ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

17.解除(かいじょ)(1)

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17.解除かいじょ(1)

ばさ ばさ ばさっ
黒鳥(こくちょう)は、バルコニーから飛(と)び降(お)りると、ゆっくり羽(は)ばたいた。

碧(あおい)達(たち)の元(もと)に飛(と)んでいくことは容易(たやす)い。
だが、かっ飛(と)ばすわけにはいかない。
上手(うま)く渡(わた)さなければならないのだ。
この、巨大(きょだい)な嘴(くちばし)に咥(くわ)えている、桃(もも)の小(ちい)さな髪(かみ)ゴムを。

ゆっくり。可能(かのう)な限(かぎ)りスローダウンして飛(と)ぶ。
そう距離(きょり)があるわけではない。
ほとんど、ゆっくり斜(なな)めに落(お)ちた、という状態(じょうたい)だ。

「落(お)として!」
碧(あおい)が、頭上(ずじょう)にきた巨大(きょだい)スワンを見上(みあ)げて叫(さけ)ぶ。

ぽとり
赤(あか)い嘴(くちばし)から、ピンク色(いろ)の髪(かみ)ゴムが投(とう)下(か)された。

ばさばさばさ!
失速(しっそく)する寸前(すんぜん)だった黒鳥(こくちょう)は、勢(いきお)いよく羽(は)ばたきだした。
そのまま、ステージに侵入(しんにゅう)してしまう。

思(おも)いもかけない、上空(じょうくう)からの侵入者(しんにゅうしゃ)だ。
演者(えんじゃ)たちの視線(しせん)が、びゃんびゃん飛(と)び廻(まわ)る黒鳥(こくちょう)に集(あつ)まる。
声(こえ)こそ上(あ)がらなかったが、すっかり演技(えんぎ)はお留守(るす)だ。

四郎(しろう)五郎(ごろう)マッスル左(ざ)衛門(えもん)も、策士(さくし)だ。
絶対(ぜったい)に、わざとやっている。

「今(いま)だ!」
この機(き)は逃(のが)せない。碧(あおい)が陽(よう)を促(うなが)した。
キャッチした髪(かみ)ゴムを握(にぎ)りしめて、碧(あおい)が先(さき)に駆(か)け出(だ)していく。

陽(よう)が、すぐに続(つづ)いた。そして追(お)い越(こ)した。
そのまま、斜(なな)め先(さき)を走(はし)る。碧(あおい)をガードするつもりだ。

二人(ふたり)は、ジゼルに向(む)かって突進(とっしん)した。

「来(く)るぞ!」
陽(よう)が、素早(すばや)く警告(けいこく)する。
さすがに気付(きづ)いた村人(むらびと)が、わらわらと二人(ふたり)に寄(よ)ってくる。
黒鳥(こくちょう)の目(め)晦(くら)ましも、ここまでだ。

「多(おお)い!」
舌打(したう)ちして、碧(あおい)。
「ほとんど全員(ぜんいん)じゃないか!」
と、陽(よう)。

もはや、演技(えんぎ)なんて、そっちのけだ。
いいんだろうか?
熱演(ねつえん)しているのは、暁(あかつき)だけだ。

音楽(おんがく)が、終局(しゅうきょく)に向(む)かって盛(も)り上(あ)がる。
ガタガタ
椅子(いす)が騒(さわ)いでいる。
まずい!

「陽(よう)!」
間一髪(かんいっぱつ)だった。村人(むらびと)が、碧(あおい)の行(ゆ)く手(て)に立(た)ちふさがる。その寸前(すんぜん)に、碧(あおい)の手(て)から髪(かみ)ゴムが飛(と)んだ。

「っと!」
何人(なんにん)か、ぶっちぎって走(はし)りつつ、陽(よう)が大(おお)きくジャンプした。
とんだ暴投(ぼうとう)だ。

だが、キャッチした。
陽(よう)の守備力(しゅびりょく)は、伝説(でんせつ)の外野(がいや)手並(しゅな)みだ。

しかし、陽(よう)の周(まわ)りには、既(すで)に包囲網(ほういもう)が完成(かんせい)していた。
村人(むらじん)の男(おとこ)たちが、問答(もんどう)無用(むよう)で屈強(くっきょう)な腕(うで)を伸(の)ばしてくる。
陽(よう)は、飛(と)び上(あ)がったままの状態(じょうたい)で、瞬時(しゅんじ)に判断(はんだん)した。

つかまる!
着地(ちゃくち)している暇(ひま)はないぞ、これ。

「暁(あかつき)ごめん!」
一声(ひとこえ)、謝(あやま)るなり、力(ちから)いっぱい投(な)げつけた。

ひゅうんっ!
手加減(てかげん)無(な)しの剛(ごう)速球(そっきゅう)だ。

ばしっ!

