ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

5.病室(びょうしつ)(2)

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5.病室びょうしつ(2)

ぶんっ
バッグの(なか)から、着信(ちゃくしん)()らせる振動(しんどう)がした。

(すわ)った(ひざ)(うえ)()せていたから、すぐに()づいた。
ここは個室(こしつ)だ。(ほか)患者(かんじゃ)気兼(きが)ねする必要(ひつよう)はない。()()して、応答(おうとう)する。

「はい?」
「ああ、加羅(から)さんでいらっしゃいますか。西(にし)センターの警備室(けいびしつ)です」

それを()いて、ちょっと(まゆ)(くも)らせた。
いまさら、(なん)(よう)なのか。

それでも、反射的(はんしゃてき)にこう()べる。
「はい、加羅(から)でございます。そのせつは、大変(たいへん)世話(せわ)になりました」

(おそ)らく、あの(とき)警備員(けいびいん)だろう。
(こえ)()(おぼ)えがあった。

(じつ)は、(むすめ)さんの()とし(もの)なんじゃないかって。この(まえ)休日(きゅうじつ)診療所(しんりょうじょ)から(とど)けられましてね。こちらで(あず)かっておりまして。ご連絡(れんらく)(おそ)くなって(もう)(わけ)ありません」

()とし(もの)
(まった)心当(こころあ)たりがない。

「なんでしょうか?」
いぶかしげな(こえ)()す。

「なんというか……、その、(たか)そうなお(めん)なんですよ。外国(がいこく)(もの)っぽい。(しろ)(あお)(かお)をした」

はあ?
なに、それ?
(おも)っても、ストレートに(くち)()したりはしない。よりマイルドな否定(ひてい)を、上品(じょうひん)()べる。

「はあ……、そうですか。それはわざわざ、どうも有難(ありがと)(ぞん)じます。ですが、うちにはそういった(もの)はありませんので、(ちが)うかと」

「えっ、そうですか? 休日(きゅうじつ)診療所(しんりょうじょ)待合室(まちあいしつ)に、(ころ)がっていたそうなんですよ。担当医(たんとうい)先生(せんせい)が、加羅(から)先生(せんせい)のとこのお(じょう)さんのだろうって」

もちろん、そこでぶっ(たお)れていたことを()っているわけだ。
(おも)った以上(いじょう)に、(うわさ)(のぼ)っている。
ここでも(おも)()らされて、げんなりした。

(むすめ)さんに()てもらいますか? センターがやってるときに、カウンターに()ってもらえれば」

この警備員(けいびいん)は、(ひと)(はなし)をちゃんと()いていない。
母親(ははおや)が、明確(めいかく)否定(ひてい)しているというのに。
(とど)けてきた医者(いしゃ)の、「これは加羅(から)先生(せんせい)のお(じょう)さんの(もの)だ」という推測(すいそく)(ほう)を、すっぽり(しん)()んでしまっている。

かーっと、(あつ)くなった言葉(ことば)が、奔流(ほんりゅう)となって(くち)から()()そうになった。

(むすめ)さん」は、(いま)気軽(きがる)西(にし)センターに()ったりできないのよ!
あれから()たっきりなの!
簡単(かんたん)()わないで!

だが、一呼吸(ひとこきゅう)()いて、(おさ)えた。
ここで感情(かんじょう)をぶちまけるべきではない。
マイナスになることが、(おお)すぎる。

「でも、(むすめ)もしばらくそちらに()用事(ようじ)はありませんし」
せめて、この言葉(ことば)節々(ふしぶし)()めた嫌味(いやみ)()んでほしい。
ありがた迷惑(めいわく)でございます。

だが、(おも)()むタイプの人間(にんげん)に、(つう)じるわけはなかった。
(つう)じないどころか、いきなり、(はず)んだ(こえ)(なが)れてきた。

「ああ! ()かった、こりゃピエロなんだな。ピエロのお(めん)だ」
(だれ)もそんなこと()いていない。

(めん)(ため)(なが)めつしていたのだろう。
こっちの()っている言葉(ことば)は、(みぎ)(みみ)から(ひだり)(みみ)()けているのだ。

しかたがない。ここは、(おな)じことを()(かえ)すしかなさそうだ。

「そうですか。やはり、(むすめ)(もの)ではありませんので」
「え?! じゃあ、どうしますか?」

そんな意外(いがい)そうに()われても。
(おも)わず失笑(しっしょう)した。それは、そっちで()めることだ。
もう、相手(あいて)にしている必要(ひつよう)はない。

「わざわざ、ご連絡(れんらく)ありがとうございました。ごめん(くだ)さいませ」
丁重(ていちょう)に、だが一方的(いっぽうてき)に、通話(つうわ)()わらせた。
とんだ時間(じかん)無駄(むだ)だ。

まあ、やることも、そんなにないのだけれど。

そろそろ(かえ)って、夕飯(ゆうはん)支度(したく)をしよう。
最近(さいきん)は、(おっと)()っすぐ(かえ)ってくる。
(むすめ)がいなくても、つい普段(ふだん)(どお)りのボリュームで料理(りょうり)してしまうから、ちょうどいい。

「また()るわね、みかげ」
(ねむ)(むすめ)(こえ)をかけて、椅子(いす)から()()がった。

返事(へんじ)はない。それでも、毎回(まいかい)(はな)しかけずにはいられないのだ。

みかげ、お(かあ)さんよ。
また()るわね、みかげ。

(はや)く、()()まして。

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