ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

5.病室(びょうしつ)(1)

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5.病室びょうしつ(1)

どうして、()()まさないのかしら。

病室(びょうしつ)のベッドで、こんこんと(ねむ)(つづ)ける(むすめ)()るたび、そう(おも)ってしまう。
何度(なんど)も。そう、何度(なんど)も。

点滴(てんてき)が、ぶら()がっている。
栄養(えいよう)補給(ほきゅう)(おも)目的(もくてき)だと()かっていても、母親(ははおや)としては()(がた)い。(むすめ)のこんな姿(すがた)(まえ)にするのは。

どこも(わる)いところは()い。
ただ、(ねむ)っているような状態(じょうたい)だ。

この病院(びょういん)医師(いし)も、医者(いしゃ)である自分(じぶん)(おっと)も、(くち)(そろ)えてそう()った。

あらためて、むくむくと苛立(いらだ)ちが()いてくる。
実際(じっさい)(おっと)には()って()かった。
だったら、なんで()きないのよ、と。

みかげが帰宅(きたく)しなかった、あの()
夕方(ゆうがた)に「(へん)ね」と(おも)い、夕食(ゆうしょく)()に「どうしたのかしら」と(くび)(かし)げていたが、(よる)九時(くじ)(ごろ)になると、はっきりと(あせ)りを(いだ)いた。

おかしい。
西(にし)センターの図書館(としょかん)出掛(でか)けただけの(はず)だ。
あそこは、(よる)八時(はちじ)までなのに。
いくらなんでも、(おそ)すぎる。

友達(ともだち)(あそ)んでいるのかしら?
自分(じぶん)(かんが)えて、即座(そくざ)否定(ひてい)した。
近所(きんじょ)友達(ともだち)なんていない。学校(がっこう)友達(ともだち)は、みんな、この地域外(ちいきがい)だ。
しかも、不登校(ふとうこう)になった以降(いこう)は、()()いが途絶(とだ)えている様子(ようす)だった。

連絡(れんらく)なら、何度(なんど)(こころ)みていた。ここに(いた)っても、(なし)(つぶて)だ。

(かんが)えているだけでは、どうしようもない。
たまりかねて、(よる)(なか)西(にし)センターに出向(でむ)いてみた。

館内(かんない)は、()(くら)だった。やっぱり、とうに()まっている。
建物(たてもの)(まわ)りをうろうろすると、裏口(うらぐち)(おぼ)しきドアがあった。
インターフォンが()いている。

()して、きちんと名乗(なの)り、事情(じじょう)説明(せつめい)すると、警備員(けいびいん)一人(ひとり)()てきた。
(たず)ねると、やはりもう閉館(へいかん)しているので、(だれ)もいないと()う。

「この()なんですけど、()ませんでしたか?」
「いやぁ、(とく)見覚(みおぼ)えはないです。()どもさんは、沢山(たくさん)()るからねえ。よっぽど(なに)かやらかした()なら、(おぼ)えちゃうけど」
みかげの姿(すがた)()せてみたが、そんな返事(へんじ)だ。

警備員(けいびいん)は、(ひと)()さそうな(かお)(しか)めた。
「ご心配(しんぱい)ですねえ。ご連絡(れんらく)(さき)をお(うかが)いしておいても()(つか)えないですか? (なに)かあったら、お電話(でんわ)(いた)します」
(ほとけ)のような外観(がいかん)(たが)わない、(ほとけ)のような対応(たいおう)だ。その(とき)は、感謝(かんしゃ)(ねん)(いだ)いた。

だが、(いま)となっては、腹立(はらだ)ちまぎれにこう(おも)ってしまう。
あのとき、ちゃんと調(しら)べてくれたら、よかったのに。

結局(けっきょく)、その(とき)も、そして開館(かいかん)している(あいだ)も、みかげはずうっと西(にし)センターの(なか)にいたのだから。

(いえ)(もど)ると、会合(かいごう)から帰宅(きたく)していた(おっと)がいた。
どうしたんだ? という()いかけに、不在(ふざい)()められた()がして、一気(いっき)事情(じじょう)をまくしたてた。

(なに)かあってからでは(おそ)い。
そう判断(はんだん)した(おっと)警察(けいさつ)(とど)()たことで、西(にし)センター(ない)(くま)なく調(しら)べられることになった。

そして、休日(きゅうじつ)診療所(しんりょうじょ)待合室(まちあいしつ)(たお)れているみかげが発見(はっけん)されたのだ。

どうして、そんなところで?
どうやって(はい)ったの?
そして、(なに)があったの?

疑問(ぎもん)だらけだ。
ただ、侵入(しんにゅう)した方法(ほうほう)だけは判明(はんめい)した。
みかげのトートバッグの(なか)に、コピーされた合鍵(あいかぎ)があったのだ。

愕然(がくぜん)とした表情(ひょうじょう)で、(おっと)警察(けいさつ)報告(ほうこく)()いていたのを(おも)()す。

その()医師会(いしかい)問題(もんだい)になったらしいが、理事(りじ)椅子(いす)(とお)のいたと愚痴(ぐち)られても、それどころではなかった。

みかげがこのまま意識(いしき)()(もど)さなかったら。どうするの?
どうなるの?

大丈夫(だいじょうぶ)だよ。
何度(なんど)()(かえ)された。

(おな)じような症例(しょうれい)はないか、大学(だいがく)にも問合(といあわ)せている。
学会(がっかい)懇意(こんい)にしている先生(せんせい)に、この方面(ほうめん)(くわ)しい(かた)(しょう)(かい)してもらうよ。
とにかく、自分(じぶん)でも調(しら)べてみるし、主治医(しゅじい)()いている。
(いのち)にかかわることは、絶対(ぜったい)()いんだよ。

コネ総動員(そうどういん)だ。おそらく、一番(いちばん)(めぐ)まれている、原因(げんいん)不明(ふめい)患者(かんじゃ)だろう。

なのに、不安(ふあん)(つの)るばかりだ。
あれから、もう一週間(いちしゅうかん)()つ。
(なに)進展(しんてん)はない。みかげは、一度(いちど)()()ますことはなかった。

(おっと)は、内心(ないしん)では(あせ)っているのかもしれない。
だが、それが医者(いしゃ)というものなのか。プライドもあるのか。(つま)にそうと気取(けど)られるような様子(ようす)は、(いっ)(さい)なかった。

自分(じぶん)といえば、(ねむ)ったままの(むすめ)を、毎日(まいにち)(なが)めていただけだ。

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