ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

6.エントリー(2)

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6.エントリー(2)

『お名前(なまえ)をどうぞ』
みかげに(かか)えられた(あかつき)は、やっぱり()(ねずみ)だった。ジーンズも上着(うわぎ)も、ぐっしょりだ。
(みじか)(かみ)から、水滴(すいてき)(かお)にぽたぽた()ちている。
()は、ぐったり()じられていた。

意識(いしき)(うしな)っている。さらにまずい。

(あかつき)(よこ)()きにしたみかげは、(こた)えた。
加羅(から)みかげ」

ちゃらーん
チャイム(おん)だ。
()った瞬間(しゅんかん)に、みかげが、がっと片手(かたて)(とびら)(よこ)(うご)かした。

()()だったのかよ!
(あおい)(よう)は、同時(どうじ)(おも)った。
だが、(くち)()余裕(よゆう)は、二人(ふたり)ともない。

軽々(かるがる)だった。こんな(おお)きさの(とびら)相当(そうとう)(おも)(はず)なのに。

隙間(すきま)()いた。さっと、みかげが(はい)る。
巨大(きょだい)(とびら)が、すぐに()まっていく。

()て! みかげ!」
(よう)が、どなった。

(あかつき)!」
(うし)ろから、(あおい)(もも)(こえ)(かさ)なる。
(もも)がこんなに(はや)(はし)れるなんて、(あおい)()らなかった。
気付(きづ)いたら、自分(じぶん)並走(へいそう)している。

(ほそ)隙間(すきま)から、みかげが、こっちを()ていた。

きちんとしたワンピース。(つや)やかな(なが)黒髪(くろかみ)革靴(かわぐつ)もおしゃれだ。一部(いちぶ)(すき)()い。

(いずみ)にどぼんとつかって、(ひと)さらいを一丁(いっちょう)してきた(はず)なのに。

やっぱり、この世界(せかい)では、みかげは生身(なまみ)人間(にんげん)ではないんだ。
もう、ペラペラ人間(にんげん)卒業(そつぎょう)したみたいだけど。
今度(こんど)は、ただ理想的(りそうてき)なお(じょう)(さま)姿(すがた)()っているだけなんだ。

(あおい)(みちび)()した推論(すいろん)に、(よう)(もも)同意(どうい)をした。もちろん、(いま)ではない。
全員(ぜんいん)がゆっくりと呼吸(こきゅう)をし、酸素(さんそ)供給(きょうきゅう)(のう)みそに()っついてからだ。

必死(ひっし)()()三人(さんにん)目前(もくぜん)で、みかげの姿(すがた)がどんどん(かく)れていく。

その(くちびる)が、うすら(わら)いを()かべた。

がっちゃん
巨大(きょだい)()()()が、(おと)()てて()まった。

がんっ!
ばしぃっ!

その直後(ちょくご)に、(とびら)(ふた)つの(おと)(かな)でた。
(よう)体当(たいあ)たりしたのだ。
同時(どうじ)に、ド・ジョーが(はな)った(みず)()が、(むな)しく()(かえ)る。

だが、両方(りょうほう)とも(おそ)かった。
(とびら)はびくともしない。完全(かんぜん)()まっている。

だが、(よう)(あきら)めなかった。
そのまま(もの)()わずに、青色(あおいろ)のハンドルを()(つか)む。

「ふんっ……!」
(ちから)(かぎ)()()った。
これさえ(ひら)けばいいんだ。
すぐにみかげに()いつける!

(あと)から()(あおい)(もも)も、(おな)じく(かんが)えたらしい。二人(ふたり)とも()びついてきた。

棒状(ぼうじょう)引手(ひきて)に、三人(さんにん)()(なら)ぶ。
(うえ)から、(よう)(あおい)(もも)順番(じゅんばん)だ。

「せーのっ」
(よう)()(こえ)
三人(さんにん)で、きゅうきゅうにくっ()()って、()()った。まるで綱引(つなひ)きだ。

でも、こんなに()()のない相手(あいて)とは、かつて勝負(しょうぶ)したことがない。(いち)ミリも(うご)いた気配(けはい)がないのだ。

(ひら)か、ないっ……」
(もも)(うめ)く。

なんでこんな(つか)みにくいハンドルなんだろう。
(とびら)から、お世辞(せじ)程度(ていど)()()がって、くっ()いている。
四角(しかく)棒状(ぼうじょう)のくぼみが、壁側(かべがわ)にあった。この引手(ひきて)が、すぽんと(しま)えそうだ。

