ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

34.崩落(ほうらく)(1)

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34.崩落ほうらく(1)

『0』のアナウンスは、(おお)きな衝撃音(しょうげきおん)()()された。

がごっっ!!
(おと)(とも)に、(ゆか)()()ちた。
第一(だいいち)段階(だんかい)(とき)とは、(くら)(もの)にならない。

(あおい)は、()見張(みは)った。
こんなにか?

振動(しんどう)は、次第(しだい)(おさ)まっていった。
(かがみ)(すが)ってしゃがんでいた(あおい)は、ようやく()()がることができた。
それでも、()(かがみ)(ふち)(つか)んだままだ。
無理(むり)だ……。(こわ)くって(はな)せやしない。

()せていた(あかつき)も、(かお)()げて(まえ)()た。
途端(とたん)言葉(ことば)(うしな)う。

(かがみ)(まえ)(ひら)いていた弓形(きゅうけい)(あな)は、(おお)きく(ひろ)がっていた。
いや。もはや、(あな)じゃない。
ステージ前面(ぜんめん)(ゆか)が、(すべ)て、()ちてしまっている。

こっち(がわ)無事(ぶじ)だ。
()()いて()かれた(かがみ)(さかい)に、ステージ後面(こうめん)(ゆか)(のこ)されていた。ちょうど半分(はんぶん)だ。

「これが第二(だいに)段階(だんかい)(つぎ)が、第三(だいさん)段階(だんかい)……」
(あかつき)(つぶや)いた。
すると、案内板(あんないばん)反応(はんのう)した。
自分(じぶん)(たち)(うら)にいるから、お(めん)(かお)()えない。(こえ)だけが()こえる。

『はい。ご案内(あんない)しているアクセスは、第四(だいよん)段階(だんかい)発動(はつどう)したら、使(つか)えなくなります』

つまり。(つぎ)(ゆか)()ちたら、もうラストチャンス状態(じょうたい)ってことだ。

すうっと、(あかつき)(いき)()()んだ。
疲労(ひろう)(おも)(いた)(からだ)に、気合(きあい)()れる。
(うご)け。(うご)くんだ。(いま)

下半身(かはんしん)(ほう)が、キツい。どんなに頑張(がんば)っても、ほとんど()うことを()かなかった。
上半身(じょうはんしん)は、まだ根性(こんじょう)通用(つうよう)した。
(うで)だけを(たよ)りにして、なんとか(うし)ろを()()く。

無駄(むだ)かもしれないけど、説明(せつめい)しなくちゃ。

「あのね、みかげちゃん、」
みかげは、ぼんやりと(すわ)()んでいた。
(あかつき)()びかけにも、反応(はんのう)しない。
さっきの振動(しんどう)正気(しょうき)(かえ)ることもなかったようだ。

のっぺりとした(かお)だ。表情(ひょうじょう)が、すっかり()()ちている。
ハイブランドのワンピースも、なんだか()すぼらしく()えた。

あれ?
(あかつき)は、ちょっと(くび)(かし)げた。
こんなにペナペナな生地(きじ)だったかな。

なんだか、違和感(いわかん)(おぼ)えた。
(くず)した正座(せいざ)から(のぞ)革靴(かわぐつ)も、(みょう)(やす)っぽい。
テカテカした色目(いろめ)だ。
それに、(かざ)りもなく、すぽんとしている。

この(くつ)も、こんなデザインだったっけ?
まるで、ぺたぺたと素足(すあし)にペインティングしただけに()える。

でも、ひっかかった気持(きも)ちなんて、圧倒的(あっとうてき)痛々(いたいた)しさに()()された。

(ほそ)足首(あしくび)(くく)()けられている、(ふと)(つる)
(しろ)いレースの靴下(くつした)には、(おお)きな(あな)(ひら)いてしまっている。
(つる)が、(した)から生地(きじ)()(やぶ)って()()ているのだ。

