ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

11.起動エラー(きどうエラー)(1)

当サイトは広告を利用しています プライバシーポリシー   

11.起動きどうエラー(1)

すい~
(もも)()せた黒鳥(こくちょう)が、(とお)ざかって()った。

あれ、もう()わっちゃったのかな?
(あかつき)は、()っている白鳥(はくちょう)(たず)ねてみた。
「ねえ、こっちも、だいたい()わった?」

「うーむ、あと(すこ)しってとこだな」
本当(ほんとう)は、まだ、かなり(のこ)っている。
「けっこう()としたが、わりと(はず)したからな」
(まった)躊躇(ちゅうちょ)しないで、ガンガン()ちまくるスタイルだ。命中率(めいちゅうりつ)(ひく)い。

「そっかあ。あはは」
()にする(あかつき)ではない。(わら)っている。
「そうだなあ、ははは」
マッチョ・スワンズ1(ごう)も、(おも)わず野太(のぶと)(わら)(こえ)()てた。

オーロラが()()(はず)だ。
この()には、(はな)がある。
(おお)らかな気性(きしょう)()()り、(あか)るく()(ほこ)っている(はな)だ。(たと)えるなら、大輪(たいりん)のバラである。

気難(きむずか)しいド・ジョーや、マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()も、同様(どうよう)だった。(あかつき)だけではなく、その仲間(なかま)全員(ぜんいん)好意(こうい)(いだ)いている様子(ようす)だ。
この()(たち)(はなし)(つた)えてくれた(さい)は、二人(ふたり)して(むね)()()ろしていたのだ。
「また無事(ぶじ)(かえ)れて、本当(ほんとう)によかった」と。

「でも、撃墜数(げきついすう)(たい)したものだ。えらいぞ、(あかつき)!」
マッチョ・スワンズのリーダーは、教官(きょうかん)口調(くちょう)()(たた)えた。

「やったあ!」
にこにこ(わら)う。感情(かんじょう)()っすぐだ。
うむ、自分(じぶん)()()った。マッチョ・スワンズにスカウトしたいくらいだ。

「ねえ、白鳥(はくちょう)さんは、もっと(はや)(およ)げたりしないの。無理(むり)じゃなかったらでいいんだけど。(はや)いスワンにも()ってみたいな。だめ?」

「なんだと? まかしとけ!」
マッチョ・スワンズ1(ごう)は、いきなり、やる()になった。
「1」の首輪(くびわ)は、リーダーの(しるし)だ。
()れで一番(いちばん)(はや)く、一番(いちばん)(つよ)いのだ。

「ようし。しっかり(つか)まっていろよ、(あかつき)!」
そして、やる()になった白鳥(はくちょう)は、メンテナンスのことをすっかり(わす)れた。

(あかつき)想定(そうてい)大幅(おおはば)上回(うわまわ)速度(そくど)であった。
耳元(みみもと)(かぜ)(うな)る。(あかつき)(ふく)(そで)が、バタバタとはためいた。
(もも)()せた4(ごう)鈍行(どんこう)ならば、1(ごう)(ゆめ)超特急(ちょうとっきゅう)である。
一体(いったい)水面下(すいめんか)では、どれほどの(あし)(うご)きが()(ひろ)げられているのだろう。

(しろ)弾丸(だんがん)となって、白鳥(はくちょう)湖面(こめん)驀進(ばくしん)していく。
もちろん、(あかつき)(おび)えるわけがない。
大笑(おおわら)いする(こえ)が、湖面(こめん)(ひび)(わた)った。

「あはははは! あ、(よう)! (たの)しいよ~。一緒(いっしょ)においでよ!」
さぼりのお(さそ)いである。
だが、(あかつき)に、その自覚(じかく)はない。

ごおおおっ
(よう)のスワンを()(がえ)地点(ちてん)のピンに見立(みた)てて、1(ごう)はヘアピンカーブを()めた。
このスピードで、よく()がれたものだ。

「ふはははは! (おれ)一番(いちばん)だ! ナンバー、ワン!」
()(かえ)りざま、そう()()てる。

ボッ!
地道(じみち)(はたら)いていた白鳥(しらとり)(ごう)(ひとみ)に、(ほのお)着火(ちゃっか)した。
ぼうぼうと、(すさ)まじい(おと)をたてて()(さか)る。
「なんだと! ()けないぞ。(おれ)だって(はや)い!」

