ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

2.白鳥像(はくちょうぞう)(1)

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2.白鳥像はくちょうぞう(1)

(いもうと)という存在(そんざい)に、(ゆめ)()てはいけない。
とりわけ、(あに)(たい)しては態度(たいど)(ちが)う。
とても(やさ)しくて、大人(おとな)しい()だね。
なんて(ひょう)されていたとしてもだ。

(もも)は、ずいずいと(あに)()()めた。
口調(くちょう)は、()調(しら)べする刑事(けいじ)よりも(きび)しい。
「で、その()(きゅう)っていうところに()ったのね。(あおい)(あかつき)()(かい)()で、お(にい)ちゃんは(こん)(かい)(はじ)めて」

「うん」
同意(どうい)してから、(よう)()(とん)(きょう)(こえ)()げた。
「あれ? (もも)、なんで()ってるんだ?」

馬鹿正直(ばかしょうじき)(あに)である。
攻略(こうりゃく)方法(ほうほう)は、簡単(かんたん)だ。
空手(からて)(けい)()()(みち)すがら、こう(たず)ねるだけでよかった。

「ねえ、あれ、どうしてお(とう)さん(たち)(はな)せないの?」

「う~ん、(あおい)がなあ……」
(はな)しちゃダメって?」
「そう。なんでって、(あおい)()いたんだけどさあ。(しん)じられないような(はなし)だし、そんなところに()ったって()れたら、心配(しんぱい)させちゃうから、だって」
「そんなところって?」

(ゆう)(どう)(じん)(もん)に、百発(ひゃっぱつ)百中(ひゃくちゅう)、ひっかかる。
結局(けっきょく)西(にし)センターに()くまでの(あいだ)に、(すべ)てが(いもうと)()るところとなっていた。

(うち)には、専業(せんぎょう)主婦(しゅふ)母親(ははおや)がいる。
こそこそ内緒話(ないしょばなし)なんて、できたものじゃない。
(もも)は、()()(たん)(たん)と、二人(ふたり)きりになるチャンスを(うかが)っていたのだ。

「お(にい)ちゃん、自分(じぶん)(しゃべ)ったでしょ」
「あ、そうかあ! (おれ)()鹿()だなあ!」
(こころ)から自嘲(じちょう)する(よう)である。
そのわりに笑顔(えがお)だ。
地顔(じがお)であるから、しかたがない。

冷静(れいせい)同意(どうい)が、(となり)(ある)(いもうと)から(かえ)ってきた。
「そうね」

ぽーん
(おと)()てて、自動(じどう)ドアが(ひら)いた。
玄関(げんかん)ポーチを()けると、内扉(うちとびら)(ひら)く。
とたんに、案内(あんない)放送(ほうそう)()こえて()た。

今日(きょう)のエントランスホールは、(すこ)(さま)()わりしていた。
(おく)のカウンター(まえ)に、パイプ椅子(いす)(なら)べられている。
(すわ)っているのは、いずれも高齢(こうれい)方々(かたがた)だ。
大画面(だいがめん)から(なが)れる(おん)(せい)によると、(なに)(ぎょう)(せい)手続(てつづ)きのコーナーが特設(とくせつ)されているらしい。

よかった。(すわ)りにくい簡易(かんい)ベンチの(ほう)には、(だれ)もいない。
その(おく)のプレイコーナーも、がらがらだ。

大画面(だいがめん)まで、今日(きょう)はバリアフリー仕様(しよう)になっていた。
日時(にちじ)が、いつもより(おお)きめに表示(ひょうじ)されている。

15:05
うん、大丈(だいじょう)()そう。
道草(みちくさ)をくっても、稽古(けいこ)()(かん)までは、まだ余裕(よゆう)がある。

無人(むじん)(すべ)(だい)(ちか)づいて、(もも)()(ごえ)()(ただ)した。
「ここから(かえ)ってきたのよね?」
ついてきた(あに)が、(だま)って(うなず)いた。

幼児(ようじ)()けの遊具(ゆうぐ)だ。
(すべ)(だい)といっても、おもちゃに(ちか)い。
ジャングルジムを三段(さんだん)だけ(のぼ)り、プールの(いかだ)みたいな(すべ)(いた)()りたら、おしまいだ。

(とく)()わった様子(ようす)はないけど……。
ぐるぐる(まわ)って、念入(ねんい)りに(けん)(ぶん)してみても、(おな)じだった。

(だれ)(しん)じないと(おも)う。
ここが、不思議(ふしぎ)()(しょ)(つう)じていたなんて。

じゃあ、簡易(かんい)ベンチの(ほう)は?
(もも)は、(かお)()げて、()かいを見遣(みや)った。

いつ()ても、ばかでかいホチキスの(しん)みたいだ。
コの()()てた(かたち)(ぼう)が、ざくざくと(ゆか)()さっていた。
上部(じょうぶ)にクッションを()()けて、どうぞ(こし)()ろして(くだ)さいという仕様(しよう)だ。

無理(むり)があるデザインである。
(あぶ)なくて、たまったものじゃないだろう。
今日(きょう)だって、お(とし)()した(ひと)(たち)は、(だれ)(すわ)っていない。
()てしなく実用性(じつようせい)(ひく)いのは、(あき)らかだ。

どうして、こんなのにしちゃったんだろう?
リニューアル(まえ)()かれていたベンチじゃ、ダメだったのかな。

(すう)(げつ)ほど(まえ)(はなし)だ。
びっくり仰天(ぎょうてん)するニュースが、()()()()()()んだ。
(あおい)(しか)られたというのだ。
この簡易(かんい)ベンチを鉄棒(てつぼう)がわりにした(とが)で。

まったくもって、(あおい)らしからぬ()()いだ。
(もも)は、()いたときから疑念(ぎねん)(いだ)いていた。
それが、(あに)から地宮(ちきゅう)(はなし)()()した瞬間(しゅんかん)()()ちた。

「もしかして、あれもそうだったんでしょ!?」
「ああ、そうだよ。一回目(いっかいめ)は、あのベンチから(かえ)ってきたんだって」

(もも)は、(しん)()れに(ちか)づくと、ちょこっとだけ()れてみた。
このクッションさえ()ければ、(たし)かに(りっ)()鉄棒(てつぼう)だ。ちょっと(ひく)すぎるけど。

でも……ベンチだって、(とく)()わった様子(ようす)()られない。

「そろそろ()こう、(もも)
(よう)(うなが)した。
(なま)返事(へんじ)(ある)()しながら、(もも)(かんが)(つづ)けた。

もし、これが(あに)ひとりの(はなし)だったら。
()いた瞬間(しゅんかん)に、全否定(ぜんひてい)している。
居眠(いねむ)りして、(ゆめ)でも()てたんじゃないの?
しょうがないんだから、お(にい)ちゃんは。

だが、(あおい)(ちが)う。
(もも)物心(ものごころ)ついた(ころ)から、お行儀(ぎょうぎ)()い、知性(ちせい)(まさ)った「はとこ」だ。
(きん)じられていることをしでかすなんて、あり()ない。
まして、(ゆめ)現実(げんじつ)区別(くべつ)がつかない(はなし)なんて、するわけがない。

ということは。
本当(ほんとう)に、この西(にし)センターは、地下(ちか)()()()世界(せかい)(つな)がっているの?

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