オニマイ(総フリガナ版)

8.万変扇(ばんぺんせん)(総フリガナ版)

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8.万変扇ばんぺんせん

ダンス部(ぶ)の部員(ぶいん)は、40人(にん)ほど。
だいたい一(ひと)クラスと同(おな)じ人数(にんずう)だ。
それなのに、赤(あか)青(あお)あわせて鬼(おに)が5人(にん)もいるとは。
一年(いちねん)一組(いちくみ)では、青木(あおき)さん一人(ひとり)だったから、明(あき)らかに鬼率(おにりつ)が高(たか)い。

そして、なによりもコーチである二奈(にな)。
「……ニーナママって、赤(あか)鬼(おに)さんだったの」
真維(まい)は呆(ぼう)然(ぜん)と呟(つぶや)いた。

見慣(みな)れた顔(かお)が、赤(あか)く変(か)わっている。
いつもより目鼻(めはな)立(だ)ちがクッキリして見(み)えた。
美人度(びじんど)が上(あ)がっている。
赤(あか)い顔(かお)を彩(いろど)る、金色(きんいろ)の隈取(くまどり)──天然(てんねん)のメイクアップのせいだ。

部員(ぶいん)5名(めい)とコーチ1名(めい)の鬼(おに)軍団(ぐんだん)。
他(ほか)の部員(ぶいん)たちは、じりじりと遠巻(とおま)きにして寄(よ)り集(あつ)まった。
悲鳴(ひめい)を上(あ)げるのも、時間(じかん)の問題(もんだい)──

さっ
二奈(にな)は、素早(すばや)く頭(あたま)に手(て)をやった。
明(あか)るい茶色(ちゃいろ)の髪(かみ)が、輝(かがや)く金髪(きんぱつ)に変(か)わっていた。
ショートヘアを掻(か)き分(わ)けて、二本(にほん)の短(みじか)い角(つの)が生(は)えている。触(さわ)ったのは右側(みぎがわ)の角(つの)だ。

「召喚(しょうかん)!」
二奈(にな)が、高(たか)らかに言(い)い放(はな)った。
挑(いど)むような、悪戯(いたずら)っぽい顔付(かおつ)きだ。
「さあ、始(はじ)めるわよ!」

ざあっ
その言葉(ことば)で、照明(しょうめい)が落(お)ちた。
体育(たいいく)の時(とき)と同(おな)じだ。
ぽ・ぽ・ぽ・ぽ・ぽっ
暗闇(くらやみ)に和蝋燭(わろうそく)が並(なら)ぶ。

「いよおぉ~!」
ぽん!
掛(か)け声(ごえ)と太鼓(たいこ)の音(おと)。一瞬(いっしゅん)で、小鬼(こおに)の団体(だんたい)が姿(すがた)を現(あらわ)した。

ただし、今回(こんかい)は赤(あか)鬼(おに)の楽団(がくだん)だった。
お揃(そろ)いの小さな作務衣(さむえ)は、黒(くろ)。
小(ちい)さな角(つの)も、みんな二本(にほん)。
にこにこと勢揃(せいぞろ)いしている。

そして、すぐに陽気(ようき)な音色(ねいろ)を奏(かな)で始(はじ)めた。


 よ~お! オニ オニ!
 い~け! オニ オニ!
 オニの ニの字(じ)は 二本(にほん)のニ
 角(つの)を振(ふ)りたくれ
 赤い誉ほまれを誇ほこれ
 そ~れ! オニ オニ!

「さっきとは違(ちが)う曲(きょく)だわ……」
真維(まい)は呟(つぶや)いた。
同(おな)じ和楽器(わがっき)だが、青(あお)鬼(おに)と赤(あか)鬼(おに)ではレパートリーが違(ちが)うのだろうか。
曲調(きょくちょう)も歌(うた)も、ずいぶんと荒(あら)っぽい。

踊(おど)りもダイナミックだった。
青木(あおき)さんの舞(まい)は優雅(ゆうが)だったが、こちらはぴったり揃(そろ)った力強(ちからづよ)い群舞(ぐんぶ)だ。

さすがはダンス部(ぶ)。赤(あか)鬼(おに)3名(めい)も青(あお)鬼(おに)2名(めい)も、みな劣(おと)らず舞(まい)上手(じょうず)である。

だが。センターで踊(おど)る二奈(にな)は、別格(べっかく)だった。
同(おな)じ振(ふ)りなのに、動(うご)きが綺麗(きれい)だ。鮮(あざ)やかな印象(いんしょう)を残(のこ)す。
余裕(よゆう)が滲(にじ)み出(で)ていた。曲(きょく)に合(あ)わせて、コロコロと表情(ひょうじょう)が変(か)わる。

目(め)が離(はな)せない──
ぽうっと酔(よ)いしれる観客(かんきゃく)たちに、真維(まい)は思(おも)わずガッツポーズをしていた。
うん! ニーナママが一番(いちばん)!