(よう)()せたまま、スワンが()えた。
ばさり
羽根(はね)(ひろ)げて()()がり、いきなり方向(ほうこう)転換(てんかん)する。

(あわ)てたのは(よう)だ。
()っことされそうになって、()(つか)んだ。
「え? ちょっと()って、まだ、」

「しっかり(つか)まってろ! ()くぜ!」
その宣告(せんこく)(みみ)(とど)いた瞬間(しゅんかん)
がくりと、(よう)上体(じょうたい)(うし)ろに()()れた。
(すさ)まじい加速(かそく)だ。

「うおおおおおっ! ()てぇ~!」
「ふはははははっ! まだまだぁ!」

(たたか)うマッチョ・スワンズの雄叫(おたけ)びが、(みずうみ)木霊(こだま)した。

「なんか……競争(きょうそう)(はじ)めたみたい」
(もも)が、(ちい)さな(こえ)()っている黒鳥(こくちょう)()く。
「どうしよう、()めたほうがいい?」
冷静(れいせい)だ。

「いや、ほっといていいですよ。ああ(あつ)くなっちゃうと、(だれ)にも()められない」
ゆっくりと(もも)()せて(およ)ぎながら、黒鳥(こくちょう)(こた)えた。
もうすぐ、(みずうみ)をぐるりと半周(はんしゅう)するところだ。

「ほら、()えてきた。あそこが我々(われわれ)()です」
(もも)は、(すこ)しだけ()()()した。

湖面(こめん)から、(なに)かが()()ているのが()える。
何本(なんぼん)も、何本(なんぼん)も。
(ふと)(ぼう)だ。その(さき)っぽには、円盤状(えんばんじょう)(おも)りが()いている。

(なん)、あれ?」
「バーベルですよ」

そうか。()たことがある。
西(にし)センターのトレーニングルームにも設置(せっち)されていた。(きん)トレ(よう)器具(きぐ)だ。
(ぼう)両端(りょうはし)装着(そうちゃく)した円盤(えんばん)(すう)で、(おも)さの加減(かげん)をする。

でも、(おお)きすぎない?
林立(りんりつ)する(ぼう)は、交差(こうさ)して、前衛(ぜんえい)芸術(げいじゅつ)のテントみたいな空間(くうかん)(つく)()している。

すい~
黒鳥(こくちょう)は、その(なか)(はい)って()った。

わりと(ひろ)い。天井(てんじょう)は、すかすかだ。
バーベルの()って、居心地(いごこち)いいのかな。

我々(われわれ)は、これを使(つか)って、日々(たん)(れん)しています。()るぎない(こころ)(はぐく)み、(たも)っていけるように。(もも)、あなたも(なに)鍛錬(たんれん)していますか?」
えーと。そんなふうに(たず)ねるほど、一般的(いっぱんてき)なことなのだろうか。鍛錬(たんれん)って。

それでも、(もも)素直(すなお)(こた)えた。
「うん、空手(からて)(なら)ってる。でも、(わたし)、ぜんぜん(つよ)くないよ」

(あに)(よう)は、ずば()けて(つよ)い。
どんなに頑張(がんば)ったとしても、自分(じぶん)は、あんな(ふう)にはなれない。

(かお)()せた(もも)に、マッチョ・スワンズ4(ごう)(やさ)しい(かお)()けた。
鍛錬(たんれん)することによって、(こころ)(きた)えられる。それこそが目的(もくてき)だから、関係(かんけい)ないですよ」
黒鳥(こくちょう)がウインクした。

(もも)は、びっくりした。
できるんだ。ばっちり()まっている。

(ひと)より(ちから)()く。(むずか)しい(わざ)ができる。(はや)(うご)ける。肉体(にくたい)(あらわ)れる鍛錬(たんれん)成果(せいか)は、()って()まれた個体差(こたいさ)()る。それは現実(げんじつ)です。頑張(がんば)れば(すべ)てできる、というのは(のろ)いだ。かけられた(もの)(がん)()(がら)めにする。そんな単純(たんじゅん)にできてやしない」

