ダンジョンズA〔4〕花束の宴(裏メニュー)

24.小鳩(1)裏メニュー

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24.小鳩(1)

下手(しもて)側の舞台袖は、がらんとしていた。
かなり広い。小部屋ほどのスペースだ。
学校の体育館とは、桁が違う。

誰の姿も、見えない。
陽は、素早く辺りに目を配った。
いや、いる。
陽は、傍らの碧と桃に、指差しで伝えた。

蝶だ。
幕の裏側に、びっしりと止まっていた。

カラフルな飾りを散りばめたように見えた。
羽の色や柄が、それぞれ違う。
みな、ぴくりともしない。じっと羽を休めている様子だ。

「胡蝶だね。舞台係だろう」
碧が小声で言った。
「たぶん、大道具とかを片づける時まで、待機しているんだと思う。もう少し向こうに行こう。刺激しないほうがいい」

人の形を取られたら、やっかいだ。

こそこそ
なるべく静かに、三人は突き当りまで行った。

扉や通路は、どこにも見当たらない。
そうだった。碧は思い出した。
舞台袖は、どことも繋がってなかったんだっけ。

とにかく尋ねてみよう。
「案内板、加羅(から)みかげはどこにいる?」
胸元の青い花に向かって、碧は(ささや)いた。

花芯から、小さなお面の顔が覗いている。
そこから音声が流れた。いつもより音量が小さい。
『現在、花束の(うたげ)に出演中です』

「だよなあ」
陽が天を仰いだ。
やっぱりそうなるか。
暁は、「加羅みかげ」の名前で踊らされているのだから。

「でも、暁をここまで連れて来なきゃいけないだろ。それに、きっと様子を見張ってる。みかげは、絶対に近くにいると思う」
碧は断言した。
それより、もうひとつの質問だ。

「じゃあ、オーロラは、どこにいる?」
案内板は答えた。
小声で聞くと、ちゃんと返事も小さくなる。

『オーロラも、ここで花束の宴を観ています』
ここで?
三人とも、きょろきょろした。

はっ
碧が、いち早く気付く
「そうだった。オーロラは、決まった姿を持たないんだ」

最悪、目に見えないものだったら?
見つけるのは至難の業だ。
碧は、頭を抱えたくなった。

「ええと、オーロラと話しがしたいんだよ。どうしたらいいかなあ?」
すかさず、陽が切り口を変えて尋ねた。

その質問で正しかった。
葡萄(ぶどう)(だな)に上がれば、可能です。そこでオーロラと会って、話ができるでしょう』

「ぶどうだなって、何? アクセスは?」
碧は、一瞬で立て直した。
こうなると反応は早い。

『舞台の真上に設けられている、格子状の天井のことです。見た目が葡萄棚に似ていることから、そう呼ばれます。物を吊るしたり、何かを降らせたりする際に使われます』

なるほど。舞台の演出で、紙吹雪とか降らせるやつか。

『宴の間は、舞台袖から直接のアクセスが可能です。今、操作します』

ういーん
ばさり
動作音がして、上から重たげな縄が降ってきた。
編まれて、梯子になっている。アスレチックで、お目にかかるやつだ。

(なわ)(ばし)()を降ろしました。こちらを上ってください』
「そう来たか……」
「俺が行くかあ?」
陽が、碧の顔を覗き込んだ。

確かに、陽のほうが早いだろう。
だが、碧は首を振った。

「いや、俺が行く。予定通りにしよう。陽と桃ちゃんは、みかげを捜してくれ」

そして、見つけたら、取り押さえるのだ。
それも作戦のひとつだった。

もし、暁が門出(かどで)に失敗したとしても、みかげは何を仕掛けて来るか分からない。
(あらかじ)め捕らえて、封じ込めておくのがベターだ。

ただし、荒事(あらごと)になる可能性が高い。
陽が適任だ。
そして、桃は「切り札」を持っている。
暁の近くにいたほうがいい。
となると、消去法で自分だ。

分かっちゃいるが、文句は言いたい。
大体、この地宮(ちきゅう)ときたら、とことん、場所から場所への移動が、一筋縄ではいかないようになっている。

「誰の趣味だ? 嫌がらせか? 根性悪いぞ。責任者を出せ。ああ、オーロラがそうか。会ったら、ガツンと、言ってやろう」
一言一言、毒づきつつ、碧は懸命に縄梯子を上った。

怒りのパワーは偉大だ。
ほどなくして、天井が見えてきた。
すっかり息が上がっていたが、自分にしては上々だ。
今度から、アスレチックは、この方法でいこう。

天井の床に手をかけて、体を乗り込ませる。
よし。ゴールだ。

碧は、床に這いつくばったまま、ずりずりと振り返った。
下界を見下ろす。

三ツ矢兄妹は、縄梯子の(ふもと)で、こっちを見上げていた。そろって心配気だ。
碧が手を振ってみせると、ようやく二人とも、ほっとした表情を浮かべた。

「気を付けてね、碧」
桃に頷くと、碧は伏せたまま、ゆっくりと方向転換した。

そろそろと立ち上がる。
よし、いいぞ。これからは、座右(ざゆう)(めい)に「石橋を叩いて渡る」も追加だ。

目の前には、横長の部屋が広がっていた。

高さは結構ある。意外だった。大人でも屈まずに歩けるだろう。
葡萄棚というほど、床は格子状ではない。
細い隙間が空いている板、という程度だ。

ちょっと、ほっとした。
ただし。見通しに関しては、ばっちりだ。
すぐ真下に、ステージが見える。

中心に暁がいた。王子と踊っている。
難易度の高い技なのだろう。勢いを付けて王子に飛び込むと、抱えられた状態でポーズを決めた。

うわあぁっ
観客が、どよめく。
まずいぞ、早くしなくちゃ。

そう思っているのに。足は、なかなか動きだそうとしなかった。
中途半端な高さが、逆に恐怖心をあおってくるのだ。
冷静に分析はできるのだが。

「……なるべく下を見ないようにしてさ、ゆっくり行けばいいんだよ」
碧は、情けない自分の両足に言い聞かせた。
足場は、しっかりしているんだ。問題は無い。

「ここで怖気づいている場合じゃないだろ」
そうだ。必ず、オーロラを見つけなくちゃいけない。作戦上、不可欠なんだから。

この地宮の太陽であり、核たる存在。
強大な力を持ち、やりたい放題で傍迷惑なオーロラを、絶対に押さえておかなくちゃいけないんだ!

きりっと意気込んで、前を見据えた瞬間。

がくり
碧の力が、抜けた。

「ああ……うん、あれだな」
間の抜けた声を出して、一人で頷く。

真っ白な小鳩がいた。

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