カイコン(総フリガナ版)

21.それぞれの決意(総フリガナ版)

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21.それぞれの決意けつい

シルキング4号機(ごうき)は、最新(さいしん)機種(きしゅ)だ。
機能(きのう)満載(まんさい)。そのおかげで、通常(つうじょう)機種(きしゅ)より、優(ゆう)に家(いえ)一軒分(いっけんぶん)ほど値段(ねだん)が高(たか)い。
しかし、「それいらないだろ」と文句(もんく)を付(つ)けたくなる無駄(むだ)な機能(きのう)まで山盛(やまも)りである。

だが、これだけは秀逸(しゅういつ)だった。

「あれ、こんなところに家(いえ)なんてあったかな」
通行人(つうこうにん)の男(おとこ)は、首(くび)を捻(ひね)った。
町(まち)はずれの一画(いっかく)。
確(たし)か、空(あ)き地(ち)じゃなかったっけ。

そこには、立派(りっぱ)な一軒家(いっけんや)が建(た)っていた。
流行(はや)りの洋風(ようふう)住宅(じゅうたく)だ。

「ま、気(き)のせいか。どこもかしこも新築(しんちく)ラッシュだしな。最近(さいきん)、建(た)ったんだろ」
男(おとこ)は、一人(ひとり)で納(なっ)得(とく)すると、そのまま通(とお)り過(す)ぎていく。

家(いえ)の窓(まど)から覗(のぞ)いていた千里(せんり)は、胸(むね)を撫(な)でおろした。

「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。侵入(しんにゅう)や危害(きがい)を加(くわ)えられた場合(ばあい)、撃退(げきたい)プログラムを作動(さどう)させます」
シルキング4号機(ごうき)「フォース」の声(こえ)が、上(うえ)から響(ひび)いてきた。無駄(むだ)に美声(びせい)だ。

「だからだよ。怪(あや)しんだだけの人(ひと)に、怪我(けが)させたくないし」
撃退(げきたい)、ときた。絶対(ぜったい)、無茶苦茶(むちゃくちゃ)なことをするに決(き)まってる。

「坊(ぼっ)ちゃん達(たち)は、お優(やさ)しいんですよねえ」
フォースの口調(くちょう)が、でれっと崩(くず)れた。
シルキングって、皆(みんな)こうなんだろうか。
同期(どうき)した相手(あいて)を、まるで目(め)に入(い)れても痛(いた)くない初孫(はつまご)かのように扱(あつか)ってくる。

やれやれ。肩(かた)を竦(すく)めると、千里(せんり)はソファーに戻(もど)った。
スプリングばっちり。ゴージャスな革(かわ)張(ば)りの、超高級(ちょうこうきゅう)家具(かぐ)に見(み)える。

室内(しつない)には、テーブルやキャビネットまであった。絵画(かいが)まで飾(かざ)ってある。
一見(いっけん)、上流(じょうりゅう)階級(かいきゅう)の応接間(おうせつま)だ。
二階(にかい)には、寝室(しんしつ)や客間(きゃくま)まで備(そな)えている。

だが、それもこれも、全(すべ)てシルキングで出来(でき)ているのだ。

ちなみに、台所(だいどころ)やトイレ、浴室(よくしつ)は無(な)い。
元(もと)は、ただの「繭(まゆ)」だからだ。
上面(うわつら)だけは作(つく)れても、機能(きのう)は持(も)たせられないからである。

そして、この「家(いえ)」の中(なか)に入(い)れるのは、シルキングと同期(どうき)した者(もの)だけ。

「で、どうしたいの、千里(せんり)は」
「オレだけ行(い)くよ。埋蔵(まいぞう)されてるチップは、相当(そうとう)な量(りょう)だ。どんな荒魂(あらみたま)が出(で)てくるか分(わ)からない。危険(きけん)だけど、オレなら構(かま)わないだろ」

自分(じぶん)と同(おな)じ顔(かお)が、寂(さび)しげに歪(ゆが)んだ。
「オレは、そんなつもりで千里(せんり)と一緒(いっしょ)にいるんじゃない」

「分(わ)かってる。オレは楽(たの)しんでるよ。だから、気(き)にするなって」
本当(ほんとう)なら、もう、お前(まえ)と話(はな)したりできなかった。
また一緒(いっしょ)に出掛(でか)けたりも、できなかったんだから。

十分(じゅうぶん)だ。
あとは、オレが出来(でき)ることをして終(お)わりたい。

「うまく発掘(はっくつ)できれば、大金(たいきん)が手(て)に入(はい)る。そうしたら、父(とう)さんにお金(かね)を返(かえ)せる」
自分(じぶん)のせいで使(つか)わせてしまった、シルキング最新機(さいしんき)購入(こうにゅう)代金(だいきん)を。

