ダンジョンズA〔4〕花束の宴(裏メニュー)

24.小鳩(2)裏メニュー

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24.小鳩(2)

がらんとした床面に、一羽だけ。
ちょうど、葡萄棚、ど真ん中の位置だ。

それは、びっくりするほど美しかった。
純白の羽毛が、新雪と見紛うばかりに、きらきら輝いている。
街中で、たまに見かける白鳩とは、レベルが違った。

右へ、左へ。上へ、下へ。
音楽に合わせて、翼が、はためく。

ちょんちょん
小枝に似た細い足も、前後左右に動いている。
軽やかなステップだ。

どう見ても、踊っている。
鳥類の動きではない。

碧は、毒気を抜かれた態で、前方の小鳩を見つめた。

優雅にバレエを舞う、並外れて美しい白鳩。
オーロラだ。
疑いの余地が無い。

脱力したせいで、碧の足に取りついた恐怖心は、遥か彼方にすっ飛んでしまった。
もう、どんとこいだ。

碧は、すたすたと小鳩に近づいた。
さっさと片膝を着いて、声をかける。

「オーロラ、見ぃつけた」
節をつけて言うと、鳩は、まさしく豆鉄砲を食ったような顔で、振り向いた。

「まあ! 碧じゃない!」
ころころころ
鈴を転がすような声が、辺りに響く。
楽しくてしょうがない、赤ちゃんが立てるみたいな笑い声だ。

「びっくりしたわ」
にゅるん
鳩の頭から、一瞬で女性の生首が()えた。
人間では有り得ないほど、完璧に美しい顔。
やっぱりオーロラだ。

いや、びっくりしたのは、こっちだ。
碧は、引きつった顔を向けつつ、心の中で反論した。

頭でっかちの半人(はんじん)半鳩(はんばと)は、口を開いて、こう続けた。
「今ね、暁が踊っているのよ。だから、応援していたの」

普段の碧ならば、自分の要求を、いきなりスパンと相手にぶつけたりはしない。
奥ゆかしい性格なのである。
だが、今は緊急事態だ。
遠慮も配慮も抜きで行こう。

「それは困るんだ。止めて欲しい。オーロラが応援すると、暁の踊りが最高になっちゃうだろ? あっさり門出を迎えちゃうよ」

「まあ、すてきね」
生首(なまくび)(ばと)は、のんきだ。

碧は、ビシビシ言い募った。
「いや、困るんだって。俺たちは胡蝶じゃない。生身の人間なんだ。暁が門出を迎えて、もし電球になっちゃったら、どうするんだよ。大変だろ?」

「あら、なにが?」
にっこり
美女の生首が、微笑んだ。

「暁、ずっとここにいてくれるのね。うれしいわ」
邪気が無いだけに、恐ろしい。
碧の総身に、ざあっと鳥肌が立った。

まったく話が通じない。
そうだ。相手は人間じゃなかった。

きゅぽん
生首が、音を立てて鳩の体に引っ込んだ。
白い小鳩に逆戻りだ。

ふんふんふ~ん
踊りながら、今度は鼻歌まで歌っている。
(くちばし)から、どうやって出してるんだろう。

鳩のちょうど真下で、王子と姫も踊っていた。
床の隙間からは、ステージが至近距離で覗ける。ここは、特別なアリーナ席だ。

ぽう……っ
よく見ると。
暁の全身が、発光しているのが分かった。
いや、違う。光に包まれているのだ。
青白い、強い光に。

碧は、オーロラ(ばと)に視線を移した。
純白の羽毛に、小さな宝石を埋め込んだような青い目をしている。
アルビノの赤い目じゃない。青だ。

「……あ~、オーロラ?」
ダメでもともとだ。試してみるか。

碧は、むんずと小鳩を掴んだ。
踊っているところを、生け捕りだ。

「そおれ! 高い高~い!」
ばさあっ
そのまま、上に向かって放り投げる。

鳩は、驚いた顔をしつつ、ばさばさと羽ばたいた。
ころころころ
すぐに、楽し気な笑い声が、辺りに響く。

ゆるやかに舞い落ちてきたところを、キャッチして。
「もう一回、高い高~い!」
ころころころ
まるっきり、あやされて笑う赤ちゃんだ。

ちらり
碧は、素早くステージに目をやった。

やっぱりだ。
暁を包む青い光が、さっきより明らかに弱くなっている。

耳に挿した言いなり茸は、相変わらずだった。
べかべか、緑に点灯している。

きっと、青い光は、オーロラの力。
それが目に見えているんだ。
だから。オーロラの気を逸らせば、弱まった。
だとしたら。

碧は、手のひらに着地した白鳩に、にっこりと笑いかけた。
食えない笑みだ。たくらみが、その下に覆い隠されている。

「面白かった?」
「ええ」
小さな鳩の首が、くるくると動く。

「ねえ、あっちの舞台袖に降りてさ、もっと俺と遊ぼうよ」
そのほうが、オーロラを暁から引き離せる。
それに、見えないほうが、オーロラの意識も暁に向かないだろう。

にゅるん
白鳩から、また、生首が生えた。
今度は、それだけじゃない。そのまま、胴体も伸びてきた。

手に止まっていた小鳩は、もういない。
気付いた時には、チュチュを身に纏った美の化身が、軽やかに駆け出して行くところだった。

オーロラが、碧を振り返った。
とても楽し気だ。
「じゃあね、かくれんぼ! 碧が鬼ね」
快諾(かいだく)だ。

「えー。いきなり俺が鬼なの?」
乗ってくれたのはいいが、こいつを見つけるのか? 難易度が高そうだ。

「じゃんけんして決めない? オーロラ、鬼は嫌なの?」
「ええ、いや」
返答が三歳児レベルだ。

へそを曲げられても困るな……。
渋い顔をした碧を見て、オーロラが微笑んだ。
「じゃあね、もしも碧が勝ったら、何か好きなご褒美をあげましょう」

「ほんと!?」
いいぞ。最強のカードになる。

瞬く間に、オーロラは消えていた。
声だけが聞こえて来る。
「じゃあ、私を見つけてね。上手(かみて)側の舞台袖に隠れるわ」
鬼は碧で決定だ。

「ああ、そうだわ。鬼の失敗(しくじり)は、三回までよ」
「またそれかよ……」 

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