ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

9.大階段(だいかいだん)(1)

当サイトは広告を利用しています プライバシーポリシー   

9.大階段だいかいだん(1)

色(いろ)とりどりのドレス。
タキシードは、黒(くろ)が主流(しゅりゅう)だ。他(ほか)の色(いろ)も、ちらほらしている。
民族(みんぞく)衣装(いしょう)も、各国(かっこく)揃(そろ)い踏(ぶ)みだ。
男(おとこ)も女(おんな)も、着飾(きかざ)っていた。

でも、誰(だれ)一人(ひとり)として、顔(かお)は見(み)えない。
大(おお)きなマスクが覆(おお)っているせいだ。
お馴染(なじ)みのデザインだった。
右(みぎ)半分(はんぶん)が白(しろ)、左(ひだり)半分(はんぶん)が青(あお)。赤(あか)い唇(くちびる)が笑(わら)う、ピエロの仮面(かめん)だ。

見(み)たこともない乗(の)り物(もの)に、そのでかいマスクは付(つ)いていた。

アポロンの巫女(みこ)が生(う)み出(だ)した水流(すいりゅう)に、ぷかぷか浮(う)かんでいる。要(よう)するに、浮(うき)舟(ふね)だ。
平(たい)らな甲板(かんぱん)に、ぼん、と柱(はしら)が生(は)えている。
それに掴(つか)まり、板(いた)の上(うえ)に乗(の)る。単純(たんじゅん)な構造(こうぞう)のフロートである。
ただし、全(すべ)て黄金色(こがねいろ)だ。装飾(そうしょく)も、ゴージャス極(きわ)まりない。

ぐりんぐりん
ハンドル棒(ぼう)の天辺(てっぺん)にくっ付(つ)いたマスクは、絶(た)え間(ま)なく動(うご)いていた。
棒(ぼう)の上部分(うえぶぶん)が、自由自在(じゆうじざい)に曲(ま)がる仕様(しよう)になっているのだ。
乗客(じょうきゃく)の顔(かお)を覆(おお)い隠(かく)す、仮面(かめん)の役割(やくわり)を果(は)たすために。

浮(うき)舟(ふね)に乗(の)っている者(もの)の大半(たいはん)は、柱(はしら)を握(にぎ)りつつ、陽気(ようき)に踊(おど)っている。
ちょっとしたポールダンスだ。
そして、歌(うた)っていた。

集(つど)え! 今宵(こよい)の宴(うたげ)に
称(たた)えよ! 咲(さ)き誇(ほこ)る花(はな)を

「この人(ひと)たちは?」
碧(あおい)が尋(たず)ねる。
白鳥(はくちょう)の頸(くび)が、うにょんと曲(ま)がった。
滑(なめ)らかな動(うご)きだ。筋肉(きんにく)二郎(じろう)は、首輪(くびわ)の鞍(くら)に乗(の)った碧(あおい)に答(こた)えた。

「皆(みんな)、胡蝶(こちょう)だ。花束(はなたば)の宴(うたげ)では、大抵(たいてい)が人(ひと)の形(かたち)を取(と)る」

すごい数(すう)だ。
見渡(みわた)すと、思(おも)わず溜息(ためいき)が出(で)てしまう。

フォーマルを着(き)せられた意味(いみ)が、よく分(わ)かった。
まるで、場違(ばちが)いなパーティー会場(かいじょう)に放(ほう)り込(こ)まれた気分(きぶん)だ。

本当(ほんとう)に、ここは劇場(げきじょう)のエントランスなのか?
どこかの宮殿(きゅうでん)とかじゃないのかな。

後(うし)ろに続く陽(よう)と桃(もも)も、スワンに乗(の)りながら、びっくりした顔(かお)で辺(あた)りを見渡(みわた)している。

吹(ふ)き抜(ぬ)けには、色彩(しきさい)豊(ゆた)かな天井画(てんじょうが)が、びっしり飾(かざ)られていた。
その合間(あいま)から、重(おも)たげなシャンデリアが、いくつも下(さ)がっている。

あちこちに飾(かざ)られた像(ぞう)、階段(かいだん)の欄干(らんかん)まで、全(すべ)てがピカピカの金(かね)だ。
盗人(ぬすっと)が迷(まよ)い込(こ)んだら、狂喜(きょうき)乱舞(らんぶ)するだろう。

こんなに豪奢(ごうしゃ)な空間(くうかん)だというのに、急(きゅう)ごしらえの川(かわ)が縦横無尽(じゅうおうむじん)に走(はし)っている。

「いいのかな? これ、ほんとに……」
思(おも)わず、また心配(しんぱい)になる碧(あおい)だった。
床上(ゆかうえ)浸水(しんすい)どころじゃない。
もはや流(なが)れるプールだ。

浮(うき)舟(ふね)が、何台(なんだい)も行(ゆ)き交(か)う。
舞(ま)い踊(おど)る乗客(じょうきゃく)は、どこかに運(はこ)ばれていく途中(とちゅう)なのか。
それとも、ただ、乗(の)るのを楽(たの)しんでいるだけなのか。
どっちか分(わ)からないくらい、誰(だれ)もがノリノリだ。

すれ違(ちが)うとき、スワンズ一行(いっこう)に手(て)を振(ふ)ってくる者(もの)もいた。
仮面(かめん)で顔(かお)は見(み)えない。だが、全身(ぜんしん)から楽(たの)し気(げ)な雰囲気(ふんいき)が滲(にじ)み出(で)ている。

