ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

15.シャットダウン(2)

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15.シャットダウン(2)

(もも)も、ひとまず()()いていた。
とにかく、じっとしていよう。
大丈夫(だいじょうぶ)黒鳥(こくちょう)さんもいる。お(にい)ちゃんも、(あおい)も、(あかつき)も。()えないけど(ちか)くにいるんだから。

(もも)ちゃん……」
あ、()ばれた。すぐそばだ。

(あかつき)?」
心配(しんぱい)して、()てくれたんだ。
(あかつき)は、いつだって(やさ)しい。
そして、(おそ)れを()らない(おんな)()だ。
すごいなあ。こんな暗闇(くらやみ)なんか、へっちゃらなんだ。

「それを(わた)して」
()かすように()われて、(もも)は、はっとした。
そうだ。バトンパスの途中(とちゅう)だった。
このティアラを、第一(だいいち)走者(そうしゃ)(あかつき)(かえ)さなくちゃ。現実(げんじつ)世界(せかい)には、(かえ)れない。

(もも)は、おずおずと()()()した。
自分(じぶん)()すら()えないけど、金属(きんぞく)(かた)感触(かんしょく)がある。大丈夫(だいじょうぶ)()としてなんかいない。
「わかった。(あかつき)()()ばして」

ぬっ
(やみ)から、(うで)()びてきた。
()のひらを(うえ)にしているのが()える。
あせっちゃダメだ。
(もも)は、ゆっくりと、ティアラを手渡(てわた)そうとした。

あれ?
(なに)かが、キラキラ(ひか)った。

(もも)は、暗闇(くらやみ)(なか)()()らした。
(いと)だ。
透明(とうめい)(ほそ)(いと)が、自分(じぶん)()何本(なんぼん)()いている。それが(ひか)っているのだ。

(なに)、これ?」
戸惑(とまど)った(もも)が、ティアラを(にぎ)った()()すった。
やっぱり。この(ちい)さな髪飾(かみかざ)りに、くっ()いているんだ。
クモの(いと)みたいだ。キラキラで、(なが)い。

すると、(やみ)から()()のひらが、(あわ)ただしく上下(じょうげ)(うご)いた。
(はや)く」
苛立(いらだ)たし()に、()かす。

「えっ?」
(もも)は、自分(じぶん)()()された()を、(あらた)めて()た。

(ちが)う。
(あかつき)は、絶対(ぜったい)に、こんなふうに()ったりしない。
空手(からて)でペアを()むとき、もたついてしまっても、いつだって笑顔(えがお)()ってくれるのだ。

(もも)は、(かた)(こえ)(かえ)した。
「……だれ? (あかつき)じゃないでしょ」
そう。それに、(へん)だもの。
自分(じぶん)()すら()えない暗闇(くらやみ)で。
どうして、この()だけ、()えているの?

(もも)?!」
黒鳥(こくちょう)が、異変(いへん)察知(さっち)して、(こえ)をあげた。
だが、(おそ)かった。

(やみ)(うか)んだ()が、いきなり(もも)(おそ)った。
悲鳴(ひめい)()げる()(あた)えずに、(にぎ)ったティアラを、ひったくる。

ぶちっ
(おと)()てて、ティアラに()いていた(いと)()れた。はらはらと()ちていく。

(もも)は、(こえ)もなく、それを()つめた。
(いと)(ひかり)が、(すべ)(やみ)()けていく。
あとは、暗闇(くらやみ)が、ただ、自分(じぶん)()(かこ)んでいるばかりだった。

「……だれ?」
今度(こんど)(あかつき)だ。不思(ふし)()そうに、(やみ)()かって(たず)ねた。
(だれ)かが、自分(じぶん)()(さわ)ってきたのだ。

(かた)()でてくる。今度(こんど)(うで)だ。
(あご)()がかかり、(ほお)をさすってくる。
なんだろう。(ねこ)でも(かま)っている仕草(しぐさ)だ。

「オーロラ?」
また()たのかな。
(あかつき)……」
耳元(みみもと)で、()()ばれた。
あれ? この(こえ)って。

「みかげちゃん?」
「ねえ。(わたし)、ずっと()ってたの」
(あま)えるように(つぶや)く。
やっぱり、みかげだ。

(わたし)、あなたが大好(だいす)きよ。この(うで)も、(あし)も、この(かお)も」
()えない()が、(からだ)(まと)わりついてくる。
「ちょ、ちょっと、みかげちゃん。なに?」
当惑(とうわく)する(あかつき)(こえ)だけが、暗闇(くらやみ)から()こえて()て、(した)白鳥(はくちょう)(あわ)てた。
(あかつき)! どうした?」

するり
(なに)かが、(あかつき)(みぎ)手首(てくび)()められた。
すっと、それを上腕(じょうわん)(うご)かしていく。

ずしり
いきなり、(うで)(おも)たくなった。
えっ?
なに、これ。ぜんぜん(うご)かせない。
何十(なんじゅっ)キロもある(なまり)()でも、()められたかのようだ。

(あかつき)! どうした?」
筋肉(きんにく)一郎(いちろう)が、自分(じぶん)背中(せなか)()かって(さけ)んだ。
(なに)()こっている? 全然(ぜんぜん)()えない。

(あかつき)(いき)が、(くる)()(ゆが)んでいく。
どうしてだろう。(きゅう)気分(きぶん)(わる)い。
「みかげ、ちゃん……。なに、これ? どうして?」

(やみ)からは、なんの(いら)えもない。
だが、突然(とつぜん)耳元(みみもと)小声(こごえ)()()まれた。
(あかつき)(からだ)が、びくっとする。
すぐ(ちか)くにいる!