「それで余(あま)ったら、家(いえ)を買(か)うんだ」
「ああ。小(ちい)さくてもいい。自分(じぶん)の城(しろ)だ。親戚(しんせき)連中(れんちゅう)なんか、敷居(しきい)を跨(また)がせない」
「それから、母(かあ)さんを引(ひ)き取(と)って、一緒(いっしょ)に住(す)むんだ」

交互(こうご)に喋(しゃべ)ると、並(なら)んで座(すわ)った二人(ふたり)は微笑(ほほえ)み合(あ)った。瓜(うり)二(ふた)つの笑顔(えがお)だ。
「分(わ)かるんだ、オレの考(かんが)えてること」
「分(わ)かってるよ。オレはお前(まえ)だもん」
元(もと)は一(ひと)つの卵(たまご)だった、オレとお前(まえ)。

「母(かあ)さんを自由(じゆう)にしてあげて、万里(ばんり)」
それは、自分(じぶん)たちの、神聖(しんせい)な約束(やくそく)。誓約(せいやく)だ。

「……分(わ)かった。でも、オレも近(ちか)くで待機(たいき)してる。絶対(ぜったい)に無理(むり)はしないで、千里(せんり)」

頷(うなず)いた。すると、ようやく納得(なっとく)したらしい。
目(め)を見(み)るだけで分(わ)かる。

天井(てんじょう)から声(こえ)が降(ふ)って来(き)た。
「そろそろ、おやすみの時間(じかん)です。寝室(しんしつ)に移動(いどう)して下(くだ)さい」
「さあ、お前(まえ)は寝(ね)なくっちゃ。眠(ねむ)いんだろ。さっきから、糸(いと)がぴょこぴょこ出(で)てる」

自分(じぶん)と同(おな)じ白(しろ)猫(ねこ)の耳(みみ)から、透明(とうめい)な糸(いと)が数本(すうほん)かくれんぼしている。
非制御型(ひせいぎょがた)獣化症(じゅうかしょう)の患者(かんじゃ)は、眠気(ねむけ)が分(わ)かりやすい。

「おやすみ、千里(せんり)」
「ああ。ここにいるから、安心(あんしん)して寝(ね)な」
ぱたん、とドアが閉(し)まった。

ぶら下(さ)がったネームプレートが、揺(ゆ)れた。
『SENRI&BANRI』
拙(つたな)い木彫(きぼ)り。フォースに説明(せつめい)して、実家(じっか)にあった物(もの)を再現(さいげん)してもらったのだ。

一緒(いっしょ)の部屋(へや)じゃなきゃ、嫌(いや)だ。
そろそろ部屋(へや)を分(わ)けたらどうか、父(ちち)に聞(き)かれた時(じ)、自分(じぶん)達(たち)は口(くち)を揃(そろ)えて答(こた)えたものだ。

でも、オレはもう一緒(いっしょ)に入(はい)れない。

ドアの中(なか)では、今(いま)、無数(むすう)の糸(いと)が飛(と)び交(か)っていることだろう。
部屋(へや)の壁(かべ)や天井(てんじょう)から、シルキングの白(しろ)い糸(いと)が無数(むすう)に吐(は)き出(だ)されていく。
目(め)を閉(と)じた万里(ばんり)のネコ耳(みみ)からは、透明(とうめい)な糸(いと)が豊(ゆた)かに漏(も)れ出(だ)す。

二(に)種類(しゅるい)の糸(いと)は、絡(から)み合(あ)う。
そして、彼(かれ)の体(からだ)を包(つつ)み込(こ)み始(はじ)める。
やがて、部屋(へや)の中央(ちゅうおう)に、吊(つ)り下(さ)げられた繭(まゆ)が完成(かんせい)するのだ。

万里(ばんり)は眠(ねむ)る。作(つく)られた、安全(あんぜん)な胎内(たいない)で。
そして、朝(あさ)、再(ふたた)び産(う)まれるのだ。

「万里(ばんり)……」
これからも、そうやって生(い)きていかなければいけない、双子(ふたご)の弟(おとうと)。

千里(せんり)は、しゃがみ込(こ)んで膝(ひざ)に顔(かお)を埋(う)めた。
背中(せなか)に、自分(じぶん)達(たち)を隔(へだ)てる一枚(いちまい)のドアがある。
もう、この仕切(しき)りは、決(けっ)して無(な)くなりはしないんだ。

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