ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

7.幕の筒(まくのつつ)(1)

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7.まくつつ(1)

とにかく()っかけよう。
花束(はなたば)(うたげ)()()くアクセスは?

そう(たず)ねる(まえ)に、ド・ジョーが()った。
「とにかく()っかけろ。大階段(だいかいだん)までは、いつも(おな)経路(けいろ)()ける。そこからは、案内板(あんないばん)()きゃあいい。目当(めあ)ての演目(えんもく)()ることのできるボックス(せき)(すわ)るんだ」

金色(きんいろ)のドジョウは、水柱(みずばしら)(うえ)で、くるりと(みぎ)()いた。
上手(かみて)(がわ)(まく)が、アクセスだ。いったん更衣室(こういしつ)()る。まあ、三人(さんにん)とも、そこでその()(ねずみ)(かわ)()()えていけよ」

(あか)(まく)が、何枚(なんまい)舞台(ぶたい)(そで)()がっている。
きっと高価(こうか)なんだろう。布地(ぬのじ)が、()るからに(おも)たげだ。
ド・ジョーが()(しめ)しているのは、一番奥(いちばんおく)(まく)だった。

すたすたと、(よう)(ちか)づく。
こんな(とき)、いの一番(いちばん)先陣(せんじん)()(あかつき)不在(ふざい)だ。
(あかつき)のスタートダッシュに(くら)べたら、(よう)のスピードは(おだ)やかな部類(ぶるい)(はい)る。
(あおい)(もも)も、それほど(おく)れずに()いて()った。

でも、(まく)がアクセスって?

「どうするの、ド・ジョー?」
(あおい)()(かえ)った。(れつ)になった三人(さんにん)の、()(なか)から(たず)ねる。

「ああ。どんどん(すす)みゃあいい、(まく)()かってな」
よく()からない返答(へんとう)だ。

先頭(せんとう)(よう)は、(くび)(かし)げた。
まあ、いい。とりあえず、(まく)布地(ぬのじ)体当(たいあ)たりするように、()(すす)めた。

すると。()たらない。
「あれ?」
また(すす)む。
わかった。(まく)が、自分(じぶん)()けたのだ。

(よう)一歩(いっぽ)づつ(すす)(たび)に、布地(ぬのじ)(いや)がるように後退(こうたい)した。

不自然(ふしぜん)(うご)きだ。
(よう)背中(せなか)にくっ()いて、(あおい)不安(ふあん)げに(あた)りを見回(みまわ)した。その(うし)ろで、(もも)(いき)()んでいる。

(いま)や、()()がった(おお)きなカーテンは、(かぜ)()けたときみたいに、ぶわりと(ふく)らんでいた。

(うご)く。(さわ)ってもいないのに。
そして、(つつ)みたいに(まる)まった。
ゆっくりと、自分(じぶん)(たち)()(かこ)んでいく……!

()って! ド・ジョーは? ()ないの?」
(あわ)てて、(あおい)(こえ)()げる。
かろうじて(のこ)っている隙間(すきま)から、金色(きんいろ)姿(すがた)()えた。

心配(しんぱい)するな。(おれ)はこの地宮(ちきゅう)住人(じゅうにん)だぜ。()こうで()ってるからな」
超低音(ちょうていおん)(こえ)()こえてきたのは、すっぽりと(まく)(つつ)まれてしまった(あと)だった。

「これで()ってるのかなあ?」
とにかく、(ある)いた。(あおい)(もも)も、(だま)って(うし)ろを()いてくる。

(よう)のメンタルは、お天気(てんき)指数(しすう)(たか)い。
たいてい快晴(かいせい)か、もしくは()れだ。
だが、その(よう)でも、だんだんと不安(ふあん)(かお)(くも)ってきた。

(たし)かに(すす)んでいる(はず)なのに。()けども()けども、()(まえ)光景(こうけい)()わらない。
(あか)布地(ぬのじ)が、ふらふら()れている。
闘牛場(とうぎゅうじょう)(うし)にでもなった気分(きぶん)だ。

「あらん、(よう)ったら。大丈夫(だいじょうぶ)よお。アタシについてらっしゃい」
ぽーんと、(かる)太鼓判(たいこばん)()された。

この(こえ)は。
ピンク(いろ)のネズミで、かつオネエな(やつ)にしか、該当(がいとう)しない。

(よう)(あおい)(もも)は、(こえ)()こえた(ほう)に、順繰(じゅんぐ)りに(くび)()けた。
やっぱり。(まく)分厚(ぶあつ)布地(ぬのじ)に、(ちい)さな(からだ)()()いている。

