オニマイ

7.暴露扇(ばくろせん)

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7.暴露扇ばくろせん

「暴露(ばくろ)扇(せん)ね」
「ばくろせん?」
放課後の教室。返してもらった扇を手に、真維は首を傾げた。

「人間に成りすましている鬼の正体を暴くために、人間が作った扇よ。それで煽(あお)がれたらイチコロ。でも重いから、」
そこで、青木さんは苦笑を浮かべた。
「力自慢の武者でなければ、とても扱えたものではないと伝えられているんだけど」

今度は真維が苦笑した。
私、あっさり煽(あお)いじゃったもんね。

「すみませぬ」
「すみませぬ」
「もうしわけない」
「おゆるしくだされ」
ぺこぺこ
さっきから、小鬼の団体に謝られている。

扇を真維に返却してきた後、ずうっとこの調子だ。
並んだ青鬼の頭が、海のように波打っている。

「あの、ちゃんと返してもらったし、もう謝らなくっていいのよ」
このままだと、永遠に反復運動を続けそうだ。

おおお……
小鬼たちは、そろって瞳を潤ませた。
「さすが姫様じゃ」
「寛容でいらっしゃる」
「我らの姫様じゃもの」

「え~と、その『姫様』ってなに?」
小鬼たちは聞いちゃいなかった。
うんうん。互いに頷き合って、大いに盛り上がっている。

「小鬼たちに構ってたら話が進まないわ。順番に話しましょ」
青木さんは肩を竦めた。利かん坊の幼稚園児でも見ている目つきだ。

「人間は暴露(ばくろ)扇(せん)を作り出した。それに対抗して、鬼は秘技を編み出したの」
正体がバレた時に使える、緊急対応策だ。

「それがさっきの?」
真維は、セーラー服をよじ昇ってきた小鬼を抱き上げながら尋ねた。
それを見て、他の小鬼たちも瞳を輝かせてワラワラ纏(まと)わりついて来る。

「そう。忘却(ぼうきゃく)の舞よ」
当たり前のように肯定された。
でも、そもそもの前提がすっ飛んでいる。

「鬼って……人間に化けて紛れてるの?」

「もちろん、そうよ」
もちろん、って……。
「え~と、いつ頃から?」
「平安時代くらいから」
歴史が古すぎる。

「姫様、抱っこ~」
「順番じゃ、順番じゃ」
「次~、早くぅ」
小鬼も多すぎる。

縫いぐるみサイズとはいえ、いつの間にか両脚に縋られ、両肩に乗っかられて、頭にまで登られている。小鬼まみれだ。

ムキムキだけど可愛い。
それに、ここまで懐かれると、情も湧いてきてしまう。

「あら、もう部活の時間だわ。大仏(おさらぎ)さん、よかったらダンス部を見学しない? 終わってから、話の続きもできるし」
青木さんが椅子から立ち上がった。

「あ、じゃあ、話は明日でいいわよ。見学だなんて、お邪魔でしょうし」
「ううん。できるだけクラスメイトを連れて来てねって、コーチに頼まれているのよ。お願い。私、頼めるような子がいなくって」

思わず、真維は眉を曇らせた。

鬼だっていう秘密があるから、どうしても人と距離を置いちゃうのかな。
鬼として生きるのも、大変なことなのかもしれない──。

きゅ~ん
クールビューティなのに、まるで子犬みたいに縋る目で見つめてくる。

う……断れない。
「わかった、見学させてもらうわ。小鬼さんたち、ごめんね。今日はこれでお終い」

ええ~!!!
不満の大合唱が響き渡った。

が、次の瞬間。
ぽん! ぽん! ぽん!
音を立てて、小鬼たちが消えた。
聞き分けは良いみたいだ。

とりあえず、荷物は全部持って行くことにした。終わった後、教室まで戻って来るのは面倒くさい。

「あっ、そうだわ。いけない」
真維は、暴露扇(ばくろせん)を慌てて補助バッグの奥底に隠し込んだ。また人目に触れたら大変だ。

「でも、どうしてこんな物が私のカバンに入っていたのかしら?」
謎のままだ。
「お家に伝わる物ではないの?」
きょとん、と青木さんが聞き返した。彼女にも分からないらしい。

「違うわ。でも……」
連れ立って体育館に向かいながら、真維は考え込んだ。

思い当たるとしたら、今朝の出がけに見た赤い小鬼だ。あれが確実に怪しい。
でも犯人だとしたら、意図はなんなのか……。

「失礼します! 一年、青木、入ります!」
体育館の入り口で、青木さんがお辞儀した。
つられて真維も深々と頭を下げる。
体育会系の部活なのだ。礼儀正しくせねば。

だが、頭を上げた瞬間。真維は、あっさりと礼儀をかなぐり捨てていた。
「ニーナママ?!!」

ユニフォーム姿の部員たちが、あまりの大声に驚いて振り返る。

中央に立っている女性は、一人だけ違うジャージを着ていた。コーチに違いない。
女性らしいメリハリのきいたプロポーション。
陽気な性格が滲む、はっきりした目鼻立ち。

見間違えるわけない。

鬼に攫(さら)われた筈の継母は、にっこりと微笑んだ。
そして、何も言わずに真維の持つバッグを指さした。

「え、なに?」
反射的に目をやって、真維は仰天した。
「小鬼さんっ?! 付いてきちゃったの?」
補助バッグに、ムキムキの小鬼が一匹ぶら下がっている。

まって、色が違う。これは赤い小鬼だ!?

そう認めた時には、もう遅かった。
赤い小鬼は、勝手にバッグから暴露(ばくろ)扇(せん)を取り出していた。
「きききっ」
厳ついご面相が、悪戯小僧みたいな笑みで緩んでいる。

そこから先は、目にも止まらぬスピードだった。赤い小鬼は、真維に暴露扇(ばくろせん)を握らせて、無理やり煽がせたのだ。

ぶわりっ!!!

「きゃあ!」
突風に悲鳴が上がる。
体育の時間と同じ光景だ。

「あああ……やっちゃった」
真維は、がっくりと肩を落とした。
不意打ちすぎて、抗う暇もない。

居並ぶダンス部員は、暴風が収まると、ようやく顔を上げた。

ユニフォームを着た赤鬼が三人、青鬼が二人。
そして。
コーチの赤鬼が、一人──

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