ダンジョンズA〔2〕双子の宮殿(裏メニュー)

11.スプリットメイク(1)裏メニュー

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11.スプリットメイク(1)

「スプリット? なにそれ」
(あかつき)の疑問を受けて、すうっと案内板が移動した。
すぐ横の、外廊下の突き当りまで行くと、そこで静止する。

カッ
お面の両眼が光って、壁に映像を映し出した。
10個のブロックが積み重なった、お馴染みの館内図だ。

『現在地は、西館地下100階。一番下の、ブロック10です。(さい)(ほう)部屋は、西館地下1階。ブロック1にあります』

二つのブロックに、色が付いた。
建物の一番上と、一番下だ。

「ってことは、裁縫部屋のブロック1を固定して、ここのブロックをその上に動かせばいいんでしょ」
いの一番に寄って行った暁が、簡単に言った。

ド・ジョーが行うことのできる、シャッフルのやり方である。
行きたいブロックを固定して、その上に現在地のブロックを移動させるのだ。

暁は、最下層のブロックを指で指すと、一番上のブロックに乗っける仕草をしてみせた。
「あれ?」
間の抜けた声が出た。

間髪入れずに、ド・ジョーが低く(うな)る。
「無茶言うな、お嬢ちゃん。できるわけねえだろうが。地下1階より上なんて、このダンジョンには無いぜ」
ごもっともだ。

「じゃあ、逆?」
暁の指が、てっぺんのブロックに移動した。
「ブロック10を固定して、ブロック1をその下に移動するんだよな」
(よう)が続けた。
逆に、現在地の方を固定して、行きたいブロックを下に移動させる。もう一つのやり方だ。

言う通りに、暁の指が動く。
だが、ド・ジョーが乱暴に(さえぎ)った。
「だから、できねえよ。地下100階より下も、ねえだろうが」

「……ほんとだ」
暁が、壁に映し出された館内図を(ぼう)(ぜん)と見つめた。

黙って聞いていた(あおい)が、やおら口を開いた。
「そうか……。二回連続でシャッフルしないとダメなんだね」

いきなり正解だ。
金色ドジョウの目が、ちょっと見開かれた。
驚きながらも頷くと、苦々しく吐き捨てる。
「そうだ。こいつが、スプリット。両端に分かれちまうと、一発で片がつかないのさ」

確かに、色付きブロックは、両端に分かれている。
真ん中が、すかんと抜けた形だ。

「一回シャッフルして、ちょっと休んでから、もう一回やろうとするだろ。その間にオートシャッフルが起きたら、全部おじゃんになっちまうんだ。まあ、逆に、それで片が付く場合もあるがな」
「だから、連続シャッフルが確実なんだよね」
碧が、ド・ジョーの説明を補足する。

「そうかあ。オートシャッフルは、気まぐれだもんなあ」
陽の言葉に、暁も頷いた。
「またすぐ起きたかと思うと、しばらく無かったりしたもんね」
ド・ジョーですら、予測がつかないと言っていたっけ。

「運が悪かったわねえ」
マダム・チュウ(プラス)()(リー)(ナイン)が、気の毒そうにド・ジョーを見遣る。よれよれのボロボロだ。

そもそも、何度もシャッフルする羽目になったのは、主に、お前のせいだ。
そう言いたげなド・ジョーに(とん)(ちゃく)せず、膨れたピンクネズミは軽く尋ねた。
「で、できそう? 連続でシャッフル」

()(すり)の窪みに立ったド・ジョーの顔は、いっそう苦々しく歪んだ。
「できねえよ。もう、じゅうぶんクタクタだ。これ以上やったら、骨まで溶けちまいそうだぜ。俺を(やな)(がわ)(なべ)にする気か」

暁が顔色を変えた。
「たいへん! 分かった。じゃあ、()(せん)滑り台を上っていこう!」
無茶苦茶なことを提案する。

今度は、碧が顔色を変えた。
「却下! あのね、暁、ここ100階だよ。そんなに上れるわけないだろ」
暁なら、やってのけそうだから、怖い。

「でも、ド・ジョーが、なんだっけ? なんとか鍋になっちゃうって」
(やな)川鍋(がわなべ)。ドジョウを煮込み、ゴボウなどを加えて卵とじにした料理です』
宙に浮かぶお面が、淡々と説明する。

想像図にモザイクがかかる。
卵に(まみ)れて横たわるド・ジョー……。
お葬式の鐘が、チーンと聞こえた気がした。

ぶんぶん頭を振って想像を追い払うと、碧は言い募った。
「二回くらい根性でシャッフルしてよ、ド・ジョー!」
「じゃあ、碧も根性で100階分滑り台を上ってみろ」
「無理!」
「俺も無理だ。人にだけ無理を押っ付けるな」
「人じゃないだろ。ドジョウだろ」

バチバチバチ
火花が、両者の間に散った。
疲れた者同士だ。
怒りの沸点(ふってん)も低くなっている。

すっ
陽が、碧とド・ジョーの間に割って入った。
のんびりとした口調で話し出す。
やわらかい笑みを浮かべている。
すべて、単純にデフォルトだ。

「ええと、ド・ジョーは二回シャッフルするのは無理なんだよな」
「ああ、無理だ」
「一回も無理そうか?」
金色ドジョウは、しぶしぶ言った。
「あー……まあ、一回くらいなら、なんとか」

陽は、続いて、むすっとしている年下の「はとこ」に顔を向けた。
「碧は、螺旋滑り台を上りたくないんだ?」
「うん。ぜったい、やだ」
「じゃあ、滑り降りるのはどうだ? それならオッケーか?」

一瞬、碧は押し黙った。不承不承、答える。
「うん……。まあ、降りるんならいいよ」

陽が、にこりとした。
「それじゃあ、シャッフルは一回できる。滑り台は降りて行く。それは確定な」

陽は(たくま)しかった。
ちょっとやそっとで、へこたれる玉じゃない。

そして、もちろん、暁も逆境に強い。
勢い込んで、案内板に尋ねた。
「そうだ! オートシャッフルは? 近くなったら、いつ起こるか分かるんでしょ?」
『まだ確定していません』
ピエロのお面が、あっさり答える。

暁は粘る。
「じゃあ、この階が、次に何階になるかは?」
『それも、まだ未定です』

暁と陽は、同時に唸った。
「う~ん」
どうしよう。

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