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2.暁
画面が、でかい。
画像も綺麗で、音もいい。
映画館みたいだ。
は~
暁は、溜息をついて感心した。
でも、さっきから、超ローカルCМしか流れていない。
これじゃあ、役不足だろう。
もっと、ましな仕事をさせろ!
もし、この大画面に口が付いていたとしたら、怒って言うだろうなあ。
ここは、西センター。
一階エントランスホールの待合コーナーだ。
区出張所を利用する人の為に、カウンター前に設けられている。
リニューアル前には、ちょっと大きめのテレビが、お義理のように置いてあった。
バリアフリーを考慮してだろう。
字幕表示が出るように設定されていたっけ。
だが、家庭用テレビに毛が生えたような代物だ。
小さくて読めやしないって、ぶつぶつ言ってる利用客がいたものだ。
それが、これに化けた。
一転して、壁を埋め尽くすほどの大画面だ。
西センター名物だった、紅葉のタイル画は、割を食っていた。
捨てられはしなかったものの、壁の右端ぎりぎりに追いやられてしまっている。
新しいスクリーンと並ぶと、完璧に位負けしていた。
こっちは、小さくて、古めかしい代物だ。
時代が、二世代分くらい遅れている。
まだかな。
暁は、座ったまま、足をパタパタさせた。
なかなか、お目当ての映像が出てこない。
大画面では、引き続き、地元色満載のコマーシャルが続いている。
この西センターの向かいに建っている、マイナーな信用金庫。
あ、次は和菓子屋さんだ。
ここ、たい焼きも店先で焼いてるんだよね。
夏場は、かき氷もメニューに加わるから、今は大賑わいだ。
う~ん。これはこれで、おもしろいけど。
そろそろ、上のトレーニングルームで、稽古が始まってしまう。
やっと出た。
あなたも一緒に空手を始めてみませんか!
当館にて 毎週(水)(木)3時半から
詳細はこちらまで
勇仁会 ○○〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
思わず、暁は固まった。
いまどき動画ではない、文字だけが書かれた静止画だ。
バックミュージックは、なぜか優雅なクラシック。
一瞬、放送事故かと思わせる出来上がりだ。
暁の口から、正直な感想が出た。
「ひどい」
予想以上だ。
宣伝を出すんだけどさ、予算が無かったんだ。
うん。確かに、先生はそう言っていた。
悲しい大人の事情だ。どうしようもない。
だけど、これじゃあ、あんまりだ。
先に見たことのある碧が、さんざんに扱き下ろしていたわけである。
「あれじゃあ、まず、新しい入会者はやって来ないね」
すっぱり断言していた。
「そこまで?」
半信半疑だったが、完全に納得がいった。
いつもながら、自分の幼馴染は正しい。
冷静な予言は、今回も当たりそうだ。
あ~あ、楽しみにしてたのになあ。
新しい友達が増えるかもって。
女の子が入ってくれれば、なおいい。
来年、自分がいなくなっても、桃ちゃんが一人きりにならなくてすむから。
今の受講生は、6人ぽっきり。
しかも、女の子は自分と桃ちゃんだけなのだ。
昨晩も、母親から釘を刺されてしまった。
いい? 空手は今年いっぱいまでよ。
わかってるでしょ。
小学6年クラスに上がったら、塾の日が増えるんだから。
いよいよ受験だし。
中学に合格したら、部活に入って、またやればいいじゃない。
たいへん不本意だが、既決事項だ。
こっちの事情も、どうしようもない。
だから、とっても期待していたのだ。
その分、深く突き落とされた。
碧に引き続き、暁も完全に絶望モードだ。
せめて、イラストでも入っていればよかったのになあ。
もしくは、BGMを変えるとか。
もっと、ノリのいい曲に。
あ、いいかも。
ちょっと希望が出てきた。
もともと、暁は前向きな性格なのだ。
後ろは、あんまり見ない。
テストの見直しも、しないタイプだ。
だから、いつも母と塾の先生に怒られている。
そうだよね。お金をかけなくたって、まだ工夫できるじゃない。
元が酷すぎるってことは、イコール、改善の余地が広いってことだよね!
暁は、ものの5秒ほどで立ち直っていた。
呆れるほどポジティブだ。
今日の稽古が終わったら、先生に提案してみよう。
……ええと、なるべく、ソフトに。
いかつい容貌に似合わず、師匠は繊細な心の持ち主なのだ。
ありのままに述べたら、凹んでしまうだろう。
巨大なグリズリーベアーが、一転、ぺしょんとしょげてしまう。
かわいそうだもんね。