よく()れば、一本(いっぽん)じゃない。何本(なんぼん)もの(ほそ)(つる)()()わさって、(ごく)(ぶと)のロープと()しているのだ。
これじゃあ、(ちから)()めても()きちぎれないだろう。

(つる)(さき)っぽに、オレンジのかぼちゃが()っている。
(おお)きい。でーんと(ゆか)(ちん)()している。
(なん)キロあるでしょう?
そんなクイズ()きで、ハロウィンの時季(じき)にスーパーで(かざ)られているやつ。あれに、そっくりだ。

これを()きずって(ある)け。
そう、罪人(ざいにん)()された重石(おもし)だ。
ああ。間違(まちが)いなく、これは足枷(あしかせ)なんだ。

()きたい気持(きも)ちになりながら、(あかつき)()(かえ)()びかけた。
「ね、みかげちゃん、(わたし)といっしょに(かえ)ろ。いっしょに()りれば大丈夫(だいじょうぶ)だよ。()()まして、むこうで()おうよ」

だめだ。みかげは、(まゆ)(ひと)(うご)かさない。
しかたがない。
同意(どうい)()しで()くしかなさそうだ。

(かな)()(いき)をつくと、(あかつき)(はら)()めた。
(あおい)!」
あれ? こっちも返事(へんじ)がない。
またぞろ、じたばた(なん)(ぎょう)()(ぎょう)(すえ)()(かえ)る。

(あおい)は、ぺったりと(ゆか)()せていた。
(かがみ)(かがみ)合間(あいま)から、奈落(ならく)(ふち)()()()している。
慎重派(しんちょうは)(あおい)だ。ちゃんと調(しら)べているんだろう。

(した)、なにか()える?」
(あかつき)(たず)ねた。

()いつくばった(あおい)は、そのままの姿勢(しせい)で、正直(しょうじき)(くび)左右(さゆう)()った。
()かりが(とど)範囲(はんい)までは、(あな)(つづ)いているのが()かるんだけど。その(さき)()(くら)で、(なに)()えない」

(あおい)は、()たままの様子(ようす)()げると、(ふたた)奈落(ならく)(そこ)視線(しせん)()とした。

わからない。
(よう)(もも)は、無事(ぶじ)(かえ)れたんだろうか?

()()んだ直後(ちょくご)に、第二(だいに)段階(だんかい)振動(しんどう)()た。
震度(しんど)5レベルの(おお)()れだ。
あれじゃ、たとえ(よう)大声(おおごえ)()していたって、()()かなかったよな……。

(あおい)、」
また、(あかつき)()んだ。
(こえ)のトーンだけで()かる。こっちに()て、だ。

(あおい)上体(じょうたい)()こした。
()てたって、なにも()かりゃしない。
(あかつき)(ほう)()る。ほんの()三歩(さんぽ)距離(きょり)だ。

対面(たいめん)した途端(とたん)(あおい)(あかつき)は、二人(ふたり)して(おどろ)いた。
こんなに(あお)ざめた幼馴染(おさななじみ)(かお)は、(はじ)めて()た。

()まれてこの(かた)、ずっと一緒(いっしょ)間柄(あいだがら)だ。
だから、断言(だんげん)できる。
(いま)まさに、お(たが)い、ぶっちぎりで人生(じんせい)一番(いちばん)危機的(ききてき)状況(じょうきょう)だ。

でも……。
(あかつき)表情(ひょうじょう)()て、(あおい)(さと)った。
(かた)()(むす)んだ(くちびる)。そして、(つよ)眼差(まなざ)し。
(あかつき)は、(まよ)ってない。

(わたし)たちも()こう」
きっぱり、(あかつき)()った。

「……安全(あんぜん)確証(かくしょう)がない。もう(すこ)し、」
ぼそぼそ抗弁(こうべん)する(あおい)(さえぎ)って、(あかつき)()(つの)った。
第三(だいさん)段階(だんかい)が、いつ()るか()からないんでしょ。もう()ったほうがいいよ」

