カイコン(総フリガナ版)

11.出会い(総フリガナ版)

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11.出会であい

ニャーオゥ……!

野太(のぶと)い鳴(な)き声(ごえ)が、路地(ろじ)に響(ひび)き渡(わた)った。
夕暮(ゆうぐ)れ時(どき)。うろついていたノラ猫(ねこ)が、びくんと振(ふ)り返(かえ)る。ケンカか?

だが、声(こえ)の主(ぬし)は、人間(にんげん)だった。
ネコ耳(みみ)を生(は)やした男(おとこ)だ。

「こんなもんかい、ゼロちゃん?」
「いいですよ、和尚(おしょう)! 魂振(たまふ)りも上手(じょうず)になりましたね」
返事(へんじ)をしたのは、なんと彼(かれ)の着(き)た着物(きもの)だ。
裃(かみしも)の両胸(りょうむね)に付(つ)いた紋(もん)が、まるで両目(りょうめ)のようにキョロキョロ動(うご)いている。

今回(こんかい)のターゲットは、井戸(いど)であった。
危(あぶ)なくないよう覆(おお)われて、手押(てお)しポンプが付(つ)いているタイプだ。まだ現役(げんえき)らしい。

「あれ? でも、なんにも出(で)て来(こ)ねえなあ。ほんとに、ここで合(あ)ってる?」
和尚(おしょう)は、疑(うたが)わしそうな目(め)で胸元(むなもと)を見下(みお)ろした。
とたんに、付(つ)いている紋(もん)が三角形(さんかくけい)に尖(と)がる。

「合(あ)ってますって! 私(わたし)、感知(かんち)の性能(せいのう)だけは高(たか)いんですよ」
「ああ。他(ほか)は、いまいちだけどな~」
ははは。あっけらかんと笑(わら)う。
どこか憎(にく)めない男(おとこ)だ。
いたずらっ子(こ)みたいに、井戸(いど)のポンプを上下(じょうげ)させている。

ずもも……
変(へん)な音(おと)がした。
蛇口(じゃぐち)からだ。

「あ、出(で)るかな?」
「和尚(おしょう)、下(さ)がって! 来(き)ますよ」
ぱっと、和尚(おしょう)はポンプ井戸(いど)から距離(きょり)を取(と)った。
着物(きもの)の言(い)う通(とお)り。
いや、シルキング0(ゼロ)号機(ごうき)様(さま)の言(い)う通(とお)り、だ。

ずもももも……!
井戸(いど)の蛇口(じゃぐち)には、布袋(ぬのぶくろ)が付(つ)いている。井戸(いど)水(みず)に混(ま)じる砂(すな)や異物(いぶつ)を濾(こ)す為(ため)だ。
その機能(きのう)をガン無視(むし)して、「そいつ」は出(で)て来(き)た。

透明(とうめい)な青(あお)い芋虫(いもむし)。
そうとしか見(み)えない。スライム状(じょう)の胴体(どうたい)が、にょろにょろと蛇口(じゃぐち)から現(あらわ)れる。
それは、あっという間(ま)にムクムク膨(ふく)れて太(ふと)くなった。
だが、ずいぶん長(なが)い。まだ布袋(ぬのぶくろ)から出(で)てきている。


ぶるぶるぶる……
青色(あおいろ)の芋虫(いもむし)は、巨体(きょたい)を揺(ゆ)らした。
まん丸(まる)の目(め)が浮(う)き出(で)てくる。
まるで、子(こ)どもがクレヨンで描(か)いた絵(え)だ。
黒(くろ)で縁取(ふちど)りして、中(なか)を緑(みどり)で塗(ぬ)り潰(つぶ)している。

「うひゃ~、気色(きしょく)わりい」
思(おも)わず和尚(おしょう)が呻(うめ)いたところに、警官(けいかん)が慌(あわ)てて駆(か)け付(つ)けた。
「ちょっと、ネコ耳(みみ)さん! 採掘(さいくつ)するんなら事前(じぜん)に知(し)らせて下(くだ)さいよ!」

「あ~! しまった、忘(わす)れてた」
「最近(さいきん)は、郊外(こうがい)ばっかりでしたからね」
人気(ひとけ)のない田舎(いなか)なら、全(まった)く問題(もんだい)ない。
だが、騒(さわ)ぎになりそうな場合(ばあい)は、最寄(もよ)りの交番(こうばん)に一報(いっぽう)するよう通達(つうたつ)されている。

ここは都内(とない)。住(じゅう)宅地(たくち)の路地(ろじ)とはいえ、数(すう)メートル先(さき)は大通(おおどお)り。
既(すで)に、離(はな)れた場所(ばしょ)に人垣(ひとがき)ができていた。
そのうちの誰(だれ)かが、見咎(みとが)めて警官(けいかん)を呼(よ)んで来(き)たのだろう。

「とっととやっちゃいましょう、和尚(おしょう)」
「ああ、めんどくせえことになる前(まえ)に済(す)ませようぜ」

しゅる しゅる しゅるっ……
和尚(おしょう)の身(み)に付(つ)けた着物(きもの)から、真(ま)っ白(しろ)な縄(なわ)が生(は)えて来(き)た。シルキングが生成(せいせい)したのだ。

がっと彼(かれ)が掴(つか)むと、ぶちりと着物(きもの)から分離(ぶんり)した。1メートルほどの長(なが)さだ。

「そおりゃあっ」
茶(ちゃ)トラのネコ耳(みみ)が、地(ち)を蹴(け)って飛(と)び上(あ)がる。
人垣(ひとがき)が、どよめいた。
飛(と)んでる?!