暗闇(くらやみ)に浮(う)かぶ和蝋燭(わろうそく)は、ぽんぽん増(ふ)えていった。ずいぶんと増加(ぞうか)ペースが速(はや)い。
白(しろ)い蝋燭(ろうそく)に赤(あか)い蝋燭(ろうそく)が混(ま)じっている。
おめでたい紅白(こうはく)の配色(はいしょく)だ。

 よ~お! オニ オニ!
 い~け! オニ オニ!
 オニの ニの字(じ)は 日本(にほん)のニ
 同胞(はらから) 手(て)を結(むす)べ
 二(ふた)つの色(いろ)を合(あ)わせ
 そ~れ! オニ オニ!

二色(にしょく)の蝋燭(ろうそく)は、音楽(おんがく)に合(あ)わせて配置(はいち)を変(か)えた。
紅白(こうはく)の模様(もよう)が浮(う)き出(で)る。日本(にほん)の国旗(こっき)だ。
また変(か)わった。今度(こんど)は白地(しろじ)に赤(あか)い渦巻(うずまき)が走(はし)る。

動(うご)く背景(はいけい)が、群舞(ぐんぶ)を引(ひ)き立(た)てた。
派手(はで)な演(えん)出(しゅつ)に、小鬼(こおに)の演奏(えんそう)もノリノリだ。

見(み)ている者(もの)が完全(かんぜん)に魅入(みい)られた、その時(とき)。
さっ
二奈(にな)は、頭(あたま)に手(て)をやった。左(ひだり)の角(つの)を掴(つか)む。
凛(りん)とした声(こえ)が、演奏(えんそう)より大(おお)きく響(ひび)いた。

「忘却(ぼうきゃく)!」

ざんっ!

またもや一瞬(いっしゅん)だった。
何(なに)が起(お)こるか分(わ)かっていた真維(まい)にすら、目(め)で捉(とら)えることはできなかった。

赤(あか)い小鬼(こおに)の楽団(がくだん)。宙(ちゅう)に浮(う)かぶ紅白(こうはく)の和蝋燭(わろうそく)。
全(すべ)てが、暗闇(くらやみ)と共(とも)に跡形(あとかた)もなく消(き)え失(う)せていた。
もちろん、鬼(おに)と化(か)していた者(もの)など、どこにもいない。

ダンス部(ぶ)のメンバーが、体育館(たいいくかん)のフロアに突(つ)っ立(た)っているばかりだ。
揃(そろ)って呆(ほう)けた面(つら)を並(なら)べている。何(なに)も覚(おぼ)えていないのは明(あき)らかだ。

踊(おど)っていた鬼(おに)部員(ぶいん)の5人(にん)が、小走(こばし)りで部員(ぶいん)たちの群(む)れに戻(もど)っていく。

それを見届(みとど)けてから、二奈(にな)が声(こえ)を張(は)り上(あ)げた。
「はーい! 準備(じゅんび)の出来(でき)てる人(ひと)はウォーミングアップを始(はじ)めて!」

はっ
その一声(ひとこえ)で、呪縛(じゅばく)が解(と)けた。
「……あ、あら? 何(なに)してたんだっけ」
「おかしいわね、ぼうっとしてたみたい」
「まだやってなかったっけ?」

なんだか変(へん)だ。
きょろきょろしていた部員(ぶいん)たちは、ひとしきり騒(ざわ)めいた。
だが、コーチの指令(しれい)は絶対(ぜったい)だ。順々(じゅんじゅん)に、大人(おとな)しく体(からだ)を動(うご)かし始(はじ)める。

二奈(にな)は、ぐるりと見渡(みわた)して、内心(ないしん)ほっと息(いき)をついた。
これで判明(はんめい)した。赤(あか)鬼(おに)は、あの娘(こ)と、あの娘(むすめ)と、あの娘(むすめ)……。

それから、ゆっくりと視線(しせん)を動(うご)かした。
体育館(たいいくかん)の入(い)り口(ぐち)間際(まぎわ)に、セーラー服(ふく)を着(き)た真維(まい)が立(た)っている。

えっ?
二奈(にな)は、意表(いひょう)を突(つ)かれて、思(おも)わず目(め)を瞠(みは)った。
覚悟(かくご)していた表情(ひょうじょう)ではなかったからだ。
その真(ま)逆(ぎゃく)だった。
零(こぼ)れんばかりの笑(え)み──

「ニーナママ、やっぱり生(い)きてたのね。よかったあ……!」
真維(まい)は、嬉(うれ)しそうに叫(さけ)んで、真(ま)っすぐに飛(と)びついてきた。

鬼(おに)と化(か)した姿(すがた)を見(み)た筈(はず)なのに。
私(わたし)のことイヤじゃないの?
私(わたし)が怖(こわ)くないの?

ううん、分(わ)かってた。
この娘(こ)は、そんなこと思(おも)わないって。

「……ごめんなさいね、真維(まい)ちゃん」
あの夜(よる)に伝(つた)えたのと同(おな)じ台詞(せりふ)。
でも、今度(こんど)は違(ちが)った。溢(あふ)れる気持(きも)ちが温(あたた)かく声(こえ)から染(し)み出(だ)してくる。
真維(まい)を抱(だ)きしめながら、二奈(にな)はようやく微笑(ほほえ)んだ。

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