ダンジョンズA〔1〕ガルニエ宮(裏メニュー)

12.案内板(1)裏メニュー

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12.案内板(1)

今日は捜索(そうさく)ばっかりだ。
トウシューズの次は、「(あん)(ない)(ばん)」ときた。
だが、見つけないと、この「オーロラの()(きゅう)」から帰る道順が分からない。

(あおい)は、溜息をついた。
とにかく、探すしかないか。
だけど……。
「暁、さっきトウシューズを捜したとき、案内板らしい物なんて、あったか?」

このステージに、左右の舞台袖。
すべて、隈なく見て回っている。
でも……それらしき物なんて、どこにも無かった。
まあ、もしフランス語で「案内板」って書かれていたら、読めるわけないんだけど。

「ううん。そんなの無かったよ」
やっぱり。(あかつき)も首を振った。
暗く沈んだ表情だ。
だが、浮上するのは早かった。
すぐに顔を輝かせて、碧に向き直る。

「ねえ! もしかして、ここじゃない所にあるのかも。他の場所に行ってみようよ」

虚を突かれて、碧は思わず苦笑した。
暁の言う通りだ。
それに、興味をそそられた。
劇場が、これだけ素晴らしいのだ。
他の場所か。一体どうなっているんだろう。

「うん、そうするか」
碧が同意すると、暁は嬉しそうに頷いた。
瞬時に、やる気が体に(みなぎ)っていく。
エネルギー急速充填だ。
暁は、1秒後に、競歩選手並みの速度で歩き出した。

「うわ。ちょっと待って、暁!」
碧は、慌てて小走りで追いかけた。

まず、(かみ)()側の舞台袖に戻った。
ここに来た、一番最初の場所である。
沢山の大道具が、所狭しと置いてあった。
それに混じって、舞台装置の扉が立っている。
木枠に、ドアが付いただけの代物だ。

「ああ。入り口は、これだったんだよ」
暁が見ているのに気付いて、碧は説明した。
西センターの児童館の扉が、なぜか、このドアに通じていたことを。

「え!?」
暁は、聞くなり、ドアノブに手を掛けた。
何を考えているかは、明白だ。

「無駄だって。さっき、俺も試した。開けたって、もう、どこにも通じてない」

肩をすくめる碧に、暁は、あっさりと手を離した。
「そっか。じゃ、やっぱり他に行こう」
切り替えも早い。

だが、辺りを見回すと、途端に首を傾げた。
「あれ?」
周りは壁ばかりだ。

「他にドアは、無いみたい」
「え!?」
今度は、碧が叫ぶ番だ。

本当だった。
通路も見当たらない。
これまで気が付かなかった。
よく見れば、完全に袋小路の空間である。

いや、待てよ。
木の壁には、小道具が吊り下げられている。
結構な数だ。壁面を覆っている所もあった。
もしかしたら、ドアが埋もれているかもしれない。

「念のため、確かめよう」
碧は、壁に近づいて、ぐるりと確認して回った。
暁も一緒になって、ぶら下がった小道具を掻き分けたり、壁を押したりしてみた。

だが、何もない。ドアも、通路も。

「じゃあ、向こうの舞台袖は? あっちにあるのかも」
暁が、さっさと足を向ける。

ひしひしと、嫌な予感が碧を襲っていた。
それは、(しも)()側の舞台袖に着くと、はっきりと絶望に変わった。

そうだよ。がらんとしてたんだった。
移動式鉄棒みたいなレッスンバーだけが、ぽつんと置かれている。
こっちの壁は、木製じゃない。一面、真っ白だ。
そして、なんにも、ぶら下がっていない。

ドアがないか、確認するまでもないな。
冷静に判断する一方で、碧は、じわじわと焦り出していた。
こっち側にも、通路がないなんて……。

「舞台袖ってさ、出演者がスタンバイしたり、スタッフが準備する場所なんだろ。ここからどこにも行けないなんて、おかしくないか」
もっともなことを、碧は主張した。
だが、現実は変わらない。

ここは、閉鎖されている空間なんだ……。

暁は、じっと黙っていた。
きゅっと唇を噛み締めている。
やはり、同じ理解に至っているのだ。

二人の脳裏に、のっぺらぼうのバレリーナが言い残した言葉が蘇った。

このまま私と、ずうっとここにいましょうか。
この、夢の世界に……。

ぞうっとした。
見合わせた顔が、お互い、青ざめていた。
一人だったら、パニックに襲われていたかもしれない。

だが、暁は、ぶんぶんと頭を振って、自分を立て直した。
きっぱり断言する。
「でも、ド・ジョーが言ったんだから、必ずどこかにあるよ! もっと探してみようよ」

「……そうだな」
碧も同意した。
自分も、ド・ジョーが嘘を言うとは、到底思えない。

結局、捜索続行だ。

碧は、探しながら、様々な可能性を考えた。
思いも寄らない場所にあるのかな。
それとも、すごく小さいとか。
もしくは、案内板らしくない形をしてる……。

頑張れ、俺。
今こそ、脳味噌をフル回転させる時だ。

暁も、一生懸命探している。
こんな時でも、一言も泣き言を口にしない。
愚痴だって言わなかった。
その姿に励まされて、碧は必死に考え続けた。

必ず、ある筈なんだ。
ド・ジョーは、最後まで必死に伝えようとしてくれていたんだから。

そうだ。思い出すんだ。なんて言ってたっけ?

いいか、暁、碧!
すぐに元の世界に戻るんだ。
戻る方法を……

碧の目が、見開かれた。

案内板に聞く..んだ!

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