ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

19.妬心・化身ソネムネ・タム(としん・けしんソネムネ・タム)(2)

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19.妬心としん化身けしんソネムネ・タム(2)

「なんだあ、これ?!」
(よう)が、()(とん)(きょう)(こえ)()げる。
一緒(いっしょ)(はし)っていた(あかつき)も、悲鳴(ひめい)()げていた。
同様(どうよう)()(かこ)まれている。
なんて(かず)だろう。(はし)れたものではない。

ものの数秒(すうびょう)で、室内(しつない)は、すっかり様変(さまが)わりしていた。

(くろ)()(がみ)(ひと)(かたち)()()いたような連中(れんちゅう)が、部屋中(へやじゅう)で、ゆらゆら()れていた。

()(たか)いやつ、(ひく)いやつ。
(ふと)っちょも、やせっぽちもいる。
バリエーション(ゆた)かな、影法師(かげぼうし)見本(みほん)(いち)だ。

だが、(かお)はみな(おな)じだった。
三日月形(みかづきがた)()()みが、(みっ)(はい)っている。
(ほそ)めた両目(りょうめ)と、いやらしく()がった(くち)だ。
そろって、こそこそ陰口(かげぐち)(たた)きそうな表情(ひょうじょう)(つく)っている。

そして。
こいつらは、全員(ぜんいん)、どぶ(がわ)汚水(おすい)でも()(かぶ)たみたいに、ぬめぬめと()れていた。

極力(きょくりょく)近寄(ちかよ)りたくない。ましてや(さわ)りたくなんかない。そんな連中(れんちゅう)だ。

(ひかり)があるところに、(かげ)はどうしてもできる。
エトワールは、燦然(さんぜん)(かがや)きを(はな)(ほし)だ。
称賛(しょうさん)(あこが)れを(あつ)めるだけではすまない。
それを(ねた)(もの)が、(かなら)()てきてしまう。

(ひと)の、どうしようもない暗闇(くらやみ)化身(けしん)が、ここにいるのだ。

ド・ジョーは、要点(ようてん)だけ()べた。
「ソネムネ・タムだ! 相手(あいて)にすんな!」

オーロラの地宮(ちきゅう)、いたるところに、こいつらは(いや)がられつつも出没(しゅつぼつ)する。

(とく)に、この控室(ひかえしつ)、フォワイエ・ド・ラ・ダンスは、お()きなようだ。
(うす)(からだ)(すみ)っこにいるから気付(きづ)かれにくいが、(つね)何体(なんたい)かいる。

そして、やることは大抵(たいてい)せこい。
舞台(ぶたい)小物(こもの)(かく)すくらいの(いや)がらせをするのが、(せき)(やま)だ。

(よう)にはそう(こた)えたが、ド・ジョーは愕然(がくぜん)とした(かお)室内(しつない)見渡(みわた)した。

どうしてだ?
なぜソネムネ・タムが、このタイミングで(あらわ)れる?
それに、この(かず)は、ありえない。異常(いじょう)だ。
しかも、どんどん()えていく。

そして、影法師(かげぼうし)()れは、さらにド・ジョーを困惑(こんわく)させる行動(こうどう)をとった。
いっせいに両腕(りょううで)()げて、波打(なみう)つように(うご)かし(はじ)めたのだ。

ぬめ・ぬめ・ぬめ・ぬめ

なんだろう。へんてこな群舞(ぐんぶ)みたいだ。
しかも、かなり(はげ)しい。脂肪(しぼう)燃焼(ねんしょう)効果(こうか)がありそうな(おど)りだ。

こいつら、こんなに(はや)(うご)けたのか?!

(おも)わず感心(かんしん)してしまったド・ジョーを、ぬめぬめした二本(ふたほん)(うで)(つか)んだ。
正確(せいかく)には、()っている水球(すいきゅう)をだ。

なにが()こっているのか理解(りかい)する()もなく、ド・ジョーの水球(すいきゅう)は、(かげ)帽子(ぼうし)(たち)(うえ)()っけられてしまった。

ぬめ・ぬめ・ぬめ・ぬめ……

もはや儀式(ぎしき)めいている。
さらに高速(こうそく)に、ソネムネ・タムは()をくねらせ(はじ)めた。

水球(すいきゅう)は、()ばした(うで)によって、順繰(じゅんぐ)りに(はこ)ばれていく。
運動会(うんどうかい)定番(ていばん)種目(しゅもく)、「大玉(だいたま)(おく)り」状態(じょうたい)だ。
しかも、一発(いっぱつ)大逆転(だいぎゃくてん)(ねら)えるくらい(はや)い。

水球(すいきゅう)は、わずかな(あいだ)に、(とびら)まで(はこ)ばれていた。
そもそも、ド・ジョーは出口(でぐち)(ちか)くに陣取(じんど)っていたのだ。
その時点(じてん)で、ようやくド・ジョーは(さと)った。

まずい!
こいつら、(おれ)(たた)()そうとしてやがる!