三人(さんにん)とも、思(おも)わず手(て)を振(ふ)り返(かえ)した。
でも、笑(わら)い返(かえ)すでもない、中途半端(ちゅうとはんぱ)な顔(かお)になってしまった。
それでも、反応(はんのう)があったことで、浮(うき)舟(ふね)から歓声(かんせい)があがる。

また、歌声(うたごえ)。
お祭(まつ)り騒(さわ)ぎだ。

周囲(しゅうい)がヒートアップするにつれて、碧(あおい)の気持(きも)ちは、どんどん沈(しず)んでいった。

ド・ジョーの言葉(ことば)が、脳裏(のうり)に蘇(よみがえ)る。

悪(わる)いが、俺(おれ)抜(ぬ)きで行(い)ってくれ。
宴(うたげ)の宵(よい)は、体(からだ)が三枚(さんまい)下(お)ろしになりそうなくらい忙(いそが)しくてな。
すまん。また落(お)ち合(あ)おう。
安心(あんしん)しろ。俺(おれ)も必(かなら)ず力(ちから)を貸(か)すからな。

碧(あおい)は、きゅっと唇(くちびる)を噛(か)み締(し)めた。
ド・ジョーは、きっと助(たす)けてくれる。
でも、とにかく自分(じぶん)達(たち)でやれることをやらなくちゃいけないんだ。

ほどなく、マッチョスワンズは、大(おお)きな階段(かいだん)の麓(ふもと)に着(つ)いた。
段数(だんすう)は多(おお)くないが、呆(あき)れるほど横幅(よこはば)が広(ひろ)い。
正面(しょうめん)から見(み)ると、ほとんど雛壇(ひなだん)だ。
しかも、ゴージャスな大理(だいり)石製(せきせい)である。

その形状(けいじょう)も、舞台(ぶたい)セットのようだった。
途中(とちゅう)で、左右(さゆう)二股(ふたまた)に分(わ)かれて上(あ)がっていく。
珍(めずら)しい。Y字型(じがた)の階段(かいだん)だ。

間違(まちが)いようがない。これが「大(だい)階(かい)段(だん)」だ。

「案内板(あんないばん)は? ド・ジョーが言(い)ってたんだ。大階段(だいかいだん)で、どこのボックス席(せき)か聞(き)けって」
碧(あおい)は、辺(あた)りを見渡(みわた)した。
案内板(あんないばん)は、どこにあるんだろう?
それらしきものは、全(まった)く見当(みあ)たらない。

マッチョ・スワンズのリーダーが、水(みず)の上(うえ)を華麗(かれい)にターンして、こっちを振(ふ)り返(かえ)った。
無駄(むだ)に派手(はで)なアクションだ。
自分(じぶん)だけ鞍(くら)が空(から)だから、体力(たいりょく)が余(あま)っているらしい。

「ああ、そうだな。じゃあ、碧(あおい)が乗(の)るか?」
「は?」
答(こた)えになっていない。

筋肉(きんにく)一郎(いちろう)を補(おぎな)うのが、二郎(じろう)の役割(やくわり)だ。
不審(ふしん)な顔(かお)をした碧(あおい)に、落(お)ち着(つ)いた声(こえ)で促(うなが)した。
「ひとまず、降(お)りてみてくれ。すぐに来(く)る」

「来(く)る? 案内板(あんないばん)が?」
碧(あおい)は、鞍(くら)の上(うえ)から見下(みお)ろしてみた。

巫女(みこ)の帯(おび)は、分厚(ぶあつ)い水(みず)の反物(たんもの)だ。
あっちこっちに広(ひろ)げられている。
だが、床(ゆか)一面(いちめん)を覆(おお)いつくしてはいなかった。
ところどころに、空(あ)き地(ち)が残(のこ)っている。

ちょうど、右下(みぎした)にもあった。
ここに降(お)りれば、濡(ぬ)れないで済(す)むな。

二郎(じろう)は、頸(くび)を傾(かたむ)けて、碧(あおい)が降(お)りやすいよう手助(てだす)けした。
自分(じぶん)の騎手(きしゅ)は、頭(あたま)は切(き)れるが、運動(うんどう)神経(しんけい)は鈍(にぶ)めである。前回(ぜんかい)からの付(つ)き合(あ)いで、よく分(わ)かっていた。

「ありがと」
ちゃんと、お礼(れい)も言(い)える子(こ)だ。
だが、眼鏡(めがね)を掛(か)けた顔(かお)に、笑(え)みは無(な)かった。
暁(あかつき)が心配(しんぱい)なのだろう。

筋肉(きんにく)二郎(じろう)は、柔(やわ)らかい声(こえ)を出(だ)した。
「ほら、来(き)たぞ。あの案内板(あんないばん)に乗(の)ればいい」

間仕切り線

読よんで下くださって、有難ありがとうございます!
いかがだったでしょうか。
以下のサイトあてに感想かんそう・評価ひょうか・スキなどをお寄よせ頂いただけましたら、とても嬉うれしいです。

↓ロゴ画像がぞうから各かくサイトの著者ちょしゃページへと移動いどうします↓

ランキングサイトにも参加さんかしています。
クリックすると応援おうえんになります。どうぞよろしくお願ねがいします↓

小説全しょうせつすべての目次もくじページへ

免責事項・著作権について リンクについて