「ねえ、(かえ)らないで、(あかつき)(わたし)一緒(いっしょ)に、ずうっとここにいて。ほら、この腕飾(うでかざ)り、とっても似合(にあ)ってるわよ」

「うで、かざり……?」
()われてみれば、(たし)かに布地(ぬのじ)感触(かんしょく)だ。
でも、どうして、こんなに(おも)いの?
それに、どうしてだか、べちゃべちゃに()れている。
気持(きも)ちが(わる)い……。

(わたし)(おも)いが(こも)っているんだもの。それを(なげ)きの(みずうみ)(ひた)したら、すごく(おも)たくなるんですって。(おし)えてもらった(とお)りだわ」
(こころ)()()ったように、みかげの(こえ)(こた)えた。

「さあ、左腕(ひだりうで)にも()けてあげる。(わたし)、ずうっと()っていたのよ」
左腕(ひだりうで)に、みかげが()れた。

(あかつき)は、(おも)わず左手(ひだりて)()(はら)っていた。
でも、よろよろの防御(ぼうぎょ)だ。

うっとりと、みかげの(こえ)(うた)う。
(こば)まないで、(あかつき)。あなたは、(わたし)になって、ここで()きていくのよ」

ぞっとした。
なにを()っているの?
「いや! みかげちゃん、やめて!」

一方(いっぽう)
ド・ジョーは、(みずうみ)をぐんぐん(およ)ぎながら、点検(てんけん)(すす)めていた。
この地底(ちてい)()は、オーロラの()(きゅう)(ささ)える(ちから)源泉(げんせん)だ。
(ゆめ)(さざれ)(いし)()()す、(いし)(ちから)
そして、自然(しぜん)がもたらす、(みず)(ちから)

その(ふた)つの(ちから)は、(たが)いに影響(えいきょう)しあっている。
(いし)(ちから)を、(みず)(ちから)増幅(ぞうふく)し。
(みず)(ちから)を、(いし)(ちから)(あやつ)る。
こっちに(なが)れろ。あっちに()け、と。
複雑(ふくざつ)だが、きちんと(なら)べられた回路(かいろ)となっているのだ。

それが、どこか(ゆが)んでしまっている。
()(くら)(やみ)(なか)、ド・ジョーは(かた)(ぱし)から(さが)(まわ)った。
そもそも、視覚(しかく)(たよ)らない能力(のうりょく)だ。
支障(ししょう)()い。

……きた。この(あた)りだ。

(さけ)(こえ)()こえたのは、その(とき)だった。
「いや! みかげちゃん、やめて!」

(あかつき)
まずい。(なに)()こった。
だが、こっちが(さき)だ。
ド・ジョーの魚体(ぎょたい)が、暗闇(くらやみ)(なか)()ねた。

「ここだ!」
バシッ……!
(みず)()が、(かべ)目掛(めが)けて(はな)たれた。

ばちん!
ひときわ(おお)きな(おと)が、地底(ちてい)()(ひび)(わた)った。

その途端(とたん)
一瞬(いっしゅん)で、地底(ちてい)()()かりが(もど)った。
(はし)っこから、(あお)(しろ)(ひかり)が、ぐるりと(かべ)()めていく。
湖底(こてい)(いろ)も、(おう)じた。
(ふたた)び、二色(にしょく)()(ぷた)つ。
起動(きどう)状態(じょうたい)(もど)ったのだ。

「……やれやれ」
ド・ジョーは、水柱(みずばしら)(うえ)から見渡(みわた)して、(いき)()いた。
とりあえず、全員(ぜんいん)、いるな。

()(かえ)ると、(はな)った(みず)()が、一本(いっぽん)(あお)(かべ)()()さっていた。

さわさわ
()()けられた(あお)(いし)が、(うご)いていた。
もしゃもしゃした(くろ)(あし)が、何本(なんぼん)(した)から()えている。
それが、(いま)わの(きわ)に、()()いている。

(むし)、か?」
ド・ジョーが、あっけにとられた。
こんなの、()たことがねえ。

それは、(みず)()ごと、そのまま湖面(こめん)()ちた。
ぽちゃり……
ひくひく(うご)く、()(くろ)裏側(うらがわ)()せながら。

その瞬間(しゅんかん)
ド・ジョーの(かん)じていた(すい)(みゃく)(ゆが)みは、跡形(あとかた)もなく()()っていた。

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