ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

35.携諦携諦(ぎゃーてーぎゃーてー)(1)

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35.携諦携諦ぎゃーてーぎゃーてー(1)

(わたし)が、みかげちゃんを()れて()かなくちゃ。
(つよ)(おも)いが、(あかつき)(あたま)()めていた。

()ちる!
絶体絶命(ぜったいぜつめい)瞬間(しゅんかん)
(かんが)える()もなく、(うで)(うご)いていた。

がしっ
どこを(つか)んだか()からない。
無我夢中(むがむちゅう)だった。みかげの(うで)か、(あし)か。
なんだっていい。
絶対(ぜったい)(はな)さない!

そして、()ちた。

(あかつき)っ!」
(あおい)(さけ)んだ。
(すが)りついていた(かがみ)から、自然(しぜん)(からだ)(はな)れていた。(たす)けようと()()る。
だが、()()わない。

(あかつき)とみかげの(からだ)が、視界(しかい)から()えた。
(あおい)()が、絶望(ぜつぼう)見開(みひら)かれたとき。

びんっ
「あーっ……!」
(へん)(おと)同時(どうじ)に、(あかつき)悲鳴(ひめい)()こえてきた。

(ちか)い。
慎重(しんちょう)さをかなぐり()てて、(あおい)(ふち)(かが)みこんだ。
()()()して、下界(げかい)(のぞ)()む。

いた!
すぐ(した)だ。
(あかつき)が、ぶら()がっていた。

なにか片手(かたて)(つか)んでいる。それが、(あかつき)命綱(いのちづな)だった。
(ぬの)? (みじか)反物(たんもの)()える。
(あかつき)()()がっているせいで、それは(よじ)れていた。
(がら)(えが)かれているみたいだが、くちゃくちゃで()からない。

でも、一目(ひとめ)状況(じょうきょう)()かった。

(あおい)! それ、()としてっ」
(あおい)気付(きづ)いて、(あかつき)(うった)える。
見上(みあ)げた()が、「それ」を()(しめ)している。

かぼちゃだ!

(おお)きな()天辺(てっぺん)から、野太(のぶと)(つる)()ている。
それが、ずらずらと奈落(ならく)(がけ)()()がっていた。
ロープみたいな(つる)が、途中(とちゅう)から、その(へん)(ぬの)になっている

そうか、これが重石(おもし)になってるんだ!

(かんが)えている(ひま)はない。
(あおい)は、かぼちゃに()びついた。
だが。

「おっもっ……」
(おも)い。
なんだ、これ?
必死(ひっし)(うご)かそうとしたが、びくともしない。
かぼちゃ一個(いっこ)重量(じゅうりょう)じゃないだろ、これ!

「ううう……」
(あかつき)は、()()いしばった。
うめき(ごえ)が、(こら)えようもなく()()てくる。

(うで)は、()ちる(まえ)から疲労(ひろう)しきっていた。
バッグひとつも()てないくらいなのに、(からだ)(ささ)えるなんて、無理(むり)だ。
(しび)れるのを(とお)()して、(うで)感覚(かんかく)()くなってきた。

でも、ぜったいに(はな)せない……!

(あおい)(こえ)が、(うえ)から()ってきた。
(あら)(いき)()じっている。奮闘中(ふんとうちゅう)模様(もよう)だ。
「みかげは?! ()ちたのか?」
ぶら()がっているのは、(あかつき)だけだ。

(あかつき)は、一言(ひとこと)(かえ)した。
()で、(にぎ)った布地(ぬのじ)(しめ)す。
「これ!」

「それか!」
(あおい)(あたま)()くてよかった。
一発(いっぱつ)理解(りかい)してくれた。

いつから変化(へんか)していたのかは()からない。
(つか)んだみかげの(からだ)が、しゅるしゅると(ちゅう)(およ)いだ。その(とき)(はじ)めて気付(きづ)いた。

もう、人間(にんげん)じゃなかった。
(ひと)(かたち)()った布地(ぬのじ)になっていたのだ。
丁寧(ていねい)に、(かお)洋服(ようふく)(くつ)までが(えが)かれている。