音(おと)がした。髪(かみ)ゴムの飾(かざ)りは、ころころしたピンク色(いろ)の球(たま)だ。わりと大(おお)きめなのが、輪(わ)の両端(りょうたん)に付(つ)いている。
それが、過(あやま)たず、暁(あかつき)の額(ひたい)に命中(めいちゅう)していた。

暁(あかつき)が、急停止(きゅうていし)した。
今(いま)、まさに、アルブレヒトに駆(か)け寄(よ)り、その胸(むね)に抱(だ)かれようとしていたところだ。

虚(うつ)ろだった目(め)が、本来(ほんらい)の輝(かがや)きを取(と)り戻(もど)していく……。

その後(あと)は、素早(すばや)かった。さすがは暁(あかつき)だ。
ぶんぶん
高速(こうそく)で頭(あたま)を振(ふ)った。何(なに)かを払(はら)い除(の)けようとする仕草(しぐさ)だ。

そして、すぐ、耳(みみ)に手(て)をやった。
碧(あおい)や陽(よう)が、正(ただ)しい解除(かいじょ)方法(ほうほう)を促(うなが)すまでもない。

ぱっ ぱっ
あっさりと、暁(あかつき)は両耳(りょうみみ)から茸(きのこ)を引(ひ)っこ抜(ぬ)いた。

ふ~
安堵(あんど)のため息(いき)が、陽(よう)と碧(あおい)の口(くち)から洩(も)れる。

は~
ロージュ組(ぐみ)もだ。
みんな、ほっとした顔(かお)で、こっちを見下(みお)ろしている。

二人(ふたり)を捕獲(ほかく)した村人(むらびと)たちは、唖然(あぜん)として動(うご)きを止(と)めていた。

それはそうだ。主役(しゅやく)のプリンシパルが、クライマックスで踊(おど)るのを止(や)めたのだ。
しかも、あと一(いっ)脚(きゃく)で胡蝶(こちょう)の門出(かどで)を迎(むか)えようとする、その寸前(すんぜん)に。

ぼうっと突(つ)っ立(た)っているジゼルに、アルブレヒトが駆(か)け寄(よ)った。
気(き)づかわし気(げ)に手(て)を差(さ)し伸(の)べる。

フォローするつもりでやった、アドリブの演技(えんぎ)なのか。本心(ほんしん)なのか。それは分(わ)からない。

だが、それを目(め)にした碧(あおい)は、ムカムカしてきた。
何(なに)を親切(しんせつ)そうに。悪(わる)いのは、全部(ぜんぶ)お前(まえ)だろうが。

胡蝶(こちょう)にしてみれば、純粋(じゅんすい)に役柄(やくがら)を演(えん)じているだけだ。
100%見当(けんとう)違(ちが)いな怒(いか)りなのだが、なにしろ碧(あおい)も気(き)が立(た)っていた。

確(たし)かに、自分(じぶん)達(たち)は上演(じょうえん)を邪魔(じゃま)しようとした。
さっきみたいに襟首(えりくび)を引(ひ)っ掴(つか)まれて、舞台(ぶたい)から引(ひ)きずり出(だ)されても、仕方(しかた)ないのかもしれない。

だが、今度(こんど)は抱(だ)っこだ。
どういうことだ。
村人役(むらにんやく)の男(おとこ)が手(て)を伸(の)ばしてきたかと思(おも)うと、あっさりと抱(だ)き上(あ)げられてしまったのだ。

見(み)ると、陽(よう)は普通(ふつう)に数人(すうにん)がかりで取(と)り押(お)さえられている。
プライドが、ざっくり傷(きず)ついた。
俺(おれ)だけ赤(あか)ちゃん扱(あつか)いかよ。

腹立(はらだ)ちまぎれに、つい叫(さけ)んだ碧(あおい)だった。
「暁(あかつき)! そいつに一本(いっぽん)決(き)めろ!」

……あれ?
暁(あかつき)は、夢(ゆめ)から徐々(じょじょ)に覚(さ)めていた。
何(なに)かが、自分(じぶん)の額(ひたい)に当(あ)たった。その瞬間(しゅんかん)だ。
雲(くも)が晴(は)れるように、頭(あたま)がはっきりしてきた。
そして、体(からだ)の呪縛(じゅばく)も解(と)けたのだ。

ぼやけていた視界(しかい)が、クリアになっていく。

ここ、どこ?
なんだか沢山(たくさん)の人(ひと)がいる。
遠巻(とおま)きに、こっちを見(み)ている様子(ようす)だ。
自分(じぶん)は、男(おとこ)の人(ひと)と向(む)き合(あ)っていた。
なんだろう、腕(うで)を伸(の)ばしてくる?

そこに、聞(き)き慣(な)れた碧(あおい)の檄(げき)が飛(と)んだ。
「暁(あかつき)! そいつに一本(いっぽん)決(き)めろ!」

条件(じょうけん)反射(はんしゃ)。
一瞬(いっしゅん)でスイッチした。空手(からて)の試合(しあい)モードだ。

「はっ」
気合(きあい)と共(とも)に、暁(あかつき)の拳(こぶし)が繰(く)り出(だ)された。
鋭(するど)い。可憐(かれん)な村娘(むらむすめ)のチュチュを着(き)て、やるようなことではない。

びしぃっ
決(き)まった。
ただし寸(すん)止(ど)めだ。暁(あかつき)の拳(こぶし)は、アルブレヒトの体(からだ)に触(ふ)れずに止(と)まった。

だが、ジゼルに正(せい)拳(けん)突(づ)きを見舞(みま)われるとは思(おも)ってもみなかったのだろう。
元恋人(もとこいびと)は凍(こお)り付(つ)いた。
目(め)は、驚愕(きょうがく)に見開(みひら)かれている。

しいん
舞台(ぶたい)は静(しず)まり返(かえ)った。

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