ダンジョンズA 〔2〕双子の宮殿 (ふたごのきゅうでん)

10.フラワーシャワー(1)

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10.フラワーシャワー(1)

オーロラのチュチュに使用(しよう)する材料(ざいりょう)調達(ちょうたつ)は、難航(なんこう)(きわ)めた。

そもそも、場所(ばしょ)がコロコロ()わる。
そのうえ、移動(いどう)手段(しゅだん)(かぎ)られる。
シャッフルをするド・ジョーも、しまいには溜息(ためいき)をつくほどだった。

そこへもってきて、マダム・チュウ(プラス)()(リー)(ナイン)である。
メモの()(きたな)くて()めないだけが、問題(もんだい)じゃなかった。

「やっだー。チュール30デニールは、オーロラ・ピンクだけじゃなかったわ。ローズ・ドゥ・パリの(いろ)必要(ひつよう)よん」
()()したのは、だいぶ(あと)になってからだ。

どうして、あのときに(おも)()さない。
(こぶし)(ふる)わせる(あおい)()て、(あかつき)(あわ)てて(たず)ねた。
(あん)(ない)(ばん)さん、チュール30デニールは、(いま)どこ?」

東館(ひがしかん)地下(ちか)83(かい)、Jの部屋(へや)です』
「また(うご)いちゃってるなあ」
(よう)が、残念(ざんねん)そうに(こぼ)す。
だが、()()(なお)して、(みんな)笑顔(えがお)()けた。
「でも、それなら()(せん)(すべ)(だい)()りればいいから、」

無表情(むひょうじょう)のお(めん)が、無慈悲(むじひ)()げた。
『5秒後(びょうご)に、ダブルオートシャッフルが発生(はっせい)します』
「またかよ!」
(あおい)(さけ)()わった(あと)

ぐらり
各収納(かくしゅうのう)フロアーのフルーツバスケットが(おこな)われてしまった。

だが。
(あおい)は、大変(たいへん)しっかりした小学(しょうがく)年生(ねんせい)だった。
(あた)えられたタスクをこなす実務(じつむ)能力(のうりょく)は、(だれ)よりも(たか)い。
「もー! これ、一体(いったい)いつ()わるんだよ!?」
唯一(ゆいいつ)、まともな神経(しんけい)()っているが(ゆえ)に、(さじ)()げるのは(はや)かったが。

「でも、あと(みっ)つだけだよ、(あおい)。だーってやっちゃえば、すぐだよ! だーって!」
(すべ)てを(いきお)いでこなす(あかつき)が、()った。

「じゃあ、(おれ)()ってくるよ。(あおい)は、ここで(やす)んでるか?」
(よう)は、こんなときでも笑顔(えがお)だ。
そして、相手(あいて)気遣(きづか)余裕(よゆう)(うしな)わない。

「……ううん、だいじょうぶ。一緒(いっしょ)()く」
この(さん)(にん)のパーティーは、無敵(むてき)であった。

そして。苦難(くなん)(すえ)に、ようやく、こぎ()けた。
これが最後(さいご)(ひと)つだ。

「チュール50デニール。(いろ)は、(しろ)間違(まちが)いないよね」
(おごそ)かに、(あおい)(ねん)()した。三回目(さんかいめ)だ。
布地(ぬのじ)(たな)(にら)んだ(あかつき)(よう)が、(そろ)って(うなず)く。
これも(さん)()()である。

「あのさ、最後(さいご)()くけど、ほんとに間違(まちが)ってない? マダム・チュウ(プラス)()(リー)(ナイン)
ちろん、と(あおい)(となり)見遣(みや)る。

(おお)きく(ふく)()がった風船(ふうせん)が、そこにいた。
これまでに取得(しゅとく)した布地(ぬのじ)を、(すべ)(からだ)仕舞(しま)()んだせいだ。

(みじか)前足(まえあし)が、ぽんぽこりんの(はら)から、ぷらぷらとぶら()がっている。
ピンクの体毛(たいもう)は、()()ばされて(しろ)くなっていた。
胸元(むなもと)(しろ)()()いたハート(がた)も、これじゃあ区別(くべつ)がつかない。

風船(ふうせん)ネズミは、お気楽(きらく)返事(へんじ)した。
「いやあねえー、(あおい)間違(まちが)いないったら!  大丈夫(だいじょうぶ)よん」

その「大丈夫(だいじょうぶ)よん」を(しん)じたおかげで、俺達(おれたち)何回(なんかい)(つる)でバンジージャンプをする羽目(はめ)になったと(おも)ってる。
オネエネズミを()(あおい)()には、(かく)しようもない不信感(ふしんかん)()かんでいた。

しかも、()()とされるコースに(くわ)えて、(べつ)バージョンまであった。
貴婦人像(きふじんぞう)よりも下層(かそう)から(つか)まった場合(ばあい)である。
(つる)()()けられた(からだ)が、今度(こんど)強制的(きょうせいてき)()()げられるのだ。

たまったものではない。
生身(なまみ)でエレベーター上昇(じょうしょう)(あじ)わえる、(ぎゃく)バンジーだ。

間違(まちが)えたら、あれをまた()らうのか……。
ここは西館(にしかん)地下(ちか)100(かい)最下層(さいかそう)だ。
反物(たんもの)()ばした(あおい)()が、つい、(ため)()った。

()て、(あおい)。お(まえ)、もう(さん)(かい)()(ちが)ってるだろ。(おれ)()る」
(よう)だって、さっきので(さん)(かい)()だよ」
「じゃあ、(わたし)()るよ」
「うわ、()て、(あかつき)()(さき)にリーチかかっただろ!」
(あおい)が、(あわ)てて(あかつき)(うで)()さえる。

