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20.シャワーキューブ(2)
「え!?」
×3だ。子ども達は、一様に驚いた。
見れば、ド・ジョーだけではない、マダム・チュウ+999も、沈んだ顔をしている。
勢ぞろいしたマッチョ・スワンズもだ。
桃が、縋るような目で住人達を見回した。
「だって、4回エントリーできるんでしょ?」
すぐにその意味を理解したのは、碧だけだった。
やっぱり、こいつの理解力は、頭一つ飛び抜けている。
「そうか! みかげは、前にも花束の宴にエントリーしたことがあるんだ!」
今回みたいに替え玉を使わないで、自分自身で挑戦した。
そして失敗した。今までに、2回。
「そうだ。その後は挑戦していない。諦めたのか……。いつしかポアントも失くして、ただこの地宮を訪れては、徒らに彷徨っていた」
そして、そんな胡蝶は、みかげだけではない。
山ほどいるのだ。
「……じゃあ、さっきので3回目の失敗。もう後がないってことか」
ド・ジョーが碧に頷いた。
陽の顔が、たちまち曇っていく。
桃に至っては、雨模様の気配だ。今にも泣き出しそうである。
「でも、待ってド・ジョー。それなら、エントリーを今日するとも限らないんじゃ?」
最後のチャンスだ。
花束の宴が催される、次の機会まで待って、万全を期して臨むのではないか。
「いや。みかげには、もう時間がない。そもそも、宴は不定期だ。いつ開催になるか分からねえものを、待ったりはしないだろう」
「足枷は、もうそんなに大きくなってたの?」
マダム・チュウ+999が、気遣わし気に尋ねる。
「ああ。こいつくらいになってた」
ド・ジョーは、乗っている水球を胸ビレで指し示した。
う~ん
マッチョ・スワンズが唸る。
そりゃダメだ。絶望的な空気が満ちる。
「あの、かぼちゃか」
陽が反応した。
みかげの足首に、括り付けられていた。
ハロウィンで見かけるような、大きな奴だ。
「そうだ。囚人の足枷は、どんどん大きくなる。育ってしまうんだ」
「じゃあ、その後は? どうなるんだ?」
陽だって、みかげには腹が煮えている。
でも聞かずにいられなかった。
もう時間が無い。その意味って?
「……そうだな。見た方が早えだろう。時間もあることだしな」
げえ
スワンズが、揃って喉元を握りつぶされたような鳴き声をあげた。
「おい……。あそこに行くのか?」
リーダーの筋肉一郎が、代表して物申す。
「ああ。その前に、お前らもそこに並べ。ついでに綺麗にしてやる」
ド・ジョーは、ちろんと筋肉野郎たちを見遣った。四羽揃って、無駄にでかい。
「いや! 俺達は特に汚れていないから!」
大丈夫だ、と言わんばかりに、筋肉三郎が頸を横に振る。
うんうん
残りの三羽も、上下に頸を振って同意した。
「汗臭えんだよ!」
じゃっぱーんっ
問答無用で、集中豪雨が四羽に降り注いだ。
見事に局地的だ。他の者には、雫ひとつかからない。
床も、水浸しになることはなかった。
さすがはド・ジョーだ。
コントロールされた水が、また四角いシャワーキューブに戻る。
後には、すっきりフレッシュに生まれ変わったスワンズが立っていた。
しっかりポーズまで取って、各々、筋肉を誇示しまくっている。
やれやれ。
溜息をつきつつ、ド・ジョーは桃にも声をかけた。
荒っぽい応酬に、よほど驚いたのだろう。目が真ん丸だ。
「じゃ、お嬢ちゃんで最後だな。名前にちなんで、桃の香りはどうだ? 自然界にある香りなら、なんでもできるぜ」
打って変わって、柔らかく勧める。
扱いが全く違う。
碧と陽は、思わず失笑した。
ド・ジョーは、やっぱり優しい。
そして、けっこう世話焼きなのだ。
碧は、手首のブレスレットを見た。
輝きが違う。新品同様になっていた。
ほら。これは碧の石だよ。緑碧玉というんだ。
父親の声が蘇る。小さな手首に嵌めた、あの時の輝き。そのままだ……。
「ありがと、ド・ジョー」
碧が、呟くようにお礼を述べた。
金色のドジョウは、シャワーキューブに入った桃を洗浄中だ。
今回は、特に念入りにヒゲを蠢かしている。
ドレスは大変らしい。
「ん。あぁ」
ド・ジョーは、適当な返事を寄越した。こっちを振り返りもしない。
でも、その顔は、ちょっとだけ綻んでいた。
準備万端。全員、リフレッシュ完了だ。
ポータブルな案内板は、また碧の胸元に飾られている。
よろず、出発点は巫女の泉だ。
そこまでは、スワンズも、よちよち歩いていくことになった。
マダム・チュウ+999は、横着して、碧の肩の上。
ド・ジョーの水球は、ふよふよと一行の先頭を飛んでいく。
廊下の突き当りの噴水が、ピュティアの泉だ。
さっきと同じだった。
沸き上がった水が、踊る巫女の身体を形作っている。
衣装も水だ。長い帯は、勢いよく両脇の階段を上っていた。
「ピュティア。墓場まで行く。帯を伸ばしてくれ」
金色のドジョウが、頼んだ。
その途端。
ばしゃばしゃ! ばしゃばしゃ!
踊りが激変した。
水の手足が、すごい勢いで動きだす。
水面も、一気に波立った。
それまでは、神に捧げるに相応しい舞だったのに。
ほとんど、子どもが癇癪を起している様子に近い。
「あー」
住人たちが、同じ声をあげた。
顔には、同じ言葉が浮かんでいる。
やっぱり。
分かっていないのは、子ども達だけだ。
なに、これ?
唖然と、ピュティアを眺めている。
ド・ジョーが、苦笑まじりに解説した。
「イヤイヤの舞、だ」



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