「マダム・チュウ+(プラス)999(スリーナイン)、いつからいたの?」
()いかける(あおい)に、地宮(ちきゅう)住人(じゅうにん)(だい)(ごう)()眼差(まなざ)しを寄越(よこ)した。
相変(あいか)わらず、魔女(まじょ)(ほうき)をくっ()けたようなバサバサまつ()だ。バチンとウインクする。

「うふん、(いま)()たのよ。お(こま)りでしょ?」
ちょろちょろと、(まく)布地(ぬのじ)()りて()る。

「うん。ありがとう、マダム・チュウ+999」
(よう)が、代表(だいひょう)してお(れい)()べた。
(あかつき)心配(しんぱい)なので、地顔(じがお)笑顔(えがお)レベルが(すこ)()がっている。

それでも、ネズミのやる()()()けるには十分(じゅうぶん)だった。
もはや、(わざ)だ。命名(めいめい)「ジェントルマンスマイル」なんてどうだろう。

「きゃ~んっ、いいのよ、(よう)
()()がっている布地(ぬのじ)(うえ)で、ピンク(いろ)のネズミは、ごろんごろん()もだえる。
胸元(むなもと)()()かれた(しろ)いハート(がた)が、高速(こうそく)でちらちら()(かく)れした。

どうやっているんだろう?
垂直(すいちょく)布地(ぬのじ)(うえ)だぞ。忍者(にんじゃ)なのか?

(あおい)(くち)()(まえ)に、マダム・チュウ+999は、(つぎ)のアクションに(うつ)っていた。

カーテンの(つつ)を、一気(いっき)()(あし)()(のぼ)る。
まるっきりネズミだ。
いや、ネズミで()ってた。

「さあ、こっちよ、こっち。(はや)()きましょ。(たの)しみだわあ」

(たの)しみって?
(あおい)脳内(のうない)センサーに、なんとなく最後(さいご)言葉(ことば)()っかかった。
不穏(ふおん)なものが(せま)っているのを(かん)じる。本能的(ほんのうてき)危険(きけん)察知(さっち)能力(のうりょく)だ。

だが、(かん)(ぱつ)()れずに、頭上(ずじょう)から号令(ごうれい)()んだ。
「ほら、(いそ)ぐわよ。全員(ぜんいん)()(あし)~!」
(かんが)える(ひま)もない。

ほとんど電車(でんしゃ)ごっこになった。

(まく)は、どんなに(すす)んでも、(からだ)()れなかった。
(つね)に、ぐるりと三人(さんにん)()(かこ)んでいる。
ちょうど、ぎりぎりの(おお)きさの(つつ)を、すっぽり()めた(かたち)だ。

自然(しぜん)と、(よう)(こし)(あおい)()(まわ)した。
(あおい)(かた)には、(もも)両手(りょうて)()く。
その状態(じょうたい)で、全力(ぜんりょく)ダッシュだ。

「お(にい)ちゃん、ちょっと、()ってってば。(はや)すぎるよ」
最後(さいこう)()で、(もも)文句(もんく)()う。
「そうかあ、ごめん」

すると、マダム・チュウ+999が、(うえ)から手招(てまね)きした。
「そっちじゃないわよ、(よう)。こっち、こっち」
「そうかあ、ごめん」

がくんと、(よう)方向(ほうこう)転換(てんかん)した。(ひだり)()がる。
速度(そくど)()としてくれていたが、体格(たいかく)がいいぶん、パワーが桁違(けたちが)いだ。

「うわ! ちょっと()って!」
()きずられて、(あおい)悲鳴(ひめい)()げる。

だが、三人(さんにん)(いき)はぴったり()っていた。
電車(でんしゃ)ごっこのレースがあったら、きっといい成績(せいせき)(のこ)せるだろう。
さすが、(あに)(いもうと)&はとこである。

(みず)()れた(ふく)(おも)たい。そして気持(きも)(わる)い。
だが、(だれ)一人(ひとり)不平(ふへい)不満(ふまん)(くち)にしなかった。
まあ、そもそも、この状況(じょうきょう)では(くち)(ひら)余裕(よゆう)がない。

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