ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

34.崩落(ほうらく)(2)

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34.崩落ほうらく

二人(ふたり)は、()()わせた。
(おな)(おも)いなのが、お(たが)()かる。

こうなるなんて!!

足元(あしもと)のすぐ(さき)で、(ゆか)()わっている。
今度(こんど)は、(かがみ)裏側(うらがわ)のカーブに沿()って、(ゆか)()()とされたのだ。

()こう(きし)は……(おな)じく()()いて、すっぱり()くなっている。
扇型(おうぎがた)(あな)だ。
()()とし(そこ)ねた、いびつな三角形(さんかくけい)(ふた)つ。
舞台(ぶたい)(おく)両端(りょうはし)に、それぞれ(のこ)されていた。

それだけだ。
あと(のこ)っているのは、ここ。
(まい)(かがみ)()っている、()()(づき)(かたち)(しま)だけだ。

(だん)(がい)(ぜっ)(ぺき)……。
()()った(けわ)しい(がけ)
また、危機的(ききてき)状況(じょうきょう)(たと)えていう。

(いま)は、その両方(りょうほう)だ。

(あおい)(すぐ)れた脳内(のうない)辞典(じてん)が、まさに現況(げんきょう)()(あらわ)単語(たんご)(たた)()した。
でも、それどころじゃない。

(あおい)、もうダメだよ。()こう! みかげちゃんは(わたし)()れてくから!」
(あかつき)が、みかげに()()りながら()った。

よく()っこちなかったものだ。
(くず)した正座(せいざ)左足(ひだりあし)なんて、(ゆか)からはみ()して(ちゅう)()いている。

()くしかないのか?
(あおい)は、(ひろ)がる谷間(たにま)()(かえ)って、立ち(すく)んだ。
(かがみ)(ふち)(つか)んだ()が、(うご)かない。
接着剤(せっちゃくざい)で、くっ()けたみたいだ。

「みかげちゃん、(わたし)()(つな)いで」
(あかつき)は、ちゃんと(つた)えてから、だらりと()がった(うで)()れた。
やっぱり無反応(むはんのう)だ。
()(にぎ)ってみた。みかげは(さか)らわない。
()ける。大丈夫(だいじょうぶ)だ。

(あおい)?」
準備(じゅんび)できた?
(あかつき)は、(うし)ろにいる(あおい)に、(こえ)だけで()いかけた。
いつもなら、ぱっと()()けるのにな。

無言(むごん)
(あおい)……?」
どうしたの?
もう時間(じかん)がないのは、(あおい)だって()かっている(はず)なのに。

案内板(あんないばん)(ほか)のアクセスは……、」
え?
(うし)ろから()こえてきた(あおい)言葉(ことば)に、(あかつき)(みみ)(うたが)った。
なんで、また()いてるの?

案内板(あんないばん)(こた)えも、さっきと(おな)じだった。
『ありません。提示(ていじ)された条件(じょうけん)(かな)えるアクセスは、こちらのみです』
「うん……。そうじゃなくて、その……」
(あおい)(くち)ごもった。

どうしよう。決心(けっしん)がつかない。
奈落(ならく)()()むことも。
そして、この()いを、案内板(あんないばん)()()けることも。

一瞬(いっしゅん)()があった。

条件(じょうけん)()えれば、(ほか)のアクセスをご案内(あんない)できますが』
びくっと(あおい)(からだ)(ふる)えた。
ビンゴだ。

条件(じょうけん)()える。
それが、このアクセスを回避(かいひ)する、たった(ひと)つの手立(てだ)て。

途中(とちゅう)から、(あおい)気付(きづ)いていた。
それを(たず)ねるか、ぐずぐずしていたのだ。

『たとえば、囚人(めしゅうど)(のぞ)いて、客人(まろうど)自分(じぶん)(たち)だけが(かえ)ることのできるアクセス。そのように条件(じょうけん)()えてみては?』

