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13.再起動(2)
だっぷんっ
そんな音を立てて、丸い波が生まれる。
ド・ジョーが落下した地点からだ。
どんどん広がって、湖の岸に辿り着いた。
ざあっ
波が、壁を濡らしていく。さっきと同じだ。
だが、今回は様子が違った。
ピンポン!
一瞬で、壁面が灰色に塗り潰されると、ずらりと〇が並んだのだ。
「よし。今度は上手くいったな」
ド・ジョーが、満足気に見渡した。
既に、いつもの水柱の上に立っている。
「ド・ジョー、これって?」
碧は、検討がついている顔で言った。
「ああ。これが案内板だ」
やっぱり。
広い。これ全部が、そうなのか。
「やろうとしていた最後の二面は、最初に碧が担当していた箇所だったからな。ほぼ、メンテナンスが完了していたんだろう」
ド・ジョーが説明する。
「これで、大本の起動は問題なく済んだ。まあ、主電源を入れ直したようなもんだ」
「あれ? でも、さっきは、マッチョ・スワンズが声掛けしてたよね。やらなくても、起動できるの?」
尋ねた碧に、ドジョウが鼻で笑った。
魚類なのに、どうやってるんだろう。
「ありゃ、単なる景気づけだ。なくたって別に構わねえよ」
ひどい。
ばさっ ばさっ
暁を乗せた白鳥が、離れた位置に着水した。
そこから、湖面を滑るようにやって来る。
「あー、びっくりした」
暁は、にこにこ笑っている。
全然、びびってる顔じゃない。
むしろ楽しそうだ。
「これ、オーロラにもらったんだけど、もらっていいのかな?」
暁が、握った手を開いた。
うわ……。
現れた超高級ジュエリーに、全員、引いた。
確かに、もらうのを躊躇するほどの品だ。
「そうねえ。地宮の品は、あまり持ち帰らないほうがいいわ。災いの元になるから」
マダム・チュウ+999が、碧の肩から、思慮深く答えた。
確かに。親に見つかった日には、どう説明してよいのやら、見当もつかない。
大騒動の予感がする。
「あ、じゃあ、みかげちゃんにあげようか?」
暁は、いいことを思いついた、とばかりの顔をした。
だが、地宮の住人たちは、一様に渋い顔つきになった。
ド・ジョーが、代表して口火を切る。
「あのな、暁。それは、お前さんだから貰えた物だ。欲しくても、もらえない奴なんて、ごまんといる」
バレエの化身に、気に入られたい。
そう願って、努力しても、叶わない。
みかげと同じ人間は、それこそ、石の数ほどいるのだ。
「お前が、みかげに譲ったとしても、その王冠は、みかげの物にはならない。永遠に借り物だ。お前が要らないとしても、やめておけ。それは残酷なことだ」
暁は、ちょっと考え込んだ。
時の筒で観た、みかげの夢を思い出す。
叶わなかった、悲しい夢だ。
そうか。たとえ善意でも、みかげちゃんを傷つけてしまうってことなんだろう。きっと。
「分かった。じゃあ、マダム・チュウ+999、これ預かってくれる? また、私たち、ここに来るかもしれないし」
碧が、すぐに反論した。
「さらっと怖いこと言うなよ、暁」
「いや、もう来るなって」
間髪入れずに、ド・ジョーも諫める。
「とにかく、案内板にアクセスを聞いて、すぐに帰ろう」
陽が、きっぱりと宣言した。
乗っているスワン達とマダム・チュウ+999も、全員が頷いている。
「で、どうやるの? この案内板?」
碧が首を捻った。
今までは、鏡に触って、あの言葉を唱えればよかった。
でも、今回は、だだっ広い壁だ。
どこに触ればいいんだ?
すると。マッチョ・スワンズの四羽が、自分たちを乗せたまま、互いに頸を伸ばして寄り合った。
こそこそ、会話を交わす。
「おい、誰をやる?」
と、リーダー。
殺し屋みたいな台詞だ。
「桃に、そんなことはさせられないよ」
黒鳥の主張に、残り三羽が頸を振って同意した。うん、もっともだ。
すると、三郎も言った。
「陽は重いからな。服が破けたら、大変だ」
うんうん。
スワン達の長い頸が、頷く。
「暁か、碧か」
「どっちでも大丈夫そうだな」
「じゃ、聞いた奴にしとけ」
低い声が、割り込んだ。
ド・ジョーだ。水柱が、スワン達の真ん中に立っている。
よし。
スワンズは、散開して、一列に並んだ。
2号の筋肉二郎が、一羽だけ進み出る。
そして、うにょんと頸を曲げた。
乗っている碧は、きょとんとしている。
くわっ
黄色い嘴が、開いた。
体に比例した、大きな口だ。
抗う間もなく、碧の体は白鳥に咥えられていた。
「っうわあああ! なに?!」
そのまま、吊り下げられて湖面に差し出される。白鳥クレーンだ。
「湖面に手を触れて、碧」
耳元でオネエな声がした。
顔の横に、マダム・チュウ+999がいる。
パーカーから這い出て、肩にしがみ付いているのだ。
「そして、唱えるのよ」
「先に言ってくれよ! 俺は、心の準備も現実の準備も、前もって、ちゃんとやりたい派なんだよ!」
やけっぱちで主張する。
しかし、こうなっては、とっととやるしかない。
ぶら下げられた碧は、右手を伸ばした。
下に、透明な水面がある。
でも、届かない。
巨大白鳥が、碧の体を少し降ろした。
手が水に触れた。やっぱり冷たい。
湖底に敷き詰められた、白い石が見える。
碧は、すうっと息を吸って、唱えた。
「カモン・サイネージ」
湖に、ボイスコマンドが響き渡る。
ぱあああっ
湖の底から、激しい光が迸った。
吊り下げられた碧は、まともに閃光をくらってしまった。思わず、腕で顔を庇う。
光は、徐々に収まった。もう大丈夫だ。
碧は、ぶら下げられたまま、腕を除けた。
湖底に敷き詰められた石の下から、色づいた光が放射されている。
碧は、右側に顔を向けた。白だ。
左は、青。
二色の境目が、真っすぐに、ぶら下がった自分の下を走っている。
後ろから、暁が声を上げた。
「碧、見て!」
湖の壁面だ。
陽と桃も、驚きで目を見張っている。
地底湖は、楕円の形をしている。
その尖った側の先から、二色の光が灯り始めたのだ。
片方は、青に。
もう片方は、白に。
ぐるりと光っていき、ちょうど半周する位置で、青と白が出会った。
嘆きの湖を取り巻く壁も、二色に塗り分けられたのだ。
『ご案内を致します』
地底湖の上空から、いつもの声が響いてきた。
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