ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

6.エントリー(1)

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6.エントリー(1)

ぷはあっ
水面(すいめん)()た。

どぼん、と()っこちた(とき)(よう)は、(なに)(なん)でも上着(うわぎ)(はな)さないつもりだった。
だが、水中(すいちゅう)で、すぐに気付(きづ)いた。
(あおい)が、その(さき)にいない。(にぎ)ってた(はず)だけど、()(はな)しちゃったか。

母親(ははおや)般若(はんにゃ)()した(かお)脳裏(のうり)()かんだが、ここは(おのれ)(いのち)(ゆう)(せん)だ。
即座(そくざ)に、上着(うわぎ)とは「さようなら」して、(みず)()()がってきたのだ。

どぼん、さようなら、ぷはあっ。
そのくらいしか、時間(じかん)()っていない。

だが。
(みず)から(あたま)()したら、(ちが)世界(せかい)だった。

「どこだ、ここ?」
西(にし)センターのエントランスホールではない。
それだけはわかる。

すぐ(ちか)くに、(あおい)(あたま)()いていた。
あっぷあっぷ、(みず)()いている。

よかった。無事(ぶじ)だ。
ひとまず、ほっとした。
ぎこちない(およ)ぎっぷりだが、こっちも()たようなものだ。

()れた(ふく)が、ずっしり(おも)い。
しかも、(ふゆ)長袖(ながそで)(なが)ズボンだ。
手足(てあし)(おも)うように(うご)かない。
その(うえ)、この(みず)(つめ)たかった。(こご)えそうなほどだ。

(よう)(こえ)()こえたのだろう。
(あおい)は、苦労(くろう)してこっちを()(かえ)った。
眼鏡(めがね)をしていない。あの衝撃(しょうげき)()()んだらしい。

「ここは、ガルニエ(きゅう)だ。オーロラの地宮(ちきゅう)にある、劇場(げきじょう)で、」
そこまで(こた)えたところで、ずぶずぶと(あたま)水没(すいぼつ)してしまう。

(よう)は、(あわ)てて(あおい)(からだ)(ささ)えた。

「ここは、オーケストラボックスだ」
(たす)けてもらいながら、(あおい)早口(はやくち)(つづ)けた。
ずぶ()れの(かみ)は、ぺしょんとなってしまっているが、中身(なかみ)(あたま)はしっかりしているようだ。

なるほど。ここが、そうか。

(あおい)から()いていた(とお)りだ。
茶色(ちゃいろ)弦楽器(げんがっき)が、(まえ)にも(うし)ろにも(よこ)にも、ぷかぷか()いている。邪魔(じゃま)だ、とっても。

(あかつき)は?」
(よう)(するど)(たず)ねる。姿(すがた)()えない。

()(はな)れちゃったんだ。(みず)(なか)で」
(あおい)(くちびる)をかんだ。
()きずり()まれたとき。(はな)すまいと、必死(ひっし)(ちから)をこめたのに。

ぐわっ
(きゅう)に、(おと)()てて(した)から(みず)()()げてきた。

すごい(いきお)いだ。(からだ)がふわっと()いた。
あっという()に、(ふと)(みじか)水柱(すいちゅう)になる。
(あおい)(よう)は、それに()っかる(かたち)になった。
ぐんぐん、(たか)くなっていく。

ド・ジョーだ!

「おらよ! (いもうと)()れてきたぜ!」
()たして、金色(きんいろ)魚体(ぎょたい)が、ぽちゃんと二人(ふたり)(あいだ)()()がった。

その言葉(ことば)同時(どうじ)に、水柱(みずばしら)(よこ)から、()がにょっきりと()えてきた。
(みず)出来(でき)た、(おお)きな()だ。
(もも)(にぎ)っている。

巨大(きょだい)()は、ちょん、と(もも)水柱(すいちゅう)()っけた。
(やさ)しい(うご)きだ。役目(やくめ)()たすと、しゅるしゅる水柱(すいちゅう)()()む。

(もも)大丈夫(だいじょうぶ)か?」
(もも)も、(おな)じくずぶ()れだ。
()わえた(かみ)が、(みず)にぬらした(ふで)みたいになって、(かお)両端(りょうたん)にぶら()がっている。

