ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

20.囚人(めしゅうど)(1)

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20.囚人めしゅうど(1)

「ちょっと、(きみ)たち」
()びかけられた。
まずい! 警備員(けいびいん)さんだ。
しかも、(おに)(づか)さんの(ほう)じゃないか。

(あかつき)は、素早(すばや)くジーンズのポケットにティアラを()()んだ。
見咎(みとが)められたら、(こま)る。説明(せつめい)できない。

「バッグって()ってたけど。(わす)(もの)(とど)いてるんだ。(よっ)つ。(きみ)たちのかな?」
四人(よんにん)は、(かお)見合(みあ)わせた。

「ああ、はい。たぶん自分(じぶん)(たち)のだと(おも)います。すみません。どこにありますか?」
(あおい)が、すらすらと(こた)えた。
(あたま)(した)回転(かいてん)は、人一倍(ひといちばい)(はや)い。

「じゃあね、区民(くみん)センターで手続(てつづ)きするから。あっちの(おく)のカウンターまで()て」
速攻(そっこう)()()って、ボロが()(まえ)に、さっさと退散(たいさん)しよう。
(あおい)は、そのつもりだったが、そうはいかないようだ。

「ここに住所(じゅうしょ)名前(なまえ)電話番号(でんわばんごう)()ける? それから、ここに()()りましたってサイン」
手続(てつづ)き、とやらに必要(ひつよう)(かみ)を、それぞれに(わた)された。
ぽんぽん、矢継(やつ)(ばや)()われる。
なんか、(おこ)ってるみたいな口調(くちょう)だ。

「あの、すみません。このバッグ、どこにあったんですか?」
(あかつき)は、四人(よにん)のうち、(もっと)物怖(ものお)じしない。
高圧的(こうあつてき)とも()れる大人(おとな)に、はきはき(たず)ねた。

「ああ。エレベーターの(なか)に、()()りにされてたって。利用者(りようしゃ)(ほう)が、わざわざ(とど)けて(くだ)さったんだよ」
「ふ~ん」
合唱(がっしょう)みたいに、四人(よにん)(こえ)(そろ)った。
そうなるんだ。
本当(ほんとう)は、()(きゅう)(つう)じるエレベーターの(なか)に、()いてきちゃったのに。

鬼塚(おにづか)警備員(けいびいん)眉根(まゆね)が、()った。
まるっきり他人事(たにんごと)のような反応(はんのう)ではないか。
「え! なに? 自分(じぶん)のバッグでしょ。(おぼ)えがないの?」
(あき)れた(こえ)()げた(あと)、はっとした。

まさか、(ほか)()(かく)されたとか?
トラブル? いじめか?

そう(おも)われたのが、(あかつき)には、はっきりと()かった。
うわ、しまった。
(となり)(すわ)(あおい)が、(なん)()おうか、すごい(いきお)いで(かんが)えている。

と、(もも)(よう)(うで)(つか)んだ。
なんだか、そわそわしている。
「ね、お(にい)ちゃん、まだかかる?」
(ちい)さく(たず)ねる。

「どうした、(もも)?」
「あのね、トイレ。()ってきていい?」
どうやら、口実(こうじつ)ではないらしい。
(あせ)っているのが(つた)わってくる。

(わた)りに(ふね)だ。
「あー! (おれ)もトイレ()きたい! すみません、もういいですか?」
(あおい)(たた)みかけた。
自分(じぶん)のバッグを()(つか)むと、カウンターの椅子(いす)から()()がる。

「あ、ああ……。いいよ」
毒気(どくけ)()かれた様子(ようす)で、(おに)(づか)警備員(けいびいん)(うなず)いた。
(ちい)さな()が、「トイレ」。最強(さいきょう)のカードだ。
ダメとは()えない。

(さいわ)い、全員(ぜんいん)用紙(ようし)への記入(きにゅう)()えていた。
手続(てつづ)きは完了(かんりょう)している。

(もも)ちゃん、()こ」
(あかつき)も、素早(すばや)便乗(びんじょう)した。
(いっ)挙動(きょどう)でバッグを(かた)()けると、()ぶように()って()く。

もう、いない。なんて(はや)さだろう。
鬼塚(おにづか)さんは、カウンターに()(なお)った。
(おお)きな(おとこ)()(ほう)を、()(ただ)してみようか。

「あれ?」
(だれ)もいなかった。

あぶなかった。いろいろと。
「ふう……」
ハンカチで()()きながら、(あおい)(いき)()いた。

口実(こうじつ)でトイレに()かったが、途中(とちゅう)からは本気(ほんき)()()んでいた。
(からだ)が、いきなり尿意(にょうい)()づいたのだ。
(へん)だった。これも、なにか関係(かんけい)あるのかな。