あ、それだ!
(あおい)は、途端(とたん)(いきお)()んだ。
案内板(あんないばん)、さっき、第二(だいに)段階(だんかい)()(まえ)()らせてくれたよね。予測(よそく)可能(かのう)なんじゃないの?」
(いきお)()んで、(あおい)大声(おおごえ)()した。

()こう(がわ)から、すぐに(こえ)(かえ)って()る。
『いいえ。()(きゅう)(めぐ)(みず)(ちから)は、(つね)変化(へんか)しているため、あらかじめの予測(よそく)不可能(ふかのう)です。(みず)(なが)れる方向(ほうこう)(いきお)い、(みずうみ)水量(すいりょう)などが(おも)要因(よういん)となり、この事象(じしょう)()()こしています。確定(かくてい)するのは、およそ30秒前(びょうまえ)です』

「でも、30秒前(びょうまえ)には()かるってことか」
よし。まだ(かんが)える時間(じかん)(のこ)されてる。
まずは、保険(ほけん)をかけておくか。

「じゃあ、第三(だいさん)段階(だんかい)確定(かくてい)したら、すぐに(おし)えて」
『かしこまりました。ちょうど(いま)確定(かくてい)しましたのでご案内(あんない)(いた)します』

流暢(りゅうちょう)(つづ)けられた案内(あんない)に、(あおい)()()いた。
「はああっ?!」
(のこ)り17(びょう)で、第三(だいさん)段階(だんかい)発動(はつどう)(いた)します。鏡側(かがみがわ)()って(くだ)さい』

がたがたがたっっ
振動(しんどう)だ!
いきなり、問答(もんどう)無用(むよう)(はじ)まった。
初手(しょて)から、さっきよりも(はげ)しい。

悲鳴(ひめい)()げる(いとま)すらない。
(あかつき)は、()()がって(かがみ)(すが)りついた。
「みかげちゃん! こっちに!」
(いそ)いで(さけ)んだ。()()余裕(よゆう)も、ない。

だが、()にしていたら、さぞ(おどろ)いただろう。
ふらふら
振動(しんどう)()わせて()らぐ、みかげの(からだ)が。
ふわふわ
時折(ときおり)(ゆか)から()かび()がっていたのだから。

この激震(げきしん)のなかで、(つな)がれたかぼちゃの(ほう)は、どっしりと(ゆか)()している。
こっちも不自然(ふしぜん)だ。
だが、(あかつき)にも(あおい)にも、気付(きづ)余裕(よゆう)なんてない。

『9、8、』
「さっきよりも(はや)くないか?!」
(あおい)も、(となり)(かがみ)(ふち)(すが)りついていた。
いきおい、表側(おもてがわ)にいる案内板(あんないばん)()める口調(くちょう)になる。

第一(だいいち)段階(だんかい)から第二(だいに)段階(だんかい)()きるまでの時間(じかん)は、もっとあったじゃないか!

各段階(かくだんかい)()るごとに、加速度(かそくど)がつきます』
「なにそれ? もっと簡単(かんたん)()って!」
(あかつき)国語力(こくごりょく)オーバーだ。

『だ』
「だんだん(はや)くなる!!」
案内板(あんないばん)よりも(はや)く、(あおい)(こた)えた。

その途端(とたん)
がごっっっ!!!
(ゆか)が、()ちた。

狼狽(うろた)えた悲鳴(ひめい)が、ハモった。
(あおい)(あかつき)も、一瞬(いっしゅん)理解(りかい)した。
どうして鏡側(かがみがわ)()れと()われたのか。
それは……。
今度(こんど)は、こっち(がわ)()ちるからだ!

第三(だいさん)段階(だんかい)(かん)(りょう)しました。「(だい)ナマズの(かなめ)(いし)」が、これにて(はず)れました。アクセスは、お早目(はやめ)にご利用(りよう)(くだ)さい』

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