「……大丈夫(だいじょうぶ)、これなら大丈夫(だいじょうぶ)
必死(ひっし)()見開(みひら)いて、そう()(かえ)している。
いつもより、さらに(ちい)さな(こえ)だ。(つぶや)きに(ひと)しい。
(あに)(こた)えているというよりは、自分(じぶん)()()かせているのだろう。
遊園地(ゆうえんち)のメリーゴーラウンドに()った(とき)と、(おな)反応(はんのう)だ。

(いそ)げ! みかげは、(さき)(あかつき)()れていったぞ! 畜生(ちくしょう)気付(きづ)いて()っかけて()たんだが、()()わなかったぜ」

()(なか)にいるド・ジョーは、(ひく)(こえ)()かした。
まだ動揺(どうよう)している(もも)可哀(かわい)そうだが、一刻(いっこく)(あらそ)う。

()()がった水柱(すいちゅう)は、(みず)出来(でき)たエレベーターのように、三人(さんにん)()せて上昇(じょうしょう)していく。

ステージと(おな)(たか)さまで()がった。
()えなかった舞台(ぶたい)が、視界(しかい)(はい)ってくる。

「みかげだ!」
(よう)(さけ)んだ。

()け!」
ド・ジョーも(さけ)ぶ。

ざっぷん
同時(どうじ)に、三人(さんにん)()った水柱(すいちゅう)(くず)れた。今度(こんど)(みず)(すべ)(だい)だ。ステージの(うえ)になだれ()む。

(いきお)いよく(ほう)()されて、とっさに反応(はんのう)できたのは、(よう)一人(ひとり)だった。
その(いきお)いを無駄(むだ)なく使(づか)い、ころころと(ころ)がるだけ(ころ)がると、そのまま(ひく)姿勢(しせい)から(はし)()していく。

舞台(ぶたい)(おく)だ!

みかげは、背中(せなか)()けて()っていた。
片腕(かたうで)で、(あかつき)(からだ)をひょいと(よこ)()きにしている。
外見(がいけん)は、普通(ふつう)(おんな)()(もど)っているのに、中身(なかみ)(ちが)うらしい。
()(まくら)でも(かか)えているみたいな様子(ようす)だ。

みかげの正面(しょうめん)には、(とびら)があった。
(まい)()かれている。両開(りょうびら)きのドアだ。

ただし、巨人(きょじん)仕様(しよう)だ。
舞台(ぶたい)(おく)(かべ)()けるにあたり、可能(かのう)(かぎ)りの(たか)さを()りました、というサイズだった。

そして、(かべ)ごと、ちょうど半分(はんぶん)(いろ)()かれていた。
(みぎ)半分(はんぶん)扉側(とびらがわ)が、白色(しろいろ)
(ひだり)半分(はんぶん)(あお)だ。

フラットな(とびら)だから、目立(めだ)たない。一見(いっけん)、ツートンカラーの(かべ)が、一面(いちめん)(ひろ)がっているように()える。

みかげは、()()()れた。
それも、(とびら)(おお)きさに比例(ひれい)していた。(なが)棒状(ぼうじょう)のハンドルだ。
これも、ぱっと()()かりにくい。(とびら)(おな)(いろ)()られている。

みかげが()れたのは、左側(ひだりがわ)青色(あおいろ)()()だ。

花束(はなたば)(うたげ)にエントリーしますか?』
すると、(こえ)()ってきた。
綺麗(きれい)ではっきりとした、女性(じょせい)アナウンサーみたいな音声(おんせい)だ。

(うえ)だ。(とびら)(うえ)(せま)(のこ)っている(かべ)に、(かざ)りが()かれている。
(こえ)は、そこから(なが)れて()るらしかった。

(あか)薔薇(ばら)()だ。
巨大(きょだい)一輪(いちりん)一輪(いちりん)が、()()(がた)(あつ)まっている。まるで口紅(くちべに)()った(くちびる)のように。

「はい」
みかげが、(こた)えている。

なんだ、それ?
こんな(とびら)(まえ)にはなかったぞ?

(あおい)(あたま)に、ぐるぐると疑問(ぎもん)(めぐ)る。
(もう)ダッシュしながらだ。(いき)がつらい。
でも、(あかつき)()(もど)さないと。

(よう)は、(なん)()(しん)(さき)爆走(ばくそう)している。
()()うか?

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