ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

32.初期化(しょきか)(2)

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32.初期化しょきか(2)

「うん!」
(よう)(もも)は、元気(げんき)よく返事(へんじ)をした。

不思議(ふしぎ)だ。(あかつき)笑顔(えがお)()うと、この地宮(ちきゅう)からの帰還(きかん)も、(たい)したことじゃないように(おも)えてくる。

()(もも)だけではなく、(あおい)ですら、()(らく)になるのを(かん)じていた。
(あかつき)必殺(ひっさつ)奥義(おうぎ)には、そんな付帯(ふたい)効果(こうか)があるのだ。

そうだ。(かなら)無事(ぶじ)(かえ)るんだ。ド・ジョーに()われたように。

(いっ)(ぱく)(おく)れて、しっかりと(あおい)(うなず)いた。

見届(みとど)けると、(あかつき)は、はきはきと(かがみ)()かって(たず)ねた。
(つか)()っているわりに、(こえ)元気(げんき)だ。

案内板(あんないばん)、アクセスを(おし)えて。ここから西(にし)センターの一階(いっかい)エントランスホールまで。(わたし)(あおい)(よう)(もも)ちゃん、」

四本(よんほん)(ゆび)()ってから、(あかつき)()(かえ)った。
「それから、みかげちゃん。5(にん)全員(ぜんいん)(かえ)方法(ほうほう)ね!」

グーになった()を、パーに(ひら)いて強調(きょうちょう)しつつ、(あかつき)はピエロのお(めん)()(はな)った。

(にん)……。
(あおい)(たち)()(かえ)る。
(あかつき)()たような格好(かっこう)(すわ)()んでいる少女(しょうじょ)が、みんなの視線(しせん)(さき)にいた。

そうだ。いたんだった。
(なご)やかな気分(きぶん)が、一瞬(いっしゅん)()()んだ。

加羅(から)みかげ。
彼女(かのじょ)をどうするか?
この問題(もんだい)(こた)えを、まだ(だれ)()していなかったのだ。

だけど。(あかつき)性格(せいかく)()てはめて()いたならば、(かなら)ず、この(こた)えが(みちび)()されただろう。

たとえ自分(じぶん)(だま)した相手(あいて)でも。
見捨(みす)てて、自分(じぶん)(たち)だけ(かえ)ろう。この地宮(ちきゅう)()のうが、()った(こと)じゃない。
なんて、金輪際(こんりんざい)(おも)うわけないんだから。

でも、(あかつき)。お(まえ)被害者(ひがいしゃ)本人(ほんにん)だろ?
それ、自分(じぶん)から()う?

(あおい)は、さすがに衝撃(しょうげき)()けた。
(もも)同様(どうよう)だ。(こえ)(うしな)っている。

そんな(いもうと)(たち)をよそに、当然(とうぜん)のように(うなず)いたのが、(よう)だ。
「うん、そうだなあ」

ああ。
(あおい)(もも)は、(おも)わず(かお)見合(みあ)わせた。
(たが)い、(おな)(かんが)えに(いた)ったのが()かる。
たとえ(あかつき)()()さなくても、(よう)(もう)()てていたに(ちが)いないのだ。

(あおい)(もも)にしたって、みかげの(いのち)(すく)うことに、異論(いろん)があるわけじゃない。

結局(けっきょく)(こた)えは(ひと)つしかなかった。
みかげも、いっしょに()れて(かえ)ろう。

二人(ふたり)は、苦笑(くしょう)()わした。
それには気付(きづ)かず、(よう)(あかつき)笑顔(えがお)(うなず)()う。

そこに、案内板(あんないばん)が、笑顔(えがお)()(とな)えた。

『その5(めい)には、客人(まろうど)でない(もの)が1(めい)(ふく)まれています』
囚人(めしゅうど)だ。

意識(いしき)だけが、この地宮(ちきゅう)(とら)われている状態(じょうたい)(もの)です。(いま)ここにある姿(すがた)のまま、エントランスホールに(もど)ることはできません』

そうか……。
(とう)本人(ほんにん)は、案内板(あんないばん)(こえ)(みみ)(はい)っていない様子(ようす)だった。
(なが)黒髪(くろかみ)(ふち)どられた(かお)は、(うつ)ろだ。

「う~ん。でも、現実(げんじつ)世界(せかい)では、みかげちゃんは(ねむ)っちゃってて、このままだと()んじゃうから、だから……(あおい)、なんて()けばいいの?」
(あかつき)は、途中(とちゅう)(あおい)にぶん()げた。
いきなりのパスだ。

「……まず、客人(まろうど)(おれ)たちが、ここからエントランスホールに(もど)る。みかげについては、ここにある意識(いしき)現実(げんじつ)世界(せかい)(もど)す。その双方(そうほう)同時(どうじ)(かな)えるアクセスを(おし)えて()しい」

(あおい)は、冷静(れいせい)()けて()った。
(あかつき)(まる)()げには、()れている。

「そう! それで! 一丁(いっちょう)(ねが)いします!」
(いきお)いよく、(あかつき)注文(ちゅうもん)する。
(よう)(もも)が、ぱちぱちと拍手(はくしゅ)した。
絶妙(ぜつみょう)のコンビネーションだ。

『…………』
なんにも反応(はんのう)(かえ)ってこない。

「……だめかな?」
(すわ)()んだ(あかつき)が、(あおい)見上(みあ)げた。

時間(じかん)()かっているだけか?
(あおい)は、(くび)(ひね)った。
それなら、同時(どうじ)でなくてもいい。
まず、みかげの方法(ほうほう)だけを(たず)ねるか?

