ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

1.挿話 たい焼きはあんこ・たこ焼きは大阪(そうわ たいやきはあんこ・たこやきはおおさか)(1)

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1.挿話そうわ たいきはあんこ・たこきは大阪おおさき(1)

たい()きの()(かた)は、(ふた)(とお)りある。
しっぽから()べる。
(あたま)から()く。
どちらを()るかは、個人(こじん)(この)みだ。

このフードコートで統計(とうけい)()ったら、どっちの()(かた)優勢(ゆうせい)なんだろう?
(あおい)は、見渡(みわた)しながら考察(こうさつ)した。

ま、よく()かんないか。
とりあえず、このテーブルでは、(あたま)から()()優勢(ゆうせい)だ。

ぱくり
(あかつき)は、(おお)きな(くち)()けて、(あたま)(かじ)った。
「あ、まだ、すっごい(あつ)い!」
はふはふ(てん)(あお)ぎながら、もぐもぐと(くち)(うご)かす。(くろ)餡子(あんこ)が、もう()えていた。

(あつ)餡子(あんこ)は、溶岩(ようがん)のように危険(きけん)だ。
(した)火傷(やけど)してしまう。

ふうふう
ぱくぱく
その合間(あいま)に、「あちっ」と悲鳴(ひめい)()げる。
たいへん(せわ)しない。

(あおい)は、カリカリのしっぽを(ちい)さく(かじ)った。
ふわり、と生地(きじ)(こう)ばしい(にお)いが(ただよ)う。
なかなかの優良店(ゆうりょうてん)だ。しっぽの(さき)まで餡子(あんこ)(はい)っている。
だけど、(りょう)(すく)ない。しっぽから()(すす)めれば、お(なか)(あたま)(とう)(たつ)する(ころ)には、いい(かん)じに()めているという塩梅(あんばい)だ。

「だから、しっぽから()べればいいのに」
苦言(くげん)(てい)した(あおい)に、反論(はんろん)があった。
「う~ん。最初(さいしょ)にガツンと餡子(あんこ)()ないと、()べた()がしないじゃない?」
(あかつき)母親(ははおや)だ。
(あたま)から()()二人目(ふたりめ)主張(しゅちょう)である。

そんな理由(りゆう)か?
でも、さすがに大人(おとな)相手(あいて)()()めない。
(あおい)は、無言(むごん)苦笑(くしょう)()かべるに()めた。
そんな(あおい)()て、(あかつき)父親(ちちおや)(かた)をすくめた。
理屈(りくつ)じゃないんだな、きっと」

今日(きょう)は、(あかつき)家族(かぞく)行事(ぎょうじ)参加(さんか)している(あおい)だ。
一ノ瀬(いちのせ)()クリスマス恒例(こうれい)、バレエ「くるみ()人形(にんぎょう)」の鑑賞会(かんしょうかい)だ。
開演(かいえん)時刻(じこく)まで、まだかなり余裕(よゆう)があったので、ここで時間(じかん)(つぶ)すことにした次第(しだい)だ。

(あおい)母親(ははおや)(さそ)われていたのだが、この時期(じき)仕事(しごと)(やす)むのは、とうてい無理(むり)だ。
そんな場合(ばあい)(あかつき)(はは)は、いつも(あおい)だけを()れて()かけてくれる。保育(ほいく)(えん)時代(じだい)からだ。

いつだって恐縮(きょうしゅく)する(あおい)(はは)に、いつだって本音(ほんね)100%で(こた)える(あかつき)(はは)であった。
(あおい)ちゃんは、しっかりしているから、ぜんぜん大丈夫(だいじょうぶ)。むしろ、(あかつき)のお目付(めつ)(やく)()えて、(たす)かってるから」

事実(じじつ)であった。
(あかつき)は、幼少期(ようしょうき)から、(じつ)何回(なんかい)迷子(まいご)になっている。興味(きょうみ)をそそられたものに、後先(あとさき)(かんが)えず突進(とっしん)していく性質(せいしつ)のせいだ。
でも、警察(けいさつ)沙汰(ざた)になった回数(かいすう)は、(あおい)のおかげで半分(はんぶん)くらいに(おさ)えられている。

(あかつき)、お(みず)()ってきてくれないか?」
(あかつき)(ちち)が、(たの)んだ。
(かれ)のたこ()きも、そうとう(あつ)かったらしい。
まだ、全然(ぜんぜん)()っていない。

ちなみに、たこ()きも同様(どうよう)危険(きけん)だ。
うっかり(あつ)いのを頬張(ほおば)ったら、最後(さいご)(くち)(なか)で、マグマのような小麦粉(こむぎこ)溶岩(ようがん)流出(りゅうしゅつ)する。

「あ、うん。みんな()るよね」
(あかつき)が、ぱっと(せき)()った。

フードコートの飲料水(いんりょうすい)は、セルフサービスだった。
ちょっと(はな)れた場所(ばしょ)に、コーナーが()える。
結構(けっこう)(ひと)(なら)んでいる様子(ようす)だ。

(あおい)も、()べかけのたい()きをトレーに()いた。
全員分(ぜんいんぶん)なら、手伝(てつだ)った(ほう)がいいだろう。

「ああ、いいよ。(あおい)ちゃんは、まだ()べてるだろう」
(あかつき)(ちち)が、(やさ)しく()った。
(ととの)った(かお)で、(わら)いかける。
(あかつき)()少女(しょうじょ)なのは、確実(かくじつ)に、この(ちち)遺伝子(いでんし)によるものだ。

