ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

10.夢の小石(ゆめのさざれいし)(1)

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10.ゆめ小石さざれいし(1)

バシュッ
ぽちゃり

何度(なんど)()(かえ)すうちに、(あおい)にもコツが(つか)めてきた。
「そこの(した)にもある。左下(ひだりした)のほうだ」
()っている白鳥(はくちょう)も、(つばさ)()して(おし)えてくれる。
「ありがと」
押忍(オス)
どういたしまして、だ。

「よし。この(あた)りは完了(かんりょう)だ。移動(いどう)するぞ」
すい~
マッチョ・スワンズ2(ごう)は、(およ)()した。
なめらかな(うご)きである。抜群(ばつぐん)()心地(ごこち)だ。

(あおい)。お(まえ)さんが、一番(いちばん)確実(かくじつ)だな」
超低音(ちょうていおん)(こえ)で、()められた。
気付(きづ)けば、金色(きんいろ)のドジョウを()せた水柱(みずばしら)が、並走(へいそう)している。

「うん。まあ、最初(さいしょ)は、びっくりしたけどね。あのさ、ド・ジョー。この(かべ)(いし)って、(みずうみ)(そこ)にある(いし)(おな)じもの?」
(しろ)くて、(まる)い。つるつるした、(おな)(おお)きさの(いし)(よう)は、(たま)(じゃ)()だ。

ぐいん
(あおい)目線(めせん)(たか)さまで、金色(きんいろ)ドジョウを()せた水柱(みずばしら)()びた。
片方(かたほう)(まゆ)口角(こうかく)をあげて、ニヒルに(わら)う。
難易度(なんいど)(たか)そうな(わら)(かた)だ。
「ああ、お(まえ)さんなら、気付(きづ)くと(おも)ったぜ。その(とお)りだ」

ヒュウ
口笛(くちぶえ)(ひび)いた。
()っているスワンが、うにょんと(くび)()げた。
賛嘆(さんたん)眼差(まなざ)しをしている。
「ド・ジョーの()った(とお)りだ。(たし)かに、この(あるじ)は、格別(かくべつ)()えた頭脳(ずのう)をお()ちだな」

白鳥(はくちょう)にまで()められた。
ちょっと()て。(いま)(くちばし)で、どうやって口笛(くちぶえ)()いたんだ? (なぞ)だ。

ぴょこん
マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()が、(あおい)のフードから(あたま)()した。
「そうなのよん。(あたま)では、(あおい)一番(いちばん)ね。アタシが一番(いちばん)()すのは、(よう)だけど」
きゃ~!
自分(じぶん)()って、自分(じぶん)()れている。

小動物(しょうどうぶつ)外見(がいけん)(まど)わされては、いけなかった。
こいつはエゾヒグマより危険(きけん)だ。
(あおい)は、鞍上(あんじょう)(こぶし)(にぎ)りしめた。
絶対(ぜったい)(よう)をオネエネズミからガードしよう。

(ゆめ)小石(さざれいし)。それが名前(なまえ)だ」
ド・ジョーが、()った。
黄色(きいろ)悲鳴(ひめい)()げて(もだ)えるネズミには、(まった)(かま)わない。

「さざれ(いし)?」
()(おぼ)えがある。
(たし)か、「(きみ)()」の歌詞(かし)()()(はず)だ。

「ああ。(ちい)さな(いし)って意味(いみ)さ」
()らなかった。
「そうだったんだ。じゃあ、(ゆめ)小石(こいし)ってこと?」
(あおい)()いに、ド・ジョーは(うなず)いた。

(ほそ)水柱(みずばしら)(うえ)()って、金色(きんいろ)のドジョウは、ぐるりと壁面(へきめん)見回(みまわ)した。
(みず)でできたトレンチコートに、(むね)ビレを()()んだポーズだ。ニヒルに()まっている。

「この(なげ)きの(みずうみ)は、オーロラの地宮(ちきゅう)最下層(さいかそう)だ。この(ゆめ)世界(せかい)(そん)(ざい)させる(ちから)(きょう)(きゅう)(げん)になっている」
(あおい)相手(あいて)だから、ド・ジョーも(むずか)しい言葉(ことば)をバンバン使(つか)ってくる。
(きょう)給源(きゅうげん)(ちから)(あた)える、おおもとになっているってことだ。

「その(ちから)とは、(ひと)(いだ)(ゆめ)だ。この小石(さざれいし)は、(ひと)(ゆめ)そのものなんだ。それぞれが、各々(おのおの)(かがや)きを(はな)っている。それぞれの()わりを(むか)える、その(とき)までな」

()わりを(むか)える。
()わっちゃうの?」
(あおい)が、ド・ジョーに()(ただ)した。

「ああ。(なが)時間(じかん)(よわ)(ひかり)(はな)(つづ)けるものもあれば、かあっと(ひか)って、あっという()()るのだってある。どちらにしても、(ひと)には寿命(じゅみょう)もある。(ゆめ)は、いつか()わりが()るのさ」
ド・ジョーの(ひく)(こえ)が、(うた)うように(ひび)いた。

(ひかり)(うしな)った(ゆめ)は、たいてい、(ひと)りでに()がれ()ちる。だがな、しがみ()くやつも、(とき)にはいるのさ。もう(ひか)らないって()かっててもな。だから、メンテナンスが必要(ひつよう)になる」

