ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

4.グランフェッテ・アン・トゥールナン(1)

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4.グランフェッテ・アン・トゥールナン(1)

(あかつき)(さけ)んだ。
「ううん! それ、(わたし)のじゃない!」
ぶんぶん、(くび)()る。
(かお)輪郭(りんかく)がブレて()えるほどの高速(こうそく)運動(うんどう)だ。

(もも)は、きょとんとした。
「でも、これ、(あかつき)使(つか)ってた更衣室(こういしつ)(たな)(のこ)ってたから」

(あおい)が、(もも)()()った。
(あかつき)(たな)にいたの? こいつ?」

ますます、(もも)(こん)(らん)した。
冷静(れいせい)(あおい)が、()(みだ)している。
(ちい)さな(こえ)が、さらに(ちい)さくなった。
「うん。だから……(あかつき)のかと」

(もど)してきて! (もも)ちゃん!」
「え? でも、(あかつき)のじゃなければ、()とし(もの)だから(とど)けないと」
空手(からて)教室(きょうしつ)女子(じょし)は、自分(じぶん)(たち)二人(ふたり)だけだ。
必然的(ひつぜんてき)に、()とし(もの)である。

そうは()ったものの、(もも)(こわ)くなった。

()わったところは()い。バレリーナの恰好(かっこう)をしている、(しろ)(ねこ)()いぐるみだ。
ウインクしている(かお)に、(ひも)()いていて、ぶら()げるようになっている。
()からない。どうして、こんな反応(はんのう)をされるんだろう。

(いもうと)とは、ひどいものである。
(おも)わず、それを(あに)()()けた。

(よう)! それ(もど)してきて!」
(あおい)矛先(ほこさき)()える。
(おれ)が?! 女子(じょし)更衣室(こういしつ)だろ、無理(むり)!」
鬼門(きもん)だった。
「じゃ、(わたし)(もど)してくる!」
(あかつき)が、ふわふわの(しろ)(からだ)(つか)()げた。

すると。
ぱっちり
片目(かため)をつぶっていた(ねこ)()いぐるみが、両目(りょうめ)(ひら)いてしまった。

「ニャ、ニャニャニャニャ~!」
「うわ~。ちょっと()って、しろさん!」
(あおい)が、絶望(ぜつぼう)()ちた(こえ)()げる。

と、しろさんを()いたまま、(あかつき)(いき)をのんだ。
(あおい)(わたし)(あし)(ひか)ってる……」
ジーンズ()しに()かるほどだった。
(ひざ)から運動(うんどう)(ぐつ)まで、すっぽりと青白(あおじろ)(ひかり)(つつ)んでいる。
オーロラが(おとず)れた、あの(とき)(おな)じだ。

「それダメ! (あかつき)! ()めて!」
「うん()かった! でも、(あおい)、どうやったら()められるの?」
()らないよ! そんなの!」

わあわあ(さわ)三人(さんにん)を、(もも)(ぼう)(ぜん)()ていた。

無理(むり)もない。ただの(ちい)さな()いぐるみを、(あかつき)()っているようにしか()えていないのだ。
(ねこ)()(ごえ)()こえていない。
(あかつき)(あし)(つつ)む、青白(あおじろ)(ひかり)もだ。

ぴょん
しろさんが、(あかつき)()から()()した。
それも、(もも)には()えていない。

ぽすっ
バレリーナのチュチュを()(しろ)(ねこ)は、エレベーターのボタンの(うえ)(ちゃく)()した。
ただし、(よこ)()きにだ。
(からだ)()()すような恰好(かっこう)で、()まっている。
(した)()くことを(しめ)す、逆三角形(ぎゃくさんかっけい)のボタンの(うえ)に。

「ニャニャニャニャニャニャー!!」
(するど)()いた。
それが合図(あいず)だった。
(はじ)めるわよ、とでも()ったのだろうか。

(しろ)(ねこ)のバレリーナは、(よこ)()きのまま、回転(かいてん)(はじ)めた。
重力(じゅうりょく)無視(むし)した(うご)きだ。

くるり
カチャ
くるり
カチャ

片足(かたあし)()()がり、くるりと爪先(つまさき)()ちで(いち)回転(かいてん)してから、(かかと)()けて()りる。
またもやトゥで()()がり、(ふたた)(かい)(てん)する。
真横(まよこ)()きでやっているのを(のぞ)けば、完璧(かんぺき)なフェッテだ。

カチャ。(かかと)着地(ちゃくち)する(たび)に、(おと)がする。
エレベーターの(した)()きボタンが、()()まれているのだ。

くるっ
カチャッ
くるっ
カチャッ

(はや)くなった。
どんどんスピードが()がっていく。

くるっ
カチャッ
くるくるっ
カチャッ
くるくるっ
カチャッ

もはや連打(れんだ)だ。
()回転(かいてん)()じってきた。
「ドゥーブル」という、難易度(なんいど)(たか)(わざ)だ。

「ちょっと、しろさん! ストップ!」
「ニャニャニャッ、ンニャー!」
「ダメだってば!」
「ニャ、ウニャッ、ニャー!」
「すごいなあ、(あおい)(ねこ)()(しゃべ)れるのかあ」
(しゃべ)れるわけないだろ!」
(よう)にツッコむことだけは(わす)れない(あおい)だ。

そうこうしているうちに、高速(こうそく)回転(かいてん)(つづ)ける(しろ)(ねこ)のフォルムが、でろりと()けだした。
まるでバターだ。

カチャカチャカチャカチャ
足元(あしもと)(ぎゃく)三角(さんかく)ボタンが、(ひか)っている。
いつもの緑色(みどりいろ)じゃない。
青白(あおじろ)く。

これって。
(あかつき)は、がばっと(かが)みこんだ。
ジーンズの(すそ)をめくる。
やっぱり。(おな)(いろ)だ。
()(いた)いほど、(はげ)しく(ひか)っている。
(あし)も、じりじり(しび)れるくらいだ。
どうしよう。絶対(ぜったい)、この(ひかり)のせいだ。

()めなきゃ。えっと、えっと……そうだ! (みず)()やしてみたらどうかな?」
「ハンカチ()らして()けばいいんじゃないか」
(よう)が、すかさず具体(ぐたい)(あん)()す。

「わかった! あ、ハンカチ(わす)れた」
「またかよ! ()(もの)出掛(でか)ける(まえ)にちゃんと確認(かくにん)しろよ!」
またも、()っていることがお(かあ)さんみたいな(あおい)だ。

ポーン
(かろ)やかな(おと)に、()どもたちが()(なお)った。

しろさんの姿(すがた)が、()えていた。
ボタンの(ひかり)も、()んでいる。
でも(へん)だ。いつものエレベーターの操作(そうさ)ボタンじゃない。
つるつるした(しろ)(ぎゃく)(さん)(かく)(けい)を、金色(きんいろ)(ゆう)()(せん)(ふち)()っている。
どこかで()たようなデザインだ。

シュー
エレベーターの(とびら)が、(ひら)いた。

間仕切り線

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