ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

33.奈落(ならく)(2)

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33.奈落ならく(2)

理詰(りづ)めで反論(はんろん)されたら、かなわない。
(あおい)(くち)(ひら)(まえ)に、さっと(よう)(はな)れた。

(かがみ)(かがみ)(あいだ)から、(うら)(はい)っていく。

すぐ左下(ひだりした)に、(もも)がいた。
(おお)きな姿見(すがたみ)裏側(うらがわ)に、(ちい)さな(からだ)が、へばりついている。
(あたま)手足(てあし)()()めた、ダンゴムシのポーズだ。

ここから()()りると()いた途端(とたん)、ずっと、こうしていたのだろう。
その(あと)(はなし)は、(みみ)(はい)っていないに(ちが)いない。
(おも)った(とお)りだ。

よし、みかげが(さき)だ。

(よう)は、(ゆか)(すわ)()んだ人形(にんぎょう)(ほう)近寄(ちかよ)った。
「ちょっと移動(いどう)してくれるかあ」
ここだと、ちょうどコース(じょう)になってしまうのだ。
ちゃんと(ことわ)りを()れてから、みかげの両脇(りょうわき)()()げる。

そのまま、(よう)は、みかげを(かがみ)真裏(まうら)へと(うご)かした。
やっぱり、されるがままだ。
ずりずりと、かぼちゃも(ゆか)()いてくる。

()(いろ)()わっていた。黄色(きいろ)から、(うす)いオレンジ(いろ)(じゅく)(はじ)めている。
表面(ひょうめん)()()をまじまじと()て、(よう)表情(ひょうじょう)(くも)らせた。
うん。やっぱり(いそ)いだほうがよさそうだ。

(あかつき)が、にじり()ってきた。こっちも、(ゆか)をずりずりだ。

「いつのまに……」
こんなふうになっちゃったの?
(つづ)言葉(ことば)は、(かな)()(しぼ)んでしまった。
みかげは、スカートが(みだ)れているのにも(かま)わず、ぼんやり(すわ)()んでいる。
なんとか(なお)してあげようとしながら、(あかつき)(よう)()いかけた。

「うん。もう、(しゃべ)れないみたいだ」
その様子(ようす)()ながら、(よう)確信(かくしん)していた。
うん。(あかつき)になら、きっとできる。

(あかつき)、みかげを(たの)む。いっしょに()れて()りてくれ」

みかげの(あやま)ちを(ゆる)し、(たす)けたいと(ねが)ってあげられるのだから。
()()()べて、()()ってやることだって、きっとできるはずだ。

(あかつき)が、はっと(よう)見上(みあ)げた。
(あらた)めて()ても、人形(にんぎょう)さながらに(ととの)った容貌(ようぼう)だ。
だが、人形(にんぎょう)じゃない。
(あお)ざめていても、()()きと(うご)表情(ひょうじょう)
そして、(つよ)眼差(まなざ)し。

「……うん。わかった」
(すこ)しの()があったが、(あかつき)(うなず)いた。
恐怖(きょうふ)も、(まよ)いもない。意思(いし)(こも)った返事(へんじ)だ。

よかった。これで()ける。
(よう)は、しっかりと(うなず)(かえ)した。

(となり)()(かがみ)(ふもと)で、(いもうと)(ちい)さく(うずくま)っている。
(もも)、」
(よう)は、(やわ)らかく()びかけた。
だが、反応(はんのう)がない。(こま)かく(ふる)(つづ)けている。
(かお)をあげることすら、できない様子(ようす)だ。

(よう)は、なるべくゆっくりと(ちか)づいた。
(おどろ)かさないように、(もも)(かた)(やさ)しく()れる。

「よいしょ」
わざと(こえ)()して、()っこした。

しかし、なんて豪華(ごうか)なドレスだろう。
ごわごわした生地(きじ)のスカートが、ぶわりと(ひろ)がる。()っこしにくいこと、この(うえ)ない。

ようやく、(もも)(くち)(ひら)いた。
「むり……。できない。おにいちゃん、わたし、むり……」
かたかたと(ふる)えながら、(ちい)さく()(かえ)す。

そうだよなあ。
西(にし)センターの透明(とうめい)階段(かいだん)ですら、(こわ)いんだ。
こんなの無理(むり)()まってる。

きゅっと(つよ)()いてやった。
(こた)えるように、(もも)が、しがみついてくる。
(かお)が、(よう)胸元(むなもと)()まった。
よし。これで、もう(なに)()えない。

そこに、(あおい)(ちか)づいてきた。
(なに)()いたげだ。

(あおい)、もっと(かがみ)裏側(うらがわ)()ってくれ」
かまわず、(よう)(あご)()(しめ)した。
無作法(ぶさほう)だが、両手(りょうて)(ふさ)がっている。
そこじゃ、進路(しんろ)()(なか)なのだ。

(おも)わず、(あおい)()われた(とお)りに(うご)いていた。
隙間(すきま)(へだ)てた反対側(はんたいがわ)には、(あかつき)とみかげが(すわ)()んでいる。

いや、なにやってるんだ、(おれ)は。
(よう)(はな)さなくちゃ。
「よ」
()()びかけたところで、(よう)(もも)(かた)()けた。

大丈夫(だいじょうぶ)だよ、(もも)。あれさあ、ぜんぜん(ふか)くないんだ。お(にい)ちゃんに(つか)まってれば、すぐにエントランスホールに()くよ」

あまりの驚愕(きょうがく)に、(あおい)(こえ)(こお)()いてしまった。
(あたま)も、()(しろ)だ。

(よう)(うそ)をついた!?
あの(よう)が?!

