ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

15.シャットダウン(1)

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15.シャットダウン(1)

マッチョなスワンの野太(のぶと)(くび)が、しなやかに()がった。
白鳥(はくちょう)クレーンの動力(どうりょく)は、(きた)()げられた筋肉(きんにく)である。
(くちばし)にぶら()げられた(あおい)は、無事(ぶじ)(あん)(じょう)(もど)された。

「えっと、ありがと」
()()
白鳥(はくちょう)(きん)(にく)()(ろう)が、(あおい)(みじか)(こた)える。
あまり無駄(むだ)(ぐち)(たた)かないタイプだ。

「じゃ、アクセスを()けばいいんだよね」
(あかつき)が、スワンの(うえ)(そろ)った仲間(なかま)()った。
みんな、こくりと(うなず)く。

「でも、(まえ)のと全然(ぜんぜん)(ちが)うけど、これも案内板(あんないばん)なんだろ。正確(せいかく)(たず)ねなくちゃ」
(よう)が、注意(ちゅうい)(かん)()する。
そうだ。でないと、(ただ)しいアクセスが案内(あんない)されない。

「うん。じゃ、(あおい)()いて」
あっさり、(あかつき)()った。(てき)(ざい)(てき)(しょ)だ。

「はいはい」
(あおい)()れている。()(いた)(みず)だった。
案内板(あんないばん)! ここから、西(にし)センター1(かい)のエントランスホールまで(かえ)るアクセスを(おし)えて」
今回(こんかい)相手(あいて)は、でかい。自然(しぜん)大声(おおごえ)()た。

地底(ちてい)()は、(あお)(しろ)()かれて(ひか)っていた。
ぐるりと(かこ)(かべ)楕円形(だえんけい)湖底(こてい)も、すぱりと()(なか)区切(くぎ)られている。
半分(はんぶん)(しろ)半分(はんぶん)(あお)だ。
この(すべ)てが、案内板(あんないばん)なのである。

上空(じょうくう)から、(こえ)()って()た。
一人(ひとり)ずつ(かえ)るアクセスと、全員(ぜんいん)同時(どうじ)(かえ)るアクセスとがあります。どちらをご希望(きぼう)ですか』

全員(ぜんいん)同時(どうじ)に、だ」
(よう)が、きっぱり(こた)えた。
(ほか)選択肢(せんたくし)なんて、ない。

『かしこまりました。では、そのアクセスをご案内(あんない)(いた)します。全員(ぜんいん)、スワンに()り、バトンパスをして(くだ)さい』

「バトンパス? リレーみたいに?」
(あおい)が、(こえ)のする(ほう)見上(みあ)げて(たず)ねた。
『はい』

「じゃあ、(みずうみ)一周(いっしゅう)づつ(まわ)るのかな。バトンの()(わた)区間(くかん)は、どっからどこまで?」
(みずうみ)じゃ、テイク・オーバー・ゾーンが()かりにくいよなあ」
(あかつき)(よう)が、相次(あいつ)いで()いた。
二人(ふたり)とも、選抜(せんばつ)リレーの常連(じょうれん)選手(せんしゅ)だ。質問(しつもん)具体的(ぐたいてき)である。

(うえ)から返事(へんじ)があった。
厳密(げんみつ)にいうと、バトンパスではありません。一番(いちばん)(ちか)表現(ひょうげん)として、使用(しよう)しました』
なるほど。
「じゃあ、実際(じっさい)のルールを、(こま)かく説明(せつめい)して」
(あおい)(うなが)した。

『はい。まず、使用(しよう)するバトンは、(なん)でも(かま)いません。それを、全員(ぜんいん)順番(じゅんばん)(まわ)してください。それだけです。距離(きょり)(はし)必要(ひつよう)は、ありません。また、バトンをパスできる区間(くかん)も、限定(げんてい)しません。ただし、双方(そうほう)(かなら)ずスワンに()った状態(じょうたい)で、バトンを()(わた)しして(くだ)さい』

「どうして?」
(もも)が、(ちい)さく(くび)(かし)げた。
(こえ)(ちい)さい。だが、案内板(あんないばん)は、その音声(おんせい)(ひろ)って(こた)えた。

今回(こんかい)()(しろ)は、スワンだからです。バトンではありません。そのため、バトンは(なに)使用(しよう)しても可能(かのう)なのです。ちなみに、バトンが前走者(ぜんそうしゃ)()(はな)れて、()走者(そうしゃ)(わた)っても、セーフとなります』

「つまり、バトンを()げて(わた)してもOKってことかあ」
(よう)が、簡単(かんたん)()(なお)した。
本当(ほんとう)のリレーだったら、完璧(かんぺき)失格(しっかく)だが。

『そうです。最後(さいご)(ひと)が、一番最初(いちばんさいしょ)(ひと)にバトンを(かえ)したら、全員(ぜんいん)(かえ)れます。なお、時間(じかん)制限(せいげん)はありません』

毎回(まいかい)予想(よそう)もしないアクセスが案内(あんない)される。
バトンパスとは。
一体(いったい)今回(こんかい)は、どんなふうに(かえ)れるんだろう。

(あかつき)は、さっさと(はなし)(すす)めた。
「じゃ、やろっか。バトンは(なん)にしよう?」
勿論(もちろん)、リレー(よう)のバトンなんて()い。
(あかつき)は、ふと、自分(じぶん)()()た。

「あ、じゃあ、これにしよ」
(かる)()めると、(あおい)()げて()()した。
(なん)()なしにキャッチした(あおい)が、(こえ)(あら)げた。
くだんの、オーロラがくれたティアラ(がた)髪飾(かみかざ)りじゃないか。

