ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

26.かくれんぼ(1)

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26.かくれんぼ(1)

「もういいかーい?」
(あおい)は、大声(おおごえ)()した。

ころころころ
(すず)(ころ)がすような(わら)(こえ)が、(ひび)いてくる。
「まあだだよー」
オーロラからの返事(へんじ)がきた。
どこから()こえてくるんだろう。

「もういいかーい?」
真下(ました)では、華麗(かれい)舞台(ぶたい)()(ひろ)げられている。
本番中(ほんばんちゅう)だ。
オーケストラの重厚(じゅうこう)調(しら)べが、この葡萄(ぶどう)(だな)にも(とど)いている。

かなり、うるさい。
それなのに、オーロラの(こえ)()こえてくる。
耳元(みみもと)(はな)しかけられているようでもあるし、(うえ)から(ひび)いてくる()もする。

やっぱり、尋常(じんじょう)じゃない。
さすがは、この地宮(ちきゅう)(かく)たる存在(そんざい)だ。
もしかしたら、脳内(のうない)直接(ちょくせつ)(かた)りかけられているのかも。
そう(かんが)えると、ちょっと(こわ)い。

「もういいよー」
わくわくした(こえ)(ひび)いた。幼児(ようじ)(おな)じだ。
本人(ほんにん)には、無二(むに)(ひと)しい存在(そんざい)であるという尊厳(そんげん)欠片(かけら)もない。

オーロラは、(つづ)けて()った。
上手(かみて)(がわ)舞台(ぶたい)(そで)()りて()てね。(わたし)は、そこにいるわ。(なん)姿(すがた)()っているかは、ないしょよ」

「それを()てればいいんだね」
「ええ、そうよ」
かくれんぼ、オーロラバージョンだ。

「よし」
(あおい)は、すたすたと()こう(はし)まで(ある)いて()った。
(した)がスカスカに見通(みとお)せる恐怖(きょうふ)は、もはや(かん)じない。
きっと、下手側(へたがわ)(おな)仕掛(しか)けだろう。
(おも)った(とお)り。またもや縄梯子(なわばしご)だ。

案内板(あんないばん)、これを()ろして()しい。上手側(かみてがわ)舞台(ぶたい)(そで)()りたい」
もはや、さくさくと指示(しじ)する(あおい)だった。
『はい、操作(そうさ)します』
タキシードの胸元(むなもと)(かざ)った(はな)が、綺麗(きれい)(こえ)(こた)える。

ういーん ばさり

(あおい)は、ためらわずに(なわ)(つか)んだ。
さっさと()(はじ)める。
(のぼ)った(とき)よりも、(はる)かに(やさ)しい。
この数時間(すうじかん)で、自分(じぶん)のアスレチック能力(のうりょく)は、格段(かくだん)進歩(しんぽ)しているようだ。

あっさりと、舞台(ぶたい)(そで)(ゆか)着地(ちゃくち)することができた。
一安心(ひとあんしん)……でもない。
(あおい)は、上手側(かみてがわ)舞台(ぶたい)(そで)見渡(みわた)して、(うめ)いた。
「……(うそ)だろ」

(よう)(もも)(のこ)してきた下手側(しもてがわ)舞台(ぶたい)(そで)は、がらがらだった。
だから、こっちだって、(おな)じだと(おも)ったのだ。

予測(よそく)(おお)きく(はず)れた。
大道具(おおどうぐ)小道具(こどうぐ)が、(あふ)れかえっている。

「なんだって、こんなに(もの)があるんだよ」
オーロラの仕業(しわざ)なのか。
それとも、(たん)(かた)づけていないだけなのか。
()からないが、これだけは(たし)かだ。
ここから変幻(へんげん)自在(じざい)(ぬし)()つけ()すのは、至難(しなん)(わざ)である。

(あおい)(おに)失敗(しくじり)三回(さんかい)までよ。わかった?」
(れい)によって、どこから()こえて()るか()からない、オーロラの(こえ)だ。
これも手掛(てが)かりにならない。

「あー、了解(りょうかい)。ねえ、オーロラ。もし(おれ)()てることができたらさ、」
どこにいるか()からないから、とりあえず部屋(へや)全体(ぜんたい)見渡(みわた)して(はな)しかけた。

「なにか、ご褒美(ほうび)をくれるって()ってたけど」
「ええ。(あおい)()きな(もの)をあげるわ」
「それさ、(おれ)のお(ねが)いを、ひとつ、きいてもらうのでもいい?」