トイレの(かべ)時計(とけい)()をやる。
午後(ごご)()30(ぷん)になるところだ。

やっぱり。今回(こんかい)も、こっちの時間(じかん)は、ほとんど()っていない。
あれだけ(なが)(あいだ)、オーロラの地宮(ちきゅう)()ごしたっていうのに。

みかげとの攻防(こうぼう)が、(あおい)脳裏(のうり)(よみがえ)った。
あいつ、本気(ほんき)俺達(おれたち)(かえ)さない()だったよな。

もし、(なが)いこと(かえ)れなかったら。
ずっと、あそこにいたら。
いったい、どうなっちゃうんだろう。

ぶおん ぶおん
ハンドドライヤーの(おと)で、(あおい)(われ)(かえ)った。
(よう)が、(おお)きな()をぶんぶん()って、(かわ)かしている。
結局(けっきょく)(よう)もトイレに(はい)ってたのか。

(はら)へったなあ」
その言葉(ことば)()いて、(あおい)(きゅう)空腹(くうふく)(おぼ)えた。
「そうだな。とにかく、(はや)(うち)(かえ)ろう」
(つか)れた。(じゅく)予習(よしゅう)だって、やらなくちゃいけない。

男子(だんし)トイレを()たが、(あかつき)(もも)はいなかった。
「あそこにいる」
(よう)(ゆび)さす。白鳥像(はくちょうぞう)(まえ)だ。
なんだろう。二人(ふたり)して、(ぼう)のように()()っている。

「もー。警備員(けいびいん)さんに()つかったら、(じん)(もん)されちゃうのに」
(さいわ)い、鬼塚(おにづか)警備員(けいびいん)姿(すがた)()えない。
こそこそと男子組(だんしぐみ)(ちか)づいていくと、(あかつき)(もも)は、(だま)って台座(だいざ)(ゆび)さした。

()(しょう)
タイトルの文字(もじ)が、そう()られていた(はず)だ。
四羽(よんわ)のスワンが()ばたく(した)には、こう()かれていた。

筋肉(きんにく)

()わってしまっていた。

「……(かえ)ろう」
そそくさと、(あおい)(きびす)(かえ)した。
そして、きっぱりと()()った。
「なにも()なかった。たぶん、自然(しぜん)(もと)(もど)るんだろう。いや、(もど)らなくたって、(おれ)たちは()らない」
それより、()つかる(まえ)に、とっとと退散(たいさん)だ。

ぽーん
エントランスホールの(とびら)が、(ひら)いた。
続く(ふう)(じょ)(しつ)を、みんなで小走(こばし)りに(とお)()ける。
先頭(せんとう)(あかつき)は、まだ(うご)いている途中(とちゅう)出口(でぐち)ドアから()()した。
(はや)すぎて、(とお)()けられるギリギリだ。

(そと)は、完全(かんぜん)日暮(ひぐ)れていた。
歩道(ほどう)(あか)りが、煌々(こうこう)()いている。

今日(きょう)(こと)は、あたらめて(みんな)(はな)そう」
(わか)(ぎわ)に、(よう)(ねん)()した。
(あおい)(あかつき)が、(だま)って(うなず)く。
相当(そうとう)(あぶ)ない()にあった。当然(とうぜん)だろう。

西(にし)センターの玄関前(げんかんまえ)から、四人(よんにん)帰路(きろ)は、半々(はんはん)()かれる。
()()()()は、()(ひだり)(あおい)(あかつき)(いえ)は、(みぎ)だ。

「じゃ、またね。(よう)(もも)ちゃん」
(あかつき)(こえ)に、元気(げんき)()かった。
ずっと一緒(いっしょ)にいる幼馴染(おさななじみ)だ。(あおい)が、気付(きづ)かないわけはない。
だが、()ける言葉(ことば)()つからないまま、(あおい)(ある)()した。

ぴゅう……っ
(つめ)たい北風(きたかぜ)が、意地(いじ)(わる)()きすさぶ。
(あかつき)(みじか)(かみ)は、いつにも()して、くちゃくちゃだ。
(うつむ)いた(かお)が、(くら)い。
こんな(かお)、めったにしないのに。

「だましてたんだね、みかげちゃんは」
(わたし)のことを(だま)していた。みんなのことも。

「ああ」
その(とお)りだ。ただ、利用(りよう)しようとしていた。
そして、(あかつき)(がい)そうとした。
なぜ?
()からない。

(しず)かに横目(よこめ)(うかが)っている(あおい)に、(あかつき)気付(きづ)いた。
()だけで、「なあに?」と()く。

「いや、その、だいじょうぶ?」
こくん
(あかつき)(うなず)いた。
(かんが)えてないな。反射的(はんしゃてき)(こた)えただけだ。
だって、表情(ひょうじょう)(くら)いままだ。

ぴゅう……っ
(あかつき)が、(からだ)(ちぢ)こまらせた。
(となり)(ある)(あおい)も、(おも)わず両腕(りょううで)(からだ)(かば)った。
北風(きたかぜ)は、()気配(けはい)がなかった。
(あき)()わりだ。
季節(きせつ)は、もう着実(ちゃくじつ)(ふゆ)へと()かっている……。

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