ダンジョンズA〔3〕嘆きの湖(裏メニュー)

18.ラストチャンス(2)裏メニュー

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18.ラストチャンス(2)

先頭の暁が、驚いて振り返った。
陽と碧も、顔を見合わせる。
「なんだって?」
「どういうこと、案内板? 制限は無いって言ってたよね」
碧が、代表して異議を申し立てた。

『時間の制限は、ありません。ですが、トライの失敗は、3回までとなります』
それが、「湖の(おん)(けい)」ってことか。

「そういうことは、早く言いやがれ」
ド・ジョーが、低く毒づく。
全員、同意見だ。

「でも、3回も失敗してないよ。まだ2回目だろ」
碧は頑張った。
それならば、なるべく有利な状況にしておきたい。

案内板は、淡々と説いた。
『1回目のトライは、ティアラをバトンにしました。パス途中に喪失して、失敗。2回目はレーザーポインターでしたが、これも同様です』
そこまでは分かる。

『3回目は、バーベルです。第一走者が、第二走者にパスしましたが、また第一走者に戻してしまいました』

「あれもカウントされるのか!」
碧が、悲鳴交じりの声を上げる。
「あっちゃあ」
暁が、両手で頭を抱えた。
飛んでるというのに。手放し運転だ。

「まずいぞ、碧。次がラストだ」
陽の頬からは、いつもの微笑が消えていた。
「ぐだぐだ言ってても、しかたがない。慎重に行こう」
その通りだ。

現実的な意見も、上がってきた。
「碧、聞け。みかげも疲れている。攻撃の速度が、当初より遅い。だが、その分、慣れてきた。正確に狙ってくる。再開が遅いと、回復してしまうぞ。そうなったら、厄介だ」
冷静な分析官、筋肉二郎だ。

碧は、考え込んだ。
そうだ。まず、みかげの妨害がある。
それに、桃が目をほとんど開けられない。
この状況で、バトンパスを成功させるには、どうしたらいいのか。

まず、バトンだ。
何を選べばいい?

「は~。リフレッシュしたわあ。この内側、ふわふわしてて最高ね」
状況を一切(かんが)みない、オネエな声がした。

自分のフードから、マダム・チュウ+999が、ぴょこんと顔を出している。

碧とピンクネズミは、見つめ合った。
小さなヒゲが、ひくひくと動いている。

「これだあ!」
むんず
叫ぶなり、碧はマダム・チュウ+999の体を引っ掴んだ。

「暁! パス!!」
前方に向かって投げつける。
みじんも手加減していない。
スポーツテストのソフトボール投げより、全力でいった碧である。

びたん!
小さなネズミは、勢いよく暁の背中にぶち当たった。
「たいへん! 大丈夫?」
暁が、振り返って、優しく救い上げる。

「ちょっと、碧! なにするのよ」
ピンクネズミが、暁の手の中で、ぷんすか怒った。
かまってる場合じゃない。碧は畳みかけた。

「マダム・チュウ+999をバトンにするんだ! 急げ、暁! みかげが気付く前に、桃ちゃんにパスだ!」

そうか! バトンは、なんでもいいんだ。
「わかった! 一郎さん、桃ちゃんの所へ行って」
「おう!」

「一気に決めるぞ!」
陽が、皆に(かつ)を入れた。
スワンを含めた全員が、応える。
「押忍!」

暁の白鳥は、黒鳥の上に付けた。
「桃ちゃん! じゃあ、マダム・チュウ+999を投げるからね」
下にいる桃が、目を(つぶ)ったまま、大きく頷く。

一郎が促した。
「よし、暁。落っことせ」
「わかった! マダム・チュウ+999、いくよ」
「いいわよ~ん」

その時。聞き慣れた音がした。
ぴゅるぴゅるぴゅるっ
「しまった! みかげが気付いたぞ!」
筋肉二郎が叫ぶ。

既に、ピンクネズミは宙を落下していた。
その体を目掛けて、カメレオンの舌と化したフィルムが襲い掛かる。

「マダム・チュウ+999!」
叫んだ陽の手から、バーベルが飛んだ。

「はーっ!」
宙で受け取ったネズミが、フィルムの帯を()ぎ払う。

ひゅう~ん
バーベルは、カーブを描いて、そのまま湖に落ちていった。

「自動(げき)退(たい)機能付きのバトンだ」
(おごそ)かに、碧が(のたま)う。
「すばらしい」
乗っている白鳥が、騎手を褒め称えた。

ぼとり
ピンク色のネズミは、無事、桃の肩に着地した。そして、自力で桃の手に潜り込む。
これでパス成功だ。

「大丈夫? 痛くなかった?」
桃は、小さな声で尋ねた。
目は、まだ開けられないらしい。

「大丈夫よ~。アタシ、頑丈だから。思い切り投げちゃって、いいのよ~ん」
こくり、と桃が頷いた。
大丈夫。一瞬、投げるくらいなら、ハンドルから片手を離せる。

「黒鳥さん、どっちに投げたらいいの?」
「ちょっと待って。僕がタイミングを指示するから。桃は、しっかりと彼女を掴んでいて。みかげに取られないように」
こいつも、オネエなネズミにジェントルマンだ。彼女、ときた。

陽の白鳥が、近づいてきた。
右前方に位置する。

「今だ、桃。右の方に投げて!」
ぶんっ
黒鳥の合図と共に、目をつぶった桃が、ピンクネズミを投げ飛ばした。
意外に遠慮なく、思いっきりいったものだ。

「あ~れ~」
マダム・チュウ+999の悲鳴が、遠のいていく。
右は右だが、ホームランだ。高すぎる!

そこへ。
ぴゅるぴゅるぴゅるっ!
一斉に、みかげの手足が襲い掛かった。
茶色の()(あみ)が、ぱぁっと広がる。総攻撃だ。

「させるかよ!」
超低音の怒号が、響き渡った。
ド・ジョーだ。復活したらしい。

ばしゃあっ
分厚い水の布地が、行く手を遮る。そして、一気にフィルムを蹴散らした。
「ラストチャンスなんだ。邪魔するんじゃねえ!」
ド・ジョーも必死だ。

湖は、今や荒れ狂っていた。

ぐおおおおっ
みかげが()(たけ)る。
(しつ)(よう)に放たれる、フィルムの手足。
だが、しなる水の(むち)は、明らかに上手だった。
ことごとく阻まれる。

「もっと上へ!」
陽に応えて、筋肉三郎が筋肉の限りを尽くして羽ばたいた。
桃を除く全員が、ピンクの体を目で追う。
あそこだ! 間に合う!

「きゃー、陽! アタシを捕まえて~」
場違いに嬉しそうなオネエ声で、マダム・チュウ+999が叫んだ。
(さら)したお腹が見える。白く染め抜かれているのは、かわいいハートの形だ。

碧は、思わず叫んだ。
「逃げろ、陽! じゃなかった、捕まえろ!」

ざんっ
ロケット並みの白鳥の上から、陽は小さなネズミを引っ掴んだ。
筋肉三郎は、急には止まれない。
そのまま、しばらく上に飛び続ける。

「大丈夫? マダム・チュウ+999?」
陽が、優しく問いかけた。
マダム・チュウ+999の両目が、ハート型に変わる。

成功だ。
あとは、このバトンを碧に還せば、終わる。 

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