「下(さ)がって下(くだ)さ~い。採掘(さいくつ)作業(さぎょう)が始(はじ)まります。荒(あら)魂(みたま)は、普通(ふつう)の人間(にんげん)には害(がい)を及(およ)ぼしません。安心(あんしん)して下(くだ)さ~い」
警官(けいかん)が、拡声器(かくせいき)でがなり立(た)てる。

「ははは……。普通(ふつう)の人間(にんげん)には、ね」
乾(かわ)いた声(こえ)で、和尚(おしょう)が笑(わら)った。

宙(ちゅう)から見下(みお)ろした巨大(きょだい)芋虫(いもむし)が、大(おお)きく身(み)をくねらせる。
青(あお)い透明(とうめい)な体(からだ)が、民家(みんか)に突(つ)っ込(こ)んだ。
だが、すり抜(ぬ)けた。まるで、幻(まぼろし)のように。

そうなのだ。「荒(あら)魂(みたま)」は、幽霊(ゆうれい)と同(おな)じだ。
見(み)えるが、お互(たが)い触(ふ)れられない。
唯一(ゆいいつ)の例外(れいがい)が、ネコ耳(みみ)なのだ。

「和尚(おしょう)! 早(はや)く!」
胸元(むなもと)から、急(せ)かす声(こえ)が飛(と)んだ。
「はいよう」
緊張感(きんちょうかん)の無(な)い返事(へんじ)をしつつ、下降(かこう)する。

お手(て)の物(もの)だ。シルキングの飛行(ひこう)機能(きのう)は、開発室(かいはつしつ)の連中(れんちゅう)が脱帽(だつぼう)するほど早(はや)く会得(えとく)していた。
要(よう)は、身体(しんたい)能力(のうりょく)と度胸(どきょう)だ。
やつらが、さらに余計(よけい)な機能(きのう)を付(つ)けたがるのを、慌(あわ)てて全力(ぜんりょく)で拒否(きょひ)したくらいである。
何(なに)をされるか分(わ)かったもんじゃない。

和尚(おしょう)は、巨大(きょだい)芋虫(いもむし)に接近(せっきん)すると、手(て)に持(も)った縄(なわ)を掛(か)けた。
ぐいんと、純白(じゅんぱく)の縄(なわ)が伸(の)びる。
うねうね動(うご)く体(からだ)にぐるりと巻(ま)き、縄(なわ)の端(はし)っこを結(むす)んだ。怪獣(かいじゅう)相手(あいて)に、大胆(だいたん)な動(うご)きだ。

おお~
人垣(ひとがき)から賛嘆(さんたん)の声(こえ)が上(あ)がる。

きえええ……
芋虫(いもむし)が、悶(もだ)え呻(うめ)く。
体(からだ)に掛(か)けられた縄(なわ)は、強(つよ)く発光(はっこう)していた。
効(き)いている様子(ようす)だ。

「今(いま)です。カイコンを荒(あら)魂(みたま)の目(め)に嵌(は)めて」
「おうよ」
飛(と)び退(すさ)りながら、和尚(おしょう)は右(みぎ)耳(みみ)に手(て)をやった。
ゴールドの勾玉(まがたま)イヤリングが、茶(ちゃ)トラのネコ耳(みみ)に付(つ)いている。カイコンだ。

すっと外(はず)れると、右手(みぎて)の中(なか)に納(おさ)まる。

「いっくぜ~」
急下降(きゅうかこう)して、まん丸(まる)い目(め)に叩(たた)きつける。

だが、はじかれた。
和尚(おしょう)の体(からだ)が、吹(ふ)っ飛(と)ばされる。

荒魂(あらみたま)には、ネコ耳(みみ)、つまり非制御型(ひせいぎょがた)獣化症(じゅうかしょう)を患(わずら)った人間(にんげん)だけが触(ふ)れることができる。
そして、逆(ぎゃく)も然(しか)り。
すなわち、ネコ耳(みみ)は荒魂(あらみたま)の攻撃(こうげき)も喰(く)らってしまうのだ。

「和尚(おしょう)!」
「……おっかしいな~。手順(てじゅん)合(あ)ってるよな」
和尚(おしょう)は、とっさに体(からだ)を回転(かいてん)させ、勢(いきお)いを殺(ころ)し無事(ぶじ)に着地(ちゃくち)した。
全然(ぜんぜん)、へこたれていない。

「また来(き)ます、避(よ)けて!」
鋭(するど)く、シルキング0号機(ごうき)が警告(けいこく)する。
そこに。
ひゅうんっ
一本(いっぽん)の矢(や)が飛(と)んで来(き)て、巨大(きょだい)芋虫(いもむし)の胴(どう)にぶっ刺(さ)さった。

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