ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

10.ロージュ(1)

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10.ロージュ(1)

到着(とうちゃく)(いた)しました。こちらが、加羅(から)みかげのジゼルを観劇(かんげき)できるボックス(せき)です。ボックス(せき)は、小部屋(こべや)になっています。ロージュと呼称(こしょう)されます』

案内板(あんないばん)が、ドアの(まえ)()まった。
数珠(じゅず)(つな)ぎのスワンズも、順繰(じゅんぐ)りに停止(ていし)する。

()まった途端(とたん)巫女(みこ)(おび)は、みるみる(うす)っぺらくなっていった。

(よう)が、()()りる。
(すで)に、(ゆか)には(みず)()まりひとつ()い。
さっきまで、(かわ)(なが)れて、水浸(みずびた)しだったというのに。

廊下(ろうか)は、しん、と(しず)まり(かえ)っていた。
階下(かいか)歌声(うたごえ)は、もう()こえてこない。
大階段(だいかいだん)(あいだ)()(ひろ)げられていたお(まつ)(さわ)ぎは、()わったのだろうか。

『ロージュの(なか)でも、ご案内(あんない)希望(きぼう)されますか?』
今回(こんかい)案内板(あんないばん)は、(うき)(ふね)(はしら)()いている。
微笑(ほほえ)んだピエロの(くち)から、音声(おんせい)(なが)れた。

「あ、うん。案内(あんない)して()しい」
(あおい)返事(へんじ)した。

『では、(ひだり)上部(じょうぶ)()いた髪飾(かみかざ)りを()()いて(くだ)さい』
「ああ。これ、髪飾(かみかざ)りだったのかあ」
(よう)が、(あおい)()わりに(こた)えた。
いつの()にか、(うき)(ふね)(わき)からお(めん)(のぞ)()んでいる。

ドレス姿(すがた)(もも)も、(となり)一緒(いっしょ)になって背伸(せの)びしていた。
ヒールの(くつ)が、(つら)そうだ。

(うき)(ふね)(いた)は、けっこう分厚(ぶあつ)いのだ。
(ゆか)(じか)()きされると、ポートボールの(だい)()っているくらいの(たか)さがある。

「わかった」
(あおい)は、()われるまま、(あお)髪飾(かみかざ)りを()っこ()いた。

カチリ
うん、お(めん)から(はず)れる。
くしゃくしゃの(はな)びらみたいな(かざ)りだ。
すっと、(くき)()細長(ほそなが)(ぼう)()いてきた。
まるで、一輪(いちりん)(あお)(はな)だ。

『ロージュには、そちらを携帯(けいたい)して(くだ)さい。そこから、音声(おんせい)でご案内(あんない)可能(かのう)です』

胸元(むなもと)()しなさいな、(あおい)。さ、()きましょ」
マダム・チュウ+(プラス)999(スリーナイン)が、(かた)(うえ)(うなが)した。
よし。タキシードに相応(ふさわ)しい(かざ)りになった。

こんなにキメた格好(かっこう)で、すってんころりん、なんて絶対(ぜったい)にしたくない。
(あおい)躊躇(ためら)いを感知(かんち)して、(よう)()っこで()ろそうとする。
()断固(だんこ)拒否(きょひ)して、(あおい)は、そろそろと(だい)から()りた。

スワン(たち)は、廊下(ろうか)(なら)んで()っていた。
羽毛(うもう)(かた)まりが、四羽(よんわ)、もこもこと一列(いちれつ)になっている。
(みず)()いと、余計(よけい)(きょ)(だい)()えるものだ。

ドアが()(まえ)にあった。
小部屋(こべや)って()ってたから、これが入口(いりぐち)だろう。
()たり(ぜん)だが、普通(ふつう)サイズの(はば)だ。
マッチョ・スワンズ(たち)(とお)れるのか、これ?

