ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

16.ティアラ(1)

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16.ティアラ(1)

(あかつき)!」
(よう)(さけ)んだ。
(あかつき)は、ぐったりと白鳥(はくちょう)(くび)(もた)れかかっていた。
(かお)()(しろ)だ。()()(うしな)っている。
一目(ひとめ)でわかる、緊急(きんきゅう)事態(じたい)だ。

マッチョ・スワンズを()り、(よう)(あおい)が、(あかつき)(もと)()()けた。(もう)スピードだ。
「どうした?!」
二人(ふたり)二羽(にわ)()わせて4つの(こえ)(そろ)った。

(あかつき)は、(いき)()()えだ。
「みかげちゃんが、(わたし)腕飾(うでかざ)りを()めたの。そうしたら、(うで)が、とっても(おも)くなって。気分(きぶん)も、(わる)くなって……」

「みかげが?」
(よう)が、素早(すばや)(あた)りを見渡(みわた)した。
みかげの姿(すがた)は、ない。
いや、()えないだけか?

「すまん。(おれ)がいながら、()められなかった」
(あかつき)白鳥(はくちょう)(きん)(にく)(いち)(ろう)()びる。
自責(じせき)(ねん)で、(あかつき)(おと)らず(くる)()様子(ようす)だ。

「それ、(はず)せばいいんじゃ」
(あおい)が、白鳥(はくちょう)(あん)(じょう)から()()ばした。
(あかつき)上腕(じょうわん)に、洋服(ようふく)(うえ)から、レースの腕飾(うでかざ)りが()けられている。
これが元凶(げんきょう)なら、()ってしまえばいい。

だが、いくら(あおい)()()っても、腕飾(うでかざ)りは、びくともしなかった。

(よう)も、()()()して加勢(かせい)した。
渾身(こんしん)(ちから)()めたが、レース生地(きじ)のくせに(やぶ)れもしない。
「だめだ。なんだ、これ」
(ちから)問題(もんだい)じゃなさそうだ。

(あかつき)は、(ちから)なく(くび)()った。
(こえ)()すのも(つら)そうだ。
(あおい)は、あせった。
「マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()、ド・ジョーも、なにか()かる?」

自分(じぶん)(かた)にいるネズミは、(あかつき)心配(しんぱい)げに(のぞ)()んでいた。でも、(だま)って(くび)(よこ)()る。
水柱(すいちゅう)()()けたドジョウも、金色(きんいろ)(からだ)()った。
そうだよな。()かるなら、()ってくれる(はず)だ。

(あかつき)!」
そこに、(おく)れた(もも)が、黒鳥(こくちょう)()()んできた。
しゃにむに、(あかつき)腕飾(うでかざ)りを(つか)んで、()()()す。

「も、(もも)ちゃん……」
両手(りょうて)(はな)して(こわ)くないの?
(あおい)は、そう(つづ)けようとして、やめた。
(こわ)いに()まっている。
(もも)は、ぎゅうっと()(つぶ)りながら、()()っていた。必死(ひっし)形相(ぎょうそう)だ。

(もも)、ティアラは?」
(よう)が、(いもうと)(ちか)づいて、気付(きづ)いた。
(もも)()っている(はず)のティアラが、ない。

「……()られちゃったの。(くら)くなった(とき)。たぶん、みかげだと(おも)う」
(みんな)一様(いちよう)(おどろ)いた(かお)をした。

いったん、(もも)()()()()めた。
「ごめんなさい。(わたし)のせいで。ほんとに、ごめんなさい」
()(かこ)面々(めんめん)に、(あたま)()げる。
(いま)にも()()しそうだ。

「いや。時間(じかん)制限(せいげん)()いって()ってたから、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。またトライすればいい。それより、(あかつき)をなんとかするのが(さき)だ」
(あおい)は、口早(くちばや)()った。

(あかつき)(ひとみ)()じて、白鳥(はくちょう)(くび)に、ぐったりと()(あず)けている。
インフルエンザで39()(ねつ)()した(とき)ですら、部屋(へや)(はし)(まわ)って(おこ)られた(やつ)なのに。

「みかげ! ()てこい! (あかつき)腕飾(うでかざ)りを(はず)せ!」
(よう)が、(みずうみ)をぐるりと見渡(みわた)して怒鳴(どな)った。
ここまで(おこ)った(よう)は、(あおい)()たことがない。(いもうと)(もも)ですら、だ。

