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12.御神渡り(1)
「用意、ドン!」
マダム・チュウ+999が、合図した。
バシュバシュッ
バシュバシュッ
暁と陽の手から、高速で光線が放たれる。
「いーち、にーい、さあーん、しー、」
マダム・チュウ+999は、暁の肩の上で、時間を計っている。
暁は、それを全く気にせず、撃ちまくっていた。速い。
だが、隣の陽も負けていない。いい勝負だ。
壁は、再び、赤や緑に光っていた。
メンテナンスモードである。この状態で光っていない石が、削除の対象になる。
ただし、今回カラーリングされているのは、暁と陽の前にある、二つの区画だけだ。
隣は、灰色のままである。
次々と、石が湖面に撃ち落とされていく。
「はちじゅうにー、はちじゅうさんー」
「終わった!」
暁が宣言した。
陽は、まだ削除中だ。
バシュッ
「きゅうーじゅうー」
「終わった!」
完了したところで、相手方の担当した壁面をチェックする。縦線で分割された右と左が、互いのコートだ。
「暁、4個も見落としてるぞ」
陽が乗っている白鳥3号が、点検結果を告げた。
「こっちは2個だ、陽」
暁の白鳥1号も、確認を終えた。
「あらん。じゃあ、どっちが勝ちかしら。ねえ、碧! 撃ち残しには、ペナルティを加算するんでしょ?」
ピンクネズミが、暁の肩から尋ねる。
離れて見ていた碧が、返事をした。
「1個あたり5秒足して」
「じゃあ、私は83秒で終わってる。でも、4個、見落としたから、」
暁が、以下の通り暗算した。
4個×5秒で、20秒分のペナルティだ。
83+20=103
完了するのに、103秒かかったことになる。
「俺は90秒で終わって、撃ち残し2個だから、」
2個×5秒で、ペナルティは10秒分。
90+10=100
つまり、100秒で完了。
ということは、陽の方が早い。逆転勝利だ。
「よっしゃあ!」
マッチョ・スワンズ3号は、快哉を叫んだ。
陽も、笑顔で拳を上げる。
くうう
暁の白鳥は、歯を食いしばるような声をあげた。嘴で、どうやっているのだろう。
「ごめんね。負けちゃった~」
暁は大らかだ。負けても不機嫌になったりはしない。
乗っている白鳥の顔を、心配そうに覗き込んだ。
「いや! いいんだ、暁。お前は、よくやったぞ!」
「うん。でも、そっかあ。あんまり撃ち漏らすと、早く終わってもペナルティで負けちゃう仕組みなんだね」
まさに、その通りである。
「次は気を付けるね!」
にこにこ笑う。
白鳥の心を鷲掴みにする、満点の笑顔である。
マッチョ・スワンズ1号は、緩み切った顔で吠えた。
「うお~! やるぞ、次は俺達の勝利だ!」
「ド・ジョー。じゃあ、次、お願い」
碧が、冷静に促した。
「削除対象の石の数が、なるべく同じになるように区切って」
「へいへい」
金色のドジョウは、水柱の天辺から、ぽちゃりと水面にダイブした。
「あらよっと」
尻尾を一振り。水が薄い膜になって、壁に飛び掛かかる。
濡れた隣の壁が、緑や赤に光り出した。
つうっと、白い線が間に引かれて、二つに分けられる。右の方が広い。
「暁、右と左、どっちがいい?」
陽が尋ねる。フェアプレイでいこう。
負けた人間が、コート指定だ。
「じゃ、左!」
「ド・ジョー。そうしたら、こっちの済んだ二面に、横線を引いて。なるべく細かくね」
碧が、続けて指示を出す。
「へいへいへい」
ぱああっ
また、水が掛けられた。
光る紅葉の絵が、幾つものブロックに区切られた状態になる。
バシュッ
碧のレーザーポインターが、撃ち漏らしを落とした。速さは無いが、確実だ。
桃が、黒鳥の鞍上で、あたふたした。
自分も、やらなくちゃ。
「桃ちゃん、無理しなくていいよ。あのね、撃ち残しが無くなったブロックを、ド・ジョーに伝えて。光を消してもらうんだ。こんなふうに」