だが、その()少女(しょうじょ)も、(くち)(はし)っこにたい()きのしっぽを(くわ)えた姿(すがた)では、台無(だいな)しだった。
()ったまま、もぐもぐしている。

「こら」
あんまりなお行儀(ぎょうぎ)に、(あかつき)(はは)(みじか)(しか)った。
まだ()べてるときに、()っちゃいけない。

「は~い。じゃ、これ()てながら、お(みず)()んでくるね」
(すで)()()えている。
(あかつき)は、たい()きの(はい)っていた紙袋(かみぶくろ)()(たた)むと、(せき)(はな)れた。

(あかつき)手伝(てつだ)わなくて平気(へいき)か?」
(こえ)()けると、(あかつき)()(かえ)って(あおい)()た。
「だいじょうぶ」
笑顔(えがお)()かべる。

だが、どこか弱弱(よわよわ)しかった。
いつもの、()()きした()みじゃない。
照度(しょうど)(はか)ったら、きっと(なん)ルクスも(おと)っているだろう。

あの()からだ。
ずっと、(あかつき)(しず)かに元気(げんき)がない。

こんな状態(じょうたい)(むすめ)に、母親(ははおや)気付(きづ)かないわけはない。
()たして、三人(さんにん)だけになったテーブルで、(あかつき)(はは)が、まっすぐに(あおい)()た。
(かじ)りかけのたい()きは、見苦(みぐる)しくないように、紙袋(かみぶくろ)(なか)(しず)ませている。

「ねえ、(あおい)ちゃん。(あかつき)、ここんとこ元気(げんき)がないんだけど、なんでかな?」

完全(かんぜん)にストレートの(たま)()た。
(あかつき)(はは)らしい。
こちゃこちゃ(さく)(ろう)したり、()(えん)()(まわ)しで(さぐ)ったりは、(しょう)()わないのだろう。
(たけ)()ったような性格(せいかく)なのだ。

「やっぱり、空手(からて)、やめたくないのかな?」
(となり)(すわ)(ちち)は、(くび)(かし)げて(あおい)()いてきた。
ちょっと(さび)しそうだ。

空手(からて)やってレンジャーレッドになるんだって、いつも()ってたもんなあ」
(おさな)(ころ)の、(あかつき)口癖(くちぐせ)だ。

「いや、さすがに(いま)は、レンジャーレッドは無理(むり)って()かってるでしょ」
(あおい)は、すかさず(かえ)した。
父親(ちちおや)()(むすめ)(たい)する認識(にんしき)は、そこで()まっているらしい。

「せやかて、しょうがないでしょ!」
(あかつき)(はは)は、そんな(おっと)(たた)みかけた。
「2(がつ)から、(じゅく)は6年生(ねんせい)クラスになるんだし。授業(じゅぎょう)()()えるから、どうしたって空手(からて)稽古(けいこ)()(かぶ)っちゃうのよ」

そうなのだ。
成績(せいせき)トップクラスの(あおい)(いた)っては、さらに授業(じゅぎょう)のコマが(おお)い。ほぼ毎日(まいにち)(じゅく)()く、中学(ちゅうがく)受験生(じゅけんせい)日々(ひび)(はじ)まる。

(いま)は、とにかく受験(じゅけん)空手(からて)は、また中学(ちゅうがく)から部活(ぶかつ)(つづ)けようねって()って。(あかつき)(なっ)(とく)してるわ。だから、空手(からて)教室(きょうしつ)は、()りよく年内(ねんない)でお(しま)いよ」

(あおい)(あかつき)が、()ける。
その(あと)空手(からて)教室(きょうしつ)(かんが)えると、(あおい)だって(かな)しくなってしまう。だが、しかたがない。

「そうか……。あ、朱里(あかり)さん、たこ()()べる?」
まだ全然(ぜんぜん)()っていない(ふな)(ざら)を、(おっと)(つま)()()した。譲歩(じょうほ)のつもりなのか。

ああ、だめだって。
(あおい)は、内心(ないしん)(あたま)(かか)えた。
どうして、何年(なんねん)()()っているのに、学習(がくしゅう)しないのだろう。

それは、ヒートアップした(つま)に、さらに()(さか)れと()わんばかりに、燃料(ねんりょう)投下(とうか)する行為(こうい)なのだ。

くわっ
一ノ瀬(いちのせ)朱里(あかり)は、()見開(みひら)いた。
「いらんわ、そんなん! タコが()っちゃくて、生地(きじ)(なか)でアップアップ(おぼ)れとるようなたこ()きやないの!」

大阪(おおさか)出身(しゅっしん)(つま)は、一喝(いっかつ)した。
大阪(おおさか)()が、(ゆる)さなかったらしい。
こと、たこ()きに(かん)しては、(もと)める基準(きじゅん)がどの県民(けんみん)よりも(たか)く、(きび)しいのである。

「ははははは」
あーちゃんパパは、(こた)えた様子(ようす)もなく、(わら)って(かえ)した。
この(ひと)も、(やさ)()容貌(ようぼう)のわりに、神経(しんけい)(ふと)い。
(あかつき)は、この(ちち)(はは)の、絶妙(ぜつみょう)なブレンドで出来(でき)ている()どもだ。

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