カイコン

10.せんり

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10.せんり

「こちらがシルキング4号機の取扱説明書になります」
どん!
宇賀神シルキング開発室長が取り出したのは、電話帳よりも分厚い本だった。

「ちょっと」
声に怒りが滲んでしまう。
「これ全部読んでいたら、人生終わっちゃいますよ!」
「いや~、4号機は機能満載だからねえ」

うんうん。
開いた状態で机に自立する説明書を前に、
白衣姿の所員達も揃って得々と頷く。
6人いるが、全員が室長と同類らしい。

そのうちの一人が、説明を始めた。
「お分かりと思いますが、シルキングの被服は分離可能です。服の他に、靴やベルト、バッグや帽子なども生成できます」

こいつは、被服機能の開発担当者らしい。
熱を込めて続ける。
「従来品の被服類は、約2メートル離れた場所まで分離できます。なんと4号機は、2キロメートルまで分離が可能なのです!」

「いや、2キロメートルの身長の人なんていないでしょ。身長の範囲まで離すことができたら、それで足りるじゃないですか」
なんと無意味なバージョンアップだ。

「我々は、シルキングの可能性に日夜挑戦し続けているのです!」
うんうん。
皮肉なんて、皆聞いちゃいない。

「4号機独自の機能は、他にも沢山あります。中でも、エネルギーチップを動力として、自身のダミーを作成できる機能は、これまでにない技術でして……」

「独自機能といえば、会話機能のオン・オフができるのは、4号機だけなのですよ。一見地味ですが、非常に難しい研究で……」

「やはり被服機能はダントツですな。生成後、細かな指示をしてチェンジすることも可能ですし……」

「戦闘機能のレベルは、もちろん一番優れています。攻撃、防御ともにパーフェクト。さらに……」

ずらり並んだ所員達は、てんでに喋り散らす。
生徒1人に、教師が7人状態だ。
その度に取扱説明書の該当箇所を探してみるのだが、まったく追い付けない。

「ちなみに日々の癒し機能として、100種類のフレグランスを漂わせることができます」
「100曲の歌も、伴奏付きで再生できます。すごいでしょう!」

「その機能、ほぼ要らないだろ!」
とうとうぶち切れたら、見かねた役人が助け舟を出してくれた。

「あの~、まずは実技から始めてみては? 飛行訓練が最初の難関ですし。知識は、彼からの質問に答える形でレクチャーしていけば」

まともなのは、この人だけだ。
変人集団7人は、結局、意見を呑んだ。
だいたい、中学生に理論全てを叩き込もうとするんじゃない。

「ありがとうございます。(こま)ケンさん」
患者専用住居を世話してもらう間に、彼とはあだ名で呼ぶほど打ち解けていた。
(こま)()賢一(けんいち)。で、狛ケンだそうだ。

「いやいや、うちのが済まないね。どう? 一人暮らしには慣れたかい?」
設置した机やパイプ椅子を片付けながら、尋ねてくれる。いつも通り細やかな気遣いだ。

「はい。ご飯は食堂で出してくれるし、洗濯しなくていいですからね。シルキングだから」
布団すら要らない。
やらなきゃいけないのは、部屋の掃除くらいだ。

自分も、座っていたパイプ椅子を畳んで、狛ケンさんの手伝いをする。

それにしても、だだっ広い体育館だ。学校の10倍以上あるし、天井も高い。
なのに、採掘師講習に参加している生徒は、自分ひとりだ。

「他の参加者は、いないんですか?」
「ん~。なかなか、やろうって患者さんはいなくてねえ」

そうかもな。
食堂に集まる人々の顔が、脳裏に浮かんだ。
みな、自分より年かさの男女だった。
どんよりした表情。そして、醸し出している思念は、共通していた。

どうして自分だけが、こんな不幸に見舞われるんだ。
なぜ、自分が。
悪いことなんか、何もしていないのに!

よく分かる。自分も同じだから。
強く思う。怒りが抑えられない。

でも、それならオレは利用してやる。
非制御型獣化症になったことで、採掘師になれるのなら、一発当てて大儲けしてやるんだ。

そして、あいつらを見返して、家を建てて、母さんをあんな家から脱出させて……。

「まあ、だけど稀にいるからね。殺しても死にそうにない図太い奴とか、牡丹の如き外見に反して雑草のような根性の持ち主とか、」

狛ケンさんが喋っているところに、宇賀神室長がハイスピードで戻って来た。
実技講習の準備を終えたらしい。

いきなり、がしっと腕を掴まれた。
「じゃあ行きましょう! 走って~、ハイ、踏み切る!」
有無を言わさず、一緒に走らされた。
言われたタイミングで、同じようにジャンプする。

ふわり

宙に浮いたのは、自分だけだった。
そのまま上昇していく!

「うわああああっ!」
天井が高いのは、だからかよ!

「もし落下しても、シルキングが自動でクッションになるから死にませんよ~」
今日のシルキングは体育ジャージだ。
その際には、どんな風に変化するのだろう。

見下ろして、怒鳴りつけた。
「死ななくてもケガするって!」
「方向を転換するには、腕を使って体全体を捻って、」
「最初にやりかたを説明してからにしてよ!」

ぎゃあぎゃあ
ああ、すっかり綺麗な顔が崩れてしまってる。
賑やかな応酬を見守りながら、狛ケンが呟いた。
「ファイトぉ」

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