ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

29.真名(まな)(1)

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29.真名まな(1)

ばさばさばさっ
(しろ)小鳩(こばと)は、すぐさま(ゆか)から()()がった。

上空(じょうくう)からの(なが)めも、惨憺(さんたん)たるものだ。
ステージのあちこちに、出演者(しゅつえんしゃ)胡蝶(こちょう)が、ぶっ(たお)れている。
まだ(うご)ける(もの)も、(すで)戦意(せんい)喪失(そうしつ)していた。
もう(だれ)()めようとせず、ただ呆然(ぼうぜん)()()っている。

ソネムネ・タム(たち)だけが、元気(げんき)だった。
ぬめぬめと()(あつ)まると、今度(こんど)(まる)(かたち)(つく)っていく。
中心(ちゅうしん)にいるソネムネ・タムがティアラを(かか)げ、その(まわ)りを十重(とえ)二十重(はたえ)仲間(なかま)()(かこ)陣形(じんけい)だ。
悪知恵(わるぢえ)だけは(はたら)(やつ)らである。

()れるもんなら()ってみろ。
三日(みか)月形(つきがた)()()がった(くち)が、(そろ)ってそう()いたげだ。小憎(こにく)らしいこと、この(うえ)ない。

だが、ソネムネ・タムも、上空(じょうくう)から(さん)(だつ)(しゃ)(あらわ)れるとは(おも)っていなかったのだろう。

ひゅうっ…
()(しろ)(つばさ)が、(きたな)らしい(ぬま)急降下(きゅうこうか)していった。

ばさり…
釣果(ちょうか)は、一瞬(いっしゅん)()がっていた。
()()(はと)(あし)に、ティアラが()っかかっている。

みかげ! みかげ!

スクリーンからの歓声(かんせい)は、相変(あいか)わらず(つづ)いていた。
ここまで舞台(ぶたい)滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になっているというのに、どこ()(かぜ)だ。

ばさり……ばさり……
(しろ)(はと)は、ゆっくりと()()りた。
その(した)には、暴走(ぼうそう)列車(れっしゃ)のごとく(おど)るオーロラ(ひめ)と、必死(ひっし)()いていく王子(おうじ)がいる。

にゅうっ
(はと)が、また変化(へんか)した。
今度(こんど)は、生首(なまくび)だけではない。
とてつもない美女(びじょ)が、一瞬(いっしゅん)(ちゅう)()かぶ。

(ゆめ)のように豪奢(ごうしゃ)な、(しろ)いロマンティックチュチュ。
トウシューズは、青白(あおじろ)(かがや)きを(はな)っている。

クラシックバレエを(あい)する人々(ひとびと)(ゆめ)(つく)()した、オーロラの地宮(ちきゅう)。その(かく)太陽(たいよう)たる存在(そんざい)のお()ましだ。

それでも、観客(かんきゃく)喧騒(けんそう)()まない。
スクリーン()しでは、オーロラの姿(すがた)()えないのだろうか。

みかげ! みかげ!

(あかつき)
(ちが)()が、(うつく)しい(くちびる)から(つむ)()された。
オーロラは、白魚(しらうお)のような()で、(ちい)さなティアラを(ささ)()っている。
ぼろぼろだ。さっきより劣化(れっか)(すす)んでいる。

(すず)(ころ)がすような美声(びせい)が、(つづ)ける。
「これは、あなた自身(じしん)(かがや)き。(いつわ)りの()()ばれ、(さか)らわずにいれば、宝石(ほうせき)(ひかり)(うしな)う」

見下(みお)ろす(さき)には、(うつ)ろな()をしたプリンシパルがいる。
(あやつ)られるままに(おど)(つづ)ける、マリオネットだ。

すっ
オーロラが降下(こうか)した。
(あかつき)が、ちょうどポーズを()って静止(せいし)する。

(すで)に、(あかつき)頭上(ずじょう)には、オーロラ(ひめ)舞台(ぶたい)衣装(いしょう)相応(ふさわ)しい王冠(おうかん)(かざ)られていた。
そこそこ()()えのする(しな)だ。ステージの照明(しょうめい)()けて、キラキラしている。

オーロラは、その(うえ)に、ガラクタ同然(どうぜん)となったティアラを(さず)けた。

(あかつき)()(もど)しなさい、(みずか)らの()を」

すると。
(あかつき)(かお)()()いていた(つく)(もの)笑顔(えがお)が、(くち)部分(ぶぶん)だけ(くず)れた。

「……あか…つき…」
人形(にんぎょう)(くち)が、ぎこちなく(うご)く。
だが、こぼれ()したのは、(あかつき)自身(じしん)(こえ)だ。

にっこり
オーロラが、(あで)やかに微笑(ほほえ)んだ。
「そう。(まこと)名前(なまえ)は、(たましい)(かく)