(いっ)(ぱく)あった。
「ええ、いいわ」
よく()からないけど、よろしくてよ。
(ひめ)(さま)から鷹揚(おうよう)なお返事(へんじ)(たまわ)った。

やった。
そうしたら、こうオーロラに要求(ようきゅう)しよう。
アカツキに(ちから)(あた)えるのは()めて、と。

またもや、(はなし)(つう)じないかもしれない。
その可能性(かのうせい)(ほう)(たか)かった。
そうしたら、強制(きょうせい)退去(たいきょ)だ。花束(はなたば)(うたげ)から()()ってもらおう。それで解決(かいけつ)だ。

とにかく、時間(じかん)がない。
もたもたしていたら、(あかつき)観客(かんきゃく)絶賛(ぜっさん)(はく)して、胡蝶(こちょう)門出(かどで)(むか)えてしまう。

「オーロラの場所(ばしょ)案内(あんない)して」
小声(こごえ)で、(あおい)胸元(むなもと)(ささや)いた。

ブッブー
間髪入(かんぱつい)れずに、アナウンス(おん)()ってくる。
反則(はんそく)です。お手付(てつ)一回(いっかい)で、失敗(しっぱい)にカウントされ』
「わー! (ちが)(ちが)う! っていうのはダメだよねって、確認(かくにん)しようとしたの!」

案内板(あんないばん)判定(はんてい)(さえぎ)って、(あおい)(あわ)てて()(つくろ)った。
しばしの()があり、オーロラの(こえ)(ひび)く。
「まあ、いいわ。(いま)のは()しで」

ほーっ
(あおい)脱力(だつりょく)する。(あぶ)ないところだった。

どうやら、正攻法(せいこうほう)でいかなきゃダメらしい。

さっきの小鳩(こばと)みたいに、あからさまに(あや)しいものがあったら、簡単(かんたん)なんだけどな。
溜息(ためいき)をつきつつ、(あおい)は、舞台(ぶたい)(そで)注意(ちゅうい)(ぶか)点検(てんけん)した。

ひときわ()()くのは、(おお)きなクリスマスツリーだ。
その(よこ)に、(ふる)びた(はしら)時計(どけい)()いてある。これも結構(けっこう)でかい。
重厚(じゅうこう)なテーブルが、(はし)(ほう)()せてあった。
(うえ)には、リボンのかかった(はこ)山盛(やまも)りにされている。きっと、クリスマスプレゼントだ。

「そうか。きっと、クリスマスパーティーの場面(ばめん)使(つか)ったんだ」
(あおい)は、テーブルの(うえ)()て、(つぶや)いた。
偽物(にせもの)料理(りょうり)()っかった(さら)や、ワインの(びん)なんかもある。

(こま)ったぞ。(なに)(あや)しくない。

そうだ、(さわ)ってみたら?
オーロラの尻尾(しっぽ)()るかもしれない。

(あおい)は、手当(てあ)たり次第(しだい)()()ってみた。
上下(じょうげ)()ったり、ぱしぱし(たた)いてみたり。
ひとしきり(ため)してみたが、(なん)にも()わらない。

「だめか……」
そもそも、これって(なん)演目(えんもく)使(つか)ったんだ? クリスマスで、パーティーの場面(ばめん)

(すみ)から(すみ)まで、(あおい)(ある)(まわ)った。
(ねん)のため、まだ(あきら)めずに、全部(ぜんぶ)にタッチして(たし)かめていく。

ふっと、一体(いったい)人形(にんぎょう)()()まった。
直立(ちょくりつ)不動(ふどう)兵隊(へいたい)さんだ。

「わかった! くるみ()人形(にんぎょう)だ!」

(あおい)は、ばっと人形(にんぎょう)(つか)んだ。
マウゼリンクスの(のろ)いで、()えられた姿(すがた)
本当(ほんとう)は、人間(にんげん)だった、ていうあらすじだ。
きっと、これだ!

「オーロラ、みいつけた!」
ブッブー
(なさ)容赦(ようしゃ)なく、ブザーが()(ひび)いた。

ころころころ
オーロラの(わら)(ごえ)が、部屋(へや)(ひび)く。
「はずれよ、(あおい)

「……あー」
そんなに単純(たんじゅん)じゃなかったか。

『ミス1(かい)にカウントされます。(のこ)り2(かい)まで(ゆる)されます』
胸元(むなもと)案内板(あんないばん)宣告(せんこく)する。
つまり、4回目(かいめ)のミスでアウト。
(のこ)ったチャンスは、あと3(かい)だ。

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