全員(ぜんいん)リーチだ。
だが、(よう)(ゆず)らなかった。
(おれ)()る。大丈夫(だいじょうぶ)だよ。もし間違(まちが)っていたとしても、()(まみ)れの貴婦人(きふじん)だって、(こころ)から(あやま)れば(ゆる)してくれると(おも)うなあ」

うん。(よう)なら、(ゆる)してもらえるかもしれない。
(あおい)(あかつき)も、さっき(つか)まった(とき)のことを(おも)()して、(おも)わず(なっ)(とく)しかけた。

「また間違(まちが)えた。ごめん。本当(ほんとう)に」
それだけ()うと、(よう)は、(いさぎよ)(あたま)()げたのだ。
()(わけ)は、一切(いっさい)なし。
ぐるぐる()きにされた芋虫(いもむし)なのに、男前(おとこまえ)なこと、この(うえ)ない。

ぽっ
(あか)いバラが、巨大(きょだい)貴婦人像(きふじんぞう)(ほお)()いた。

「あいつ、(とく)性格(せいかく)してやがるなあ」
ド・ジョーが(おも)わず詠嘆(えいたん)(こえ)()げたものだ。

だからといって、()(まみ)れの貴婦人(きふじん)見逃(みのが)してもらえる確証(かくしょう)は、ない。

(げん)に、要注意(ようちゅうい)としてマークされてしまったらしく、(つる)厳戒(げんかい)態勢(たいせい)()っていた。
(たな)()かって(なら)調達(ちょうたつ)(はん)(うし)ろには、ふよふよと偵察(ていさつ)部隊(ぶたい)(ただよ)っている。

ピエロのお(めん)も、それに()じって()いていた。
貴婦人(きふじん)恩赦(おんしゃ)は、もうありません。これがファイナルになります』

「えっと、ファイナルって……?」
(あかつき)が、おそるおそる()(かえ)って(たず)ねる。
『さいご、です』
最後(さいご)……」
最期(さいご)?!」
(あおい)(すぐ)れた(のう)は、(あかつき)とは(こと)なる漢字(かんじ)に、瞬時(しゅんじ)変換(へんかん)した。
それは、まずい。絶対(ぜったい)間違(まちが)えられない。

(あおい)は、いったん眼鏡(めがね)(はず)した。
ジーンズのポケットから、ハンカチを()()す。
(あかつき)とは(ちが)うのだ。(わす)れる()なんてない。
裁縫(さいほう)部屋(べや)から()(さい)にも、バッグの(まえ)ポケットから、ちゃんと()()していた。

眼鏡(めがね)綺麗(きれい)(ぬぐ)うと、また()けた。
よし、リフレッシュ完了(かんりょう)だ。
(かんが)えるんだ。
ピンクネズミは、あてにならない。
メモを、もう一度(いちど)(ひら)いた。
もちろん()めない。
象形(しょうけい)文字(もじ)のほうが、まだ読解(どっかい)できる()がする。

ダメだ……。
(たし)かな情報(じょうほう)()しい。
どうすればいい?
これで間違(まちが)いないって()かる手段(しゅだん)が、なにかないか……。

ふよふよ
(あおい)()(まえ)を、緑色(みどりいろ)(つる)(よぎ)った。
(とく)にもう、(あおい)もビビったりしない。
()(まみ)れの貴婦人(きふじん)は、攻撃(こうげき)邪魔(じゃま)はしてこないと()かったからだ。
承認(しょうにん)した素材(そざい)以外(いがい)(もの)を、()()ったりしない(かぎ)りは。

「そうか!」
(こえ)()げた(あおい)に、(よう)(あかつき)(かお)見合(みあ)わせた。
なにがだろう。
()()(あた)えずに、(あおい)背伸(せの)びした。(うえ)(ほう)にある布地(ぬのじ)()()ばす。

それは(ちが)う。目当(めあ)ての(しろ)じゃない。
(あわ)水色(みずいろ)反物(たんもの)だ。

ざざーっ
途端(とたん)に、(つる)()()せられてきた。

ぱっと、(あおい)()()()めた。
すると、てきめんだった。
緑色(みどりいろ)魔手(ましゅ)も、その()()()めたのだ。

今度(こんど)は、(ほん)(めい)(しろ)に、(あおい)()(ちか)づく。
(つる)は……(うご)かない。

(あおい)は、さっと(した)のオフホワイトに()移動(いどう)させた。フェイントを(よそお)った(うご)きだ。
その途端(とたん)
ざざざーっ!

「わかった! ()ってる!」
(こえ)()げたのは、(あかつき)だった。
(よう)より、理解(りかい)行動(こうどう)(はや)い。
(さけ)ぶと同時(どうじ)に、(しろ)布地(ぬのじ)(たな)から()()()していた。(まった)(まよ)いがない。

一瞬(いっしゅん)()があった。
()(まみ)れの貴婦人(きふじん)も、(あかつき)(はや)さに()いていけなかったのだろう。

ぽん ぽん ぽん!
部屋中(へやじゅう)蔓延(まんえん)していた(つる)から、一斉(いっせい)(あか)いバラが花開(はなひら)いた。手品(てじな)みたいだ。

パラッパ パラッパ パー!
(かろ)やかなファンファーレが、どこからともなく(なが)れてくる。

「うわあ……!」
反物(たんもの)(かか)えた(あかつき)が、見上(みあ)げて(ひとみ)(かがや)かせた。
(あおい)(よう)も、笑顔(えがお)部屋(へや)見渡(みわた)す。

無数(むすう)(あか)(はな)びらが、()()りてくる。
祝福(しゅくふく)の、バラのシャワーだ。
(ちゅう)()かんだピエロのお(めん)にも、点々(てんてん)()()いた。
調達(ちょうたつ)完了(かんりょう)(いた)しました。お(つか)(さま)でした』

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