ダンジョンズA〔2〕双子の宮殿(裏メニュー)

3.深海(2)裏メニュー

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3.深海(2)

なるほど。その通りだ。
陽と碧は、二人とも頷いて同意した。

言った端から、暁は、階段を下り始めている。
陽が、すぐに追いかけて、素早く指示を出した。
「俺が先頭になる。暁、他に何か気が付いたら、すぐに教えてくれ。碧、一番後ろを頼む」
理想的な一列縦隊のポジションだ。

チョウチンアンコウは、ぐるぐると筒の海を潜っていった。
その灯りに導かれて、三人は螺旋階段を下りていく。

どれほど(くだ)った頃だろう。
とうとう、階段の踏板が終わった。
終着点は、狭い踊り場になっている。

その先は、行き止まりだった。
頑丈そうな、金属製の扉が閉ざしている。

「……なんだか、ものすごーく見覚えがあるドアだな」
碧が、引き攣った顔で言った。

味も素っ気もない、よくある事務的なドアだ。
冷たい灰色の板に、レバー式のドアノブが付いている。
下には、細長く数字のキーも並んでいた。
暗証番号を押して開ける必要がある。
セキュリティ的には、万全のタイプだ。

うん、これだったよ。
そして、そのドアには、同じく見覚えのある縫いぐるみが、ぶら下がっていた。

白猫である。
ふわふわした毛皮に、白いチュチュを身に纏っていた。金色のティアラも被っている。
つまり、猫のバレリーナだ。
ぱちんとウインクなんかしている。
児童館の扉にいた時と、変わらない姿だ。

「あーあ。チョウチンアンコウさん、行っちゃった」
一人だけ、壁の画面に(かじ)り付いて別れを惜しんでいた暁が、ようやく来た。

「あ、しろさん」
暁が、縫いぐるみの名を呼んだ瞬間。
カッ
縫いぐるみの両目が、いきなり見開かれた。

「ニャー!!!」
一声、叫ぶと、まるで命を吹き込まれたかのように動き出した。

激しく、じたばたする。
紐の掛かったマグネットフックが、吹っ飛びそうな勢いである。

「ニャ! ニャーニャニャ、ニャニャン!!
ニャーゴー、ニャ、」

「ごめん、猫語は分からない」
碧が、すっぱり遮った。
「なにか文句言ってるみたい?」
暁が、首を傾げる。
「すごいなあ。この縫いぐるみ、本当に喋ってるみたいだ」
陽は、のんきに感心した。

「いや、あきらかに縫いぐるみと違うだろ」
碧が呆れた。
「え? じゃあ、なんなんだ?」

どう説明しようか。
碧が口ごもった隙に、白猫は自力でマグネットフックの枷から外れた。

ぴょーんと飛び上がる。
しゅたっ
忍者のように、ドアに着地した。
体を扉板に突き刺すような恰好だ。
重力を完全に無視している。

「うわ、ちょっと待って、しろさん!」
前と同じパターンだ。
碧が制止するのにも構わず、白猫のバレリーナは、高速で回転し出した。

くるくる くるくる
速い。白い体が、ドリルのように扉に突き刺さって行く。

「ストーップ! しろさんってば!」
碧の叫び声が、虚しく響く。
「あっちゃあ……」
暁が、天を仰いだ。どうにも止まらない。

陽は、目を見張った。
目の前で、回転する白猫の体が、どろどろ溶け出したのだ。
猫の形が崩れ、柔らかな粘土みたいになる。
すると、見えない手が轆轤(ろくろ)で整えたように、綺麗に丸くなった。

しゅうん……
失速する音が、終わりを告げた時。
その場所には、丸いドアノブが現れていた。

白い陶器に金彩の施された、優美なデザインだ。
右側に付いているレバーハンドルが、いかにも武骨に見える。
左側に出現したドアノブの方は、さながら華奢なお姫様だ。

陽が感嘆した。
「すごいなあ、ドアノブになったよ。リニューアルで出来たのかな、この機能」

できるわけないだろう。
ツッコむ気力も失せて、碧は心で呟いた。

ここまで来たら、もう実際に行ってもらうか。
どうせ、前回り事件の説明もしなきゃいけないんだ。
そのほうが、説明が楽だしな。

碧が観念した時だった。
扉の向こうから、会話が聞こえてきた。

「まだねえ。本当に来るのかしら?」
「うん。大丈夫よ、きっと」
「そうね。一人じゃ無理よ。手伝いが必要だわん」
「貴婦人の承認は取ってあるから、もう素材集めにかかれるわ。オーロラのチュチュなの。これがデザインよ」
「どれどれ。んまー、す・て・き! クラシックチュチュね」

うわ……。
碧と陽と暁は、思わず扉の前でカチンと固まった。

片方は、女の子の声だった。チュチュを作りたいって言ってる方だ。
そっちは、別にどうということはない。

それに応えている、もう一人の方だった。
女言葉だったが、どう聞いても、野太い男の声だったのだ。

「……とりあえず行こうか、陽」
「あ、うん」
ぽん、と碧に肩を叩かれたものの、陽は躊躇(ちゅうちょ)した。

目の前の扉には、ドアノブが二つある。
右側に、レバーハンドル。
左側に、猫が化けた白いドアノブだ。

「白い方だよ、陽」
暁が、横から当然のように言う。
「それ内開きだから、ドアを押して」
碧も、さくさく促す。

両端からの指示に、陽は少し考え込んでから、口を開いた。
「あのさ。もしヤバかったら、二人とも構わずに階段上がって逃げろよ」

さすがは、陽だ。
暁と碧は、改めて感じ入った。

そうか。今回は、陽がいるんだ。百人力だ。

二人が、しっかりと頷くのを確認してから、陽はグレーの扉に向き直った。
たぶん、中にいるのは、女の子だ。
それから、お化粧ばっちりの、オネエな男の人かな。

扉が開く。
部屋の中の光が、明るく漏れ出した。

「あら~、いらっしゃーい! 遅かったのねえ、待ってたのよ~ん」
これは、三人とも予想していなかった。
全く。ひとっかけらもだ。

そこにいたのは、ピンク色の小さなネズミだった。

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