だが。
(あきら)めない(つよ)さ、とか。
(ひと)のせいにしない(つよ)さ、とか。
(つづ)けていく(つよ)さ。自分(じぶん)一人(ひとり)でも(たたか)(つよ)さ。
(ひと)悪口(わるくち)()わない(つよ)さ。()れない(つよ)さ。
いっぱいある。

それは、(こころ)(つよ)さ、だ。
鍛錬(たんれん)することで、きっと、それは()()れることができる。

黒鳥(こくちょう)は、そう()くと、また(やさ)しい()をした。
鍛錬(たんれん)方法(ほうほう)は、(ひと)それぞれだから。自分(じぶん)()うものを(さが)せばいいんですよ」

「うん……」
そうだ。(おも)()した。
「あのね。(わたし)空手(からて)教室(きょうしつ)(かよ)(はじ)めたのは、(あかつき)()ったからなの」
(やさ)しい(あかつき)大好(だいす)きになって。
一緒(いっしょ)にいたい、自分(じぶん)もこんなふうになりたいって(おも)ったから。

「そんなんでも、いいのかな」
(つよ)く、なれるかな。いつか。
(おび)えて、できないことが、(すこ)しでもできるようになるのかな。

「いいに()まってます。大事(だいじ)なのは、自分(じぶん)自身(じしん)()っているカードで勝負(しょうぶ)する()(がま)えだ。()()さないでね」

(もも)も、ふわりと(わら)った。
なんだか、この黒鳥(こくちょう)さんは、空手(からて)教室(きょうしつ)先生(せんせい)()ている。
()の知れた()()らしいが、経営(けいえい)手腕(しゅわん)はさっぱりで、生徒数(せいとすう)()るわないのだ。

黒鳥号(こくちょうごう)は、バーベルの()()けた。
前方(ぜんぽう)に、(あおい)()えた。ピンク(いろ)のネズミが、(かた)(うえ)にいる。
ド・ジョーもいた。水柱(みずばしら)(うえ)()っている。

(あおい)!」
(もも)は、()から右手(みぎて)(はな)して、()った。
うん、できた。さっきより、抵抗(ていこう)()い。

(もも)ちゃん、そっちは()わったの?」
()いてくる(あおい)に、(もも)(もう)(わけ)ない気持(きも)ちで(こた)えた。
「ううん、上手(うま)くいかなくて。黒鳥(こくちょう)さんが、リラックスできるようにって、ぐるっと(まわ)ってくれてたの。ごめんね」

(あおい)(おこ)らなかった。
(もも)のことは、よく()かっている。
こんな(おお)きなスワンに()らされて、さぞ(こわ)かっただろう。
「じゃあ、このへんは大体(だいたい)()わったから、手伝(てつだ)うよ。(あかつき)(よう)は、()わってるかな?」

(ひろ)がる(みずうみ)見渡(みわた)す。
(はる)()こうで、猛然(もうぜん)とレースをしている白鳥(はくちょう)(たち)姿(すがた)があった。

うおおお、とか、そりゃあああ、とか(さけ)(こえ)()こえて()る。
(あかつき)(よう)は、二人(ふたり)とも、(あら)ぶる白鳥(はくちょう)()りこなしていた。
ロデオを(きそ)う、カウボーイさながらだ。

()わって、ないだろうな……」
(あおい)絶望的(ぜつぼうてき)(つぶや)いた。

間仕切り線

んでくださって、有難ありがとうございます!
いかがだったでしょうか。
以下のサイトあてに感想かんそう評価ひょうか・スキなどをおいただけましたら、とてもうれしいです。

ロゴ画像がぞうからかくサイトの著者ちょしゃページへと移動いどうします

ランキングサイトにも参加さんかしています。
クリックすると応援おうえんになります。どうぞよろしくおねがいします↓

小説全しょうせつすべての目次もくじページへ

免責事項・著作権について リンクについて