その瞬間(しゅんかん)

ぱああぁ…っ
ぼろぼろのティアラから、まばゆい(ひかり)(あふ)()した。

()じりけの()い、黄金色(こがねいろ)(かがや)きだ。
()びた地金(じがね)()しのけて、(ほとばし)る。
一瞬(いっしゅん)で、(くも)っていた宝石(ほうせき)が、(みが)いたように(よみがえ)った。(きん)素地(そじ)も、ピカピカに元通(もとどお)りだ。

それだけではない。
(あかつき)全身(ぜんしん)(おお)っていた青白(あおじろ)(ひかり)も、あっさりと()(つぶ)した。
ついでに、ステージに(あふ)れかえっていたソネムネ・タムも、瞬殺(しゅんさつ)だ。

まさに、(ひかり)奔流(ほんりゅう)だった。
(あかつき)自身(じしん)が、(あたま)天辺(てっぺん)から火花(ひばな)()()花火(はなび)になったような有様(ありさま)だ。

しばらくの(あいだ)()()けていられないほどの(まぶ)しさが、舞台(ぶたい)()(もの)(すべ)ての視界(しかい)(うば)った。

しん……
静寂(せいじゃく)が、(あた)りを()たした。
爆発的(ばくはつてき)(かがや)きが、徐々(じょじょ)(おさ)まっていく。

「…あ、(あかつき)っ……!」
(よう)が、いち(はや)復旧(ふっきゅう)した。
その(こえ)で、()(かば)っていた(あおい)(もも)も、(あわ)てて(うで)(はず)す。

三人(さんにん)()(まえ)に、(あかつき)がいた。
(あし)(たか)()げたポーズのまま、静止(せいし)している。
素晴(すば)らしい持久力(じきゅうりょく)プラス筋力(きんりょく)だ。

王子(おうじ)(ほう)は、その(うし)ろで(ひめ)をホールドしつつ、ぜいぜいと(いき)(あら)げていた。
こちらは、そうとう(つら)そうだ。

(あかつき)、ティアラが……」
(もも)が、(うる)んだ()絶句(ぜっく)した。
両脇(りょうわき)にいる(よう)(あおい)も、(こえ)(うしな)っている。

()わっていた。
サイズも(おお)きく、(かたち)格式(かくしき)(たか)く……。
ほとんど本物(ほんもの)王冠(おうかん)だった。
黄金(おうごん)(おも)たげな()形作(かたちづく)り、宝石(ほうせき)()しげもなく()()まれている。
豪華(ごうか)この(うえ)ない。

不思議(ふしぎ)なことに、舞台(ぶたい)衣装(いしょう)()けていたティアラの(かた)は、()くなっていた。
まるで、()けて()じり()ったみたいだ。

(あら)たなクラウンが、(あかつき)(かん)されていたのだ。

(あかつき)……、すてき……かわいい」
だめだ。(もも)のスイッチが(はい)ってしまった。
崇拝(すうはい)眼差(まなざ)しで、(あかつき)()つめている。

「いや、そんな場合(ばあい)じゃないだろ」
(おも)わず条件(じょうけん)反射(はんしゃ)()()んだ拍子(ひょうし)に、(あおい)自分(じぶん)()(もど)した。

どうなった?
素早(すばや)(まわ)りに()(くば)る。
死屍(しし)累々(るいるい)だ。でも、ソネムネ・タムは一体(いったい)もいなくなっている。

オーロラは?
(ちゅう)視線(しせん)(うつ)す。
こっちも()えていた。
()げたな。

ぎぎぎ……
(あかつき)(うご)いた。ぎこちなく(あし)()ろす。
(おど)っていた(とき)とは、雲泥(うんでい)()だ。優雅(ゆうが)さの欠片(かけら)()い。

……すぅっ
そこで、王冠(おうかん)(ひかり)が、完全(かんぜん)()えた。

解除(かいじょ)完了(かんりょう)だ。

ぼろぼろぼろ……
(あかつき)(みみ)から、()いなり(だけ)が、ひとりでに()ちていった。
(ひかり)効果(こうか)か。(ゆか)()かれた(きのこ)は、すっかり(しな)びて、干物(ひもの)()していた。

不自然(ふしぜん)笑顔(えがお)が、同時(どうじ)()がれ()ちる。
ぱちぱち
(まばた)きで、再起動(さいきどう)完了(かんりょう)だ。

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