カイコン(総フリガナ版)

24.魂振り(総フリガナ版)

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24.魂振たまふり

直径(ちょっけい)10メートルほどか。
どす黒(ぐろ)い柱(はしら)は、まだ噴(ふ)き上(あ)がっている。

「立(た)ち入(い)り禁(きん)止(し)でーす。近寄(ちかよ)らないで下(くだ)さい」
「採掘(さいくつ)が始(はじ)まります。付近(ふきん)の方(かた)は、いったん避難(ひなん)して下(した)さーい」
「荒魂(あらみたま)は人(ひと)に危害(きがい)を加(くわ)えません。安心(あんしん)して下(くだ)さーい」

地面(じめん)の周(まわ)りでは、警察官(けいさつかん)達(たち)が縄(なわ)を張(は)っていた。
声(こえ)を張(は)り上(あ)げて、集(あつ)まって来(きた)る野次(やじ)馬(うま)を追(お)い払(はら)っている。
対応(たいおう)が迅速(じんそく)だ。事前(じぜん)に届出(とどけで)しておいたお陰(かげ)だろう。

「おい! 柱(はしら)ん中(なか)で、人(ひと)が倒(たお)れてるぞ」
警官(けいかん)の一人(ひとり)が、気付(きづ)いて声(こえ)を上(あ)げた。
ちらちらと、どす黒(ぐろ)い幕(まく)の向(む)こうが透(す)けて見(み)える。倒(たお)れているのは一人(ひとり)、いや二人(ふたり)だ。

慌(あわ)てて、警官(けいかん)達(たち)が柱(はしら)の中(なか)に駆(か)け込(こ)んだ。
湧(わ)き上(あ)がる無数(むすう)のコインが、体(からだ)を通(とお)り抜(ぬ)けて行(い)く。
普通(ふつう)の人間(にんげん)にとって、荒魂(あらみたま)は幻影(げんえい)と同(おな)じなのだ。触(ふ)れることはできず、相手(あいて)から触(ふ)れられることもない。

「救急車(きゅうきゅうしゃ)だ、早(はや)く……」
大声(おおごえ)を上(あ)げながら、警官(けいかん)が出(で)て来(き)た。
割烹(かっぽう)着(き)を着(き)た女性(じょせい)をおぶっている。
意識(いしき)を失(うしな)っているようだ。ここの商店街(しょうてんがい)の住民(じゅうみん)だろうか。

警官(けいかん)は、女性(じょせい)を地面(じめん)に横(よこ)たえると、よろよろと自分(じぶん)も倒(たお)れ込(こ)んでしまった。

「お、おい!」
待機(たいき)していた警官(けいかん)が、目(め)を剥(む)いた。
荒魂(あらみたま)は、害(がい)をなさないんじゃなかったのか?

続(つづ)けて、もう一人(ひとり)も担(かつ)ぎ出(だ)されてきた。
今度(こんど)は、地元(じもと)のお爺(じい)ちゃんだ。

残(のこ)りの警官(けいかん)も、這(ほ)う這(ほ)うの体(てい)で、柱(はしら)の奔流(ほんりゅう)から脱出(だっしゅつ)してくる。
そして皆(みな)、次々(つぎつぎ)にぶっ倒(たお)れた。

現場(げんば)は、一気(いっき)に緊迫(きんぱく)した。

「どういうことだ?」
上空(じょうくう)で見(み)ていた和尚(おしょう)も、唖然(あぜん)と呟(つぶや)いた。

「分(わ)からないけど、とっととやった方(ほう)がよさそうね」
ちさとが、きっぱり決断(けつだん)した。
「ネコ耳(みみ)以外(いがい)にも害(がい)をなすのであれば、急(いそ)がなくちゃ」

「あ~ん、ちさと、かっこいい!」
着(き)ているライダースーツから、男子(だんし)の声(こえ)で女子(じょし)なエールが飛(と)ぶ。

初対面(しょたいめん)の人間(にんげん)なら、ドン引(び)きだ。
でも、この数日間(すうじつかん)で、和尚(おしょう)も千里(せんり)もすっかり慣(な)れていた。
そして、二人(ふたり)とも、ぐだぐだ悩(なや)む玉(たま)ではない。

「おっしゃ、始(はじ)めっか」
勢(いきお)い込(こ)む和尚(おしょう)に、千里(せんり)が尋(たず)ねた。
「でも、目(め)にカイコンを嵌(は)めるにも、どっちが頭(あたま)か分(わ)からないよ」