「って、これかよ! ()げるなよ、こんな(たか)そうなもの!」
小言(こごと)()いながら、白鳥(はくちょう)(ぎょ)して、(よう)のもとへ()かう。
(あおい)は、ちゃんと手渡(てわた)しで、(よう)にティアラを(たく)した。()げるなんて、とんでもない。

(つぎ)は、(よう)(ばん)だ。
もとより、四人(よんにん)とも、そう(はな)れてはいない。
巨大(きょだい)なスワン(たち)が、(せま)範囲(はんい)()きかう()だ。
リレーとは、ほど(とお)光景(こうけい)である。

(よう)は、ティアラを(もも)()()すと、()かさずに()った。

おそるおそる
(もも)が、(くら)のハンドルから()(はな)す。
()としちゃったら、どうしよう。
ふるふる()ばしてきた()に、(よう)(ちい)さな(おう)(かん)()せた。
自分(じぶん)両手(りょうて)(つつ)()んで、しっかり(にぎ)らせる。
成功(せいこう)だ。

ほ~
全員(ぜんいん)(こえ)が、(そろ)った。マッチョ・スワンズまで、全羽(ぜんわ)(いき)()いている。

「あとは、(あかつき)(かえ)せば()わりだ。(もも)(あせ)らなくていいぞ」
(もも)ちゃん、制限(せいげん)時間(じかん)()いんだからね。ゆっくりでも大丈夫(だいじょうぶ)
(よう)(あおい)口々(くちぐち)()われて、(もも)表情(ひょうじょう)(やわ)らげた。
うん、なんとかなりそうだ。

黒鳥(こくちょう)心得(こころえ)て、ゆっくりと(およ)()した。
(もも)は、ティアラを(にぎ)った()を、()っかハンドルに()()けている。これなら、片手(かたて)運転(うんてん)より、ちょっとはマシだ。

(もも)ちゃん」
(あかつき)が、笑顔(えがお)()びかけた。
ああ、もうすぐだ。よかった。
全員(ぜんいん)が、そう(おも)った瞬間(しゅんかん)だった。

ばちん!
(すべ)ての(ひかり)が、()えた。

え?
(もも)は、()(うたが)った。
いったい、(なに)()こったの?
(なに)()えない。自分(じぶん)(うで)すら、どこにあるのか()からない。(すみ)(なが)したような(やみ)だ。
いや、(こわ)い……!

「きゃあああ!」
たまらず、(もも)悲鳴(ひめい)をあげていた。
自制(じせい)なんて()かない。恐怖(きょうふ)が、(のど)から勝手(かって)()()されていくのだ。

(もも)! ()()け! (くら)くなっただけだ。そのまま、じっとしてろ」
(よう)大声(おおごえ)が、暗闇(くらやみ)(ひび)(わた)った。
地下(ちか)空間(くうかん)だけに、一筋(ひとすじ)()かりさえないのだ。
まずい。みんな、パニックを()()こしかねない。

(あおい)! 大丈夫(だいじょうぶ)か?」
(よう)()()いた(こえ)()いて、(あおい)(ただ)ちに自分(じぶん)()(もど)した。
正直(しょうじき)(くち)から心臓(しんぞう)()るほど、びっくりした。
それでも、ちゃんと返事(へんじ)をしていた。
ほぼ条件(じょうけん)反射(はんしゃ)だ。
平気(へいき)だ。なんだ、これ」

(よこ)から、ド・ジョーの(こえ)(こた)えた。
「まだ(すい)(みゃく)(くる)ってやがるのか? 見回(みまわ)って()る。みんな(うご)くなよ!」
(とお)くなっていく。(およ)いで()ったらしい。

(あかつき)! 大丈夫(だいじょうぶ)か?」
まずは、全員(ぜんいん)(あん)()(かく)(にん)だ。
(よう)()びかけに、すぐさま(あかつき)(かえ)した。
「うん、平気(へいき)だよ。(もも)ちゃん、(わたし)(ちか)くにいるからね。大丈夫(だいじょうぶ)だよ」

全然(ぜんぜん)()えないけど、(たし)かに、(ちか)くから(あかつき)(こえ)()こえる。
(もも)は、(ふる)えながら返事(へんじ)をした。
「……うん」

(もも)(ぼく)(そば)にいる。安心(あんしん)して」
黒鳥(こくちょう)さんだ。
ふわふわした(はね)感触(かんしょく)が、(あたま)()でていく。
「ん」
(もも)は、ティアラを(にぎ)りしめたまま、スワンの(くび)にしがみついた。あったかい。安心(あんしん)する。

一郎(いちろう)さん、(もも)ちゃんのとこまで()ける?」
暗闇(くらやみ)(なか)(あかつき)()っている白鳥(はくちょう)(たず)ねた。
(すこ)しでも、(もも)安心(あんしん)させてあげたい。

「やめておこう、(あかつき)。ぶつかっちゃ、(あぶ)ない」
「そっか……、そうだね」
(もも)(みずうみ)()っこちたら、大変(たいへん)だ。
暗闇(くらやみ)(なか)で、(おぼ)れかねない。

(もも)は、マッスル()衛門(えもん)(まも)る。大丈夫(だいじょうぶ)だ」
「わかった。いつも、こんなふうに()(くら)になるの?」
(たず)ねると、白鳥(はくちょう)(かんが)えこんだのが()かった。
「いや……。こんなことは(はじ)めてだ」

「そうなんだ。遊園地(ゆうえんち)のお()屋敷(やしき)みたい。(まえ)にね、みんなで()ったんだよ」
この状況(じょうきょう)で、お()屋敷(やしき)(はなし)かよ。
マッチョ・スワンズのリーダーは、(なか)(あき)れながらも感嘆(かんたん)した。
(たの)もしい()だ。全然(ぜんぜん)(おび)えていない。

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