カイコン(総フリガナ版)

12.出会い(総フリガナ版)

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12.出会であい

「それは目(め)じゃないわ。擬態(ぎたい)よ。蝶々(ちょうちょう)や蛾(が)で、目玉(めだま)に似(に)せた模様(もよう)を持(も)つ幼虫(ようちゅう)がいるでしょう」

人垣(ひとがき)から、女(おんな)が現(あらわ)れた。
弓(ゆみ)を携(たずさ)えている。矢(や)を放(はな)った主(あるじ)に違(ちが)いない。

ざわ……
野次(やじ)馬(うま)が、どよめいた。主(おも)に野郎(やろう)どもだ。

無理(むり)も無(な)い。すこぶるつきの美女(びじょ)だ。
しかもスタイル抜群(ばつぐん)。豊(ゆた)かな肢体(したい)を、布地(ぬのじ)の少(すく)ないジャンプスーツが覆(おお)っている。
ショートパンツから覗(のぞ)く美(び)脚(きゃく)。黒(くろ)いロングブーツが、この上(うえ)なく似合(にあ)っている。

そして、結(ゆ)わえた黒髪(くろかみ)の上(うえ)には、黒猫(くろねこ)の耳(みみ)がピンと立(た)っていた。
右(みぎ)耳(みみ)に付(つ)いたカイコンは、銀(シルバー)。

こいつもネコ耳(みみ)だ。

和尚(おしょう)が認(みと)めた瞬間(しゅんかん)、荒魂(あらみたま)が反撃(はんげき)した。
きえええっ……
矢(や)の刺(さ)さった胴体(どうたい)を、ぶんぶん闇雲(やみくも)に振(ふ)る。

すぽん
ポンプ井戸(いど)から、残(のこ)りの体(からだ)が全(すべ)て出(で)た。

「ちさと、もう一矢(いっし)お見舞(みま)いして」
ジャンプスーツの胸元(むなもと)から、指示(しじ)が飛(と)んだ。
青年(せいねん)の声(こえ)だが、口調(くちょう)が女子(じょし)だ。
両胸(りょうむね)に付(つ)いた丸(まる)いワッペンが、ぱちぱち瞬(まばた)きしている。

「オーケイ」
飛(と)び退(すさ)って巨(きょ)大芋虫(だいいもむし)を躱(かわ)しながら、美女(びじょ)が舌(した)なめずりした。たいへんに色(いろ)っぽい。

ジャンプスーツから、にゅっと新(あたら)しい矢(や)が生成(せいせい)される。
黒(くろ)ネコ耳(みみ)の美女(びじょ)は、即座(そくざ)に番(つが)えると、間(かん)髪(ぱつ)入(い)れずに放(はな)った。

きええええっ……!
見事(みごと)、芋虫(いもむし)の胴(どう)に命中(めいちゅう)する。
相当(そうとう)な手練(てだ)れだ。

「おお~」
野次(やじ)馬(うま)から賞賛(しょうさん)の声(こえ)が上(あ)がった。

「って、なに一緒(いっしょ)に感心(かんしん)してるんですか、和尚(おしょう)! 本当(ほんとう)の目(め)が出(で)て来(き)ましたよ」
裃(かみしも)に怒(おこ)られた。
トラ猫(ねこ)の耳(みみ)が少(すこ)しへこたれたが、それどころじゃない。

芋虫(いもむし)に刺(さ)さった二本(にほん)の矢(や)は、強(つよ)い光(ひかり)を発(はっ)している。和尚(おしょう)が掛(か)けた白(しろ)縄(なわ)も、さっきより光(ひかり)が増(ま)していた。
ダブルの攻撃(こうげき)が効(き)いている様子(ようす)だ。

のたうち回(まわ)る芋虫(いもむし)の尻尾(しっぽ)に、小(ちい)さな二(ふた)つの突起(とっき)が見(み)える。

「あ、そっちが頭(あたま)で、あれが目(め)なのか」
ぽん、と和尚(おしょう)が手(て)を打(う)った。
「そ。さ、早(はや)く」
美女(びじょ)が急降下(きゅうこうか)して来(き)た。着地(ちゃくち)すると、簡潔(かんけつ)に促(うなが)す。

カイコンは、和尚(おしょう)の右(みぎ)耳(みみ)に戻(もど)っていた。
さっきは偽物(にせもの)の目(め)だったから、弾(はじ)かれてしまったのだ。

再(ふたた)び手(て)に取(と)ると、金色(きんいろ)の勾玉(まがたま)は、みるみる極(きょく)小(しょう)サイズに縮(ちぢ)んだ。呼応(こおう)したのだ。
これを荒魂(あらみたま)の目(め)に嵌(は)めろと。

「うわ、ちょっと待(ま)って。ちっちぇ~」
和尚(おしょう)は、芋虫(いもむし)の頭(あたま)に屈(かが)みこんだ。びちびち跳(は)ねている。その上(うえ)、でんでん虫(むし)の触覚(しょっかく)みたいな目(め)が、ぴこぴこ逃(に)げる。

「そりゃ! あ、だめだ。えい! う~ん」
「あの、カイコンは近(ちか)くで手(て)を離(はな)せば、自動(じどう)で飛(と)んでって嵌(は)まるわよ」
「え! そうなの!」
「え! そうなんですか!」
「え! やだ、知(し)らないのお」

二人(ふたり)と二着(にちゃく)の服(ふく)は、それぞれ会話(かいわ)した。
「そんじゃ、ほい」
和尚(おしょう)が、言(い)われた通(とお)りに手(て)を離(はな)す。

すい~
金色(きんいろ)の勾玉(まがたま)は、空(そら)を泳(およ)いで行(い)くと、過(あやま)たず荒魂(あらみたま)の目(め)に辿(たど)り着(つ)いた。

ぴたり、と勾玉(まがたま)の形(かたち)をした窪(くぼ)みに嵌(は)まる。

「お~。こりゃ便利(べんり)だな」
「講習(こうしゅう)じゃ教(おそ)わらなかったけどね。実際(じっさい)に採掘(さいくつ)やってるうちに、気付(きづ)いたのよ」
「そっか。あんがとさん、教(おし)えてくれて」
人懐(ひとなつ)っこく笑(わら)うトラ猫男(ねこおとこ)に、くすっと黒猫(くろねこ)が笑(わら)い返(かえ)した。

艶(あで)やかな花(はな)が綻(ほころ)ぶと、こんなにも目(め)を奪(うば)われるのか。
おお~……
野次(やじ)馬(うま)から、感(かん)じ入(い)った声(こえ)が上(あ)がった。

和尚(おしょう)も、目(め)を瞠(みは)った。
裃(かみしも)に付(つ)いた紋(もん)まで、ぱちくりと開(あ)いている。
胸元(むなもと)の生地(きじ)が、ほんのりと赤(あか)みを帯(お)びた。
シルキングすら頬(ほほ)を染(そ)める、百花(ひゃっか)繚乱(りょうらん)の笑顔(えがお)である。

その時(とき)だった。

「危(あぶ)ない!」
鋭(するど)い声(こえ)が、人垣(ひとがき)から飛(と)んできた。

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