ダンジョンズA〔3〕嘆きの湖(裏メニュー)

11.起動エラー(2)裏メニュー

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11.起動エラー(2)

「経緯は、だいたい分かった」
碧は、静かに怒っている。

そりゃあ、そうだ。
もしも、掃除当番で、自分は真面目に務めを果たしたのに、同じ班の奴が遊んでいたとしたら。怒るだろう、誰だって。

陽と暁を乗せたスワンズ1号と3号は、神妙な顔つきをしている。
もちろん、自分達も、(くび)を湖面すれすれまで曲げて、碧に謝った。
人間の土下座レベルの深謝だ。

びびった……。
眼鏡の奥から迸った碧の眼光は、筋肉野郎をも(しん)(かん)させていた。
野生のカンが告げている。
こいつには、逆らわないほうが身のためだ。

反して、暁は、もう、けろりとしている。
ちゃんと謝りはしたが、切り替えが早すぎるだろう。
巻き込まれた陽の方が、「反省してます」って顔だ。
空気の読める桃は、ただ、碧を気遣わし気に見つめていた。

「退散、退散っと」
マダム・チュウ+999は、そそくさと碧のフードに避難していく。
「裏起毛で、居心地、抜群よ~ん」

だめだ。こいつは役に立たない。
ド・ジョーは、溜息をついた。
さすがに碧が気の毒だ。

「あ~。まあ完璧じゃなくても、起動すりゃいいんだしな。試してみるから」
やれやれ。一発で上手くいけば、面倒がないんだが。

「それじゃ、しっかりと鞍に捕まってろよ。いくぜ!」
移動が完了すると、ド・ジョーは声を張り上げた。
湖の真ん中だ。
水柱に乗ったド・ジョーを中心に、四羽のスワンが頸を向けて浮かぶ。
綺麗に十字にバラけた配置だ。
鞍の上で、子ども達がド・ジョーに頷いた。

ぐぐぐぐっ……
合図と共に、ド・ジョーの水柱が、伸び上がった。太さも増していく。
スワン達が、距離を取るように急速で後ずさった。鳥なのに、どうやってバックしているのだろう。全て筋肉の所業なのか。

水柱が、巨木の幹へと変わった時。
1の首輪をしたリーダーが、節をつけて声を張り上げた。無駄に美声だ。
「声出して~」
「ハイ!」
残りの三羽が返事する。

リーダーは、純白の羽を広げた。
残りのスワンも倣う。
(はね)(そろ)え~」
「ソーレ! イチ、ニの、サン!」

マッチョ・スワンズが取った音頭に合わせて、金色ドジョウの体が宙に跳ね上がった。
落ちていく。
金色の体が、水に触れた。それと同時に。

どうーんっ
太い水柱が、湖面に押し込まれた。
円柱が、ぐんぐん短くなっていく。
水で出来たスイッチを、金色のドジョウが押し込んでいるような様子だ。

だっぷん!
完全に押し込まれた。
波動が、音になって地底湖に響く。

「う、わ、……ととと」
波が襲ってきて、碧は、思わず白鳥の頸にしがみ付いた。
ド・ジョーから離れたのは、この為か。
スワンは、揺れに揺れた。
見れば、桃も、黒鳥の頸に取り(すが)っている。

暁と陽は、鞍の輪を握り、騎上でバランスを取って、やり過ごしている。
二人とも、平気の(へい)()だ。

中央で生み出された波は、ざあっと音をたてて、壁に向かって進んで行った。
上空からだと、盛り上がった円が広がっていくように見える。

ざあっ
壁に到達した。
波が、音を立てて打ち付ける。
緑や赤に光っていた小石が、濡れた順番に、どんどん色を失っていった。
まるで、波の()()が、壁を無色に塗り替えていくようだ。

辺りは、薄暗くなった。
いつの間にか、灰色の壁に白い線が引かれていた。
ぐるりと広がる長大な壁面を、等間隔に分割している。

ブー
残念な音と共に、壁の一区画に、バッテンが浮かび上がった。

ブー
続いて、次の区画にも、黒い×印が浮かび上がる。

ブー
その隣もダメだ。三つ目のバツ。

ド・ジョーの水柱が、壁に沿って進んでいた。
どうやら、彼がチェックをしているようだ。
その端から、記号が壁に灯っていく。

ピンポン
白い丸が付く場合もあった。だが、少ない。

「ダメかな?」
と、暁。
スワンズに乗った皆が、寄り集まってくる。
「たぶん」
碧が、溜息をつく。
「ダメかあ」
残念そうな陽に、桃が冷静に頷いた。
「そうね」

マダム・チュウ+999が、碧のフードから這い出てきて、肩に立った。
見渡し、やれやれと首を振る。
×が圧倒的に多い。状況は悲観的だ。

ぽちゃんっ
ド・ジョーが、戻ってきた。スワン達の前に水柱が現れる。
そして、短く結果を報告した。

「ダメだ!」
「よぉし! 皆、作業再開だ!」
マッチョ・スワンズのリーダーが、威勢よく促した。
()()!」
みんな、そそくさと散開しようとする。

すると、顎に手を当てて考えていた碧が、顔を上げた。白鳥2号の(あん)(じょう)から、制止する。
「ちょっと待って」

ヒイっ
白鳥1および3号は、震えあがった。
「すみませんでしたぁ!」
焦るあまり、発音がグズグズに崩れている。
サーセンッシタァ、としか聞こえない。
謎の呪文を唱えているようだ。

二羽の巨大白鳥は、ものすごい高速で、頸をペコペコ下げた。
乗っているのが暁と陽だから、落馬、じゃなくて落鳥しないで済んでいる。

「いや、いいって、もう。それより、一人一人で(やみ)(くも)にやるより、効率のいい方法に変えようよ。ド・ジョー、今の、壁を分割して表示するやつ、やってくれる?」

水で出来たトレンチコートとソフト帽を身に(まと)ったドジョウは、片眉を上げてニヤリとした。ハードボイルドな笑い方だ。

「おう。何か策があるんだな。おい、お前ら。こいつの(おつむり)は、ぴか一だぜ。言う通りにして間違いはねえ」

マッチョ・スワンズの返答が、地底湖に響き渡った。
「押忍!」
全面服従であります。

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