不安(ふあん)()られている(あおい)とは対照的(たいしょうてき)に、(よう)呑気(のんき)だった。
感心(かんしん)した様子(ようす)で、ドアを(なが)めている。
「なるほどなあ」

「きれいね」
(もも)も、うっとりしている。

(たし)かに、綺麗(きれい)だ。
ドアの上部(じょうぶ)には、(ひろ)(かざ)(まど)()いていた。扇子(せんす)(ひろ)げた(かたち)をしている。
扇面(せんめん)部分(ぶぶん)が、スクリーンになっていた。
そこに、(うつく)しい色彩(しきさい)のポスターが、(うつ)()されているのだ。

(のぞ)(まど)で、進行(しんこう)状況(じょうきょう)()かるのよん。(まえ)(ひと)が、これから(おど)るみたいね」
マダム・チュウ+999が説明(せつめい)するまでもなかった。
外国語(がいこくご)()かれているのは、演目(えんもく)出演者名(しゅつえんしゃめい)だろう。
もちろん()めないが、演目(えんもく)はイラストで見当(けんとう)()いた。
「くるみ()人形(にんぎょう)」だ。

じりじりと、画像(がぞう)は、(みぎ)移動(いどう)していく。
右端(みぎはし)にまだ(のこ)っていた前演目(ぜんえんもく)のポスターが、完全(かんぜん)(かく)れた。

仕掛(しか)時計(どけい)みたいな仕組(しく)みだ。
扇形(おうぎがた)スクリーンの(した)には、数字(すうじ)(きざ)まれている。時間(じかん)(しめ)しているようだ。
非常(ひじょう)()かりやすい。

(あおい)は、感心(かんしん)しつつも、(いぶか)()(たず)ねた。
「でもさ、マダム・チュウ+999。この(とびら)、ドアノブが()いてないよね。どうやって(はい)るの?」

そうなのだ。
(ほそ)(ぼう)だけが、ドアから()()している。
(まる)いノブを、()(ぱら)ってしまった様子(ようす)だ。
これじゃ、(ひね)りようがない。

「ああ。チケットを(しめ)して、(かかり)()けてもらう仕組(しく)みなのよ」
「へー。()っていない(ひと)(はい)れないように?」

「そうそう。それを真似(まね)して()いてるだけ」
「は?」

ピンク(いろ)のネズミは、ちょろちょろと(あおい)(かた)から()りた。
ドアの(まえ)に、二本(にほん)(あし)()つ。
そして、(りょう)前足(まえあし)で、ドアをむんずと(つか)んだ。

べろんっ

ずるっと、(あおい)がずっこけた。

マダム・チュウ+999は、あたかも暖簾(のれん)のように、ドアを(まく)()げたのだ。

いや、ちがう。ドアじゃない。
ただの(ぬの)だった。
全部(ぜんぶ)が、本物(ほんもの)見紛(みまご)うばかりに、布地(ぬのじ)(えが)かれていただけなのだ。

「なにやってるのよん、(あおい)()いてらっしゃいな」
オネエな(こえ)が、()こうから()こえてくる。

布地(ぬのじ)(ため)(なが)めつしている(あおい)に、筋肉(きんにく)二郎(じろう)が、よちよち(ちか)づいて()た。
(かざ)(まど)のスクリーンだけは、映像(えいぞう)だ。その(よい)演目(えんもく)を、案内板(あんないばん)(うつ)している」
「なるほど」
まんまと(だま)された。

(さき)(はい)って(せき)()け、(あおい)俺達(おれたち)は、でかいからな。ロージュに(はい)ったら、邪魔(じゃま)になる。ここで(ひか)えているから」
筋肉(きんにく)一郎(いちろう)が、(うし)ろから(すす)めた。

マッチョスワンズ全員(ぜんいん)(くび)が、こくりと(うなず)く。
(たの)もしいこと、この(うえ)ない。

ちょっと怖気(おじけ)づいている(もも)()を、お(にい)ちゃんが(にぎ)った。
(いもうと)()れて、ずかずかと布地(ぬのじ)()(ぐち)(くぐ)る。

「わかった。ありがと。じゃ、()ってくる。」
(あおい)(つづ)いた。

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