同等(どうとう)衝撃(しょうげき)を、(あかつき)()らっていた。
(しん)じられない。
(よう)(うそ)をつくなんて?!
しかも、あからさまな(うそ)だ。
案内板(あんないばん)は、「非常(ひじょう)(ふか)い」と()ってたんだから。

馬鹿(ばか)」が(あたま)()くレベルの正直者(しょうじきもの)
地獄(じごく)閻魔(えんま)(さま)だって、(した)()()くどころか、(した)()くに(ちが)いない、あの(よう)が……。

(もも)は、お(にい)ちゃんの(むね)(かお)()めたまま、こくんと(うなず)いた。
そっか。よかった、そうなんだ。
それでも……やっぱり(こわ)い。
(こわ)いよ、お(にい)ちゃん。

(あおい)(あかつき)は、(いき)()めて、(よう)(かお)()つめた。
顔面(がんめん)機能(きのう)は、いつも(どお)りだったからだ。
(おも)っていることが、そのまま()かんできた。
次々(つぎつぎ)に……。

ごめん、(もも)
(おれ)(うそ)をついてる。
でも、しかたがないんだ。
どうか(だま)されてくれ。気付(きづ)かないでくれよ。

ああ、そうか……。
(あおい)は、(こころ)(なか)(うな)った。
(あかつき)も、納得(なっとく)した表情(ひょうじょう)()わっていく。
二人(ふたり)とも、もはや(なに)()えなくなってしまった。

しん、とした空間(くうかん)に、(よう)靴音(くつおと)(ひび)いた。
(かがみ)から(すこ)(はな)れて()つと、(あらた)めて、がっちりと(もも)(かか)(なお)す。

よし。絶対(ぜったい)(はな)さない。
最悪(さいあく)場合(ばあい)(おれ)(した)になって()ちる。
(いもうと)だけでも(たす)ける。

「じゃあ、(さき)()くなあ」
にこり
(よう)は、(あかつき)(あおい)笑顔(えがお)()けた。
二人(ふたり)は、強張(こわば)った(かお)をこっちに()けて(かた)まったままだ。

返事(へんじ)()つつもりはなかった。
怖気(おじけ)づいた「()った」を()けられても、まずい。

やにわに、(よう)()()した。

(かがみ)(かがみ)隙間(すきま)目指(めざ)して、()っすぐに(はし)る。
これは(はし)(はば)()びなんだ。
体育(たいいく)のときと(おな)じでいい。
ただ、大切(たいせつ)宝物(たからもの)(かか)えて()ぶだけなんだ。

(かがみ)()けた。ここで()()れ!

「っっ!!」
()いしばった(くち)から、くぐもった気合(きあい)(こえ)()れた。
(からだ)(ちゅう)(おど)る。
両腕(りょううで)(ちから)()めた。その瞬間(しゅんかん)()ちた。

(よう)っ」
(こし)(くだ)けそうになって、(あおい)(かがみ)()(すが)った。
(あかつき)は、半分(はんぶん)()(ころ)がった格好(かっこう)だ。上体(じょうたい)()ばして、(かがみ)隙間(すきま)から弓形(きゅうけい)(あな)(ぎょう)()している。

もう()えない。

どうなった? なにか()こえてくるか?
(あおい)(みみ)()ました。
(くび)から(した)は、がくがくと(ふる)えているのに、なぜか(あたま)冷静(れいせい)だった。
そうしろと、(からだ)(きび)しく指令(しれい)()ばしてくる。

かたかたかた……
(こま)かく(ふる)える(おと)

(おと)だけじゃない。()れている?

奈落(ならく)第二(だいに)段階(だんかい)発動(はつどう)(いた)します。(さき)ほどよりも(つよ)振動(しんどう)(ともな)います。お()をつけ(くだ)さい』

案内板(あんないばん)がアナウンスした途端(とたん)だった。
遠慮(えんりょ)なく、ゆさゆさとステージが()(はじ)めた。
まるで地震(じしん)だ。

(あかつき)が、とっさに(あたま)両腕(りょううで)(かば)って()せた。

()(かえ)します。衝撃(しょうげき)(そな)えて(くだ)さい。発動(はつどう)まで、(のこ)り13(びょう)。12、11、』 

(あおい)は、(かがみ)(ふち)()()けたまま、しゃがみ()んだ。
とてもじゃないが、()っていられない。

淡々(たんたん)とカウントダウンが(つづ)く。
『6、5、4、3、2、1、』 

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