(たず)ねてもいないのに。
綺麗(きれい)(こえ)が、残酷(ざんこく)提案(ていあん)をしてくる。
悪魔(あくま)誘惑(ゆうわく)だ。
やけに(あま)ったるい、愛想(あいそ)(わら)いを(ふく)んだ(こえ)が、親切(しんせつ)ごかしに案内(あんない)(つづ)ける。

『その場合(ばあい)のアクセスは、』

たまらず、(あおい)寸前(すんぜん)(さえぎ)った。
「だめだ!」

ほら、あなたが(もと)めているのは、これですね。
そうやって()(まえ)()()されてみて、ようやく(あおい)にも()かったのだ。

それは()いちゃだめだ。
もし、そのアクセスが、これよりもずっと安全(あんぜん)だったら?
自分(じぶん)は、きっとそっちを(えら)んでしまう。

(よう)が、せっかく危険(きけん)(かえり)みず、最初(さいしょ)()()んでくれたのに。
その(おも)いを台無(だいな)しにしてしまうことになる。
だめだ! そんなの!

(あおい)は、(かた)()(つぶ)った。
(すが)りついた(かがみ)から、またもや(こえ)がする。
(ねこ)なで(こえ)だ。

(こわ)いですか? では、こうしたら(たす)かった、という(はなし)()いてみませんか』

ああ、そうだよ。(こわ)いに()まってる。
(おれ)は、(よう)とは(ちが)うんだ。
あんなふうにできるもんか。
(たす)かる? どうすれば……?

(あおい)(こころ)()()ったかのように、(こえ)()まらない。
(だれ)(たず)ねてなんかいないのに。

()()(まえ)に、自分(じぶん)一番(いちばん)大切(たいせつ)(もの)を、奈落(ならく)()とせばいいのです。きっと、あなたを(まも)ってくれるでしょう。(むかし)から(おこな)われている、おまじないです』

ちがう!
(あかつき)(あたま)に、警報(けいほう)()(ひび)いた。
理屈(りくつ)ではない。ほとんど直感(ちょっかん)だ。

(しゃべ)ってるのは、いつもの案内板(あんないばん)じゃない。
(こえ)も、なんだか、いつもより(ひく)いみたいだ。
(おんな)(おとこ)()からない、微妙(びみょう)なラインの(こえ)

(あおい)馬鹿(ばか)にしてる。
(そそのか)して、面白(おもしろ)がってる。
(だれ)かが、そこにいるの?

いつもの(あかつき)だったら、1(びょう)(かがみ)表側(おもてがわ)()()んでいただろう。

だが、(だれ)もいる(はず)はない。
中央(ちゅうおう)()(かがみ)(ふち)に、ピエロのお(めん)がくっ()いているだけだ。

だが。一目(ひとめ)()たなら、気付(きづ)いただろう。
(しろ)(あお)二色(にしょく)()()けられたお(めん)(かお)が、(あお)一色(いっしょく)()わっていたことに。

(あかつき)は、無理(むり)やり上体(じょうたい)(ひね)った。
(あおい)が、ようやく視界(しかい)(はい)る。
そして、一瞬(いっしゅん)で、状況(じょうきょう)理解(りかい)した。

(ふる)える()が、タキシードの(そで)(ぐち)(うご)く。
もちろん、自分(じぶん)は、そこに(なに)があるのかを()っている。

(へき)(ぎょく)(つら)ねたブレスレットだ。
(あおい)の、一番(いちばん)大切(たいせつ)なもの。
()くなったお(とう)さんの形見(かたみ)だ。

「だめ! (あおい)っ!!」
理解(りかい)した瞬間(しゅんかん)に、(あかつき)(さけ)んでいた。

ぐらり
疲労(ひろう)(おも)(しび)れた(からだ)が、急激(きゅうげき)(うご)きについていけず、(かし)いだ。
はっと(あわ)てた。
だめ、コントロールが()かない。

(あかつき)は、(あお)()けで、(たお)れた。
その(さき)に、(ゆか)()い。
()(くら)(ふか)(あな)が、(あかつき)(からだ)()()けていた。

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