すると。
「きゃあああ!」
(もも)が、()(さき)(さけ)んだ。
(さき)んじられたお(かげ)で、(あおい)は、なんとか悲鳴(ひめい)()げずに()んだ。

ぷかり
(みずうみ)(なか)から、(なに)()()()たのだ。

みかげではなかった。
()(しろ)なチュチュを()()けている、小柄(こがら)なバレリーナだ。
でも、つるりと、(かお)には()(はな)もない。
のっぺらぼうだ。

(かがみ)で、さんざん()にしてきた、(れい)のやつ。
でも、現実(げんじつ)()()られると、桁違(けたちが)いの(こわ)さである。

(あおい)が、さらに()()いた。
「また()た!」

ぷかり ぷかり
次々(つぎつぎ)()かび()てくる。
(はん)()したように、全員(ぜんいん)(おな)姿(すがた)だ。

トウシューズの(あし)は、湖面(こめん)(うえ)()っている。
やはり、(ひと)ではない。

あっという()に、スワンに()った四人(よにん)は、のっぺらぼうのバレリーナに()(かこ)まれていた。

(もも)は、()見開(みひら)いて(ふる)えていた。
(こわ)すぎて、もう、(さけ)(ごえ)()ない。

「……こいつら、(おそ)ってくるか?」
(よう)が、(よこ)にいたド・ジョーに小声(こごえ)(たず)ねた。

360()、どっちを()いても、のっぺらぼうのバレリーナだ。
(あおい)(もも)は、すっかり(おび)えてしまっている。
(あかつき)は、戦闘(せんとう)不能(ふのう)状態(じょうたい)だ。
(なに)よりも、この(かず)()られたら……。

「その心配(しんぱい)()えな。(みずうみ)案内板(あんないばん)になってる。こいつらは、ただ(うつ)っているだけさ」
ド・ジョーが保証(ほしょう)する。
(よう)は、ひとまず安堵(あんど)した。
なるほど、(スリー)(ディー)映像(えいぞう)ってわけか。

(はか)ったようなタイミングで、上空(じょうくう)から音楽(おんがく)(なが)()した。
(とき)(つつ)()いたばかりだから、みんな()かる。
白鳥(はくちょう)(みずうみ)」だ。

バレリーナ(たち)は、(おど)りだした。

すごい。本物(ほんもの)白鳥(はくちょう)が、()れて()ばたいている。(おど)りなのに、そう()える。
(あおい)(もも)(よう)までが、あまりの見事(みごと)さに()まれて見入(みい)った。

ぱさ
(ちい)さな(おと)がした。

(あかつき)だけが()づいて、ぴくりとした。
(ほか)(みんな)は、(おど)りに()()られていて、気付(きづ)かない。

ぱさ ぱさ
(きぬ)()れの(おと)だ。(なに)かが、(ちか)づいて()る。
(からだ)(おも)たい。(まぶた)(おも)たい。
でも、なんとか(あかつき)()(ひら)いた。

自分(じぶん)(かこ)むように、(のこ)りのスワン(たち)が、()(あつ)まっていた。
羽毛(うもう)出来(でき)(うき)(しま)みたいになっている。
(もも)ちゃんが(みぎ)にいる。(またが)っているのは黒鳥(こくちょう)だ。

え?
隣接(りんせつ)している自分(じぶん)白鳥(はくちょう)が、すうっとセピア(いろ)()まった。
()()()っているみたいに、()みが細長(ほそなが)(ひろ)がる。

……ちがう。
()まっているんじゃない。
こっちに、()てるんだ。
セピア(いろ)()みは、(うで)(がた)になった。
ペラペラと、どんどん()びてくる。

みかげだ!

ぺらり
あっという()に、ペラペラの(からだ)が、(あかつき)()白鳥(はくちょう)に、しなだれかかってきた。
スワン(たち)隙間(すきま)から侵入(しんにゅう)し、黒鳥側(こくちょうがわ)()()せて、(いま)まで(かく)れていたのだ。

フィルムのように(うす)っぺらい(かお)が、(あかつき)()て、()(ほそ)めた。(いや)(わら)いだ。

(こえ)()ない。
(あおい)は? (よう)は? (もも)ちゃん?
マダム・チュウ(プラス)999(スリーナイン)、ド・ジョー、マッチョ・スワンズまで。みんな、バレリーナの群舞(ぐんぶ)()(うば)われている。

みかげの(なが)(うで)が、へらへらと(なみ)うちながら()びて()た。
(あかつき)左腕(ひだりうで)(ねら)っている。
反物(たんもの)みたいな()に、(なに)()っている。

腕飾(うでかざ)りだ!
(ひだり)にも()けようとしてるんだ!

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