(どなべ)(なか)()る。
わざわざ自分(じぶん)(ため)(くわ)えられた(きぬ)ごし(どう)()が、(あたた)かな(こん)()()()(なか)()れていた。

この(ひと)たちを心配(しんぱい)させたくない。
(うそ)もつきたくないし、ごまかしたくもない。

大丈夫(だいじょうぶ)。もう、あそこに()くことはない。
そうだ。()かなければ、もう、(あぶ)ないことはないんだから。

(あおい)は、(かんが)えた(すえ)()()した。
「えっと、ごめん。(おれ)も、(はな)していいことなのか、判断(はんだん)がつかないんだ」
(うそ)じゃないことは、きっと(つた)わる。

「だけど、もう()わったことだから。(おな)じことは、もう()きないと(おも)う。だから心配(しんぱい)しないで」

「また()きる()(のう)(せい)(のこ)っている、ってことか?」
もう()きない。(あおい)は、そう()わなかった。
()きないと(おも)う、だ。
(おとこ)(おや)は、そこを()いてきた。

()かんないけど……。そうだな、可能性(かのうせい)としては、あるかな。でも、(おれ)はもう()かないよ。(あかつき)()かせない」
ポロッと()た。

夫妻(ふさい)は、()()()わせた。
(あかつき)名前(なまえ)()るとは(おも)わなかったのだ。

(あおい)は、馬鹿(ばか)なことは絶対(ぜったい)にしない。
()()()()では、絶対(ぜったい)(しん)(よう)()ている。
(よう)(うそ)をつかないのと(おな)じ、SSランク()けだ。

だが、(あたま)がいい(ぶん)(がん)()(めん)がある。

正直(しょうじき)()って、これだけでは、(なに)がなんだか()からない。
でも、(あおい)(しゃべ)らないと()めている模様(もよう)だ。

「そうか、()かった。じゃあな、もしまた(あおい)(あかつき)ちゃんが(こま)ったことになったとしたら、(よう)()(だす)けさせてやってくれよ」
あっさり、鉄郎(てつろう)伯父(おじ)さんが退()いた。
()()()()()さんも、(やさ)しい(かお)(うなず)く。

え、いいの?
もっと追及(ついきゅう)されると(おも)った。
(おどろ)いている(あおい)に、(よう)(ほほ)()む。

信頼(しんらい)されているんだ。
それが()かった(しゅん)(かん)(あおい)(かお)(かがや)かせて、しっかり(うなず)いた。

(わら)うと、まだ(おさな)い。母親(ははおや)(あい)ちゃんに、よく()ている。とっても可愛(かわい)い。
でも、()れる(あたま)頑固(がんこ)(せい)(かく)は、()くなった父親(ちちおや)にそっくりだ。
夫妻(ふさい)見解(けんかい)は、完全(かんぜん)(いっ)()していた。

「ほら、()べましょ。()豆腐(どうふ)煮詰(につ)まっちゃうわ」
「もう()()としてもいいんじゃないかあ?」
「あ、(おれ)やる。()すときはスイッチ(まわ)すだけでいいの?」

(にぎ)やかなテーブルで。
(もも)だけは、(だま)って、じっと(あおい)(かお)()つめていた。

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