まだ出(で)てきていない側(がわ)が、尾(お)っぽじゃなくて頭(あたま)かもしれない。
前回(ぜんかい)、騙(だま)されたばかりである。

「私(わたし)と和尚(おしょう)が、先(さき)っちょに向(む)かうわ。頭(あたま)だったら、二人(ふたり)で攻撃(こうげき)を始(はじ)める。千里(せんり)は、ここで、こいつが出切(でき)るのを待(ま)って確認(かくにん)して」
ちさとが指示(しじ)した。
彼女(かのじょ)が一番頭(いちばんあたま)が切(き)れて、実戦(じっせん)経験(けいけん)も豊富(ほうふ)だ。

「千里(せんり)、もし最後(さいご)に頭(あたま)が出(で)てきても、攻撃(こうげき)はしないで待(ま)っていてね。私(わたし)たちも、その場合(ばあい)は急(いそ)いで戻(もど)って来(く)るから」
「分(わ)かった。じゃあ、最後(さいご)が尻尾(しっぽ)だったら、オレもすぐに二人(ふたり)の後(あと)を追(お)うよ」

ちさとは、ふっと柔(やわ)らかい笑(え)みを浮(う)かべた。
千里(せんり)の胸元(むなもと)に向(む)かって、優(やさ)しい声(こえ)を掛(か)ける。
「フォース、あなたが一番(いちばん)防御力(ぼうぎょりょく)が高(たか)いわ。千里(せんり)を守(まも)って頂戴(ちょうだい)ね」

「イエス、マム!」
厳(いか)めしい軍服(ぐんぷく)から、張(は)り切(き)った返事(へんじ)がきた。
この一週間(いちしゅうかん)で、すっかり手懐(てなず)けられているシルキングである。

下界(げかい)は、いよいよ騒然(そうぜん)としてきた。
野次(やじ)馬(うま)が、宙(ちゅう)に浮(う)いているネコ耳(みみ)達(たち)を見上(みあ)げ、指(ゆび)さして騒(さわ)ぎ立(た)てている。

かまっている暇(ひま)はない。
ちさと&和尚(おしょう)の先発隊(せんぱつたい)は、急速(きゅうそく)発進(はっしん)で、その場(ば)を後(あと)にした。

ずざあああ……っ
真上(まうえ)に噴(ふ)き出(だ)した柱(はしら)は、途中(とちゅう)で、ぐにゃりと折(お)れていた。
そのまま、勢(いきお)いよく真横(まよこ)に伸(の)びていく。

ぐいん!
ちさとが、思(おも)い切(き)り上昇(じょうしょう)した。
柱(はしら)を見下(みお)ろして、進行(しんこう)方向(ほうこう)を確(たし)かめる。
「やっぱり! 川(かわ)の方(ほう)に向(む)かってるわ!」

「わかった!」
「ねえ、和尚(おしょう)。これ、なんだかエネルギーチップと同(おな)じ匂(にお)いがしますよ」
裃(かみしも)に浮かんだ紋(もん)が、ぱちぱち瞬(またた)いて言(い)う。

「あんれ、ゼロちゃんもチップだって言(い)う?」
どれどれ。
並行(へいこう)して飛(と)んでいた和尚(おしょう)は、コインの集(しゅう)合体(ごうたい)に接近(せっきん)してみた。

様子(ようす)が、はっきりと見(み)て取(と)れた。

ぱたぱた
くるくる
柱(はしら)のコイン達(たち)は、同(おな)じ方向(ほうこう)に飛(と)びながらも、てんでばらばらに蠢(うごめ)いていた。

大(おお)きさは、確(たし)かにチップと同(おな)じくらい。
どす黒(ぐろ)いが、均一(きんいつ)の色(いろ)ではない。
一枚(いちまい)一枚(いちまい)、それぞれに、暗(くら)い赤(あか)が混(ま)じっているような色(いろ)むらがある。

まるで、何(なに)かの群(む)れだ。
上空(じょうくう)で曲(ま)がった先(さき)は、一直線(いっちょくせん)に川(かわ)へと向(む)かって行(い)く。

「先(さき)回(まわ)りするわよ!」
ちさとが、超(ちょう)スピードで下降(かこう)してきた。

「おう!」
和尚(おしょう)も、後(あと)に続(つづ)いた。

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