碧は、微笑を浮かべて言った。
「右側の上から3番目は、完了。消して、ド・ジョー」
「へいへいへ~い」
ぱっ
また、水が吹っ掛けられた。
絵のピースが、一部分、欠けた状態になる。
確かに。これなら分かりやすい。
桃も、伝えるだけなら、難なくできる。
隣に移った暁と陽は、凄まじい勢いで撃ちまくっていた。
ころんころん、小石が壁から転げ落ちていく。
土煙が、ひっきりなしに壁から上がっていた。
勝敗が懸かっているから、互いの白鳥も競ってサポートに励んでいる。
かくして、突貫工事は、がんがん進んでいった。
残りのメンバーは、黙々と残務処理に励む。
「左側、上から二番目と四番目を消して。右側の、一番下も完了」
桃は、一生懸命、大きな声を出した。
なにしろ、盛り上がっている突貫工事組が、うるさい。
「よーっし! 今度は俺達の勝ちだ!」
「やったあ!」
「まだまだぁ。次いくぞ!」
「きゃー! 陽、頑張ってね~ん」
オネエなネズミは、暁の肩に立って、陽の応援をしている。でも、暁は別に気にしない。
「しかし、感服奉った。こんな策があるとは。碧は名参謀だな」
碧の乗った白鳥は、時代がかったセリフを吐いた。感に堪えない様子だ。
水柱に立った金色のドジョウが、にやりと笑った。得意気に同調する。
「そうだろ」
本人は、淡々としたものだ。
「いや。俺は、こうしたら効率がいいって思っただけだよ。暁と陽を活かして、桃ちゃんも無理せず戦力になれるだろ」
「うん、これなら、大丈夫」
桃が、乗っている黒鳥と顔を見合わせて、微笑み合った。
なんだか、すっかり打ち解けた様子だ。
「つまり、四字熟語で言うと、適材適所!」
碧が、得々として学識を披露した。
「碧、四字熟語、好きよね」
桃が、小さくツッコむ。
「んじゃ、暁は四字熟語で言うと?」
ド・ジョーが、壁に水をぶっかけながら聞いた。答えが分かってて、わざと振っている。
ふふん。碧が受けて立った。
「決まってる。猪突猛進、だ」
みんな、大笑いだ。
地底湖は、楽し気な雰囲気で満ちあふれた。
「よし。次で終わりだな」
マッチョ・スワンズのリーダーは、機嫌よく言った。
こんな方法、考え付きもしなかった。
なんと素晴らしい客人だろう。
「ん?」
違和感を感じて、1号は、うにょんと頸を曲げた。
「おい、暁。脚が光ってるぞ」
ジーンズが、青白い光に包まれている。
当たっている箇所が、ほんのりと熱い。
熱を持つほど、激しい光なのだ。
がばっと見下ろして、暁が慌てた。
「本当だ! これって、」
「碧! 暁の脚が光ってる!」
白鳥の鞍上から、陽が御注進した。
げえ
碧は、顔を向けると、つぶれた声を上げた。
白鳥2号に乗って、急いで近寄って来る。
「これ、オーロラが来るってことだよね」
碧は、マダム・チュウ+999に尋ねた。
あからさまに迷惑そうだ。
オネエなネズミが、暁の肩からジャンプして碧に飛びついた。河岸変えだ。
「そうよん。きっと、みんなで楽しそうにしてたから、呼び寄せちゃったのねえ」
学校に巣くう浮遊霊か。
「ド・ジョー。オーロラに来るなって断って」
碧は、きっぱり宣言した。
これ以上の面倒は、ごめんだ。
「ああ? できたら苦労しねえよ。前に言っただろう。あいつは、このダンジョンの太陽。喩えるなら、自由気ままな名誉会長だ。すなわち、誰にも止められねえ」
「えっと、この光がダメなんでしょ。湖に飛び込んだら、じゅって消えるかな?」
「よせ、暁。超冷たかったぞ、その水」
「そうなの、碧?」
まるきり不意打ちだった。
ピシピシピシ……
なんてことだろう。一瞬にして、湖面が凍り付いたのである。
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