完全(かんぜん)(あなど)っていた。それが(わざわ)いした。

しまった! (よう)も、(あかつき)もだ。
ソネムネ・タムの()れに(はこ)ばれている。

(よう)は、(とびら)方向(ほうこう)へ。
そして、(あかつき)は、室内(しつない)(おく)へと。

何本(なんぼん)もの(うで)が、繊毛(せんもう)のように(うご)いている。
二人(ふたり)(からだ)は、どんどん(はな)れていく。

(はな)せ! おい!」
()は、必死(ひっし)(あらが)っていた。
かろうじて(ゆか)()りたかと(おも)うと、また(べつ)()(すく)()げられてしまう。
そして(ふたた)び、(とびら)(ほう)へと(はこ)ばれていく。

もはや、ぬめぬめした(からだ)出来(でき)た、(うご)絨毯(じゅうたん)だ。
たちが(わる)かった。
(すべ)る。(なに)をしようとも、どこを(つか)もうとも、つるつると(すべ)りまくる。

だが、(よう)(あきら)めなかった。
おぞましい(やつ)らの(からだ)を、躊躇(ちゅうちょ)せずに()()ける。
(あかつき)! ()()ばせ!」

仕立(した)てのいいタキシードは、もうぐちゃぐちゃだ。

(あかつき)果敢(かかん)だった。
懸命(けんめい)に、(よう)(ちか)づこうともがく。
こちらも、可愛(かわい)らしいチュチュが無残(むざん)()(さま)だ。

二人(ふたり)とも、ソネムネ・タムの(ぬま)で、あっぷあっぷ(おぼ)れている。

(よう)! (あかつき)!」
ここに(いた)って、状況(じょうきょう)(さと)ったド・ジョーが、援護(えんご)しようと(うご)いた。
呆然(ぼうぜん)としていたのは、ほんの(すこ)しの()だ。
そう(おそ)対応(たいおう)ではない。

だが、さらに相手(あいて)(うご)きが加速(かそく)した。

ぬめぬめぬめぬめ
ぽーいっ

ド・ジョーにヒゲを(うごめ)かす()(あた)えずに。
ソネムネ・タムは、(とびら)(わず)かに(のこ)された隙間(すきま)(ねら)って、水球(すいきゅう)(たた)()した。
コントロール抜群(ばつぐん)だ。

むにゅにゅっ
()いで、何本(なんぼん)もの(うで)が、(あば)れる(よう)()()した。
人間(にんげん)は、もう(よこ)()きにならないと(とお)れないところを、無理(むり)くりだ。

ぱっぱっぱっ
同時(どうじ)に、(とびら)隙間(すきま)(ふさ)いでいたマッチョ・スワンズまで、ご丁寧(ていねい)にも()()してくる。
三羽(さんわ)()(かさ)なった。
()(しろ)羽毛(うもう)布団(ぶとん)一丁(いっちょう)()がりだ。

(あおい)は?
(たた)()ばされた水球(すいきゅう)(うえ)から、ド・ジョーは素早(すばや)状況(じょうきょう)()()った。

だめだ。まだ(たお)れている。
マダム・チュウ+999まで、(なか)よく(ゆか)()びていた。あおりを()らったのだろう。
(あと)大変(たいへん)(こわ)い。

()て!」
(しり)もちをついた(よう)は、一瞬(いっしゅん)()()がった。

ド・ジョーも、すぐ()(なお)した。
超高速(ちょうこうそく)ブーメランだ。()()ばされた水球(すいきゅう)が、(するど)いV()(えが)いて(もど)っていく。

だが。(よう)とド・ジョーの()(まえ)で。

がしん!
(とびら)が、(おと)()てて()まった。 

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