ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

17.リトライ(1)

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17.リトライ(1)

「みかげ! やめろ、()()け!」
ド・ジョーの(こえ)が、地底(ちてい)()(ひび)(わた)る。
言葉(ことば)だけでは、無理(むり)だろう。そう判断(はんだん)した()(きゅう)住人(じゅうにん)は、(さけ)ぶと同時(どうじ)に、(みず)(あやつ)っていた。

ぶわっ
湖面(こめん)から、(みず)()()がる。
分厚(ぶあつ)(みず)(じゅう)(たん)を、()てたような状態(じょうたい)だ。
くるん
みかげの巨体(きょたい)()()いた。物理的(ぶつりてき)(こう)(そく)だ。

ばしゃあっ……!
だが、ペラペラな(うで)は、ものともしなかった。
(うす)いが、(いま)(けた)(はず)れに(おお)きくなっている。
しかも、(ふく)数枚(すうまい)だ。
それが、扇風機(せんぷうき)(はね)みたいに、ぐるんぐるん(まわ)った。
かたっぱしから、(みず)(かべ)をカットしていく。

さああ……
地底(ちてい)()空間(くうかん)に、(あめ)()りしきった。
ド・ジョーが()てても()てても、(みず)(かべ)粉砕(ふんさい)されていく。

「うーるーさーいー!」
みかげの(こえ)も、変化(へんか)していた。
まるで、怪物(かいぶつ)野太(のぶと)(ほう)(こう)だ。
(からだ)だけではなく、(こころ)までが、(もと)自分(じぶん)(うしな)いつつある証拠(しょうこ)だ。

「こりゃ、だめだ。おおい、(あおい)! なんか(さく)()せ!」
ド・ジョーの(ひく)(こえ)が、大浴場(だいよくじょう)にいるみたいに(ひび)いてくる。
(あめ)(まぎ)れて、金色(きんいろ)(ちい)さな姿(すがた)()えない。

「わかった!」
(あおい)が、どなった。

みんな、バラバラに()っている。
マッチョ・スワンズは、みかげの攻撃(こうげき)分散(ぶんさん)させる意図(いと)で、散開(さんかい)したのだろう。
だが、ここは閉鎖(へいさ)空間(くうかん)だ。
結局(けっきょく)は、ただ()(まど)うしかない。

「バトンパスだ! もう一回(いっかい)やろう!」
(あおい)は、即断(そくだん)した。()っている(そば)から、しっとりと(かみ)()れていく。
「ここは、()()がない。とにかく(かえ)ろう!」

「よし、()かった!」
(よう)返事(へんじ)があった。

(あかつき)! (もも)ちゃんも! いいか!」
(あおい)は、(こえ)()()げた。
みかげの(みみ)にも(はい)ってしまうが、しかたない。

「わかった~」
(よう)より(とお)場所(ばしょ)から、(あかつき)が、ぶんぶん(うで)()って寄越(よこ)す。
この危機的(ききてき)状況(じょうきょう)において、(ゆう)(ぜん)たる態度(たいど)だ。
(じつ)(たの)もしい。

そのまた(はる)(とお)くに、黒鳥(こくちょう)()()っていた。
()っている(もも)()()いて、(おお)きく(うなず)いて()せる。
よし。開始(かいし)だ!

(よう)が、スタートを()った。
(おれ)から(はじ)めるぞ! バトンは、(なん)でもいいんだよな」
()行動(こうどう)も、(はや)い。()いながら、白鳥(はくちょう)()って(あおい)(ちか)づいてきた。超特急(ちょうとっきゅう)だ。

速攻(そっこう)()くぜえ!」
(わめ)筋肉(きんにく)三郎(さぶろう)()に、(ほのお)宿(やど)っている。
熱血(ねっけつ)野郎(やろう)(たましい)に、()をつけてしまったようだ。

「ちょ、ちょっと! (はや)すぎるって!」
(あおい)が、たじろいだ。
(よう)は、右腕(みぎうで)()()した格好(かっこう)で、やって()る。
バトン()わりの(もの)(にぎ)っている様子(ようす)だ。

レーザーポインターか!

気付(きづ)いた(あおい)は、(あわ)てて身構(みがま)えた。
(ちい)さい。まずい。これは(むずか)しいぞ。
どうすればいい?

(あおい)、パス!」
(かんが)える()もない。

すれ(ちが)った。
その瞬間(しゅんかん)(よう)は、(あおい)()のひらに、しっかりとペンを()()けた。
絶妙(ぜつみょう)のタイミングだ。そして、すぐに自分(じぶん)()(あおい)()(つつ)み、ぐっと(にぎ)らせた。

時間(じかん)にして、数秒(すうびょう)
限界(げんかい)まで(あおい)()(にぎ)っていた(よう)()が、(はな)れていく。
成功(せいこう)だ。
ほっとしたのも(つか)()だった。

