ダンジョンズA〔4〕花束の宴(裏メニュー)

15.キノコ(2)裏メニュー

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15.キノコ(2)

「キノコ?!」
三人が、素っ頓狂な声を上げた。
暁の耳に、小さな(きのこ)が詰まっていたのだ。

ぱっと見、分からない。それも無理はない
それは、薄いベージュ色をしたキノコだった。すっかり肌に同化している。

まるで、左右の耳の穴から、一本づつ、にょっきり生えているかのように見える。
ベージュの()が、ちょっとだけ耳から飛び出ていた。その先に、小さな傘が付いている。

ぽうっ ぽうっ……
傘の中心が、点灯していた。そこだけ、蛍光ペンみたいな緑色だ。
点いては、消える。また点いた。
なにか、通信でもしているみたいに。

「キノコ!」
マッチョ・スワンズが、四重奏を奏でる。
マダム・チュウ+999が、間髪入れずに補足した。
()いなり(だけ)よ!」

「なに、それ?」
碧が、疑問を口にする。
すぐに、胸元から答えが返ってきた。

『言いなり茸は、この地宮に生えるキノコの一種です。両耳に挿された者は、相手の言いなりになってしまうことから、その名があります』

「たいへん!」
桃の顔から、血の気が引いた。

碧と陽は、顔を見合わせた。
暁は、操られている。おそらく、みかげに。

「とにかく、降りて暁を助け出そう」
陽の言う通りだ。頷くと、碧は早口で案内板に問い質した。

「言いなり茸って、解く方法はあるのか?」
『はい。一本であれば、簡単です。軽いショックを与えた程度で、正気に返るでしょう。言いなり茸は、挿した本数に比例して、効果が強くなります』

「軽いショックって? たとえば?」
横から、陽が割り込んできた。

『詳細映像をスクリーンに投影します』
ぱっと映像が切り替わった。

〔言いなり茸の解除〕
注意! 耳に挿された(きのこ)は、必ず自身で取り除かせること! かかった暗示が残ってしまう場合があります。

ショートムービーが始まった。
映像だけではなく、文章も表示される。
音声が、それを読み上げていく。
非常に分かりやすい。

〔解除の手順〕
順番に、以下のことを試して下さい。
正気に返った時点で、耳の(きのこ)を自分で取るように(うなが)して下さい。

1,名前を呼ぶ
2.体を揺さぶる
3.頬を引っぱたく
4.水を浴びせる

どんどん過激になっていく。
スクリーンに展開される、罰ゲームみたいな映像に、碧はたじろいでいる。

だが、陽は、臆することはなかった。
「よぉし! わかった。行くぞ、碧」
とっとと、バルコニーに向かう。

だが、勢いがよすぎた。
ボックス席の小部屋に、巨大スワンが4羽、子どもが3人、ネズミが1匹だ。
余剰空間が、ほとんど無い。

がたっ
「っと、ごめん!」
急ぐ陽の足が、椅子をかすめてしまった。
座面に置いてあった電球が、転げ落ちそうになる。

「あらあらあら…っ」
慌てて、マダム・チュウ+999が、抱きついて止めた。セーフだ。

「大丈夫?」
陽の後ろを追おうとしていた碧が、焦った。
屈みこんで尋ねる。

今は電球だが、元は往年(おうねん)のプリンシパルだ。
割れたら後生(ごしょう)が悪い。

「大丈夫よ。これ、部屋の外に出して、ひとまず置いておきましょ。危ないわよねえ」

なぜだろう。
碧の顔色が、急速に悪くなっていく。

陽が、すぐに気付いて尋ねた。
「どうした、碧?」

碧の視線は、まっすぐに、古ぼけた電球に向けられている。

ああ、もう。どうして俺は、こんなことに気が付いちゃうんだろう……?

「……あのさ、胡蝶が門出を迎えたら、こんなふうに電球になっちゃうんだよね」
だめだ、声が震えてしまう。

「もし……、もしだよ、暁が門出を迎えちゃったら、どうなるのかな……?」

しーん
部屋に静寂が訪れた。

村娘たちが踊り終わって、ステージは、再びジゼルとロイスの場面となっていた。

森番(もりばん)のヒラリオンが、二人の間に割り込んで、暴露(ばくろ)する。
こいつは、ロイスなんて名の平民じゃない。
お貴族様なんだよ!

信頼から、戸惑い、そして疑惑へ。
舞台のジゼルは、その移ろいを、生き生きと演じていた。

踊りのシーンは無いが、素晴らしい演技だ。
幸せを信じて疑わなかったジゼルの、不憫さが胸を打つ。

がたがた がたがた

下界から、騒がしい音が響いてくる。

集った観客は、演技面を高く評価している様子だ。
残された客席は、うずうず跳ねている。
今にも飛び上がりそうだ。
そして、これは最後の一脚なのだ。

「たいへん! 暁が電球になっちゃう!」
悲鳴のような声を上げたのは、桃だった。

「そうなるのか?!」
陽が、地宮(ちきゅう)の住人達に詰め寄る。

だが。
「まさかそんなこと。いえ、分からないわ。こんなこと、起こった事なんてないもの」
ピンクネズミも、おろおろしている。

「胡蝶ではない生身の人間が、ここに迷い込むこと自体、非常に稀だ。それが、偶然、花束の(うたげ)が催されるタイミングに居合わせて、そして、素晴らしいプリンシパルである可能性は……ほぼ無かっただろう」

淡々と説く筋肉二郎も、苦り切っている。
藁にも縋る思いで、碧は胸元の案内板に尋ねた。

「もし、客人(まろうど)がエントリーして、胡蝶の門出を迎えた場合、電球の姿に変わるのか?」

否定してくれ、頼む!

かちゃかちゃ
小さな音が続いた。
時間が、かかっている。ほんの数十秒が、何時間にも思えた。

花芯の顔から、ようやく音声が流れた。

『データがありませんでした。不明です』

「とにかく止めるぞ!」
陽が、バルコニーの手摺に手をかけた。 

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