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4.電子案内板(2)
『ご用件をどうぞ』
レスポンスが早い。画面右下のキツネ面が、間髪入れずに応答する。
碧が続けた。
「今日のイベントを教えて」
しばらくの間。
ぱっと、画面にリストが映し出された。
何件か、あった模様だ。
キツネのお面が、口を開いた。
『本日のイベントは、全て終了致しました』
「あれ? 確かに今日って書いてあったんだけどな」
暁が、隣で首を捻った。
画面のリストにも、掲載は無い。
「バレエの予定を案内して」
碧が、質問を変えた。
ぱっとリストが切り替わる。
1件だけだ。
画面に表示するだけでなく、音声も流れた。
『トレーニングルームにて、オーロラバレエ教室のレッスンが開催されています。毎週木曜日、午後5時からです』
「ああ。これと見間違えたんじゃないの? 暁」
碧が、冷めた目を向けてくる。
「ええー。違うよ。ちゃんと児童館って書いてあったもん」
暁は納得できないらしい。
「児童館の中に入れたら、直接聞けるのにな」
言った時には実行しているのが、暁である。
「ようこせんせーい! 開けて~。暁だよ~」
たっと扉に駆け寄ると、大声で呼びかけた。
そして、扉のレバーを下げて、力任せに押す。
ガン!
引いてみる。
ガン!
ああ、これやばいかな。
離れた位置で、碧は冷静に観察した。
扉の上部には、監視カメラと思しき物まで付いている。
このまままだと、誰かが来ちゃいそうだ。
事実は判明するだろうけど、確実に怒られるだろうなあ。
碧は、振り返ると、画面に視線を戻した。
児童館への入室方法、なんて、案内してるわけないよね。
「ん?」
画面が変わっていた。
・・・文字入力画面・・・
〔ご質問を、表示されているキーボードにタッチして入力して下さい〕
薄いブルーの画面下部には、アルファベットが並んでいる。
中央には、四角いウインドウが大きく表示されていた。
AUROR_
途中まで入力されているんだ。
カーソルが、次を待って点滅していた。
よく分からない。
特に操作していないのに、いつの間に変わったんだろう?
ガンガン ガンガン
扉を開けようとする音が、賑やかに聞こえてくる。
碧の指が、深く考えずに画面に触れた。
キーボードの、一番先頭のアルファベットだ。
A
『エイ』
ぱっと、画面右下に、キツネのお面が出て来た。
口だけが動く。
さらに、最初から読み上げた。
キツネのくせに、アナウンサーばりの完璧な発音だ。
『エイ ユー アール オー アール エイ』
そして言った。
『オーロラ』
その直後。
カッ
画面全体が、青白く塗りつぶされた。
眩しい。
まさか壊れた?
碧が息を呑む。
「ちょっと暁! 来て!」
碧が、たまらずに呼んだ。
すぐ来る。
「なに?」
碧が、無言で画面を指さす。
そこに映っていたのは、白猫だった。
「あれ? しろさん?」
暁の言う通りだった。
だが、違う。
青白い背景に浮かんだ「しろさん」は、ぱっちりと両目を開けていた。
そして、きょろきょろと動いている。
思わず同時に、二人とも右向け右した。
白猫の縫いぐるみは、変わらず扉にいた。
だが。
「片目つぶってた……よね……」
暁が、呆然と呟く。
碧も、無言で頷いた。
見間違いではない。
どうしてだ。
本物のしろさんまで、両目を開いている。
そして。画面と同じく、きょろきょろと顔を動かしている!
まるで、生きているみたいに。
二人は、息をのんだ。
しろさんが、こっちを見た。
目が合った。
ぴたり
しろさんが止まった。次の瞬間。
白猫は、鋭く鳴いた。
「ニャー!!」
同時に、縫いぐるみが、飛び上がった。
フックから、体が外れる。
ひらり
宙を舞った白猫のバレリーナは、しゅたっと着地した。
扉の面に、体を突き刺すような恰好で立ったのだ。
それから、横向きのまま、独楽のように勢いよく回転し始めた。
ぐるぐる ぐるぐる……
速い。
どんどん速くなる。
ぐるぐる ぐるぐる……
もはや、白いドリルが壁を穿っているみたいに見える。
暁も碧も、ただ目を見張っていた。
驚愕で声も出ない。
いつのまにか、しろさんの姿は、無くなっていた。
代わりに、そこにあったのは……。
白いドアノブだ。
暁と碧は、無言で、お互いの顔を見た。
同じように「信じられない」と書いてある。
頑丈な扉には、右端に、ナンバーキー付きのレバーノブが付いている。
その左端に、もう一つ。
こっちは、つやつやした陶器の白地に、金色の彩色が施されている。
優雅なデザインの、丸いドアノブだ。
異様な光景だった。
一枚の扉に、二つもドアノブが並んでしまっているのだ。
「……いやいやいや。明らかに怪しいだろう。だめだめ、絶対にだめ。ホイホイ開けちゃいけないやつだって、これ」
碧は、自分に言い聞かすように、小声でブツブツ呟いた。
その声が、いきなり裏返った。
「って、暁?!」
横で、あっさりと暁がドアノブに手をかけていた。白い方にだ。
ノブを回す。
扉を押す。
動いた。開く!
まったく迷いがない。止める間もなかった。
「うわぁ……!」
歓声を上げて、暁は、そのまま中に走りこんでいった。
「ちょっと待って!」
その後を、慌てて碧が追っかけた。
キィィ……パタン
二人が入った扉が、ゆっくりと閉まった。
白いドアノブは、もう消えていた。
その場所で、白猫がウインクしていた。
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