(あおい)()けろ!」
爆走(ばくそう)する白鳥(はくちょう)(あん)(じょう)から、(よう)()(かえ)って(さけ)ぶ。

「へ?」
レーザーポインターを()に、(あおい)は、きょとんとした。

(つか)まれ!」
(あおい)()っている白鳥(はくちょう)も、(さけ)んだ。
(あわ)てて(あおい)首輪(くびわ)(にぎ)ったのと、筋肉(きんにく)二郎(じろう)急発進(きゅうはっしん)したのと、(なに)かが()んで()たのは、ほとんど同時(どうじ)だった。

ひゅるるるっ!
間一髪(かんいっぱつ)だ。(あおい)真横(まよこ)(かす)めて()んでいく。
「なっ、なに?!」

ひゅるるるっ!
「また()た?!」
「いや。さっきのが、(もど)ってきたのだ」
(あおい)のスワンは、高速(こうそく)()けつつ、冷静(れいせい)判断(はんだん)する。

「みかげよ! (あおい)(ねら)われてるわ!」
「また()るぞ! ()()けろ!」
マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()と、ド・ジョーだ。
いつの(あいだ)に、ピンクネズミは自分(じぶん)(かた)から()りたんだろう。仲良(なかよ)く、水柱(すいちゅう)二人(ふたり)()りだ。
真横(まよこ)並走(へいそう)している。

「あれは、あいつの(うで)だ。()ろ!」
ド・ジョーが(うなが)した。
(あおい)は、(いき)()んだ。
(みずうみ)()(ちゅう)に、ばかでかいペラペラ人間(にんげん)が、ふらふらと()っている。
セピア(いろ)(なが)(うで)は、()けて、何本(なんほん)にも()かれていた。

ひゅるるるっ!
そのうちの一本(いっぽん)が、こっちに()かって()()されてくる!

「うわっ」
(あおい)が、悲鳴(ひめい)()げた。
だが、白鳥(はくちょう)筋肉(きんにく)二郎(じろう)は、また()けた。
(はや)い。無駄(むだ)のない(うご)きだ。

空振(からぶ)りに()わった(うで)は、くるくると(まる)まりながら、(おと)()てて(もど)っていく。
(えん)(にち)(がん)()、「()(もど)し」の(うご)きに()ていた。
空気(くうき)()()むと、ぴょろんと()び、(くち)(はな)すと(もど)っていく、あれだ。

(あおい)(つぎ)(あかつき)にパスだ」
()げながら、筋肉(きんにく)二郎(じろう)進言(しんげん)した。
(たの)もしい相棒(あいぼう)である。

(あかつき)白鳥(はくちょう)が、(はる)()こうから、(たか)らかに(こた)えた。
(おれ)らだな! よーし! (いま)、そっちに()ってやる。()ってろ!」
筋肉(きんにく)一郎(いちろう)は、一気(いっき)加速(かそく)した。
()っている(ぬし)は、(あかつき)だ。もちろん、(どう)じない。
(どう)()ったロデオライダーだ。

ひゅるるるっ! ひゅるるるっ!
ペラペラの(うで)が、(つづ)けざまに(おそ)()かる。
それを察知(さっち)して、(あおい)()せた筋肉(きんにく)二郎(じろう)も、(さら)にぶっ()ばした。
ド・ジョー(たち)()った水柱(すいちゅう)が、みるみる後方(こうほう)(はな)されていく。

(しつ)(よう)攻撃(こうげき)だ。
二羽(にわ)(きょ)大白鳥(だいはくちょう)は、それぞれ、ジグザグに()けながら、湖面(こめん)滑走(かっそう)した。
もはや、鳥類(ちょうるい)のスピードではない。
(あおい)は、()(もの)(ぐる)いで首輪(くびわ)(かじ)()いた。

(あおい)! パス!」
(あかつき)だ。(よこ)()いてきた。
二羽(にわ)のマッチョ・スワンズは、スピードを()わせた。(なら)んで爆走(ばくそう)する。

(あかつき)! ()()ばせる?」
「うん!」
二人(ふたり)()が、()わさろうとした。
だが。

ひゅるるるっ!
「うわっ!」
みかげの()(うで)が、妨害(ぼうがい)した。
(うす)っぺらいフィルムが、ちょうど()()(あいだ)()()んできたのだ。
(あや)うくレーザーポインターを()としそうになって、(あおい)(こえ)()げる。

(あおい)、もう一回(いっかい)!」
(あかつき)が、もう一度(いちど)()()ばした。
だが。

キキィ……ッ
筋肉(きんにく)一郎(いちろう)が、急停止(きゅうていし)した。
(あかつき)!」
あっという()に、(あかつき)(たち)()(のこ)される。

「どうしたの? 一郎(いちろう)さん、大丈夫(だいじょうぶ)?」
白鳥(はくちょう)は、(はね)をジタバタさせて、もがいている。
(あば)(うし)ならぬ、(あば)白鳥(はくちょう)だ。
ロデオ状態(じょうたい)()さぶられても、(あかつき)余裕(よゆう)だ。
心配(しんぱい)して、一郎(いちろう)(こえ)()ける。
頭上(ずじょう)のティアラも、びくともしていない。

二郎(じろう)! ()()けろ、(した)だ!」
もがきながらも、一郎(いちろう)が、(こえ)()()げた。

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