『ご案内(あんない)(いた)します』

「よかった、あるんだ!」
(あかつき)だけでなく、みな、安堵(あんど)歓声(かんせい)()げた。
みかげだけは、その(うし)ろで、ぼうっと(すわ)()んでいる。

『その(まえ)に、安全(あんぜん)確保(かくほ)する必要(ひつよう)があります。全員(ぜんいん)(かがみ)(うし)(がわ)避難(ひなん)して(くだ)さい』

「え?」
とっさに、(あおい)()(かえ)した。

だが、(よう)条件(じょうけん)反射(はんしゃ)(うご)いていた。
さっと(あかつき)(かか)()げると、(かがみ)裏側(うらがわ)へと(はし)()む。ものの五秒(ごびょう)()っていない。

避難(ひなん)」と()いたら、三ツ矢兄妹(みつやけきょうだい)迅速(じんそく)なのだ。
ぼやっとしている(あおい)を、(もも)()()った。
()(つな)いで、林立(りんりつ)する(かがみ)合間(あいま)()けて、裏側(うらがわ)()く。
「はとこ」ペアも、いいコンビネーションだ。

「みかげも()れて()る。みんな、ここにいろ」
(あかつき)(ゆか)(おろ)すと、(よう)早口(はやくち)()げた。
(もも)(うなず)くのも()たずに、舞台(ぶたい)前方(ぜんぽう)()()していく。

(あおい)は、(あわ)てて(かがみ)(あいだ)から(かお)(のぞ)かせた。
(よう)は、みかげを()()げたところだった。
素早(すばや)い。
だが、()()したものの、すぐに失速(しっそく)した。

みかげの足首(あしくび)には、かぼちゃが()()がっているのだ。
ぶらぶら
これでは、(おお)きな()()()れているようなものだ。

ふらふら
(よう)(からだ)が、勝手(かって)()っていかれそうになる。

瞬時(しゅんじ)判断(はんだん)したのだろう。(よう)が、()っこから、おんぶに()()えた。
それでも、よろよろだ。

(たす)けに()こうか。でも、ここにいろって……。
(あおい)逡巡(しゅんじゅん)している(あいだ)に、(よう)は、どうにかゴールした。
(なら)(かがみ)(はし)っこから、(うら)(まわ)()む。

その直後(ちょくご)に、案内板(あんないばん)(こえ)(ひび)いた。
『それでは、ご案内(あんない)実行(じっこう)します』

ごごご……
同時(どうじ)に、振動(しんどう)足元(あしもと)(つた)わってきた。

(ゆか)だ!

わざわざ自分(じぶん)(たち)退避(たいひ)させたのだ。
(なに)()こるとしたら、(かがみ)(まえ)(ちが)いない。

(あおい)は、正確(せいかく)推測(すいそく)していた。
(かがみ)合間(あいま)()ったまま、固唾(かたず)()んで見守(みまも)る。
(あかつき)も、ずりずりと(あおい)足元(あしもと)にやって()た。
(もも)も、不安気(ふあんげ)(あおい)()()ってきたとき。

がっごーん!!!
()(まえ)で、ステージの(ゆか)が、一気(いっき)()けた。

ひゅっと(へん)(おと)()てて、悲鳴(ひめい)が、(あおい)喉元(のどもと)(こお)()いた。
(あかつき)(もも)も、硬直(こうちょく)している。

だって、自分(じぶん)たちの足元(あしもと)から、ほんの50センチ()らずだ。

(かがみ)(まえ)(ゆか)が、一瞬(いっしゅん)のうちに、ごっそり、こそげ()ちていた。

まるで、巨大(きょだい)なナイフを()るったようだ。
(かがみ)のラインに沿()って(おお)きなカーブを()()み、そこから直線(ちょくせん)(むす)んで、すっぱり()とした(かたち)だ。

さっき、マッチョ・スワンズが()とされた(あな)は、(ちい)さな()四角(しかく)だったのに。

「まさか……」
(あおい)(うな)った。

(こわ)すぎる(かんが)えが、()かんでいた。
(たの)む、(はず)れてくれ……!

案内板(あんないばん)(こえ)が、(あたま)(なか)正確(せいかく)()()げた。

『この奈落(ならく)から、5(めい)全員(ぜんいん)()()りて(くだ)さい。それがアクセスです』

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