ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

28.コーダ(1)

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28.コーダ(1)

鳴(な)り響(ひび)く、軽快(けいかい)な音楽(おんがく)。
王子(おうじ)に引(ひ)き続(つづ)いて、反対側(はんたいがわ)からお姫(ひめ)様(さま)が登場(とうじょう)した。

暁(あかつき)だ。
両耳(りょうみみ)で、言(い)いなり茸(だけ)が点灯(てんとう)している。
張(は)り付(つ)けたかのような笑顔(えがお)。目(め)は映(うつ)ろだ。
完全(かんぜん)に操(あやつ)られている。

トウシューズなんて履(は)いたこともないくせに、みじんもそれを感(かん)じさせない。
軽(かろ)やかに舞(ま)い踊(おど)る、堂々(どうどう)たるプリンシパルだ。

うわああぁっ……
スクリーンに映(うつ)った観客(かんきゃく)の群(む)れから、称賛(しょうさん)の嵐(あらし)が沸(わ)き起(お)こる。

まずい。これは、相当(そうとう)にまずい。
真(ま)っすぐに暁(あかつき)に向(む)かって走(はし)りながら、碧(あおい)は瞬時(しゅんじ)に状況(じょうきょう)を悟(さと)った。

凄(すさ)まじい熱狂(ねっきょう)が伝(つた)わってくる。
このままじゃ、胡蝶(こちょう)の門出(かどで)、一直線(いっちょくせん)だ。

言(い)いなり茸(だけ)の解除(かいじょ)は、後(あと)でいい。
とにかく、止(と)めるんだ!
なんなら体当(たいあ)たりしてやる。
一気(いっき)に、ぶち壊(こわ)せ。
気分(きぶん)は、ほとんど殴(なぐ)り込(こ)みだ。

あえて分散(ぶんさん)せず、三人(さんにん)並(なら)んで走(はし)った。
桃(もも)を真(ま)ん中(なか)にして、両側(りょうがわ)に陽(よう)と碧(あおい)だ。

賓客(ひんきゃく)役(やく)を演(えん)じている胡蝶(こちょう)の、唖然(あぜん)とした顔(かお)、顔(かお)、顔(かお)。
でも、まだ、彼(かれ)らは動(うご)かない。

踊(おど)っている暁(あかつき)が、射程(しゃてい)距離(きょり)に入(はい)った。
「行(い)ける!」
碧(あおい)が、暁(あかつき)に飛(と)びついてタックルをかまそうとする。

「暁(あかつき)!」
陽(よう)と桃(もも)も、同時(どうじ)に叫(さけ)んだ。
桃(もも)は、ポケットに手(て)を入(い)れている。
陽(よう)は、腕(うで)を伸(の)ばして、暁(あかつき)の体(からだ)を揺(ゆ)さぶろうとした。

だが。三人(さんにん)それぞれの行動(こうどう)は、全(すべ)て直前(ちょくぜん)で阻(そ)止(し)された。

ずざぁっ!
「なに?!」

あっという間(ま)だった。
防御(ぼうぎょ)できないほどの速(はや)さで、ぬちゃぬちゃした壁(かべ)が、横(よこ)滑(すべ)りしてきたのだ。
もろに突(つ)っ込(こ)んだ碧(あおい)が、狼狽(うろた)えて叫(さけ)ぶ。

桃(もも)が、悲鳴(ひめい)をあげて飛(と)び退(の)いた。

「ソネムネ・タムだ!」
陽(よう)が、碧(あおい)の襟(えり)を掴(つか)んで、即席(そくせき)の壁(かべ)から素早(すばや)く引(ひ)っこ抜(ぬ)いた。

ぬめ・ぬめ・ぬめ・ぬめ
影法師(かげぼうし)たちは、並(なら)んで、ぬめぬめした体(からだ)を揺(ゆ)らしている。
一糸(いっし)乱(みだ)れぬラインダンスだ。

あと一秒(いちびょう)早(はや)ければ、三人(さんにん)の行動(こうどう)は全(すべ)て上手(うま)くいっていた。
時(とき)すでに遅(おそ)しだ。
一瞬(いっしゅん)で、碧(あおい)達(たち)と暁(あかつき)の間(あいだ)には、黒(くろ)い壁(かべ)が築(きず)かれてしまった。

折(お)り紙(がみ)を人型(ひとがた)に切(き)り抜(ぬ)いたような奴(やつ)らだ。
一人一人(ひとりひとり)は、薄(うす)い。
トランプのカードを立(た)てて、何重(なんじゅう)にも並(なら)べた状態(じょうたい)だ。

さっと左右(さゆう)に目(め)を走(はし)らせた陽(よう)は、瞬時(しゅんじ)に見(み)て取(と)った。
どこにも隙間(すきま)がない。

並(なら)んだソネムネ・タムが、あざ笑(わら)う。
体型(たいけい)はまちまちだが、顔(かお)はスタンプみたいに、みんな同(おな)じだ。
三日(みか)月形(つきがた)の切(き)れ込(こ)みが、三(みっ)つ。歪(ゆが)んだ口(ぐち)と、眇(すが)めた両目(りょうめ)。
人(ひと)を嫉(そね)み、妬(ねた)むときの、いやらしい顔(かお)つきだ。

はっと、陽(よう)が気付(きづ)いた。
今回(こんかい)は、体(からだ)にも切(き)れ込(こ)みが入(はい)っている。
文字(もじ)の形(かたち)だ。

「ズルするな?」
読(よ)み上(あ)げて、陽(よう)は思(おも)わず疑問形(ぎもんけい)になった。

碧(あおい)と顔(かお)を見合(みあ)わせる。
他(ほか)のもある。
「てだすけきんし?」
「手助(てだす)け禁止(きんし)か」
碧(あおい)が、速攻(そっこう)で翻(ほん)訳(やく)する。