しがみ()く。(あきら)めきれないで。

「……みかげの(ゆめ)を、(とき)(つつ)()たよ」
クラシックバレエの研究所(けんきゅうじょ)入所(にゅうしょ)する。
そして、素晴(すば)らしいバレリーナになる。
(かな)わなかった(ゆめ)だ。

「でもさ、この(ゆめ)世界(せかい)にいたとしても、ダメになった自分(じぶん)(ゆめ)(かな)うわけじゃないだろ? なんで、そんな意味(いみ)のないことをするんだろう?」
(あおい)が、ぶつぶつ(つぶや)いた。

しかも、なんでだか()からないが、自分(じぶん)たちを()きずり()んだ。
おかげで、またもや地宮(ちきゅう)()(もど)り、(ふたた)労働力(ろうどうりょく)(てい)(きょう)する羽目(はめ)になっている。
(わす)(もの)しない(れき)」に汚点(おてん)(のこ)してしまったのも、腹立(はらだ)たしい。

すると、白鳥(はくちょう)(しず)かに()まった。
並走(へいそう)するド・ジョーの水柱(みずばしら)もだ。
きゃあきゃあ(さわ)いでいたマダム・チュウ+999も、(かた)(うえ)で、(しず)かに()()せている。

「え? どうしたの、みんな」
戸惑(とまど)った(かお)で、(あおい)()(きゅう)住人(じゅうにん)(たち)見回(みまわ)した。

「そう(おも)うのはな、(あおい)、」
ド・ジョーが、(くち)(ひら)いた。
(はじ)めて()く、(やさ)()(こえ)だ。
いや、(かな)しんでいる。
いったい、(なに)を……。

ぴゅう
湖面(こめん)から、(ほそ)(みず)(いと)()んできた。
ぽこぽこと、球体(きゅうたい)(つら)なった(かたち)()わる。

(いき)をのんで()つめていると、くるり、と()がった。(あおい)(ひだり)手首(てくび)()()く。
(みず)のブレスレットだ。
(つめ)たい。(こお)直前(ちょくぜん)(みず)みたいだ。

「……そう(おも)うのは、お(まえ)さんが、まだ、自分(じぶん)()しいものを、自分(じぶん)(あし)()りに()ったことがないからさ」

(うつ)()ったかのように、そっくりなブレスレットが、二連(にれん)
()()いている手首(てくび)は、まだまだ(ほそ)い。

そうして、ド・ジョーは、(うた)うように(かた)った。
(ひく)い、(ひく)(こえ)で。

(かな)わなかった自分(じぶん)(ゆめ)が、ただの小石(こいし)()わって、(ころ)()ちていく。
()ちた(さき)は、(みずうみ)だ。
地下(ちか)(ふか)(みず)(たた)えた、(だれ)()らない(みずうみ)

水底(みなぞこ)(しず)んで、(かがみ)みたいに(しず)かな水面(すいめん)(あお)()るとき。
()わったんだな。
ようやく、そう(おも)えるのさ。

(まわ)りの(みず)は、()()るほどに(つめ)たい。
まだ、(きず)が、じんじんと(いた)む。
必死(ひっし)(ひか)っていた(とき)(ねつ)も、()(うち)(くすぶ)っている。

(しず)かに、湖底(こてい)()(よこ)たえて。
この(つめ)たさに、()をゆだねる。

いつか。(こお)()くような(みずうみ)(みず)が、自分(じぶん)(いた)みも(ねつ)も、(うば)()る。
いつか。その(とき)()ることを、(なぐさ)めとして。

ひょい
ド・ジョーが、(むな)ビレを(うご)かした。
(みず)のブレスレットが、ヒモ(じょう)になって、(みずうみ)へと(なが)()ちていった。

「ねえ、(みずうみ)(はし)っこを()頂戴(ちょうだい)(あおい)
マダム・チュウ+999が、(かた)(うえ)から(うなが)した。
こちらも、いつもとは()って()わって、(おだ)やかな口調(くちょう)だ。

岸辺(きしべ)は、(しろ)小石(こいし)()()められた(じゅう)(たん)になていた。そのまま、壁面(へきめん)(つづ)いている。
(かべ)()りついた(いし)は、(みどり)(あか)(ちゃ)。カラフルなメンテナンスモードに(ひか)っている。

湖水(こすい)から(かお)()した小石(こいし)()れを()て、(あおい)()づいた。
「あれ? ちょっとだけ、(ひか)ってる」
(あおい)()(がん)視力(しりょく)でも()かった。
(あわ)くだが、透明(とうめい)(ひかり)(はな)っているのだ。

マダム・チュウ+999が、微笑(ほほえ)んで(あおい)(うなず)いた。
「そうよ。ちゃんと()づいたのね」

ド・ジョーが(つづ)けた。
「いつしか、(ゆめ)小石(さざれいし)は、(わす)()られる。(みずうみ)(そこ)()()りにされて。だが、やがて、(ひと)りでに(いし)(ある)きだす。(おな)(ゆめ)(いだ)(もの)(もと)めて。じりじりと、()(とお)くなるほどの時間(じかん)をかけて」

世界(せかい)という、ばかでかいジグソーパズルの(なか)から、ぴったりのピースを()つけ()す。
そして、(ふたた)(ひか)()すのだ。

ド・ジョーも、微笑(ほほえ)んだ。
(ゆめ)(ちから)も、(りん)()している。(ひと)(いのち)のように」

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