ただし、足首(あしくび)(くく)()けられた(つる)だけは、本物(ほんもの)のまんまだった。
かぼちゃもだ。どっしりと、(がけ)(きわ)(すわ)っている。

それを見届(みとど)けた瞬間(しゅんかん)(あかつき)(からだ)(ちゅう)でバウンドした。
(ぬの)になった「みかげ」もろとも、()()げられたのだ。

(あおい)は、状況(じょうきょう)(すべ)理解(りかい)した。
みかげは、末期(まっき)囚人(めしゅうど)だ。
そもそも、胡蝶(こちょう)だった時点(じてん)から、生身(なまみ)人間(にんげん)ではない。

これまでにも、みかげの身体(からだ)様々(さまざま)変化(へんか)()げていた。
今度(こんど)は、こうなったというわけか。

得心(とくしん)した(あおい)は、(こころ)(うな)った。
だから、(あかつき)()(はな)さないんだ!

なんとか()とすしかない。
両手(りょうて)(かか)えられる(おお)きさだが、この重量(じゅうりょう)をよいしょと()()げるのは、まず不可能(ふかのう)だ。

このまま、()()そう。
(あおい)は、オレンジ(いろ)表皮(ひょうひ)()()けて、ぎょっとした。

(かお)だ。(ひと)(かお)が、()かんでいる。
でこぼこした(かわ)が、()(はな)(がた)()()がっていた。(くち)もある。

(うご)いてる!

「だめ……わたしは、だめよ……だめなんだわ……」

みかげの(こえ)だ。
とうとう、かぼちゃになっちゃったのか。
あっちは、もう、ただの(ぬの)
本体(ほんたい)は、こっちなんだ。

ぶつぶつと、(うら)みがましい(かお)で、(おな)じことを()(かえ)している。
たまらず、(あおい)怒鳴(どな)った。

「いいから、()ろよ、みかげ! (した)だ! 自分(じぶん)だけじゃない。(あかつき)まで道連(みちづ)れにして、()ぬつもりなのかよ!」

()ぬ。
それは、()(そむ)けていた現実(げんじつ)だった。
はっきりと(くち)()されて、かぼちゃの()()らいだ。

だめな自分(じぶん)。ああ、なんて可哀(かわい)そうな(わたし)
自己(じこ)(れん)(びん)は、居心地(いごこち)のいい(ぬま)だった。
どっぷりと(ひた)かっていれば、なにも()なくてすむ。
(ふか)水底(みずぞこ)()げていれば、雑音(ざつおん)()こえない。

()ぬ?
その言葉(ことば)反応(はんのう)して、(しず)()んでいた意識(いしき)徐々(じょじょ)()かび()がってくる。

かぼちゃの()が、うろうろと表皮(ひょうひ)をさ(まよ)った。

(した)だってば! いいか、ここから()ちれば、お(まえ)だって(たす)かるんだ!」
(あおい)(うで)が、()こうに(ひろ)がる奈落(ならく)()す。

(たす)かる?
ぐりん
(かお)のパーツが、果皮(かひ)(うえ)移動(いどう)した。
()()いたってことか。

()だけが、()(した)(ほう)(うご)いた。
(うえ)から(はな)(ぐち)()(じゅん)になる。(くず)れた(ふく)(わら)いの(かお)だ。

ようやく視界(しかい)(はい)ったらしい。
(くら)(あな)だ。(やみ)()しのけるように、(しろ)とピンクを基調(きちょう)としたクラシックチュチュが、ふわりと(ちゅう)(ひろ)がっていた。

(あかつき)だ。()しているドライフラワーみたいに、()()がっている。

(あかつき)だって、ここから()ちれば(かえ)れるんだよ!」

その言葉(ことば)は、みかげの意識(いしき)()きずり()して、ひっぱたいた。

完全(かんぜん)()()めた。
(あかつき)は、(つら)そうに(うめ)きながら、()()がった命綱(いのちづな)につかまっている。

一見(いっけん)(あな)()ちまいと足掻(あが)いている()だ。
でも、その(ぎゃく)なんだわ。
()ちてしまいたい。なのに、(あかつき)片腕(かたうで)(つか)んでいる(ぬの)が、それを(はば)んでいる。
(つな)がる(つる)(さき)にある「かぼちゃ」が、重石(おもし)になっている。

()かる。
全部(ぜんぶ)自分(じぶん)だ。
落下(らっか)(はば)んでいるのは、自分(じぶん)だ!

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