「ふせいしている」
桃(もも)も、唖然(あぜん)とした顔(かお)で読(よ)み上(あ)げた。
「不正(ふせい)しているって、違(ちが)う! むしろ邪魔(じゃま)して、ぶち壊(こわ)してやるよ! だから、そこをどけ!」

ぬめ・ぬめ・ぬめ・ぬめ
まったく聞(き)く耳(みみ)を持(も)たない。
ソネムネ・タムの壁(かべ)は、いっそう激(はげ)しく波打(なみう)った。

音楽(おんがく)は続(つづ)いている。
陽(よう)の決断(けつだん)は、早(はや)かった。腰(こし)を低(ひく)く落(お)として、碧(あおい)と桃(もも)に言(い)い放(はな)つ。

「後(うしろ)に付(つ)いてこい。碧(あおい)、桃(もも)、とにかく暁(あかつき)を止(と)めろ」
時間(じかん)が無(な)いんだ。この壁(かべ)を破(やぶ)るしかない。

そう決心(けっしん)した直後(ちょくご)だ。

ばしゅうっっ!

凄(すさ)まじい水流(すいりゅう)が、陽(よう)の両(りょう)頬(ほお)すれすれを通過(つうか)していった。
目(め)の前(まえ)で、左右(さゆう)から飛(と)んで来(き)た水(みず)の矢(や)が、一本(いっぽん)に合(あ)わさる。
手加減(てかげん)無(な)しの、水(みず)のドリルだ。

影法師(かげぼうし)たちが、あっという間(ま)に宙(ちゅう)を舞(ま)った。

「ド・ジョー!」
碧(あおい)が、叫(さけ)んで振(ふ)り返(かえ)る。

救世主(きゅうせいしゅ)が、いた。
浮(う)かぶカラフルな水球(すいきゅう)。その上(うえ)に立(た)つのは、金色(きんいろ)に輝(かがや)くドジョウだ。
ステージの先(さき)、オーケストラボックスの真上(まうえ)だ。
今(いま)まさに、そこからやって来(き)たらしい。

「よう、待(ま)たせたな」
ド・ジョーは、ニヤリと片目(かため)を上(あ)げて見(み)せた。
低(ひく)い声(こえ)が、隠(かく)しようも無(な)いほど疲(つか)れ切(き)っている。
身(み)に纏(まと)う水(みず)のテールコートは、既(すで)に原型(げんけい)が分(わ)からないほど、よれよれだ。

しゅっ しゅっ しゅっ しゅっ……
煌(きら)めく水(みず)の矢(や)が、数(かぞ)えきれないほど周(まわ)りに浮(う)かび出(だ)した。
透明(とうめい)な闘(とう)魚(ぎょ)の群(む)れを従(したが)えた、強力(きょうりょく)な援軍(えんぐん)の登場(とうじょう)である。

「早(はや)く行(い)け! コーダは短(みじ)けえぞ!」
破(やぶ)られたソネムネ・タムの壁(かべ)。その先(さき)に、踊(おど)る暁(あかつき)が見(み)える!

陽(よう)が、いち早(はや)く駆(か)け込(こ)んだ。
碧(あおい)と桃(もも)も、転(ころ)げるように後(あと)に続(つづ)く。
「暁(あかつき)!」
三人(さんにん)の声(こえ)が、揃(そろ)った。

「目(め)を覚(さ)ませ!」
陽(よう)が、暁(あかつき)の前(まえ)に躍(おど)り出(で)た。だが。
すかっ
掴(つか)もうとした肩(かた)が、あっという間(ま)に逃(に)げる。
音楽(おんがく)に合(あ)わせた動(うご)きは、みじんも止(と)まらない。

「踊(おど)りをやめろって!」
碧(あおい)が飛(と)びついた。
それも空振(からぶ)りだ。暁(あかつき)の体(からだ)が、のけ反(ぞ)った。
よどみなく、優雅(ゆうが)な舞(まい)が続行(ぞっこう)する。

大変(たいへん)だったのは、王子(おうじ)だ。
急(きゅう)に子(こ)どもが現(あらわ)れて、邪魔(じゃま)し出(だ)したのだから、無理(むり)もない。
だが、パートナーの方(ほう)は、全(すべ)てを無視(むし)して、かっ飛(と)ばしている。
それに合(あ)わせてサポートを入(い)れるだけで、精一杯(せいいっぱい)だ。

賓客役(ひんきゃくやく)の胡蝶(こちょう)たちも、さすがに止(と)めなければと思(おも)ったらしい。ばらばらと動(うご)き出(だ)した。

どうしよう!
桃(もも)の顔(かお)から血(ち)の気(け)が引(ひ)いた。
果敢(かかん)に突撃(とつげき)する兄(あに)たちに遅(おく)れて、うろうろとタイミングを計(はか)っていたが、そんな場合(ばあい)じゃない。
こっちに来(き)ちゃう!

ばしゅうっ!
寸前(すんぜん)で、胡蝶(こちょう)が水(みず)の矢(や)に薙(な)ぎ倒(たお)された。
一(ひと)纏(まと)まりになって、床(ゆか)を滑(すべ)っていく。
出力(しゅつりょく)は低(ひく)めだが、正確(せいかく)な援護(えんご)射撃(しゃげき)だ。

助(たす)かった。
桃(もも)は、ふうっと息(いき)をついた。
だが、すぐにまた来(く)るだろう。
とにかくもう、やらなくっちゃ!
桃(もも)は、ポケットに手(て)を突(つ)っ込(こ)んだ。

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