(となり)は?」
(あおい)が、(しろ)(とびら)()()(しめ)した。
そっちなら(ひら)くかもしれない。

「よし!」
()()(はな)した。コートチェンジだ。

すると、超低音(ちょうていおん)(こえ)制止(せいし)した。
「やめろ。無駄(むだ)だ。(しろ)(がわ)(ひら)かねえぜ、(いま)はな」

ド・ジョーだ。
(とびら)のハンドルにかじり()いていた面々(めんめん)は、()(かえ)った。

()ると、()(ゆか)一筋(ひとすじ)(かわ)(はし)っていた。
舞台(ぶたい)前方(ぜんぽう)から、ここまで()びてきている。

よく()ると、二本(にほん)(みず)(なが)れは、()きと(かえ)りがあった。
オーケストラボックスの(いずみ)から()()がった水路(すいろ)は、舞台(ぶたい)(おく)でUターンして、また(いずみ)へと(もど)っている。

そのU()部分(ぶぶん)に、金色(きんいろ)のドジョウは()っていた。
苦虫(にがむし)()(つぶ)したような(かお)だ。

「ド・ジョー、どうやったら(ひら)くんだ?」
()が、小走(こばし)りで近寄(ちかよ)った。
運動(うんどう)(くつ)ごと即席(そくせき)(かわ)()()んでしまったが、どうせもう靴下(くつした)までびちょびちょだ。
しゃがみ()んで、ド・ジョーに()(ただ)す。

(うたげ)にエントリーする(もの)にしか、この(とびら)(ひら)かねえ。だがな、(うたげ)()()くアクセスは、(ほか)にある。そこで(あかつき)(たす)()すんだ」

(あおい)(もも)も、()ってきた。
(あおい)は、ド・ジョーの水柱(みずばしら)(からだ)をかぶせるようにして、()(すが)めている。
眼鏡(めがね)()しだと、(ちい)さな(さかな)表情(ひょうじょう)(とら)えるのは(きび)しい。

「ああ、ちょいと()ってな」
その様子(ようす)(さっ)したド・ジョーが、(むね)ビレをくいっと(うご)かした。

ついーっ
川上(かわかみ)から、眼鏡(めがね)がこっちに(なが)れて()る。
到着(とうちゃく)すると、(ちい)さな水柱(すいちゅう)()()がった。
(うえ)眼鏡(めがね)()っかっている。
回転(かいてん)寿司(すし)注文(ちゅうもん)した(さら)(とど)いたみたいだ。

「ありがと、ド・ジョー」
よかった、(こわ)れていない。

()()って、すこし躊躇(ちゅうちょ)したが、そのまま()けた。
()れてるけど、どうせ()くものなんて()い。

よし、()える。
「みかげは(なに)(たくら)んでる?」
(あおい)は、まっすぐにド・ジョーを()つめて()った。

今回(こんかい)は、強引(ごういん)(あかつき)(さら)っていった。
そもそも、みかげはなぜ、執拗(しつよう)(あかつき)をこの世界(せかい)()()むのだろう?

まだ、(なに)(たくら)んでいる。
そして、それには(おそ)らく、(あかつき)必要(ひつよう)なんだ。

それが、(あおい)()した結論(けつろん)だった。

ド・ジョーは、溜息(ためいき)(とも)()()した。
(おれ)にも()からねえ。あいつは、もう囚人(めしゅうど)だ」

この世界(せかい)(とら)われてしまった、(あわ)れな胡蝶(こちょう)

自分(じぶん)のポアントもない。それなのに、(うたげ)出演(しゅつえん)して、どうするんだか……」

(もも)が、(ちい)さな(こえ)(たず)ねた。
(うたげ)って?」
そうだ。さっきも()いた。(とびら)(あか)(くちびる)が、そう()っていた。

ド・ジョーは、三人(さんにん)(かお)見渡(みわた)した。
(みず)出来(でき)たトレンチコートとソフト(ぼう)が、金色(きんいろ)(からだ)(かざ)っている。
(むね)ビレを()()わりにして、地宮(ちきゅう)住人(じゅうにん)(おく)(とびら)()(しめ)した。

「あの(とびら)が、ガルニエ(きゅう)舞台(ぶたい)(あらわ)れる、そのとき」

バレエに()せる(おも)い、(そそ)がれる(あい)が、(あま)()(ひと)から(あつ)められ、どんどん()まって。
そう。(ひと)世界(せかい)はグラスなのだ。そこから、(こぼ)れんばかりになったときに。

(うたげ)(ひら)かれる」
ド・ジョーが()げた。
それが。
花束(はなたば)(うたげ)だ」 

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